千歌が立ち上がるシーンは聖闘士星矢とかを参考にしました、君はスクールアイドルを感じたことはあるか!
浦の星女学院、理事長室。
小原鞠莉理事長が机の向こうに座っていた。
両肘を机につき、顔の前で両手を組んでいる。
しかも、なぜか眼鏡がキラリと光った。
……碇ゲンドウ。
『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウそのものではないか。
「シンジ、エヴァにのれ、エヴァにのれ」
……いかん。
ハリウッドザコシショウのモノマネが頭の中で再生されてしまった。
「……プッ」
「What's funny?」
「い、いや、何でもない」
「先生、今は真面目なお話をしているのよ?」
「分かっている。分かっているんだが……」
俺は必死に笑いをこらえた。
鞠莉は組んでいた手を少し下げた。
「先生。あなたには説明してもらわなければならないことがあるわ」
「……ああ」
「例の盗撮盗聴ビデオについてよ」
その言葉を聞いて、俺の笑いが止まった。
……どうやら、ここからが本題らしい。
その右隣には、黒澤ダイヤが無表情で立っていた。
……笑っていない。
先日の大魔神のような形相より、かえって恐ろしい。
しかし、そこにいたのは浦の星女学院の理事長と生徒会長だけではなかった。
松浦果南、桜内梨子、渡辺曜、国木田花丸、そしてヨハネこと津島善子。
黒澤ルビィもいる。
全員、これまで俺がデートした相手だ。
それだけではない。
高海千歌までいた。
……Aqoursが全員揃っているではないか。
しかも、誰一人として笑っていない。
怒っているのかと思ったが、どうやら違う。
みんな、不安そうな顔で俺を見つめている。
俺は鞠莉に視線を戻した。
「……ずいぶん大人数だな。今日は何の会議だ?」
「先生」
鞠莉は組んだ手を崩さず、静かに答えた。
「今日は、みんなに関係する大切なお話があるの」
……なるほど。
どうやら、笑ってごまかせる雰囲気ではなさそうだ。
「皆さんも、今や伝説となったスクールアイドル、μ'sのことはご存じですわね?」
それまで無表情だった黒澤ダイヤが、静かに口を開いた。
「もちろん知ってるよ! 私たちが憧れたスクールアイドルだもん!」
千歌が答えた。
「ええ。ですが、今日はμ'sの輝かしい功績についてお話しするわけではありません」
ダイヤは一度言葉を切った。
そして、まっすぐ俺を見つめた。
「先生。あなたとμ'sの関係について、お聞きしたいことがあります」
……来たか。
俺は小さく息を吐いた。
「余りにも下品下劣卑劣卑怯野卑厚顔無恥……」
類語辞典か、黒澤ダイヤ!
「貴方らしき人物ががμ'sらしき女性陣と乱交パーティーをしたり、更衣室やトイレ、プールなどで盗聴盗撮した裏ビデオが裏市場で出回っているのですわ!」
バン!
「μ'sの皆さんの名誉を傷つける、断じて許されない行為です!」
「そして、映像に登場する男性が……先生、あなたにそっくりなのですわ!」
バン!
