【R-18G】命散るとき、花は咲く――ファイアーエムブレム無惨 作:無為庵閑人
マルスの婚約者であったシーダは、英雄戦争でのマルス敗死後に捕らえられて公開処刑されることになった。敗者であるシーダにかせられたのは、前代未聞の釜茹での刑であった。
判決の数日後、シーダへの刑の執行が始まった。牢獄から出されたシーダは丸裸にされ、荷車に乗せられて街の広場に運ばれた。その間、下衆な男たちの群衆の好奇の目にさらされた。男たちのスケベな視線を受けながら、シーダは見たことのない、巨大な釜に放り込まれた。そして、黄色の、少し粘り気のある液が釜に注がれる。
油だ。
どうやらシーダは油で煮られるらしい。それまでは姫騎士らしく凛としていたシーダであったが、その恐ろしい有様が容易に想像でき、初めて恐怖で泣き喚いた。
しかし、無情にも釜の底の薪に点火される。大量の油ゆえに熱せられるまでに少し時間がかかる。少しずつ熱くなる油に、シーダは歯をカチカチと言わせることしかできなかった。
だが、ある時を境にして、歯の音は絶叫に変わった。
「ぎゃああああああああ!!」
あまりの熱さにシーダは油をまき散らして暴れる。煮えたぎった油のしぶきが薪にかかり、燃えあがる。だが、シーダを「揚げて」いる油には点火しない。そのせいで、すぐに命の灯が消えることはなかった。そのことは、もちろん、幸福なことではない。地獄の苦しみが長く長く、続くだけだ。
「殺して! 早く殺してぇぇぇぇぇぇ!!!!」
油に浸っているのは主に下腹部から下だ。だが、苦しさで暴れれば、今度は上半身にも煮えた油がかかる。あまりの苦痛に、速やかな死を懇願するシーダ。油に漬かったシーダの身体はどんどん火傷で赤くなり、あちこちに水疱を作る。だが、それでもすぐには死ねない。
しばらくは激しく暴れまわっていたが、だんだん動かなくなってきた。
「あ、あぁ……マ、マルス……さ、ま……」
愛する男を呼ぶ声。それが、彼女の最期の言葉だった。
どぼん。
シーダの上半身が力なく釜に突っ込んで、全身が油に浸った。浸った部分からは、細かな泡が立っている。だが、処刑は終わらない。ここから火力が「適温」に調整される。
シーダの処刑は完了した。エビのような姿勢で「素揚げ」にされたシーダは丸一日、広場で晒し物にされたという。シーダの遺体は、茶色に「ほどよく」揚げられていた。
そして、これが前例となり、もっとも凶悪な犯罪者(主に謀反人)には釜茹での刑が執行されることとなった。王侯貴族には「慈悲」として油で、騎士以下の身分のものにはより苦痛の時間が長くなる水で煮られることとなった。
もちろん、その処刑の有様は見るに堪えないものであった。悲鳴、皇帝への怨嗟、速やかな死を懇願する哀れな声……。ありとあらゆる絶叫が刑場一帯に響き渡るのだ。
こうして、釜茹ではハーディンの苛政を象徴する刑罰となった。後に、ハーディン自身がこの刑に処されるまで幾度となく実行されるのであった。
さて、シーダの処刑から数日後のこと。
帝国の捕虜となっていたタリス義勇兵たちは突然、皇帝主催の宴席に招かれた。
豪華な肉料理の数々。捕虜として扱われ、干からびかけたパンに、くず野菜のかけらと少しの味がつけられただけの水よりはましなスープだけが食事として出されていたことからすれば、異例中の異例。
だが、どうにも、食べにくい。
鶏肉ではないことは間違いないが、豚や牛肉、ヤギや羊でもない。熊のような雑食の野生動物に近いような、酷くクセのある風味。とはいえ、腐っているわけでもない。
「どうかね。アカネイア帝国の料理は気に入ってくれたかな?」
上座のハーディンが薄気味の悪い笑顔でタリス兵に尋ねる。
「はん。鮮度の割に不味い肉だったぜ。帝国はこんなもんしか出せねぇのかよ」
義勇兵のリーダー格の男が悪態をつく。
「ははは。『こんなもの』とは言ってくれるな。この肉に失礼ではないかね」
「肉に失礼もクソもあるかよ」
「そんなことはない。普通ならば貴様らが一生食すことはない肉ぞ。ヌシらにはこの肉が何かを教えて進ぜよう」
ハーディンが手を打つと、正装した侍従長が恭しく大きな銀の皿を持ってきた。
その蓋を開ける。
そこには人の頭が乗せられていた。
もともとの青い髪は高熱で熱せられたせいかチリチリになっている。眼球はどこかに行ってしまったのか、目のあたりはくぼんでいた。が、それは間違いなくシーダの首。
そう。この料理は先日の処刑で丸揚げにされたシーダの肉だったのだ。
真っ青になったタリス兵は一斉に嘔吐した。
「ははは!! もったいないことをしよる」
大笑するハーディン。その後、彼自ら「料理」の説明が始まった。
「これはもも肉のソテーだ。何の肉でも、もも肉は美味いぞ」
「これは貴重であるぞ。女に2つしかない乳房に、卵巣、そしてたった1つの子宮だ。だが、皆に行き渡るよう、シチューにしておる。さぁ、皆の者、心行くまで食すが良い」
「この料理の出汁はすべて、シーダの骨からとっておる。これを飲めばこれから生まれてくる貴様らの娘も極上の美人となるであろうなぁ。希望があれば、遠慮なく持ち帰るがよいぞ」
嘔吐し、その後シーダの肉を口にしなかった捕虜はすべて処刑された。彼女と同じように、釜茹でで一斉に煮殺され、その肉と骨と汁は犬や猫の餌になった。一方、謎の肉がシーダのものと分かった後でも喰った者たちは帝国兵として登用された。
後にアカネイア帝国が崩壊して皇帝自身も釜茹でで処断されると、殺された人々の名誉回復がなされた。シーダはもちろん、その後に釜茹でに処された者たちは忠臣としてタリス島では顕彰されたという。逆にシーダを喰った者への風当たりは強く、結局彼らも悲惨な末路を遂げた。