※この作品はR-18です。

エロノート2 ラブライブ!サンシャイン!!編   作:良田両作

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99里が半ばといいますが、マジでそれ……


ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 黒澤ダイヤ前編

 

 

「朝下レフトダーク先生がラブライブ決勝後、学校をやめる」

 

そのニュースはいちはやく学校中に響いた。

Aqoursのメンバーはどこか、俺の言動や行動がおかしいと気づいていたのか、悲しんでいるが、覚悟していた。

「……たった、一人の例外を除いては……か……」

廊下にいる黒澤ダイヤが、無表情で俺の目の前で、立っていた。

ゴゴゴゴ、と、ジョジョの奇妙な冒険のラスボス戦の効果音が聞こえてきそうだ。

しかし俺には黄金の意志がある、無駄無駄無駄ァ!

再び彼女は腕を回す、大魔神モードだ。

「朝下先生!これは一体どういうことなんですか?」

 

 

「……何のことかな?」

 

「とぼけないでくださいまし!」

 

ダイヤの声が廊下に響き渡った。

 

「ラブライブ!の決勝が終わったら、学校をお辞めになると聞きましたわ!」

 

「ああ、そのことか。事実だよ」

 

「……っ!」

 

ダイヤは一瞬、言葉を失った。

 

「どうして……そんな大切なことを、わたくしたちに相談してくださらなかったのですか?」

 

「俺自身の進路だからな。みんなに余計な心配をかけたくなかったんだ」

 

「余計な心配……?」

 

彼女の眉がぴくりと動いた。

 

「先生は、わたくしたちが何も知らずに笑っていれば、それでよろしいと?」

 

「いや、そういう意味じゃ……」

 

「では、どういう意味ですの!」

 

……まずい。

 

これはラスボス戦どころではない。

 

完全に俺の選択肢を間違えたようだ。

 

「そもそも、閉校をきっかけに教師をやめる人や別の学校に行く人は他にもいるじゃないか……?」

 

「う、!それは……!千歌さんにも、お話しになったのでしょう?」

 

「……ああ」

 

「千歌さんが、どんな気持ちになったかお分かりですか?」

 

俺は返事に詰まった。

 

「……先生は、いつもそうですわ」

 

ダイヤの声が、少しだけ震えた。

 

「わたくしたちのことを考えてくださるのに、ご自分のことは何も話してくださらない……」

 

「ダイヤ……」

 

「わたくしだって……!」

 

そこで彼女は口を閉ざした。

 

言いかけた言葉を飲み込むように、唇を結ぶ。

 

「……いえ。今は結構です」

 

ダイヤは静かに息を整えた。

 

「先生。今日のお時間を、いただけますか?」

 

「……もちろんだ」

 

「では、覚悟なさってくださいまし」

 

「え?」

 

「わたくし、今日は先生に言いたいことが山ほどありますの」

 

……やれやれ。

 

どうやら最後のデートは、説教から始まるらしい。今日のダイヤは、白いブラウスに深紅のカーディガン、紺色の膝下丈スカートという清楚な私服姿だった。

 

普段の制服姿も凛として美しいが、こうして私服を着ていると、どこか柔らかな雰囲気がある。

 

「……先生? 先ほどから何をご覧になっていますの?」

 

「いや、今日の服、よく似合っているなと思ってね」

 

「なっ……! そ、そういうことは、突然おっしゃらないでくださいまし……!」

 

ダイヤは頬を赤らめながら、そっと視線を逸らした。

 

「ここが沼津御用邸記念公園かぁ〜歴史を感じる……」

 

「先生はこういうところが好きなんですか?」

 

「ああ、昔は一人で赤穂とか、大阪なら正木美術館とか、京都にも歴史のある建物は幾らでもあるからな……」

 

「正木美術館……?聞いたことがないですわね……」

 

「梅田や難波にあるところじゃないからなぁ……

「ところで、ここについて詳しく教えてください!」

 

「ええ、もちろんですわ!」

 

ダイヤは嬉しそうに微笑んだ。

 

「沼津御用邸は、明治26年、当時皇太子でいらっしゃった大正天皇のご静養のために造営されたものです」

 

