【R-18G】命散るとき、花は咲く――ファイアーエムブレム無惨 作:無為庵閑人
九相図その1~生前相
シーダはアカネイア帝国遠征軍の捕虜として、指揮官エイベル将軍の許に引き出されていた。
アカネイア軍がアリティア城に迫ったとき、アリティア王子・マルスの姉であるエリスの手で城からの脱出には成功した。だが、帝国軍の防空体制は完璧なものだった。多くの弓兵はもちろん、クインクレインのようなシューターまで多数配備していた。まるで、マケドニアの白騎士団や竜騎士団が加勢するのを見越していたかのように。
そのため、シーダは城下町を出ることすらできず、撃墜され、そのまま捕らえられてしまった。
「さて。シーダ姫よ。そなたには、検分を手伝ってもらおうか」
エイベル将軍がニヤニヤと笑いながらシーダに宣告する。
シーダが検分という言葉に嫌な予感を覚えていたところで、いくつもの桶をもった将校たちがやってきた。
その桶はただの桶でないことは、戦場にも出ていたシーダにはよくわかっていた。
首桶だ。
ブリザーの魔法で冷凍保存されていた首が次々と首桶からとりだされる。首実検の始まりだ。
次々と見知った者たちの首がシーダの目の前に並べられる。カイン、アベル、ゴードン、ドーガ、ジェイガン、アラン……。つい数か月前までアリティア城で共に暮らしていた仲間たちのみじめな姿だった。そして、シーダをとらえ、仲間たちに無残な最期をとげさせたのも、一年前の暗黒戦争では共にドルーア帝国の暴虐に抗して戦い、人類の解放を果たした友だ。どうしてこんなことになったのか……シーダの頭は完全に混乱していた。それでも、矜持から取り乱すことはなかった。
しかし。シーダが最も恐れていた、そして、この場にないことを願い続けたものが彼女の眼前に並べられた。
マルスの首級だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
アリティア軍は全滅していたのは最早間違いない。
シーダは絶叫し、悶え、泣き叫んだ。
エイベルはそんなシーダの姿を愉快そうに見ていた。
首実検が終わると、すぐさまシーダは牢につながれ、アリティアの叛逆行為についての取り調べが開始された。しかし、意外にも尋問の際に拷問は行われなかった。王族であるという配慮もさることながら、抜け殻のようになったシーダは取調官のいうことに「はい」としか言わなくなっていたため、いくらでも都合のいいストーリーがでっち上げられたからだ。
こうして数日間にわたる尋問が終了した。シーダの「証言」によって謀反の「裏付け」が取れた。これを基にして、捕虜となっていたアリティアの将兵たちの形ばかりの裁判と処刑も行われた。そして、わざわざ処刑にはシーダも立ち会わせた。
捕虜たちがシーダの目の前で、ある者は斬首、またある者は絞首、またある者は磔、中には火刑に処されて殺されていく。だが、誰一人、シーダへの恨み言を口にする者はいなかった。シーダへの呪いの言葉一つでもあれば、彼女の精神を現実に引き戻せたかもしれない。すがすがしいまでの彼らの死に様は、かえって、シーダの、最後の魂の欠片までも粉々に破壊するのに十分だった。
アリティア騎士団への仕置が全て終了すると、シーダに価値はなくなっていた。出身国のタリスはそもそも小国であり、アカネイア軍がその気になれば数日で征服できる。わざわざ王女であるシーダを人質として外交交渉で併合するほどのものではない。それに、生かしておけば、今度はシーダを神輿にして反アカネイア帝国・アリティア復興を旗印とした武装蜂起が起きるかもしれない。そのくらいならば、適当な罪状を名目にして処刑した方が後腐れがない。ついでにシーダの無様な最期を民草に見せつけて叛逆者の末路を知らしめれば、反乱を起こそうという気を奪えるだろう……。帝国の方針は決まった。
シーダの裁判が始まった。司法官がシーダの罪状を読み上げる。しかし、すでにこの世に未練のなくなったシーダにとって、読み上げられる数々の罪――全てがでっち上げとこじつけにすぎなかったが――などどうでもいいことだった。ボンヤリと、右から左に無意味な言葉が流れていく。
そして。
「ここに皇帝陛下の名によって判決を下す。タリス王国王女シーダは有罪。罪状は皇帝陛下への反乱と暗殺を企てた大逆罪および内乱罪である。その罪は命を持って贖うよりほかない。よって死罪を申し渡す。処刑方法は、罪人は王族であることを考慮して、斬首とする。そして、刑の執行および死体は後世の戒めとして多くの民の目に触れるようにする」
公開処刑の宣告が下されても、シーダは虚ろな目のままで、もうなにも反応しなかった。もちろん、平時であったとしても、プリンセスとしての誇りが見苦しい態度を取らせなかったであろう。しかし、今のシーダの魂はここになかった。彼女の心はマルスの無残な姿を見た瞬間に崩壊していたのだから。