※この作品はR-18です。

田中あすかにひと目惚れした同級生の話   作:日向陰陽

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第4話 「ZERO」

―――目が覚める、素早く支度をして登校する。職員室に入り無言で松本先生の前に立つ。

 

「昨日、お前の楽器を盗んだ生徒だがな、退部することになった。」

 

「良かったですね。」

 

「罪悪感はないのか?」

 

「あるわけねえだろ。練習の邪魔されるわ1年はビビって練習しなくなるわ楽器隠されるわ留年寸前まで学校休んで働いた金で買った楽器まで盗まれた俺の気持ち考えたことあんのかよ。くだらねえこと言ってねえでさっさと鍵渡せ。法律が許すなら家族皆殺しにして家燃やしてるぞ。自分の立場分かってんのかよ。」

 

「どういう意味だ?」

 

「人間の屑生み出しといてどうして平然としていられるのか理解できねえって意味だよ。本音を言うとてめえも連帯責任で殺してるところだぞ。さっさと鍵渡せ。」

 

黙って鍵を突き出す先生の手から鍵を奪い取ってさっさと音楽室へ向かった。これ以上職員室に居続けると本当に殺してしまいそうだった。2冊目の楽譜集に目を通した。大体脳内イメージ通りだったが楽譜通りに吹くことにした。細かい所を修正して再現性に努める。大体納得して朝練を終えた。松本先生の机に向かって鍵を放り投げた。怒鳴り声が聞こえたが無視した。教室に入った。斎藤さんやあすかさんから挨拶されたが無視した。

 

夏休みに入った。事前に派遣会社に連絡していたので初日から働きまくった。8月に入って数日後、仕事から帰ってくるとアパート前に松本先生が待っていた。

 

「用件なんだよ?」

 

「今日は府大会だったんだぞ。何故来なかった?」

 

「人間の屑共のお遊戯会に顔出す程暇じゃねえんだよ。どうせ銅賞だろうが。」

 

「何故そう決めつける?」

 

「全然練習してねえじゃねえか。銅賞だろ? 違うのかよ。」

 

「……そうだ。」

 

「くだらねえことに時間使わすな。俺は忙しい。早く消えろ。2度とツラ見せんな。」

 

押しのけて部屋に戻った。タンクトップとハーフパンツに着替えて運動しまくった。人影がチラチラ見えた気がするが無視した。大量の汗と共に怒りは消えていった。部屋に戻ろうとした。松本先生がまだいた。

 

「この時期に異常な運動量、1日1食と聞いたがまだそうなのか?」

 

「てめえの知ったことか。」

 

また押しのけて部屋に戻る。ドアに違和感、振り向く。先生が足を挟んでいた。

 

「何だよしつけえんだよ。俺に構ってる暇があったら人間の屑共に躾しとけよ。警察呼ぶぞ。」

 

「やってみろ。」

 

迷わず携帯電話を取りに行った。腕を摑まれる。

 

「はい不法侵入。やってみろって言ったのてめえだぞ。邪魔するのはどういうことなんだ?」

 

「お前は生き急ぎ過ぎる。少しは協調性を持て。」

 

「……で? 人間の屑共に媚びてそいつらにビビってる度胸ゼロの根性無し共と仲良しごっこしろってか? そんな甘っちょろい生き方するくらいなら死んだ方がマシだ。」

 

「冗談でもそんなことは言うな。」

 

「俺は本気だ。ひとりでいるのが怖くて群れるビビり共と一緒にするんじゃねえ。舐めんな。いい加減早く帰れよ。俺はシャワー浴びる。」

 

バスルーム前に移動し全裸になり汗まみれの私服を洗濯機に放り込む。

 

「お前…⁉ 全身傷だらけじゃないか…⁉ 一体何が起こればそうなるんだ…⁉」

 

「てめえに言う必要はない。」

 

バスルームに入り扉を閉めた。これ以上何も考えたくなかった。黙々と全身を洗いシャワーで洗い流す。最後に水を浴びてバスルームを出る。松本先生の姿はなかった。ホッとした。明日も仕事はあるし腹は減ってるし邪魔だった。丼飯をかき込み。窓を全開にして扇風機を付けてパンツ1枚姿で寝転がる。何も考えずに目を閉じた。すぐに眠れた。

 

宿題は夏休み早々に終わらせたので毎日仕事に励んだ。力仕事は大歓迎だった。クソ暑いのだけはキツかったがどうにか乗り越えた。連休も終わりを迎える頃に再び派遣会社にしばらく仕事に出られない旨を伝えた。晩飯食って中々眠気がやってこないので何となくネットの動画サイト眺めてたらいい曲をひとつ発見したので翌日、楽譜をコンビニで発行できるように手続きして朝イチでコンビニへ寄ってから学校へ向かった。無言で松本先生の前に立つ。