「ほう、明治26年か。1893年だな」

 

「よくご存じですわね」

 

「歴史は好きだからな。明治時代の建築物には独特の魅力がある」

 

「その後も皇室の方々に利用され、昭和44年に御用邸としての役目を終えました。そして現在は記念公園として公開されています」

 

「なるほど……」

 

俺は周囲の松林を眺めた。

 

「しかし、いい場所だな。海も近いし、静かだし……」

 

「ええ。こちらの西附属邸では、当時の皇族の方々の暮らしを知ることができますの」

 

「それはぜひ見たいな」

 

「ふふっ。では、ご案内いたしますわ」

 

ダイヤは少し得意そうに歩き始めた。

 

……こうして見ると、彼女は実に楽しそうだ。

 

つい先ほどまで、俺を問い詰めていたとは思えない。

 

「……ところで、先生」

 

「ん?」

 

「先ほどおっしゃっていた正木美術館というのは、どのような場所なのですか?」

 

「大阪府の泉州地方にある美術館だよ。日本や中国の古美術、特に禅に関係する美術品などを収蔵しているんだ」

 

「まあ……それは興味深いですわね」

 

「いつか一緒に行ってみるか?」

 

「……!」

 

ダイヤが足を止めた。

 

「……先生」

 

「どうした?」

 

「その『いつか』は、学校をお辞めになった後でも、よろしいのですか?」

 

「……ああ、もちろんだ」

 

「……そう、ですか」

 

彼女は少しだけ表情を和らげた。

 

だが、まだ何か言いたそうだった。

 

「兵庫、大阪、京都、滋賀、奈良、和歌山……歴史のあるところが多いぞ、近畿は、静岡、沼津も歴史が多くて感動したぞ!」

「兵庫、大阪、京都、滋賀、奈良、和歌山……近畿には歴史を感じられる場所が本当に多いんだ。もちろん、静岡や沼津にも歴史的な名所がたくさんあって感動したよ!」

 

「まあ! 先生にそう言っていただけると、地元の人間として嬉しいですわ」

 

「沼津御用邸もそうだが、三嶋大社や韮山反射炉も興味深いな」

 

「先生は本当に歴史がお好きなのですね」

 

「ああ。歴史を知ると、その土地の見え方まで変わってくるからな」

 

「ふふっ……では今日は、わたくしが沼津の魅力を存分にお伝えいたしますわ!」

 

「それは楽しみだ。よろしく頼むよ、ダイヤ」

 

「はい、お任せくださいまし!」

俺たちは駐車場に停めてある赤いスポーツカーへ向かった。

 

俺は助手席のドアを開け、芝居がかった仕草で一礼した。

 

「お嬢様、どうぞお乗りくださいませ」

 

わざと執事のような口調で言ってみた。

 

「まあ……先生ったら」

 

ダイヤは一瞬きょとんとしたが、すぐに小さく微笑んだ。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきますわ」

 

彼女はスカートを軽く押さえながら、優雅な仕草で助手席に乗り込んだ。

 

「本日の運転も、よろしくお願いいたしますわね」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

「ふふっ……ですが、先生」

 

「何でしょう?」

 

「運転手としては合格ですが、わたくしを楽しませる殿方としては、まだまだですわよ?」

 

「おっと、これは手厳しい」

 

「本日は覚悟なさってくださいまし。まだお話ししたいことが、たくさんございますから」

 

……そうだった。

 

このお嬢様、俺を説得するためにデートしているんだったな。

指摘しなくてもシートベルトをするダイヤの育ちの良さに感動した。

「……どうかなさいました?」

「いや、何も言わなくてもシートベルトを締めるんだなと思って」

「まあ、当然のことですわ。安全のためですもの」

「そうだな。そういう当たり前のことを、当たり前にできるのは立派だよ」

「ふふっ。先生もお忘れにならないでくださいましね」

「もちろん」

俺もシートベルトを締め、エンジンをかけた。

……こういう何気ないところにも、ダイヤの几帳面さと育ちの良さが表れている。

「それでは、お嬢様。次の目的地へ参りましょうか」

「ええ、お願いいたしますわ」

赤いスポーツカーは、ゆっくりと駐車場を後にした。

 