俺は思わず額を押さえた。
……なるほど。
そういうことになっていたのか。
「先生」
今度は鞠莉が口を開いた。
「私たちは、あなたを犯人だと決めつけたいわけじゃないの」
鞠莉は真剣な表情で俺を見つめた。
「だからこそ、ちゃんと説明してほしいのよ」
「逆に聞く。ダイヤ、お前はその裏ビデオを見たんだな……?」
「なっ……!?」
ダイヤの表情が一瞬固まった。
「し、質問を質問で返さないでください! 卑怯です! 最低です! 最悪です!」
……また類語辞典が始まった。
「いや、重要な確認だ。実物を見たのか、それとも噂を聞いただけなのかで話が変わってくる」
「そ、それは……!」
「ダイヤちゃん、落ち着いて」
鞠莉が静かに口を挟んだ。
「先生の質問にも意味があるわ。私たちが何を確認したのか、はっきりさせましょう」
ダイヤは唇を結び、しばらく俺を睨んでいた。
「……映像の一部は確認しましたわ」
「そうか」
俺は腕を組んだ。
「なら、次に確認したいことがある」
「……何ですの?」
「その映像に映っていた男の顔、細かいところまで覚えているか?」
ダイヤの眉がぴくりと動いた。
「「え、ええ……まあ……」
ダイヤは歯切れ悪く答えた。
「私も見たよ! でも、違うと思う!」
松浦果南が手を上げた。
普段の明るい彼女とは違う、悲しそうな目をしていた。
「果南……?」
「確かに、映っていた男の人は先生にそっくりだった。でも……」
果南は一度言葉を切った。
「私、先生があんなことをする人だなんて思いたくない」
「……果南」
「だけど、似ているだけじゃ、先生じゃないって証拠にもならないんだよね……」
彼女はうつむいた。
「だから、ちゃんと教えてほしい。あれは先生じゃないんだよね?」
理事長室が静まり返った。
俺は果南の目をまっすぐ見つめた。
「ああ。俺じゃない」
短く、はっきりと答えた。
「モザイクがかかっている上に、なぜかそれを除去できない……」
俺は腕を組んだ。
「つまり、映像の人物が誰なのか、確実には判別できないということだな?」
「ですが、先生によく似ているのは事実ですわ!」
ダイヤが反論した。
「ダーリン! いや、リトルデーモンがそんなことするわけないじゃない!」
堕天使ヨハネこと津島善子が叫んだ!
「……ダーリン?」
ダイヤの眉がぴくりと動いた。
「ち、違うわよ! 今のは言い間違い!」
「善子ちゃん、顔が真っ赤だよ?」
千歌が不思議そうに首をかしげた。
「う、うるさいわね!」
善子は咳払いをして、俺の前に一歩出た。
「とにかく! 私は先生を信じてる。あんな映像だけで犯人扱いするなんて、おかしいじゃない!」
「……善子」
「ヨハネよ!」
……そこは訂正するのか。
しかし、彼女の言葉はありがたかった。
俺は改めて、ダイヤと鞠莉に向き直った。
「俺も、その映像の正体を明らかにしたいと思っている」
俺はハーッとため息をついた。
……ヨハネ、お前も見たのか、裏ビデオ。
まったく、むっつりスケベだな……。
「せ、先生がそんなことをするわけないじゃないですか! 競泳水着とか好きだけど!」
今度は渡辺曜が声を上げた。
……おい、曜ちゃん。
なぜそこで俺の趣味を暴露する?
「……競泳水着、ですって?」
ダイヤがゆっくりと曜に顔を向けた。
「えっ!? あっ、いや、その……!」
曜は慌てて両手を振った。
「先生は水泳が好きだし、競泳水着にも詳しいってだけで! 変な意味じゃないから!」
「曜ちゃん、なんだか余計に怪しく聞こえるよ……」
千歌が困ったように笑った。
「ち、千歌ちゃんまでぇ!」
……勘弁してくれ。
俺は再び頭を抱えた。
どうして俺の無実を証明する会議が、俺の趣味を暴露する会になっているんだ?
「そうです! 先生はまるの聖歌隊の写真を見て笑っていましたが、そんな変態じゃありません!」
国木田花丸ちゃんも叫んだ!
……だーかーらー!
「ちょっと待て、花丸ちゃん! あれは笑ったんじゃなくて、可愛いと思って微笑んだんだ!」
「えっ……?」
花丸の頬が赤くなった。
「か、可愛いって……」
「それに、昔の君も可愛いけど、今の君も可愛いって言っただろう?」
「……うん♡」
……しまった。
ここは二人きりの部屋じゃない。
「先生」
ダイヤが静かに口を開いた。
「今の花丸さんのお話についても、詳しくお聞きしたいのですが?」
「いや、待て! 聖歌隊の写真と裏ビデオに何の関係があるんだ!?」
「それはこちらの台詞ですわ!」
……ごもっとも。
俺は天井を仰いだ。
頼む。
誰か一人くらい、余計なことを言わずに俺を擁護してくれ……。
「先生はおっぱい星人だけど、そんなことする人じゃないよ!」
今度は松浦果南が叫んだ!
