※この作品はR-18です。

背徳の日々   作:天狗連

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それは、金曜の夕方のことだった。

 

週末に備えて、千夏はバックヤードで在庫を数えていた。コーヒー豆、紙コップ、シロップ。

 

一番上の棚に、紙ナプキンの箱が一つ。

 

つま先立ちになって手を伸ばすが、あと少しで届かない。

 

「取ってあげる」

 

すぐ後ろから声がして、玲奈の腕が千夏の肩越しに伸びた。

 

背中に、柔らかい胸が、むにゅっと押し当てられる。甘い香水の匂い。そして、その少し下。

千夏の臀のあたりに、何か硬くて、熱いものが、ぐっと当たった。

 

「……っ!?」

 

千夏は息を呑んだ。

 

フレアスカートの薄い布地越しに、はっきりと形がわかる。太くて、長くて、臀の割れ目に沿うように押し付けられている。それは、どう考えても、女性の身体にあるはずのないものだった。

 

ほんの一秒か、二秒。

玲奈は何事もなかったように箱を下ろし、身体を離して、千夏の手に渡した。

 

「はい。……どしたの千夏さん、顔赤いよ?」

 

「な、なんでもないわ。ありがとう」

 

千夏は箱を抱えて、逃げるようにバックヤードを出た。

背中に、玲奈の視線を感じた。振り返ることは、できなかった。

 

その日の店内で、千夏は何度も注文を聞き間違えそうになった。

 

カウンターに立っていても、コーヒーを淹れていても、臀に残った感触が消えない。

硬さも、熱さも、形も、全部、身体が勝手に覚えていた。

 

(あれは、なに……?)

 

考えるまいとするほど、考えてしまう。

 

スマートフォンのケースだったのかもしれない。ポケットに入れた何かだったのかもしれない。

そう自分に言い聞かせても、あの感触は、そんなものではなかった。

 

あれは、生きていた。脈打っていた。

 

ちらりと、フロアを歩く玲奈の細い腰を盗み見る。短いスカートの前は、何事もなかったように平らだった。

 

そのとき、玲奈がふいに振り返った。

 

目が合う。

 

玲奈は、いたずらっぽく片目をつぶってみせた。

 

千夏は、慌てて手元のコーヒーに目を落とした。ミルクを注ぐ手が、少しだけ震えて、ラテアートのハートが、いびつに歪んだ。

 

 

その夜。

 

一人きりの寝室で、千夏は布団の中で何度も寝返りを打っていた。

 

目を閉じると、背中に押し当てられた柔らかい胸の感触がよみがえる。甘い香水の匂い。そして、臀に当たった、硬くて熱いもの。

 

(……だめ)

 

そう思うのに、身体の奥が、じわりと熱を持ち始めていた。

 

こんな感覚は、もう何年も忘れていた。智也が寄り添ってくれなくなってから、自分でも、そういうことは考えないようにしてきた。

考えたところで、惨めになるだけだと思っていたから。

 

けれど今夜は、身体が言うことを聞かなかった。

 

千夏は、羽根布団の中で、そっとパジャマの上から自分の胸に手を当てた。

 

ゆっくりと、指に力を入れる。布地の下で、先端が尖っていくのがわかる。

 

「……んっ……」

 

自分の口から漏れた声に、千夏は驚いて唇を噛んだ。

もう片方の手が、おそるおそる、下へと滑っていく。パジャマのウエストをくぐり、下着の上から、そっと触れる。

 

そこは、もう、じっとりと湿っていた。

 

(……うそ。こんなに……)

 

恥ずかしさに、頬が焼けるように熱くなった。それなのに、指は止まらなかった。

 

下着の上から、ゆっくりと円を描く。そのたびに、背筋に小さな疺れが走る。

目を閉じるとまぶたの裏に、玲奈の人懐っこい笑顔が浮かんだ。

いたずらっぽく片目をつぶった、あの顔。そして、あの硬さ。

 

(あれが、もし……)

 

そこまで考えた瞬間、身体の奥がきゅうっと縮んだ。

 

「……っ、あ……っ!」

 

小さな波が、身体を駆け抜けた。

 

それは、何年ぶりかもわからない、あまりにもあっけない絶頂だった。

 

千夏は息を切らしながら、暗い天井を見つめた。隣の空いた布団が、やけに広く感じられた。

 

(……何を、想像してたの、私)

 

大切な夫ではなかった。年下の、バイトの女の子だった。

 

千夏は、羽根布団を頭まで引き上げた。

 

それでも、罪悪感よりもずっと強く、身体の奥に熻る熱が、

いつまでも消えなかった。




なんか続きそうです。
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