【R-18G】命散るとき、花は咲く――ファイアーエムブレム無惨 作:無為庵閑人
王家簒奪第1話~反乱
暗黒戦争はアカネイア大陸のほぼすべての国に大きな爪痕を残した。ドルーア帝国に抗した諸国はもちろん、帝国側の国々も無事ではいられなかった。
もちろん、マケドニア王国も例外ではない。マケドニアは元々ドルーア帝国に地理的にも近く、それゆえ真っ先に帝国の圧迫を受けた。マケドニア第一王子・ミシェイルはドルーアに弱腰な父を弑逆。権力を握ると、ドルーア帝国と同盟を組んだ。ミシェイル自身はドルーアを利用するつもりではあったが、実際には帝国の先兵として使われることも多く、国力を消耗していった。
そんな中、マルス王子率いる同盟軍がマケドニアに迫る。そして、ミシェイルは討死した。
ミシェイル亡きあとにマケドニア王国を継いだのが第一王女であり、ミシェイルの妹だったミネルバだ。
ミネルバは、密かに敬愛する兄の死を振り切るように戦後復興に尽力した。そこで手を付けたのが軍であった。
ミネルバが軍制改革のターゲットとしたのは、門閥貴族たちだった。無能なくせに血筋だけで高位を占める。それでいて、強きになびく。暗黒戦争の際、ミシェイルが父王を弑して権力を奪取したときも諫言する者はおらず、すぐにミシェイルを支持した。そして、彼がマルス王子たちに討たれると、最初から味方だったかのような面で同盟軍についた。
こんな連中が幅を利かせれば、マケドニアの再興はままならない。ミネルバは、暗黒戦争時、そして戦後の将軍・騎士・役人たちの働きぶりをじっくりと観察した。そして、明らかに無能ないしは信用に足りない奸臣たちを追放する計画を立てていた。
だが、ミネルバは忘れていた。
こういう連中は、独自のネットワークを持っているということを。連中は保身のためなら本来の能力を超えた力を発揮するということを。
そして、クーデターはおきた。
反乱の根は、元々ミシェイル王子に近くミネルバとは距離のあった竜騎士団はもちろん、彼女と関わりの深い天馬騎士団にまで及んでいた。そのため、彼女はほとんど何もできずに捕縛された。
ただ、捕縛の直前にミネルバは最も信頼する部下である、パオラ・カチュア・エストのペガサスナイト三姉妹――もっとも末妹のエストだけは、恋人共に遠くアリティアの地で同居中であるが――に、すべてを託した。
アリティアのマルス王子にこのことが伝われば、きっと救出に来る。
パオラとカチュアが王城を脱出して一刻も経たないうちに、ミネルバの籠る塔は陥落し、彼女も捕縛された。
その翌日。
ミネルバは、愛用の赤い鎧を脱がされ、捕虜として罪人用の薄く白い粗末なワンピースに着替えさせられた。そして、荒縄で縛られたまま反乱のリーダーであるリュッケ将軍の前に引き出された。
「ミネルバ様、貴女に付く騎士など、ほとんどおりませぬ」
ミネルバはぎゅっと唇をかんだ。反感を受けることは分かっていたが、ここまで大規模な反乱になるとは予想していなかった。
「白騎士団以外からはほとんど支持を受けておらなんだ故、当然でございます」
そう。
ミネルバは焦りすぎていた。本来ならば、もう少し根回しをして味方をつけるなり、追放される者にも何らかの懐柔策を実施するなりすべきだった。マケドニア復興という理想のため視野狭窄に陥っていたのは間違いない。余談ながら、極端な理想主義と頑固さ、性急さがこの事態を招いたと、ミネルバは後世の歴史家からの酷評を受ける。
「おお。そうだ。ここから2匹の小鳥が逃げ出そうとしていたようですな。2匹ともすぐに捕まりましたがね」
リュッケが意味ありげに笑っている。
「どちらも、捕まえ次第、縛り首にしてやりましたぞ」
将軍が手で合図すると、魔道士が入ってきた。そして、魔道士は魔導書を開くと何やら呪文を唱えた。
「逢わせて差し上げたいのは山々ですが、まだ、2匹とも街中で吊るしている最中でしてなぁ。魔導書の映像で我慢してくだされ」
リュッケが合図すると、一人の魔道士が魔導書を開く。