……果南、お前まで何を言い出すんだ!?
「「「「違う!!!! 貧乳が好きなの!!!!」」」」
四人の声が見事に重なった。
……ああ、もうめちゃくちゃだよ……!
「ちょっと待て! 俺の好みを勝手に決めるな!」
「でも先生、前に……」
「果南! それ以上言うな!」
「先生、私の話も聞いて!」
「曜ちゃんまで!?」
俺は頭を抱えた。
……誰か助けてくれ。
「皆さん!!」
バンッ!!
黒澤ダイヤが机を叩いた。
「今は先生の好みを議論する時間ではありませんわ!!」
……そのとおりだ。
今日初めて、ダイヤの言葉に心から賛同した。
「そもそも、先生がどのような女性を好むかなど、今回の事件とは無関係です!」
「まったくだ!」
「先生も黙っていてください!!」
「……はい」
……トホホ。
「もうやめようよ……!」
高海千歌が叫んだ。
全員が彼女を見た。
「先生は……! 私たちの夢を応援してくれたんだよ!!」
千歌の声が震えていた。
「廃校を阻止したいって、Aqoursのみんなで頑張りたいって……! そんな私たちを、先生はずっと支えてくれたんだよ!」
「千歌ちゃん……」
曜が小さくつぶやいた。
「盗撮とか! 盗聴とか!! 裏ビデオとか!!!」
千歌は拳を握りしめた。
「そんな疑惑があるからって、先生が私たちのためにしてくれたことまで、全部嘘だったことにはならないよ!!」
理事長室が静まり返った。
「もちろん、本当にそんなことをしたなら、ちゃんと責任を取らなきゃいけないと思う……」
千歌は俺を見つめた。
「でも、まだ先生がやったって決まったわけじゃないでしょ!?」
「……千歌」
「だから、みんなでちゃんと確かめようよ! 先生のこと、最初から悪い人だって決めつけるんじゃなくて!」
俺は何も言えなかった。
……千歌。
お前は、本当にAqoursのリーダーなんだな。
「しかし、千歌さん。お気持ちは分かりますが、先生が無実だと断定できるだけの、確たる証拠も証言もありませんわ……!」
黒澤ダイヤが言った。
「YES! そのとおりです!」
小原鞠莉も同意した。
「千歌っち、私たちだって先生を信じたいの。でも、信じることと、事実を確かめることは別なのよ」
「……鞠莉ちゃん」
「それに、もし先生が本当に無実なら、なおさら犯人を見つけなきゃいけないでしょ?」
鞠莉は組んでいた手をほどき、俺を見つめた。
「先生。あなたには何か、身の潔白を証明できるものはないの?」
……なるほど。
とうとう俺の出番というわけか。
俺はゆっくりとカバンに手を伸ばした。
「何を出すんですか?」
俺がカバンから取り出したのは、魔法のノートではなかった。
スマートフォンだ。
画面を確認する。
「うむ……来たか……」
その瞬間だった。
ザワザワ……。
理事長室の外が、にわかに騒がしくなった。
校庭から、そして校舎のあちこちから、驚きの声が上がり始めたのだ。
「な、何事ですの!?」
黒澤ダイヤが窓の外に目を向けた。
「今度はいったい何なんですの!!」
バンッ!!
