―――授業は真面目にきちんと聞いてノートも取った。昼休みになる。
「では行ってきます。」
「……いってらっしゃい。」
斎藤さんにも同様に挨拶した。体育館倉庫で筋トレに励んだ。遅刻した。先生に謝罪して席に着いた。
「遅刻してまでやることないんじゃないの?」
「バーベルなんて部屋に置く場所もお金もありませんからつい張り切っちゃいました。」
「まあ…気持ちはわからなくもないけど…。」
そして部活の時間になった。張り切って楽器室へ行く。アルトサックスを取り出して適当に空き教室を見繕って斎藤さんとマンツーマンレッスンが始まる。その内、1年生の皆さんが集まって合奏練習に変わる。度々俺が吹きたい曲を吹いてそれを皆さんで合奏練習した。楽しかった。そんな日が1週間ほど続いた。そんなある日の部活の時間、合奏練習中、勢いよく教室の扉が引いた。
「耳障りなんだよ、今すぐ止めろ。」
すかさず立ち上がって歩み寄る。
「どちら様ですか?」
「吹部の3年だよ。今すぐ片付けろ。」
「邪魔しないでもらえます?」
「先輩が片付けろっつったら片付けろ⁉ イジメるぞテメー⁉」
「へぇ…どうやって?」
女の髪を鷲掴みにして膝蹴りを額にブチ込む。暴れるので大人しくなるまで膝蹴りを叩きこんだ。女を引きずって音楽室に乗り込む。騒がしかった室内が静まり返る。
「こいつが俺をイジメるらしいんだけど、どうやってイジメるんだ?」
「「「「「……。」」」」」
「聞こえてるか?」
「「「「「……。」」」」」
「舐 め て ん じ ゃ ね え ぞ コ ラ ァ ‼」
空いている手で黒板を思いっきりブン殴った。殴った部分が砕けて粉々になって床に散らばる。一向に答えようとしないので音楽室を出て職員室へ向かった。泣き出したのでまた膝蹴りをブチ込み続けた。黙るまで続けた。ようやく泣き声が止んだので職員室に入った。見渡す、松本先生は…いた。先生の下まで引きずった。
「松本先生、お時間よろしいでしょうか?」
「……どうしたんだそいつは?」
「吹奏楽部の3年生らしいんですけど、1年生が集まって真面目に練習してるのにいきなりやってきて『耳障りなんだよ、今すぐ止めろ』なんてほざくんですよ。『邪魔しないでもらえます?』と答えたら『先輩が片付けろっつったら片付けろ⁉ イジメるぞテメー⁉』って言われたので『どうやって?』って聞いても答えないんですよ。音楽室に集ってる屑どもに聞いても全く答えなくて困ってるんですよ。どう思います?」
「こいつが間違ってると思う…。」
「ですよね? おい、どうやってイジメるのか聞いてんだ、いい加減答えろ。」
また泣き出した。ため息をついた。引きずって職員室を出る。松本先生の声が聞こえた気がしたが無視した。3階まで登る過程で手の指を1本ずつ丁寧にへし折った。悲鳴に変わる。3階に着く頃には10本全て折った。それから蹴って階段から転がした。蹴っては転がして1階まで蹴り転がした。女はピクリとも動かなかった。くだらない時間を過ごした。空き教室へ戻った。誰もいなかった。
またため息をついた。ひとりで吹いた。頭に昇った血を必死で抑えようとした。駄目だった。怒りは収まらなかった。部活の途中だが帰ることにした。昇降口に向かう途中、
「愛珠叶くん…⁉」
聞き覚えのある声、斎藤さんだった。
「何かご用件ですか?」
葵「怒ってるよね…?」
「はい、あんな屑共にビビって芋引くなんて度胸ないんですね。ガッカリしました。こんなくだらねえ集団の一部でいることに頭に来てしょうがなくて今すぐにでも辞めたい気分ですが俺までビビってると思われるのはムカつくので一応在籍だけはしておきます。サヨウナラ。」
走って帰った。急いで着替えて燻ぶる怒りを汗と共に霧散させた。考えるのも面倒な程疲れ切ってから部屋に戻った。後始末諸々を終えて何も考えずに寝た。
目が覚める、いつも通りに過ごして学校へ向かい職員室へ向かった。松本先生に挨拶した。
「昨日お前が連れていた3年生が1階で倒れていたぞ。救急車に運ばれ、診断の結果命に別状はないようだが両手の指が全て骨折していたそうだ。よって退部することになった。」
「良かったですね。」
「お前は…情というものがないのか⁉」
「『情』⁉ あんな屑にかける情なんてあるわけないでしょう⁉ 俺を何だと思ってるんですか? キリストや仏じゃあるまいしくだらねえこと言ってねえでさっさと鍵渡してもらえます?」
