勝手にAgitato 作:Hポテロング
「おにぎりありますよー!!どーぞっ!!」
足早に街を歩く横からの大声量に、うわぁ!?と悲鳴を上げそうになって、すんでのところで飲み込んだ。が、肩をはね上げて飛び退き、すっかり驚いてしまった俺は、目の前に差し出された少女が素手で掴んでいるおにぎりとその謎の凄みのある笑顔に困惑していた。
そして、気がつけば、俺の手のひらには潰れた米がネッチャリとしていてまだ温かい三角形のおにぎりを受け取ってしまっていたのだった。
「……あの、これって」
「分かってますよ。出来立てを頬張る前に、おにぎりの中身が気になりますよね?ふふん、それはねぇ……どうしよっかなぁ♪」
「うーめー、ちゃんと説明しなさーい」
「ちょっとぉ!?楽しみにしてたのにぃ、なんで先に言っちゃうのっ!!」
「あははっ……誤解かも。たぶん、名前の方」
……なんだか、様子がおかしい学生?のテンションだな。
宗教関係の学校の生徒さんで、慈善活動の炊き出しでもしていたのだろうか……なんて鈍い頭でぼんやりとそれっぽいことを考えつつ、おそらく梅の入っているだろう手作りおにぎりを見て、すっかり大人になってしまったが食べるのは小学生の運動会以来なんじゃないか?と懐かしみつつ、パクりとおにぎりに齧りついた。……うん、普通のおにぎりだ。
「美味い」
「「「食べた」」」
──呟いた瞬間、三人の少女が待望の言い逃れが出来ない証拠をついに得たと、瞳が妖しく光った。
「え?……もしかして、このおにぎりを貰ったと思っていたんですけど、駄目でしたか?」
「ぜぇーんぜん、いいのよぉーぅ!むしろ、私も今から握るからもっと食べて頂戴っ!」
「あのっ、私も握りますっ!おにぎりを食べて貰いたいのに、目的を達成出来なくて困っていたところなんです!」
「……はわわっ」
鍋で炊かれたご飯をサッと取り分けて手のひらに乗せ、ニチャニチャ、にぎにぎ、とおかかと昆布のおにぎりが追加され、食べて!食べて!と梅おにぎりを食べ終える前から二人から迫られ、一番元気だった梅おにぎりをくれた子の言葉数が減って赤面しつつ、梅おにぎりを完食するまで穴があくほど見つめられ……というくだりが、続くおかかと昆布のおにぎりを完食するまで繰り返された。
「ご馳走さまです。その、お代は」
中途半端な時間におにぎり三つはさすがにキツいなぁ、といつも客引きでも断りきれない自分の性分を恨みつつ、寄付でも何でも払おうと財布を取り出そうとして、おにぎりを手掴みにしてニチャニチャなことを思い出して鞄に触れるのを躊躇した。
「お金は一切いりません。……その代わり、私達の分のおにぎりを握って貰えませんか?」
「もう、ずっとお腹ペコペコでぇ~ううっ」
「どうかお願いします。自分達で作った物だと、意味が無いんです」
……パチンコ屋の三点方式的なヤツだろうか、学校のルール的なアレで。
こんなことに深々と頭を下げる行動原理の理解に苦しみながら、常なら他人に無愛想な俺がこの非日常な展開が少し楽しくなってきているのを自覚して、どうせ大した予定も無いし、乗りかかった船だと腹をくくった。
「いいですよ、お三方の気がすむまでおにぎりを握ってやろうじゃないですか!」
・・・・・。
「ンんー~、美味しーーい♡なにこれぇ!」
「ぷはぁっ!力が、漲ってきたぁっ!!」
「なるほど……これは興味深いですね♪」
「はぇ~若いって凄い……。お鍋のご飯、全部使い切っちゃうなんて」
おにぎりを握りに握り、12個のおにぎりがあっという間に三人の胃袋に消え、その食いっぷりが見事で幸せそうに頬張るものだから、幸せをお裾分けしてもらったように楽しい気分になっていた。
「あっ、残り物みっけ♪」
「ん、なっ!?」
何が起きたのか一瞬の理解が遅れ、掴まれた手のひらに少女の血のように赤い舌がレロリと這って、米粒をさらっていく。
「あ」