そこには、並んで吊るされ、町中で晒し者にされているパオラとカチュアの姿が映された。
二人とも全裸にされ、男たちからは蔑みと好色の視線に晒されている。
よく見ると、二人の遺体が白い液体で少し濡れている。
「パオラもカチュアもいい女でしたからな。男たちには目の毒で、夜の間に何やらしておったようです」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!!」
ミネルバが怒りを爆発させる。
だが、リュッケはいやらしい笑顔を絶やさない。
「おっと。ミネルバ様はマルス王子が来ることを期待しているのかもしれませんがな」
ここで、妙な間を入れるリュッケ。
「マルス王子は謀反人として、皇帝陛下が直々に成敗いたしましたぞ」
ミネルバは愕然として「まさか!」と叫ぶも、やはり別の魔導書で、刑場に晒されているアリティア騎士団とマルス、それにマルスの婚約者であるシーダの生首が映し出された。
リュッケはどこから仕入れたのか、マルスの最期の有様を滔々と語っていたが、すでにミネルバの耳にはほとんど入っていなかった。
もはや、救援は絶望的だ。
「さて。いよいよ今度はマリア様、ですな」
マリアはミシェイルが死んだ今や、ミネルバの唯一の肉親だ。
マリアは戦後、再び修道院で祈りと修行と恵まれぬ人々のための奉仕活動の毎日を過ごしていた。彼女のいる修道院は一種のアジールであり、何人も軍を率いては侵入できない。だが、それも慣例にすぎない。現に暗黒戦争の際、マリアはそこから拉致されたのだから。
「貴様っ! マリアを政争に巻き込むな!」
「巻き込むな、も何も王族であれば政治と無縁ではいられますまいて」
リュッケの言うことは、もっともだ。あくまでマリアを政治に関わらせたくないというのは、政治や軍事の汚れた側面を見せたくないというミネルバのわがままでしかない。
ミネルバはリュッケをきっと見すえていた目が、少し伏し目がちになった。
そして、口が少し動く。
「どうすれば、マリアを助けられる」
「ミネルバ様もご存じの通り、儂は先年、妻を亡くしておりましてなぁ」
罪人用の、薄く白い粗末なワンピース。だが、縛り方のせいか豊かな胸が強調されている。そんなミネルバの全身を、リュッケがねちっこい視線で嬲る。
「ミネルバ様が儂の新たな妻となるならば、マリア様の安全も保障いたしましょう」
「いや、と言えば?」
「平服のまま、お二人とも飛竜の谷で過ごしていただきましょう」
飛竜の谷。
その名の通り、数多くの飛竜が飛ぶ地域だ。いくつかの小集落があるだけ。生き残ったのはマケドニア王国の建国者であるアイオテくらいだ。そこへ流刑されるというのは、緩慢な死刑である。
「私だけ飛竜の谷に送ればいいだろう! マリアは、見逃してくれ……頼む」
リュッケが鼻で笑う。
「バカなことを。そうすればマリア様を担ぐ者たちが反乱を起こすかもしれませぬ。マケドニアを救いたいのでしたら、儂の指示に従うか、死を選ぶか、ですぞ」
マケドニアを救うこと。マリアを助けること。これはミネルバにとって譲れない一線だ。
それならば、選択肢はただ一つ。
「……わかった。私はお前の妻となる。」
「では、儂がマケドニアの新王となることも認めますな」
ミネルバは美しく、大きな瞳をかッと見開き、目の前の傲慢な反乱軍大将を怒鳴りつける。
「な……。バカなことを! 貴様の妻になることと王族でもない貴様が王となることは全く別だろう!」
リュッケが腰に佩いた銀の剣を抜き、その刃を、強気を失わないミネルバの首に当てる。と、同時にアカネイア帝国皇帝の御璽が押捺された免状を、彼女の目の前に見せる。
「まぁ、ミネルバ様が何と言おうと、皇帝陛下からマケドニア王位の継承を認められておるのですよ、儂は。それに反対するのであれば、皇帝陛下への反逆者として、即刻、その細首を刎ねることもできますぞ。それでもよろしいか」
「貴様は、ハーディンは、そこまでしていたのか!?」
あまりの用意周到ぶりだった。もはや、ミネルバにはなすすべがなかった。