 

「さて、話がある。」

 

「俺にはねえよ。鍵渡せ。」

 

松本先生は立ち上がってどこかへ行こうとする。ため息をついた。黙ってついて行った。どこかの空き教室に入る。俺も入る。適当に座った。

 

「全身の傷について聞かせてもらおうか。」

 

「聞いてどうすんだよ。役に立たねえくせして個人的事情に踏み込むな。時間の無駄だ。俺は練習へ行く。」

 

立ち上がった。腕を掴まれる。

 

「俺に構ってる暇があったらあの人間の屑共どうにかしろ。鬱陶しいんだよ。」

 

腕を振り払う。走って教室を出る。どこか空き教室を探した。近くにはなかった。仕方ないので廊下で吹くことにした。楽譜を眺めながら脳内の曲と一致させる。試しに吹いた。一応形にはなった。見落としが無いか確認する。修正しながら吹き続ける。1度楽譜を流し読みする。しっかりと覚えた。再度吹いた。俺に表現できるところは隙間なく吹き続けた。何度も何度も。完成度は上がっていった気がする。時計を見る。もうホームルームの時間が迫っていた。帰り支度をして教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れた、俺は2年生になり今日は入学式当日。バリカンで髪を刈り眉と髭も剃り気合いを入れた。楽器を手に正門横にひとり立つ。新入生らしき生徒がチラホラと登校してきた。

 

「新入生の皆さん‼ おはようございます‼ 輝かしい皆さんの入学を祝して‼ この曲を捧げます‼」

 

一礼して吹き始める。合いの手は俺ひとりで裏声で叫んだ。新入生の足が止まる。良い兆候だった。吹き終えた。拍手と歓声が起こる。一礼する。

 

「ご清聴ありがとうございました‼」

 

また拍手と歓声が起こる。タイミングを見計らって叫んでは吹き続けた。

 

「新入生の皆さん‼ おはようございます‼ 輝かしい皆さんの入学を祝して‼ この曲を捧げます‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式が始まるまで吹き続けた。楽器をしまって教室へ戻る。しかめっ面をした同級生が群れを成して俺を睨んでいる。

 

「ちょっと⁉ どういうつもり⁉」

 

「相談くらいしてくれてもいいじゃない⁉」

 

「先輩に目をつけられたらどうするのよ⁉」

 

「上級生にビビって練習もしねえてめえら如きの事情なんぞ知るか。」

 

睨み返した。どいつもこいつも目を逸らす。くだらなかった。心底くだらなかった。相手するだけ時間の無駄だった。押しのけて教室へ入る。席に座る。正面に女子生徒、あすかさんだった。

 

「みんなの言う通りよ⁉ あんた私たちを何だと思ってるのよ⁉」

 

「度胸ゼロの根性無しの臆病者。」

 

「なっ⁉ あーそう⁉ 勝手にすれば⁉」

 

「言われなくてもそうするつもりだ馬鹿野郎。」

 

それから4時限目まで真面目に授業を聞きノートを取る。昼休みに入り筋トレに励む。部活の時間になったら音楽室へ行く。1年生の頃と変わらないルーティンだった。だが今日はいつにも増して音楽室が騒がしい。同級生どもを押しのけて入る。

 

「多名賀⁉ 私らに無断で演奏会するなんて何様のつもりよ⁉」

 

「そうよ⁉ 3年生差し置いて自分だけ演奏するなんて信じらんない⁉」

 

「調子乗ってるとイジメるぞテメー⁉」

 

「俺にそう言って3階から1階まで転げ落ちて両手の指全部折った奴知ってるが同じ目に遭うか?」

 

「「「「「……。」」」」」

 

「さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ。去年の退部した3年と同じ目に遭うかって聞いてんだ。」

 

「「「「「……。」」」」」

 

「ほら! どうした! かかってこいよ! 俺はひとりだぜ!」

 

両手で中指を立てて指招きする。いつまで経ってもかかってこない。

 

「こんだけいて喧嘩のひとつも出来ねえビビり共が調子こいてんじゃねえ。さっさとここから失せろ。じゃねえと窓から投げ飛ばすぞ。トチ狂って自殺図りましたって証言してやる。さあ、どっちを選ぶ?」

 

無言で3年共が出ていく。扉に目を向ける。新入生らしき集団が目に映る。

 

「あ、お騒がせしました。こちらへどうぞ。」

 

一礼して入室を促す。俺は俺の練習の支度をした。いざ吹こうと思ったら新入生らしき女子の集団が正面に映った。

 

「あの…先輩、正門での演奏素晴らしかったです。もしよろしければもっと先輩の演奏が聴きたいです。よろしいでしょうか?」

 