またしても机が叩かれた。
……『逆転裁判』の検事か、お前は、黒澤ダイヤ。
そのうち「異議あり!」とでも叫びそうだ。
「先生……?」
梨子が不安そうに俺を見た。
「一体、何が起きているんですか?」
俺はスマートフォンをポケットにしまった。
「まあ、窓の外を見てみなさい」
「窓の外……?」
鞠莉が立ち上がり、窓へ近づいた。
「……Oh?」
その声に、ほかのメンバーも次々と窓際へ集まっていく。
俺だけは、その場から動かなかった。
……さて。
ここからが本番だ。
「黒澤ダイヤ、小川鞠莉、この裁判に俺が勝ったら、それぞれデートしてもらうからな……!!」
俺は立ち上がり、窓を見る、ほかの9人もそれを見る。
「きゃー!」
校庭から黄色い歓声が上がる、駐車場に高級車が止まる。
金髪、赤い髪の毛、そして緑色の髪の毛、
サングラスをかけ、それぞれ、色々なスーツを着ている。
「嘘でしょ!?」「なんで!?」「信じられない!」「サインもらおうよ!」「握手も!」
校庭にいた女子生徒たちが、三人の女性を取り囲んでいた。
しかし、三人は困ったように首を振り、丁寧に断っているようだった。
やがて、その三人が理事長室へやって来た。
バンッ!
勢いよく扉が開いた。
脳内に流れるBGMは、『逆転裁判』の「追求 ~追いつめられて」。
「久しぶりだな……三人とも……!」
さすがにAqoursの九人も絶句した。
「「「絢瀬絵里!!!」」」
「「「西木野真姫!!!」」」
「「「南ことり!!!」」」
そこに現れたのは、今や伝説となったスクールアイドルグループ、μ'sの元メンバー三人だった!
「朝下ふとだ先生、お久しぶりです」
「ああ、絢瀬絵里! 相変わらず美人だな!おっぱいも大きい!」
「ふふっ、先生もお変わりないようで」
「なにそれ……! 久しぶりに会って、それだけ?」
西木野真姫が呆れたように腕を組んだ。
「西木野真姫! 白衣姿がよく似合っているな! そのツンツン具合も相変わらずだ!」
「もう! そういうところも全然変わってないんだから!」
「先生! 私、今は理事長になるための勉強をしているんです!」
南ことりが嬉しそうに微笑んだ。
「そうか、ことり! 頑張っているんだな、お尻も大きいし!ところで、穂乃果は海外か?」
「はい♪ 今は海外にいるんです」
ことりは小さく頷いた。
「あ、あなた方は、なぜここに……!?」
黒澤ダイヤが震える声で尋ねた。
「なぜ、ですって? 愚問ね」
絢瀬絵里が一歩前に出た。
バンッ!
三人はそれぞれ、分厚い書類の束を机に置いた。
「まず、問題の裏ビデオに記載されている日付と時刻を調べたわ」
絢瀬絵里が書類を開いた。
「でも、その日時は私たちの行動記録と一致しなかったの」
「つまり、映像に映っている女性たちは、少なくとも私たち本人ではないということです♪」
ことりが静かに付け加えた。
「そ、そんな……!」
サーッ……。
黒澤ダイヤの顔から、少しずつ血の気が引いていった。
南ことりが、さらに追及する。
「次に、映像に映っている更衣室やトイレ、プールなど、さまざまな場所を調べました」
ことりは別の資料を机に広げた。
「でも、どれも国立音ノ木坂学院の施設とは一致しませんでした!」
「う、嘘……!」
サーッ……。
小原鞠莉の顔からも血の気が引いていく。
普段は冷静な彼女だったが、さすがに動揺を隠せないようだった。
「Wait……それじゃあ、あの映像はいったい……?」
鞠莉は書類と三人の顔を交互に見つめた。
ほかのAqoursメンバーも、一斉に資料をのぞき込む。
「次は、さすがに骨が折れたわ……」
西木野真姫が大きくため息をついた。
「なんせ、海外や日本各地にいる元μ'sのメンバー全員に連絡を取って、確認したんだから」
バンッ!!!
真姫が分厚い資料を机に叩きつけた。
「これはμ's全員の協力を得て作成した照合資料よ。身長や体格、あざやほくろの位置まで、映像の人物と比較したわ」
「そ、それで……結果は?」
ダイヤが震える声で尋ねた。
真姫は眼鏡を押し上げた。
「映像の女性たちと、私たちμ'sの身体的特徴は一致しなかったのよ!それに私達、μ'sは全員処女!!私も含めて!!!」
「くらえ!」
俺は思わず叫んだ。
その瞬間だった。
ガラガラガラ……!