沼津港深海水族館は一度、ヨハネ……もとい津島善子ときている。

 

しかしそれを言うのは野暮というものだ。

 

それを言ったらダイヤが怒るのだろう。

せっかくダイヤと二人で来ているのに、別の女の子との思い出話をする必要はない。

それに、相手が善子となれば話は別だ。

「先生、善子さんともこちらへいらしたのですか?」

……なんて聞かれた日には、どう答えたものか。

別に悪いことをしているわけじゃない。

だが、ダイヤとしては面白くないだろうな。

「先生? どうかなさいました?」

「いや、何でもないよ。さあ、入ろうか」

「……? ええ、参りましょう」

……余計なことは言わないに限る。

「ひゃっ……! な、なんですの、このお魚は……!」

 

「深海魚だな。なかなか迫力がある」

 

「少々……いえ、かなり独特なお姿ですわね……」

 

「まあ、深海という過酷な環境に適応した結果だからな。あれはあれで合理的な姿なんだ」

 

「……なるほど。見た目だけで判断してはいけませんわね」

 

「そういうことだ」

 

俺は水槽を眺めながら、ふと考えた。

 

「しかし、人類もまだまだだな……」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「深海には恒久的な有人都市もないし、宇宙にも本格的なスペースコロニーは建設していない。まだまだ発展の余地があるってことさ」

 

「ずいぶん壮大なお話ですわね……」

 

「人類だって、まだデビューしたばかりのスクールアイドルみたいなものかもしれないな」

 

「……スクールアイドル、ですか?」

 

「ああ。できないことが山ほどある。でも、これから何ができるようになるかは分からないだろ?」

 

ダイヤは少し考えてから、微笑んだ。

 

「……でしたら、わたくしたちAqoursも、まだまだ成長できるということですわね」

 

「もちろんさ」

 

「ふふっ。それなら、先生にも最後まで見届けていただかなくては困りますわ」

 

「……おっと」

 

どうやら、退職の話からは逃げられそうにない。

 

俺たちは水槽を一つずつ眺めながら、館内を歩いていた。

 

「おや、クラゲか……」

 

水中を漂うクラゲを見て、俺は思わず足を止めた。

 

「どうかなさいました?」

 

「いや、クラゲって空飛ぶ円盤に似ていると思わないか?」

 

「……空飛ぶ円盤、ですか?」

 

「ああ。あの傘の形といい、ふわふわ浮かぶ姿といい、まるで昔のSF映画に出てくるUFOだ」

 

「ふふっ。先生は想像力が豊かですわね」

 

「宇宙人がクラゲを見て円盤を設計したのかもしれないぞ?」

 

「それでは順序が逆ではありませんこと?」

 

「ははは、違いない」

 

俺は水槽の中を眺めながら続けた。

 

「でも、いつか人類も宇宙に巨大な居住施設を造って、地球以外で暮らすようになるんだろうな」

 

「先生は、宇宙へ行ってみたいのですか?」

 

「もちろん。海底都市にも住んでみたいし、宇宙コロニーも見てみたい。まだまだ夢は尽きないよ」

 

「……先生には、たくさんの夢があるのですね」

 

「ああ。でも、一番大きな夢は別にある」

 

「それは?」

 

「少子化問題の解決だよ」

 

「……少子化、ですか?」

 

ダイヤは意外そうに目を瞬かせた。

 

「また、ずいぶん現実的なお話になりましたわね」

 

「宇宙に進出できる技術があっても、そこに暮らす人間がいなければ意味がないだろう?」

 

「……確かに、そうですわね」

 

「だから俺は、少子化の原因を研究したいんだ。経済的な事情、仕事と家庭の両立、医療の問題……理由は一つじゃないからな」

 

「なるほど……」

 

「もちろん、子供を持つかどうかは本人たちが決めることだ。誰かに無理強いするつもりはないよ。ただ、子供を望む人が、諦めずに済む社会にしたいんだ」

 

ダイヤはしばらく黙っていた。

 

