優等生ドM姫騎士と根暗爆乳魔族少女の戦いがヌルいので、300年生きた魔王の俺が両方快楽堕ちさせて支配する 作:オオテン
公園から出て行くアサナの背中を、俺は民家の屋根の上で見送った。
隣には、魔族の姿に変身したネライダが控えている。
「シキ様。そのお姿、よくお似合いですわ」
ネライダが俺をうっとりと見上げながら言った。
今の俺は、魔力で生み出した漆黒のローブに、口元が見える白い仮面を身につけている。
ネライダの進言によるものだ。
手込めにした女から言われるのは少々癪に障ったが、気持ちの切り替えには役に立った。
「お前の方は、少々所帯じみた姿だがな」
「あ、いえ。これは」
手にしたビニール袋を隠しながら、ネライダははにかんだ。
アサナと接触する際、買い物帰りだと偽装するために俺が持たせたものだ。
ネライダが遠慮がちに尋ねる。
「あの、シキ様。このコンドームは、いつお使いに……?」
「仕事道具だ」
「お仕事……そうですよね」
「気にするな。お前を犯すときに、そんなまどろっこしいことはせん」
「そ、そうですよね!」
喜色を浮かべるネライダ。最初に会ったころの虚勢は、もはや影も形もない。
「ところでネライダ。あの柊木アサナがアウローラとして力を得たのは、お前と同じ現象によるものか?」
「はい、そうだと思います。彼女は単独で活動しており、特に後ろ盾となる組織もありません。私と同様、偶然に力を得たかと」
「……なるほど。それならば、俺がこの世界に帰還した際の余波かもしれんな」
俺は内心でため息をつく。
そうであるならば、あのようなヌルい女を生み出してしまった責任の一端は、俺にもある。
後始末は、せねばなるまい。
「ネライダ」
「は、はい! なんでしょうか、シキ様」
「お前は、アウローラのことは自分に任せてほしいと言ったな。あの者と対峙するなら、今後はヌルい姿は見せてはならない。わかるな」
「はい。承知しております」
「ならば、俺がお前を徹底的に鍛えてやる。強さとは何か、蹂躙するとはどういうことか。お前と同じ名の強者を俺は知っている。その名に恥じない戦いをしろ。蹂躙し、圧倒するのだ」
「はい。仰せのままに」
従順にうなずいたネライダの口元に、抑えきれない笑みが浮かんでいた。
これは期待できるかもしれない――と、俺は思った。
この世界に帰還してから、初めて血が沸き立ってきた。
※※※
「おはようございます、柊木センパイ!」
「ええ、おはよう」
「おはよう、柊木。この前は手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「おはようございます、先生。あのくらいは当然ですから、お気になさらないでください」
――翌朝。校舎へと向かう道すがら、私はさまざまな人から挨拶された。そのひとつひとつに、笑顔で、丁寧に言葉を返す。
学校を代表する優等生、柊木アサナ。
そのイメージを守り、忠実に実践して生きていくことが、私の使命だ。
靴箱を開けると、中にはラブレターが5通ほど入っていた。
周囲の目があるので、内心で小さくため息をつく。
(またか)
どうやら私は、男子生徒から見て魅力的に映るらしい。自分では堅物委員長的な存在として煙たがられていると思っていたが、蓋を開けてみれば毎日のようにラブレターを送られる側になっていた。
正直、心が躍らない。
エッチなことに興味がないと言えば大嘘になるが、だからといって、学校ですれ違う男子生徒に対してそういった気持ちになったことは、まったくなかった。
理由は……わからない。
だからこそ、昨日、黒樹さんがコンドームを持っていたことに対して、羨ましく思ったのかもしれない。
あんなふうに、男の人に溺れることができたなら。
私は、嘘がつけない。嘘が書けない。
より正確に言えば、嘘がばれるのをとても恐れている。家のことがあるから。
この大量のラブレターにも、可能な限り正直に、きちんとお断りの返事を書かなければ。
「お、おはよう。柊木さん」
そのとき、遠慮がちに声をかけてくる女子生徒がいた。
私は振り返って微笑んだ。
「おはよう、黒樹さん」
黒樹ユウリさん。倒れていた私を介抱し、友達になりたいと言ってくれたクラスメイト。
アウローラの変身が解け、公園に横になっているクラスメイトなんて、傍から見て怪しいと思うはずなのに、助けてくれた優しい子だ。
加えて――たぶん、きっと、たくましい彼氏持ち。
直前まで黒樹さんとコンドームのことを考えていた私は、少しだけ赤面して視線を外した。
(昨日、あのままやっちゃったのかな。そういえばどことなく、肌つやがいいような……。たくさんエッチすれば、そういうふうになるって聞いたことがあるし……)
「柊木さん?」
「あ、いや。ごめんなさい。ちょっとぼーっとしちゃって」
「……靴箱の中にあるのは、ラブレターだよね。今日も、すごいね。柊木さん」
私の態度には触れず、黒樹さんは靴箱をのぞき込んで言った。
「もしかして、誰かとお付き合いするの?」
「それはないと思うわ。これから、お断りの言葉を考えるつもり」
「そうだよね。身を捧げる相手は、誰でもいいわけじゃないものね」
そう小声で口にした黒樹さんは、とても大人びて見えた。実際、セリフも大人っぽい。
クラスで縮こまっている印象だったので、意外だった。
「その……」
私は思わず、彼女に耳打ちした。
「私も、実はそう思うの」
「自然なことだよ」
驚くでもなく、無理に迎合するでもなく。
黒樹さんはうなずいた。
私は嬉しくなった。初めて本音を言える友達ができた気持ちになったのだ。
「黒樹さん、一緒に教室まで行きましょう。私たち、友達になったのだし」
「うん。友達」
連れ立って廊下を歩く。
長身の黒樹さんは、やや背中を丸めてうつむき加減に歩くのが癖になっているようだ。
控えめな彼女らしい。ただ、胸の大きさはとても控えめとは言えないが。
私と黒樹さんのペアが珍しいのか、廊下で何人かが振り返った。
「気にする必要はないからね、黒樹さん」
「うん。ところで、柊木さん。昨日は何してたの?」
「……え?」
「私、ときどきあの公園の近くを通る。もし同じことがよくあるのなら、これからは様子を見た方がいいのかなって」
善意からの質問だった。私は内心で胸をなで下ろす。
――私は、嘘がつけない。嘘をつくのが怖い。
「――戦ってたの」
だから、ぽろりとそう漏らしてしまった。
黒樹さんという気の置けない友人ができたことに、気が緩んだのかもしれない。
私の迂闊な言葉に対して、黒樹さんの答えはあっさりしたものだった。
「そっか」
「変に思わないの?」
「柊木さんは、嘘がつけないんだね」
「……え」
「貧血と戦ってたんだよね」
黒樹さんが笑った。
一瞬だけ、私は背中に冷たい汗をかいた。
「そ、そうだ。黒樹さん、良かったら一緒にお昼ご飯を食べましょう」
「うん。うれしい」
黒樹さんはうなずいた。
教室が見えてきた。
「それじゃ」とススッと黒樹さんが離れ、自分の席に着いた。
クラスメイトに挨拶をしながら、「黒樹さんは不思議な子だな」と私は思った。