黒澤ダイヤと小原鞠莉が、まるで脆いブロックのように崩れ落ちた……ように見えた。
……もちろん、実際に壊れたわけではない。
俺の脳内で『逆転裁判』の敗北演出が再生されただけだ。
「そ、そんな……!」
「Oh my God……!」
……よし。
これでようやく、反撃開始だ。
「一番大事なものが、まだ残っているだろう?」
俺が尋ねると、三人は静かにうなずいた。
「そうね。最後は朝下ふとだ先生自身のことよ」
西木野真姫が最後の資料を取り出した。
バンッ!!!
「先生の身長、体格、ほくろの位置、そして事件当時のアリバイ!」
真姫はダイヤと鞠莉をまっすぐ見つめた。
「映像の男性とは、どれも一致しなかったわ!」
「そ、そんな……!」
ダイヤが言葉を失った。
今度は絢瀬絵里が一歩前に出た。
「もし今後も、根拠のない疑惑を広めて先生や私たちμ's、音ノ木坂学院の名誉を傷つけるなら、法的措置も検討します」
「ラブライブ!への参加を目指す学校が、名誉毀損の問題を起こしたとなれば、世間の注目を集めるでしょうね」
「そ、それは……!」
ダイヤはさらに青ざめ、鞠莉も険しい表情で黙り込んだ。
……お前は青の絵の具か!
ダイヤというよりサファイヤだな、こりゃ。
「……分かりました。これ以上の追及はやめましょう……」
ダイヤが力なく答えた。
「……私も異議はないわ」
鞠莉も肩を落とした。
二人とも心が折れたというか、ぽっかり穴が空いたというか……。
俺の脳内では、『逆転裁判』の敗北演出が再び流れていた。
……どうやら、ようやく俺の無実が認められたらしい。
「本当に申し訳ございませんでした……!」
黒澤ダイヤは、元μ'sの三人に深々と頭を下げた。
額からは冷や汗がダラダラと流れている。
「「「「「「「「やったあああ!!!」」」」」」」」
高海千歌が真っ先に俺に飛びついた。
続いて、ほかの六人も飛びついてくる。
「お、おい! ちょっと待て! 倒れるだろうが!」
俺の脳内では、巨大な文字が次々と宙を舞っていた。
『無罪!』
『勝訴!』
『勝利!』
……やれやれ。
長かった裁判も、ようやく閉廷というわけだ。
「それにしても……どうして、あんな裏ビデオが作られたんだ?」
俺が尋ねると、絢瀬絵里が静かに答えた。
「それは……私たちμ'sが、伝説的なスクールアイドルグループだからでしょうね」
「どういうことだ?」
「μ'sの名前を使った偽物の映像なら、高値で売れると考えたのでしょう」
西木野真姫が腕を組んだ。
「おそらく、私たちによく似た成人の出演者を集めて、映像を作ったのよ」
「……なるほど。金儲けが目的か」
「ええ。でも、まだ誰が作ったのかまでは分かっていないわ」
絵里は険しい表情で続けた。
「私たちも、これで終わらせるつもりはないわよ」
「相も変わらず頼もしいな、君たちは!」
「先生!! 先生、大好き!!!!」
千歌が勢いよく飛びついてきた。
「私も! ハグしよ!」
今度は松浦果南が俺を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと待て! 全員で抱きしめるな! 全身の骨が折れる!」
「ちょっと! リトルデーモンに何してるのよ!」
ヨハネ! そのとおりだ! もっと言ってやれ!
「まるも、先生のこと信じてたよ」
花丸が嬉しそうに微笑んだ。
「これからも一緒に頑張ろうね、先生!」
曜も満面の笑みを浮かべた。
……ああ、やっぱりAqoursは最高だ。
「……あなたも相変わらずモテるのね」
絢瀬絵里が呆れたようにため息をついた。
「ん? どうした、絵里?」
「本当に、昔から変わらないんだから……」
絵里は俺に近づくと、軽く拳を握った。
「この、た・ら・し!」
ポカッ!