「俺の好みに左右されますがそれでもよろしいですか?」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

「では…参ります。」

 

今まで練習しまくった曲を片っ端から吹きまくった。

 

「「「「「おー‼」」」」」

 

「今のは何ていう曲ですか⁉」

 

「B'zというユニットをご存じですか?」

 

「はい⁉ 知ってます⁉」

 

「そのユニットの『孤独のRunaway』という曲です。原曲はもっともっといい曲なのでぜひお聴きするのをおススメします。」

 

「正門で吹いていた曲をリクエストしてもよろしいですか⁉」

 

「はい、かしこまりました。」

 

吹き終えた。

 

「「「「「おー‼」」」」」

 

「何ていう曲ですか⁉」

 

「東京スカパラダイスオーケストラというバンドをご存じですか?」

 

「どこかで聞いたことはあります⁉」

 

「そちらのバンドメンバーが作詞作曲から演奏までしてB'zのヴォーカリスト稲葉浩志という御方が歌った『Action (VS. 稲葉浩志) 』という曲です。こちらも原曲はもっともっといい曲なので聴くのをおススメします。」

 

それからも新入生のリクエストに応じるがままに吹いて曲名を伝わる作業が続いた。あっという間に部活の時間は終わった。

 

「ご清聴ありがとうございました。」

 

「みんな! せーの!」

 

「「「「「ありがとうございました‼」」」」」

 

「こちらこそ俺なんかの演奏にお付き合いいただき感謝いたします。ありがとうございました。」

 

一礼する。新入生が音楽室を去って行くのを見届けて俺も帰り支度をした。昇降口でしかめっ面のあすかさんと斎藤さんが待っていたが無視した。走って帰った。急いで着替えて外に出た。フラフラになるまで汗を流しまくった。後始末諸々を終えて布団に寝転がった。何も考えたくなかった。

 

目が覚める、いつも通りに支度を済ませて走って学校へ向かう。職員室に入り無言で松本先生の前に立つ。

 

「昨日、3年生と揉めたそうだな。」

 

「……。」

 

「とぼけるつもりか?」

 

「何言ってんのか全っ然わかんねえ。大体誰が言ったんだそんなこと?」

 

「3年生が猛抗議してきたぞ。『あいつどうにかしろ』とな。」

 

「あんな屑共の言うこと信じたのか? 随分単純な脳ミソしてんだなぁ。教師向いてねえから辞めたらどうだ? 無駄話してねえでさっさと鍵渡せ。渡さねえなら廊下で吹くけどな。苦情言う奴いたら階段から転げ落ちるぞそいつ。」

 

松本先生があからさまにデカいため息をつく。無言で鍵を突き出す。奪い取って走って音楽室へ向かう。支度をして鬱憤を晴らすかの如く吹きまくる。扉が開く。

 

「おはようございます! 先輩の音はいい音ですね! 寝ぼけた頭も冴えるってものです!」

 

「おはようございます…。」

 

「ええと…新入生の方ですよね? あ、申し遅れました。俺は多名賀愛珠叶と申します。2年生です。」

 

「私は傘木希美と申します! こちらは鎧塚みぞれです! よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします…。」

 

「もう入部されたのですか?」

 

「はい! 昨日の部活での先輩の演奏を聴いて入部しました! よろしくお願いします!」

 

そういえば昨日の俺の独演会にいたような…そうでもないような…記憶が朧気で彼女たちに申し訳ない気がした。

 

「よろしくお願いします。傘木さん、鎧塚さん。」

 

ふたりとも経験者らしく俺が吹く曲にふたりが合わせてくださる形となった。

 

「先輩って中学からの経験者ですか?」

 

「いえ、高校からの初心者のド素人ですよ。今はどうか分かりませんが。」

 

「えっ⁉ そうなんですか⁉ たった1年でそこまで上手くなるなんて…凄いですよ⁉」

 

「恐縮です。」

 

「先輩は謙虚ですね…。でもそんな先輩だからこそここまで上手くなったのかもしれません。ね、みぞれ!」

 

「私もそう思います…。」

 

「勿体ないお言葉です。」

 

「もう…! もっと自信持ってください! 先輩はそれほど上手いんですから! ね、みぞれ!」

 

「もっと自信を持っていいと思います…。」

 

「うーん…難しいですね…。善処します。」

 

何というか…対照的なふたりだった。傘木さんは元気の塊のようで感情豊かな一方、鎧塚さんは無表情で感情の起伏に乏しい印象だ。これでも同じ中学でずっと吹奏楽部をやってきたらしい。人間とは分からないものだと思った。

 

こうして朝練は3人で合わせて吹いて部活は3年の屑共を追い出して練習場所を確保する日々が続いた。しかし日を追うごとに傘木さんの元気がなくなっていく気がした。嫌な予感がした。

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