豪雨に見舞われる中、2人の男が向かい合っている
金髪長身の大柄、極限まで鍛え上げられた肉体に黒の燕尾服を見に纏った男。ヒューム・ヘルシング、不死身の怪物である吸血鬼を倒した男。生きる伝説、曰く史上最強。
そんな男に向かい合う白い道着の男、その身に纏う闘気はヒュームに劣らない
「ほぉ…長い事生きてきたが、貴様程の使い手には遭遇した事は無かったぞ」
「かの名高き世界最強に評価されるとは、武道家冥利に尽きるぜ」
二人は動かずとも闘気がぶつかり合い、既に空は荒れ、雷鳴が鳴り響き、雨が降り出した
「ではそろそろ殺り合うか」
「我が生涯をこの拳に込めて…参る!」
達人を越えた超人達の攻防は、決闘を見届け人の目にも映らぬ程の速さで始まった。
「ぜぇぇぇぇい!」
裂帛の気迫から放たれる流星の如き正拳突き、当たれば金剛石すら容易に砕くであろう拳をヒュームは真っ向から両の腕で受け切る。袖は破け、ボロボロになるもヒュームの完璧に鍛え上げられた腕には傷一つなし。
「…見事な突きだ。俺の気でコーティングされた服がなければ腕が痺れていた所だ」
「攻撃はまだ終わって…ねぇぞ!!」
「っ!?」
ヒュームはガードを止め、回避に専念する。風切り音と暗雲すら雲散させるアッパーカットが空振る
「冷や汗かいたろ…世界最強」
「…言ってろ」
そこからは互いの拳や蹴りが飛び交い、服が破れ飛び降り注ぐ豪雨すらも2人を避けるかのようだった。しかし、先に身体の限界を迎えたのは
「…潮時だな」
「貴様…病んでいたな?」
挑戦者はその身に病を宿していた。薬と気で進行を送らせながら、この場に立ったのだろう
「世界最強が俺と戦う為に…わざわざ時間を割いてくれたんだ、俺の命を賭けるには充分だ」
「……せめて俺の最高の技で屠ってやろう。それが俺から貴様に送れる最大の賛辞よ」
「だが…俺も1人の武人だ。最後にお前に消えねぇ傷をくれてやるぜ」
向かい合う両雄、不思議とあれだけ降り続いた豪雨が止んだ。天も両雄の決着を見逃さぬように、はからったのかもしれない。
【ジェノサイド・チェーンソー】
【蹴撃・天下無双】
不死身の怪物、吸血鬼をも葬り去ったと言われる必殺の蹴りに対して、挑戦者が繰り出したのも蹴りであった
交錯する両雄、先に倒れたのは挑戦者。濡れた地面に真っ赤な鮮血が広がり、吸い込まれていく
「見事…見事だ 貴様の事は生涯忘れぬ」
世界最強、ヒューム・ヘルシングの胸にも深い傷。筋肉と気によって止血はされているが、深い為に傷は残るであろう
控えていた見届け人が、既に事切れた挑戦者を片付けようとする。
「待って!父さんを何処に連れていくんだ!」
10歳くらいだろうか、男の子が挑戦者の遺体に縋りついている。子供が居たのか…ヒュームは見届け人を下がらせると子供の前に立った。
「赤子よ…お前の父はこの俺が殺した…恨むならヒューム・ヘルシングを恨め。お前の挑戦はいつでも受けよう。だから…強くなれ」
~5年後~
元々体が弱かった母は俺を産んだ後、間もなく死んでしまったと聞いた。父は幼かった俺に、自らの武術を叩き込んでいった…世間一般からすれば虐待とも取れる程に激しく。
身体を強くする為、骨が折れる程痛めつけ、簡単に折れなくなると俺をビルから突き落とした。階層をあげては落とすを繰り返した。
そして父は俺に技を容赦なく叩き込む。気絶すれば起こされ、何度も何度も繰り返した。
10歳になる頃には、俺の身体は肉も骨も精神も強靭に作り替えられていた。
後から知った事だが、父は病に身体を蝕まれていたらしい…そんな身体で世界最強の武人に挑んだ。
そして俺は父を殺したヒューム・ヘルシングに強くなって自分に挑んで来いと言われた。
5年間は武者修行を重ねて世界を巡るが、ヒューム以上の強者に出会う事はなかった。
だが、偶然とは恐ろしいもので
「大丈夫ですか!」
「我は大事無い…民を助けよ…」
「心配は要りません。貴方で最後です。良かった間に合って」
瓦礫に押しつぶされ、大怪我をする運命にあった男を救った事により、止まっていた運命は動き出した。