爛々とした目に蠱惑的な表情の少女、そのスカートを持ち上げる黒い尻尾が背後で揺れて、気まずい沈黙が流れた後に、テヘッ☆と舌を出して悪戯がバレた子供のように笑い、やってしまったと背後の二人が頭を抱えたのだった。
曰く、三人は魔界では絶対的な力と畏怖の対象としてその名を知らぬ者がいない大悪魔だそうで、あらゆる物事を味わい尽くしてきた三人のまだ知らぬ珍味があるという噂を求めて、日本にきたらしい……のだが、未知……の地に順応するまでにハイペースに魔力を使い過ぎた弊害で、魔界に帰る術すらも失っていたらしい。
そこへ現れた俺の握ったおにぎりに含まれていた“珍味”を食べて魔力を回復し、ハイになってつい、悪魔の尻尾を出してしまい──今に至る。
「どれだけ声を張っても、希薄になっていた私達の存在に気づける人はそれだけで特別なのに。そこから求めていた全てが手に入るなんてご都合主義展開に、浮かれてしまったのね。……とても、反省しているわ」
「ねぇ、この人が気に入ったから魔界に持って帰ろうよ!それからみんなに自慢するんだぁ!いーよねっ!」
「もちろん、駄目ですよ。天族の世界でその民を拐うなんて、争いの収拾がつかなくなります。……そういうワケですので、魔界では恐れられている私達ですが、あなたに危害を加えるつもりは微塵もありませんので安心してください♪」
「そうですか。それで……あの、家に帰るんですけど、いつまでついてくるつもりですか?もう、魔力を回復して魔界に帰れるんですよね」
許容範囲からはみ出した非日常を楽しめる段階はとっくに超えて、簡単に別れの挨拶をしてから早歩きで逃げる俺を、小さな一歩で地面を滑るように並走する三人が自分勝手な話をしながら、どこまでもどこまでも着いてくることに、嫌な予感がしていた。
「だから、ずっとその話をしているじゃない。もうっ、私達が日本に来た目的の珍味も含めて、全てが手に入ったのよ?それが、あなた」
「ごめんなさい。うっかりしていて、言葉が足りてなかったですよね」
「私達が日本に来てまで食べたかったものはね……真実の愛。はわわっ……言っちゃった♪」
まるで世界の秘密を告げるように、ひっそりと耳打ちして、気まぐれな鳥のようにクルリとひるがえり、目の届く範囲でまた並走する。
「二度と無いと断言出来る好機よ。あなたの人生をまるっと、真実の愛を味わい尽くすまで帰れない離さないもう捕まえた後悔しても遅いなら楽しんだ方がずっといい──でしょう?天族も寿命で死んで魂になったらそこから先は不干渉だから、魔界で長い付き合いになるワケだし」
「……というのはあくまで主観的なっ!強い言葉になっただけでしてっ。私達が全ての家事を負担しますので、それにささやかな見返りでWin-Winに暮らしましょう!というみんなが幸福になれる提案なんです」
「お兄さんも、こんな美少女悪魔三人と一緒に暮らせて幸せですよねっ!!」
「……はぁ、真実の愛。それは無理じゃないですか?一人ならまだしも三人なんて。そもそも、俺は別に誰も好きじゃないですし。むしろ、悪魔というのは非常識過ぎて生理的に……魔界に帰ってください」
「「「こんなにも美少女なのに?」」」
俺の明確な拒絶にそのときハッキリと、“美少女”の皮を被った悪魔達が本性を曝け出した。
全てが完璧な大悪魔としての誇りを踏みにじられたこの屈辱は、復讐でしか自尊心を回復出来ないだろうと、その歪んだ顔が物語っていた。
「うヴッ、ギギィ──でもっ、あの脳がシュワシュワするような多幸感の味が忘れられないのぉ♡悔しぃーーっ♡けど好きぃーー♡」
「私はこの中で一番大きい!!だから強い!!」
「もう、お行儀のいいフリはやめにしましょう♪」
魔界より日本に真実の愛を求めてきた大悪魔──メイベル、ハウメア、リリィヤミに因縁をつけられてしまった……その運命やいかに!
mv謎おにぎりシーンの考察がこの小説を書いた目的の9割。
蛇足のえっち展開は需要があれば書きます。