【R-18G】命散るとき、花は咲く――ファイアーエムブレム無惨 作:無為庵閑人
それからさらに数週間ほどもたつと、遅れてきた客――無論、蟲と獣だが――が、シーダの残骸をしゃぶりつくし、さらに秋の陽気と風と雨に晒されて、干からびきった肉片すら失われ、いつの間にかクリーム色のような白骨ばかりとなった。今となっては、獄門台にへばりついた、とっくにくすんだ色になってしまったものの青く長い髪の一部だけが彼女の面影を知らしめる。頭蓋骨は台から落ちたときに割れてしまっていたが、それ以外の骨はまだきれいにつながっている。余計な腐肉がなくなり、きれいにつながったままの白骨からは、かえって妙な美しさが醸し出される。そのせいか、死後間もない頃のシーダを思い出し、夜の徒然に自家発電する見張りもわずかにいたようだ。夜が明けると骨の一部に精液がかかっていた。
処刑から二ヶ月が経とうとしている。
烏の糞まみれの獄門台の下には、骨片と数えられる程度の髪の毛だけが散らばっていた。骨はもう、どこがどの部分なのかもわからないくらいに小さくバラバラになっている。
遅れてきた野良犬と烏は未練がましく、ほんのわずかな乾燥肉の付いた骨をしゃぶり、かみ砕いた。最後の客となった野ネズミは好物の腱と軟骨を齧り、骨を削り割って髄を啜った。こうして残った骨さえも獣と鳥とに踏み荒らされた。さらに昼の陽射しと冷たい夜風は骨をもろくさせ、自然にボロボロになっていった。そうした遺骨の欠片は風に吹かれていずこかに飛ばされた……その結果である。
こうなると晒し者にして辱める意味がなくなっていた。僅かに残った遺骨は漸く回収された。もう、シーダが辱められることはない……。アリティア軍に同情的な者とタリス出身者は心ひそかに安堵した。しかし、アカネイアの司法官と司祭はシーダの魂が安らかに眠ることさえも許さなかった。
他方で、シーダの向かい側に晒されていたマルスの頭骨は奇跡的に綺麗な形を保っていた。そのため、頭蓋骨は洗浄と簡単な補修と補強が施されたのちに、額から後頭部にかけて「傲慢にして暗愚なる王子マルス」と大書された。そして、ファルシオンのレプリカの柄に掛けられ、アカネイア・パレスの玄関に飾られた。こうして、マルスの虚ろな眼窩は半永久的にパレスの者たちを睥睨するのだろう。反逆する者の末路はこうであるということを見せつけるために。
ハーディンへの大逆罪を犯したとされたシーダのために墓を立てることは許されず、僅かに残された遺骨と遺髪は焼かれて灰となり、何処かに打ち捨てられた。さらに、シーダが首を刎ねられ、晒しものにされた挙句に遺体がレイプされ、醜く腐乱し、獣に喰らわれ、ミイラ化し、骨になるまでの一部始終を、暗黒司祭たちが開発した特殊な魔導書でもって映像として克明に記録していた。それを一部編集して早送りにしたものを、旧アリティア国民と旧タリス国民は定期的に見ることを義務付けられたのである。希望者があればその記録の書は配布された。この魔導書は、シーダの死後の変化を9つのフェーズに分けたため、いつしか「九相の書」とよばれるようになった。
シーダが処刑されたころになると毎年、アリティアの町を厚い雲が覆いシトシトとした小雨が降るようになった。季節外れの強い風も吹き荒れる。その風の音はまるで女の泣き声のようだ。その有様は鬼哭啾々しか形容できないほどにおぞましく、火急の用がない限り人々は外出を控えるようになった。さらに、首のない全裸の娘が誰かを探している、いや首なしはペガサスの方で、それに乗った娘が手当たり次第に出くわした者を呪い殺す、といったうわさまでささやかれるようになった。いずれにせよ、その娘は死後、いつまでも辱められて、眠ることも愛するマルスが待っているであろう冥府に行くこともできずに現世を彷徨するシーダ王女の霊であり、この嵐は王女の嗚咽であろうと心ある人々は思うのだった。