突き出された鍵を奪い取るように手に取ってさっさと楽器室へ向かった。仕舞っておいたはずの場所に楽器ケースがない。どこをどう見渡してもない。ため息をついた。職員室へ戻った。
「何だ忘れ物か?」
「楽器隠されちゃいましたよ。これがこのくだらねえ部の現実です。少しは真面目に指導したらどうです? 俺は楽器買うためにしばらく学校休んで働きます。サヨウナラ。」
鍵を机にブン投げて叩きつけた。怒りのまま学校を出た。コンビニへ寄って無料の求人誌をいただいた。部屋に戻って派遣会社に連絡した。早速仕事の依頼を受けた。現場へ向かって仕事をこなした。日が沈んでアパートに戻る。見覚えのあるふたりの人影、あすかさんと斎藤さんだった。
「松本先生から聞いた。楽器隠されたって。これからどうするの?」
「関係ないでしょう。あんな屑共にビビって芋引いたあんたなんかに。」
「それは…⁉ ごめんなさい…⁉」
「用件なんですか?」
「しばらく学校休んで働くって聞いたけど本当なの…?」
「しょうがないでしょう。楽器がなけりゃ買う他にどうすりゃいいんですか? 明日も明後日も毎日仕事の予定入ってます、話はそれだけですか? 忙しいので帰ってください。」
ふたりを押しのけて部屋に戻った。急いで着替えて外に出た。ふたりはまだいた。無視して川の土手で走りまくった。何も考えたくなかった。ひたすら走りまくった。息が上がって走れなくなってから筋トレに移った。規定回数をこなした。ようやく頭がフラフラになり部屋に戻った。後始末諸々を終えてさっさと寝た。何も考えたくなかった。
2か月が経った。その間、見覚えのない番号から電話がかかってきたが無視した。余りにもしつこいので電源を切った。約60万円以上貯まった。ある日、仕事から帰ってきたらアパートの階段の前で松本先生が待っていた。「後5日欠席したら留年だぞ」と言われた。金も貯まったことだし潮時だと思った。派遣会社にはしばらく仕事できないとお詫びも込めて連絡した。
それから学校に出席した。中間テストの分は補修でどうにかなった。期末テストが近づいていたが赤点ギリギリでどうにかなった。ネットでアルトサックスの通販サイトを検索した。YAMAHA製の396000円の新品のものが気に入ったので即決して注文した。ついでにB'zの楽譜集も片っ端から注文した。楽器の方は配達されるまで1~3日かかるというので放課後になったら即学校を出て走って帰った。翌日に配達された楽譜集を眺めながら待ち続けた。結局配達されたのは3日目の夜だった。上がるテンションをそのままに箱を開ける。金色の光沢が眩しい。「よろしく我が相棒」と心の中で挨拶した。
翌日、早速箱を抱えて朝練に向かった。職員室に入り無言で松本先生の前に立つ。黙って手を差し出す。
「それに楽器が入っているのか? 全く…心配させおって…。」
「俺に言わないでください。楽器隠した屑は誰か分かったんですか?」
「……いや。」
「……この2ヶ月以上もの間何やってたんですか? きちんと仕事してくださいよ。副顧問なら。」
鍵を奪い取り空き教室で楽譜集を眺めながら吹きまくった。全然満足しなかった。2ヶ月以上の空白を埋めるようにひたすら吹きまくった。部活になってもひとりで吹きまくった。話しかけられても無視した。誰も俺に寄りつかなくなった。それで充分だった。たかが上級生相手にビビる者など用はなかった。部活が終わっても居残り練習して吹きまくった。1冊目の楽譜集の曲を粗方吹き終えて満足して昇降口へ向かった。あすかさんと斎藤さんが待っていた。無視した。走って帰った。
ある日のこと、体育の授業から帰ってくると机の下に置いていた楽器の入った箱がなくなっていた。教室を見渡すがどこにもない。頭に血が昇った。3階へ上った。3年生の教室棟、分かりやすく1組から襲撃した。既に次の授業は始まっている。扉を蹴り倒した。
「こんちは。」
「な、何だお前は⁉」
「俺の396000円した新品の楽器が盗まれました。犯人探してます。」
「今は授業中だ⁉ 出ていけ⁉」
無言でのど輪をかましそのまま持ち上げた。
「この中に吹奏楽部に所属してる奴、手ぇ上げろ。」
無反応。教師を持ち上げる手に力を込める。苦しみの呻き声が聞こえる。
「早くしねえとこの先公死んじまうぞ。手ぇ上げろって言ってんだ。」
チラホラと手が挙がる。
「てめえらか? 俺の楽器盗んだのは?」