「……先生」

 

「ん?」

 

「わたくし、先生の夢を少し誤解していたのかもしれません」

 

「どういうことだ?」

 

「先生は、何でもお一人で解決しようとなさる方だと思っていました」

 

「……」

 

「ですが、その夢は、先生お一人では叶えられませんわね」

 

「ああ。医者も科学者も、政治や経済に詳しい人間も必要になる」

 

「でしたら……」

 

ダイヤは俺をまっすぐ見つめた。

 

「先生ご自身の未来についても、お一人で決めてしまわないでくださいまし」

 

「……ダイヤ」

 

「わたくしにも、先生と一緒に考えさせていただきたいのです」

 

……なるほど。

 

この子は、俺の夢を否定するつもりなど最初からなかったのだ。

 

ただ、その未来に自分も関わりたいと願っている。

 

そういうことなのだろう。

「それに……俺の両親は、決して立派な人間じゃなかったんだ。兄弟姉妹も……」

 

「ご兄弟まで……? 信じられませんわ。先生のような立派な方が……」

 

「立派なもんか……ここではアレだから、休憩できるところに行こうか……」

 

「え、ええ……」

黒澤ダイヤは戸惑いながらも、小さく頷いた、俺たちは休憩できる場所を見つけて腰を下ろした。

 

俺は自嘲気味に笑った。

 

「正直、ダイヤとルビィ、君たちのような仲のいい姉妹が羨ましいよ」

 

かつて、関西からわざわざ金をせびりに来た兄のことを思い出した。

 

交通費を使って金を借りに来る。

 

……本末転倒もいいところだ。

 

「俺はね……いわゆる弱者男性だったんだ」

 

「……先生が?」

 

ダイヤは信じられないという顔をした。

 

「今の俺からは想像できないだろうな。金もなければ、自信もない。将来に希望なんて持てなかった」

 

「……」

 

「そんな俺が、宝くじみたいなものを拾って人生が変わった。だが、その前に母親が亡くなってね……」

 

「……お母様が?」

 

「ああ。遺言を見て驚いたよ。土地の権利を、朝下レフトダークに譲る……そう書いてあったんだ」

 

「なぜ、先生に……?」

 

「俺だけだったんだよ。母親に毎月生活費を送っていたのは」

 

俺は遠い昔を思い出した。

 

「二万円から三万円くらいだったかな。旅行に行きたいと言われれば、四万円ほど渡すこともあった」

 

「……ご自分の生活も大変だったのでしょう?」

 

「ああ。余裕なんてなかったよ。でも、母親を放っておけなかったんだ」

 

ダイヤは黙って俺の話を聞いていた。

 

「遺言が分かってからは大喧嘩さ。兄は店を持っていたが、リフォームさえすれば客が来ると思い込んでいた。姉は借金を抱えていたし、弟も妹も似たようなものだった」

 

「……」

 

「みんな自分の事情ばかりでね。俺がどんな生活をしていたかなんて、誰も気にしなかった」

 

俺は小さく息を吐いた。

 

「……だからかな。金も力も手に入れた今でも、時々思うんだ」

 

「何を、ですの……?」

 

「本当に俺を必要としてくれる人間なんて、いるのかなって」

 

「……先生」

 

「ははっ、すまない。せっかくのデートなのに、つまらない話をしてしまったな」

 

「……もう、結構です」

 

「ダイヤ?」

 

「もう……いいですわ……」

 

ダイヤの声が震えていた。

 

次の瞬間、彼女は俺をそっと抱きしめた。

 

「……そんなふうに、ご自分を卑下なさらないでくださいまし……」

 

「……」

 

「わたくしは……先生と出会えて、本当によかったと思っています……」

 

彼女の頬を、一筋の涙が伝った。

 

「……わたくしも、ルビィも……Aqoursのみんなも……先生のことを、大切に思っておりますのよ……」

 

俺は何も言えなかった。

 

ただ、彼女の背中にそっと手を回した。

 

……やれやれ。

 

今日は俺が説得される日だったはずなのに。

 

まさか、こんなことになるとはな。

 

 

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