俺の肩を軽く叩いた。
「いてて……いや、全然痛くないけど」
「ふふっ。少しは反省しなさい」
……やれやれ。
μ'sの時代から、俺の扱いは変わっていないらしい。
「……少し蛇足めいたことを言わせてもらうわね」
絢瀬絵里が口を開いた。
西木野真姫も小さくうなずく。
なぜか南ことりまで、表情を曇らせていた。
「Aqours……だったかしら。あなたたちのグループ名は」
「は、はい!」
千歌が返事をした。
「活動している動画を見せてもらったわ」
絵里は九人をゆっくりと見渡した。
「正直に言うと……希望を見いだしたの」
その言葉に、Aqours全員の表情が明るくなった。
しかし――。
「と、同時に失望もしたわ……!」
「「「えっ!?」」」
絵里はきっぱりと断言した。
「ダンス、歌、パフォーマンス、そして衣装……」
一拍置いて、彼女は言い放った。
「どれも私たちμ'sに比べると、まだまだ低レベルデース!」
……おい。
お前、そんな外国人キャラだったか? 絢瀬絵里。
「絵里、変な言い方しないでよ」
真姫が呆れたようにため息をついた。
「でも、言いたいことは分かるわ。歌もダンスも、まだ改善できるところが多いもの」
「衣装もね……」
ことりが申し訳なさそうに口を開いた。
「みんな、とっても頑張ってると思う。でも、もっと動きやすくしたり、九人の個性を生かしたりできると思うんだ」
「そ、そんな……」
千歌がうつむいた。
俺は三人を見つめた。
……なるほど。
どうやら、ただ後輩をけなしに来たわけではなさそうだ。「すまん……俺の指導が至らなかったせいだ。お遊戯程度のことなら、よそでやるべきだったな……」
「……あなたのそういう自虐的なところ、まだ治ってないのね」
西木野真姫がため息をついた。
「変わってない、と言ったほうがいいかしら」
真姫は眼鏡をクイッと押し上げた。
……ああ。
眼鏡っ子になった真姫も可愛いな。
「先生、今、全然関係ないこと考えてるでしょ?」
「……なぜ分かった?」
「顔に書いてあるわよ。まったく、イミワカンナイ!」
……昔から鋭い女の子だ。
「何なら、今ここで私たち三人と勝負してみる?」
絢瀬絵里が不敵に微笑んだ。
「審査員は朝下先生と、全校生徒、それに教職員の皆さん。どうかしら?」
「そうね……ブランクなんてないわよ」
西木野真姫も眼鏡を外した。
……可愛い。だが、怖い。
「ちょっと恥ずかしいけど……私も頑張っちゃおうかな♪」
南ことりも控えめに微笑んだ。
その瞬間、理事長室の空気が変わった。
Aqoursの九人が一斉にたじろぐ。
……相手は、あの伝説のμ'sだぞ!?
「やめてくれ〜! 君たちの圧勝じゃないか……!」
俺は思わず頭を抱えた。
「負けません!!」
高海千歌が叫んだ!