「違う…⁉」
「私じゃない…⁉」
そんな声ばかりだった。手を離す。教師が咳き込んで倒れ込む。
「お邪魔しました。」
顔を正面に向けたままお辞儀した。2組、3組、4組も同様だった。5組、そろそろ当たり引いてくんねえかなと思いながら扉を蹴り倒す。
「こんちは。」
「な、何ですか君は⁉」
女性の教師だった。だが同じようにした。
「俺の396000円した新品の楽器が盗まれました。犯人探してます。」
「今は授業中ですよ⁉ 出ていってください⁉」
無言でのど輪をかましそのまま持ち上げた。
「この中に吹奏楽部に所属してる奴、手ぇ上げろ。」
無反応。教師を持ち上げる手に力を込める。苦しみの呻き声が聞こえる。
「早くしねえとこの先公死んじまうぞ。手ぇ上げろって言ってんだ。」
チラホラと手が挙がる。
「てめえらか? 俺の楽器盗んだのは?」
また無反応。直感的にこの中に犯人がいると察した。
「さっさと名乗り出るか、この先公が死ぬか賭けてみるか? 俺は先公が死ぬ方に賭ける。」
手を挙げた女子が立ち上がる。後ろにあるロッカーから見覚えのある箱を取り出す。無言で歩み寄ってくる。教師を離し箱の中身を確認する。間違いない、俺のだ。片手で箱を抱えもう片手で女の髪を鷲掴みにして引きずり出す。
「今すぐクソ両親ここに来るように呼べ。」
「仕事中なんだけど…。」
「知るか馬鹿野郎。殺すぞ馬鹿野郎。さっさと呼べ馬鹿野郎。」
スマホで連絡しているが何やら揉めている。奪い取る。
「てめえのクソ娘が俺の396000円した新品の楽器盗んだんだよ。早く来ねえと警察に連れてくぞ。」
もう片方のクソ親にも同様に伝えた。正門まで女を引きずって待つ。ひたすら待った。
「何事だ⁉」
振り向く。松本先生だった。
「このクソアマが俺の396000円した新品の楽器を盗んだんですよ。クソ両親と話付けるか警察に連れてくか検討中です。」
「本当なのか⁉」
「はい…⁉ すみません…⁉」
「その『すみません』ってのは誰に謝ってんだ? 先生か? 謝る相手が違ぇんじゃねえか?」
髪を離して首を掴んで持ち上げる。
「おい止めろ⁉ 人殺しになる気か⁉」
「他人様が留年寸前まで欠席して働いて買った楽器盗む人間の屑なんて死ねばいいんですよ。俺の邪魔しようってんなら次はあんた殺しますよ。」
タイミング悪くクソ両親が先に来てしまった。
「頼む⁉ 娘を離してくれ⁉」
「敬語も使えねえのかよ最近の大人ってのは。舐めてんじゃねえぞ馬鹿野郎。」
「お願い…します…⁉」
クソアマを離した。丁度クソ両親が揃った。
「こいつの将来に見合うだけの慰謝料払え。はした金だったら迷わず警察に引きずって連れてく。さあどうする?」
「今すぐ用意します⁉ 警察だけは許してください⁉」
「だったらさっさと金持ってこい。はした金だったら110番だって忘れんなよ。」
クソ両親は去って行った。
「ったく手間取らせやがって…。クソ両親も哀れだよなあ。てめえみたいな人間の屑娘に持っちまって。首くくって死んだ方がいいんじゃねえか? この先、苦労せずに済むだろうよ。おい聞いてんのか。」
「聞いてます…⁉」
「多名賀…そこまでにしておけ。」
「まだいたんですか? 何の役にも立たねえんだから俺の前から消えてくれませんか? あんたの面見てると頭に来てしょうがねえんですよ。」
「……分かった。」
どいつもこいつも…。俺の怒りは当分納まりそうもなかった。クソアマと一緒に待った。やがて戻って来た。紙袋を奪い取る。札束がいくらか入っていた。
「数え終わるまで待ってろ。」
1枚1枚きっちり数えた。丁度1000万円。とりあえず納得した。
「てめえらさっさと失せろ。忠告しておくが、こいつ殺処分した方がいいんじゃねえか? 猫や犬っころと一緒に殺してもらうように保健所に頼んでみろよ。こんな人間の屑生きてる価値ねえよ。」
3人は黙り込んで帰った。ため息をついた。何度目だろうか。紙袋を小さくまとめて教室に戻った。バッグに押し込んだ。部活の時間になった。楽譜集を眺めながら吹きまくった。1冊目は大体覚えたのを確認して練習を終えた。昇降口にあすかさんと斎藤さんが待っていた。無視して走って帰った。急いで着替えて外に出て運動しまくった。汗と共に怒りは霧散して消えた。フラフラになって部屋に戻った。後始末諸々を終えて布団に寝転がる。目を閉じた。何も考えたくなかった。