「お待たせ、響!」
「おう。わり、待たせたか?」
「ううん、私も今来たところよぉ」
無事に合流した響と操祈は、仲良く腕を絡ませ合いながら列の最後尾に並ぶ。
すると、そんな二人のすぐ後ろから、何やら賑やかな少女たちの声が近づいてきた。
「もうっ、お姉様ったらクレープ屋さんに来るのに急ぎすぎですの!」
「だ、だって、早くしないと限定のクレープが売り切れちゃうじゃない!」
むきになって言い返す茶髪の少女に、ツインテールの少女が『本当はおまけのゲコ太グッズが目当てですのによく言いますわ……』と呆れたように小声で呟く。
「うー……私も早く甘いもの食べたいですぅ……」
「ほらほら初春、あんた体力なさすぎ。御坂先輩も楽しみにしてるみたいだし急ぐよ」
聞き覚えのある声に響が振り返ると、そこには見知った顔ぶれが揃って列に並ぼうとしていた。
響と同じ風紀委員第一七七支部の同僚である白井黒子、結標淡希、そして柵川中学の初春飾利。
その後ろには、佐天涙子と――常盤台中学の制服を着た茶髪の少女の姿があった。
「あれ……響先輩?」
「げっ、響に食蜂……!?」
響の姿に気づいた淡希と黒子が驚いたように目を丸くする。
一方、茶髪の少女――常盤台中学の『超電磁砲』こと御坂美琴は、いぶかしげに響の顔を見つめた。
「黒子、知り合い? っていうか、なんでそこのアンタ、食蜂とそんなにくっついてんのよ」
美琴が怪訝な顔で尋ねる。
学園都市第4位である美琴と、第2位である響だが、互いに顔を合わせるのはこれが初めてだった。
「なによその余裕ぶった態度は……!」
美琴が眉をひそめると、響の腕にぴったりと抱きついたままの操祈が、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ふふっ。紹介するわぁ、御坂さん。彼は私の愛しい恋人……天城響よぉ」
「こ、恋人ぉっ!?」
「ええ。そして、
「普段はマイペースで適当だけど、まあ、いざって時は頼りになる同僚ってとこね」
黒子が咳払いをしながら補足し、淡希がやれやれといった様子で肩をすくめる。
さらに、初春が興奮気味に身を乗り出して、とどめとばかりに口を開いた。
「さらにさらに! 天城先輩は、学園都市のレベル5……その『第2位』に君臨するすごい方なんですよ!」
「ええええっ!? 第2位って、あの御坂先輩よりも上の!?」
「天城響……って、あんたがあの第2位!?」
操祈、黒子、淡希、初春の四人から立て続けに放たれた規格外の情報量に、佐天は目を丸くして驚愕し、美琴は完全に目を白黒させていた。
「……まあ、そういうこった。よろしくな、御坂に佐天」
響は唖然とする二人に向かって、気だるげに片手を上げてみせた。
「あ、あはは……よろしくお願い、します……って、あれ?」
佐天は引きつった笑いを浮かべて会釈しつつ、ふと響の腕にぴったりと抱き着いている操祈へと視線を移した。
「天城先輩が第2位なのは分かりましたけど、じゃあそっちの彼女さんは……?」
「ん? ああ、言ってなかったか。こいつもレベル5だぞ。学園都市第6位、『
「だ、第6位ぃっ!?」
響がさらりと言ってのけると、佐天は限界まで目を見開いた。
「レベル5が三人!? しかも、第2位と第6位のカップルってことですか!?」
「ふふっ、そういうことよぉ。以後お見知りおきを、佐天さん」
星の輝く瞳を細め、得意げに胸を張る操祈。一方で、佐天はあまりのビッグネームの連続にフラフラと眩暈を起こしそうになっていた。
「ちょっと食蜂。さっきからひっつき虫みたいにへばりついて、なんなのよその余裕ぶった態度は」
佐天が目を回している横で、美琴が額に青筋を浮かべながら操祈をジロリと睨みつけた。
前髪の隙間で、パチパチと青白い電撃の火花が散っている。