「ち、千歌! そんな安っぽい挑発に乗らない!」
果南が慌てて止めに入った。
「……まあ、私だって勝負してみたいけど」
「果南ちゃんまで!?」
曜が目を丸くした。
「だって相手はμ'sだよ!? 強すぎるって!」
「だからこそ、やってみたいんだよ!」
千歌は真剣な眼差しで絵里を見つめた。
「私たちが今、どこまでできるのか……確かめたいです!」
……やれやれ。
どうやら、止めても無駄らしい。
……結果は……言うまでもない……Aqoursの惨敗……
言うまでもなかった。
ダンス、歌唱力、パフォーマンス、作曲、作詞、衣装……。
どれを取っても、μ'sの三人にはかなわなかった、しかも大人になり、彼女達はナイスバデーになり、妖艶さセクシーさを備えている。
しかも、ダイヤと鞠莉は先ほどの一件で精神的に参っている。
「嘘でしょ……!」
「なんて強さなの……!」
「Oh no……!」
「これが先生の育てたμ's……!」
「恐るべき実力ずら……」
Aqoursの面々が次々と声を漏らした。
……おいおい。
三人でこれか。
九人全員が揃っていた頃のμ'sを相手にしたら、どうなっていたことやら。
「……私が……私が悪いのですわ……」
黒澤ダイヤが、ボロボロと涙をこぼし始めた。
「私が朝下先生を信じなかったから……」
……おいおい、ダイヤ。
そんなに自分を責めるなよ。
「いいえ……私にも責任があるわ……」
小原鞠莉も肩を落とした。
「もっと早くダイヤを止めていれば、こんなことには……」
まるでリョナ動画みたいで興奮した、勃起してしまった。
「二人とも、待ってくれ」
それはともかく、俺は思わず口を挟んだ。
「今回の勝負に負けたことと、俺の疑惑を追及したことは別問題だろう?」
二人が顔を上げた。
「それに、俺だってAqoursの指導者だ。負けた責任は俺にもある」
……さて。
ここからどうやって立て直すか。
それが俺の仕事だろうな。
「安心しろ!君達はAqoursだ!次勝てばいい!」
「うん!今日は負けたけど!次は負けない!!ラブライブで優勝してみせる!!!」
高海千歌は立ち上がる、その姿に何か思い出す……
「高坂穂乃果……!」
俺は言う……
「穂乃果ちゃん……!?」
南ことりが口を抑えて絶句する。
そうだ、ネットで見た彼女の姿は高坂穂乃果にそっくりだ……
「廃校も阻止してみせる!」
西木野真姫、絢瀬絵里も驚く、アレだけボロボロだったのにこの気迫は一体何だというのだろう。
「千歌……今回は素直に負けを認めよう……明日から特訓だ!」
まずはメンバーのメンタルコントロールだな……。
「素敵な生徒に囲まれたのね……」
絢瀬絵里が言う。
「本当、わけわかんない……じゃなくて分かるわ……!」
西木野真姫が言う。
「あの高砂千歌って言う娘……懐かしさをかんじる……面白い!」
南ことりも言う。
「もう一度言う!安心しろ! 君たちはAqoursだ! 次に勝てばいい!」
あれほど完膚なきまでに敗北したというのに、この気迫はいったい何なのだろう。
「……千歌」
俺は彼女の肩に手を置いた。
「今回は素直に負けを認めよう。だが、明日から特訓だ!」
「うん!!」
……まずはメンバーのメンタルを立て直すところからだな。
技術はその次だ。
何しろ、Aqoursの挑戦はまだ始まったばかりなのだから。
グゥゥゥ……。
俺の腹が盛大に鳴った。
「……まずは腹ごしらえだな。裁判騒ぎからこっち、水すら飲んでいないし……」
「あら、ふとだ先生?」
絢瀬絵里が首をかしげた。
「沼津の美味しい料理を出すホテルを予約したって聞いたけど……?」
「ああ、そのことか……」
俺はスマートフォンを取り出した。「ホテル……!?」
津島善子が勢いよく立ち上がった。
「リトルデーモン……! もといダーリンが寝取られる! NTRですわ〜!」
「寝てから言いなさい! ブッブーですわ!」
黒澤ダイヤが即座にツッコミを入れた。
……おっ!
ダイヤが少し元気を取り戻したぞ!
「っていうか、ヨハネ。お前、何を心配してるんだ?」
「べ、別に! 何でもないわよ!」
……やれやれ。「先生……まさか……?」
小原鞠莉が俺を見つめた。
「ああ、そうだ!」
俺は胸を張った。
「ホテルオハラ!」
「Oh! やっぱり!」
鞠莉が目を丸くした。
「みんなで夕食を楽しもうじゃないか!」
「「「やったあ!!!」」」
Aqoursの歓声が理事長室に響いた。
……しかしねぇ。
十三人分の夕食代か……。
魔法のノートがあるとはいえ、財布にはなかなか厳しい。
俺はそっと、ブラックカードを取り出した。
……頼むぞ、相棒。