「あらぁ、恋人同士がくっつくのは当然じゃない。色気のない短パン娘には一生わからない感覚かしらぁ?」
「なっ……! あんたねぇ、ここで黒焦げになりたいわけ!?」
「ふふっ。野蛮ですこと。できるものならやってみたらどうぉ?」
バチバチと危険な火花を散らす第4位と、星の瞳を怪しく光らせる第6位。
両者の間に一触即発の不穏な空気が漂い、周囲の学生たちが怯えてサッと距離を取り始めた。
「お、お姉様! 街中での
慌てて止めに入ろうとした黒子の声さえも掻き消すように――ドンッ、と。
不意に、周囲の空気がべっとりと重くなった。
「こらこら、お前ら。クレープ屋の前で喧嘩すんな」
響の声自体は、呆れを含んだ平坦なものだった。
だが、彼の全身から放たれた不可視の『何か』が、その場にいた全員の心臓を鷲掴みにした。息が詰まるような、濃密で絶対的なプレッシャー。
空間そのものが歪んだかのような重圧に当てられ、美琴の前髪で散っていた青白い火花が、まるで怯えたようにパッと霧散する。
レベル5である美琴や操祈でさえ、背筋にぞくりと冷たい汗が伝い、本能的な『格の違い』を錯覚させられてピタリと動きを止めてしまった。
「……な、に……今の……」
「わかったら、大人しく並んでろ。な?」
ふっと恐ろしい重圧が消え去り、いつもの気だるげな笑みに戻った響が、固まっている操祈の頭を軽くポンと小突く。
美琴たちがいまだ得体の知れない威圧感の余韻に息を呑む中、列が少しずつ進み、ついに先頭に並んでいた響と操祈の順番が回ってきた。
「いらっしゃいませー! ご注文はお決まりでしょうか?」
「ええっと、私はいちごのスペシャルクレープをお願いねぇ。響は?」
「俺はバナナのやつでいいや」
「かしこまりました! いちごとバナナのスペシャルクレープですね!」
店員のにこやかな声とともに、手際よく二つのクレープが完成する。
「お待たせいたしました! そしてこちらが、おまけのゲコ太ストラップお二つになります! ……あ、後ろのお客様、大変申し訳ありません! ちょうどこちらの二つで、先着順のおまけのゲコ太ストラップは在庫終了となります!」
「え……?」
すぐ後ろに並んでいた美琴の顔から、一瞬でスーッと血の気が引いていく。
クレープ自体はまだ残っている。だが、美琴が血眼になって求めていた限定の『ゲコ太ストラップ』は、目の前にいるいちごとバナナのクレープを頼んだ響と操祈の分で、ちょうどピリオドを打たれてしまったのだ。
「嘘……私の、ゲコ太……」
その場にへたり込み、地面に両手をついて真っ白に燃え尽きる美琴。
「あらぁ、残念だったわねぇ御坂さん。日頃の行いが悪いからじゃないかしらぁ?」
そんな美琴を見下ろし、操祈が勝ち誇ったようにクスクスと笑いながら煽りを入れる。
「お姉様……! しっかりしてくださいませ、お姉様ぁっ!」
黒子が半泣きで美琴を揺さぶるが、美琴の目は死んだ魚のように虚ろだった。
「……なんだ、そんなに欲しかったのか。俺は別にこれいらないし。ほら、やるよ」
あまりの落ち込みぶりに同情した響が、自分のバナナクレープについてきたゲコ太ストラップを差し出そうとする。
しかし、その手は隣にいた操祈によってパシッと止められた。
「ダメよぉ、響。それは響の分なんだから」
「ん? でもよ……」
「……ほら、私のをあげるわぁ」
言うが早いか、操祈は自分のいちごクレープについてきたストラップを、へたり込んでいる美琴の頭の上にポイッと乗せた。
「え……?」
「別に私はゲコ太なんて興味ないしぃ。それに、常盤台のエースである『
ツンとそっぽを向いて言い放つ操祈。
響の優しさは止めつつも、結局自分が譲ってあげるという彼女らしい不器用な振る舞いに、響は呆れたような、それでいて愛おしそうな笑みを浮かべた。