※この作品はR-18です。

とある魔術と科学の|規格外《イレギュラー》   作:坂井雄二

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第5話

操祈から頭の上にゲコ太ストラップを載せられ、美琴は呆然とそれを手に取った。複雑な感情が入り混じったような表情で。

 

「あ……ありがと……って、なっ! べ、別に私はこれくらいのことで感謝なんて……!」

 

顔を真っ赤にしながら怒ったふりをする美琴に、操祈は肩をすくめる。

 

「ふふっ。素直にお礼くらい言えばいいのにぃ。まあ、これからは気をつけなさいね?常盤台(ときわだい)の生徒として恥ずかしい姿を晒しちゃだめよぉ」

 

「うるさいわね! あんたにだけは言われたくないわよ!」

 

顔を紅潮させたまま声を荒げる美琴と、余裕の笑みを浮かべる操祈。

 

そのやり取りを見守りながら、響は呆れたように短く息を吐いた。

そして自身のバナナクレープの包みと一緒に受け取っていた、もう一つのゲコ太ストラップを指先で摘まみ、操祈の目の前でチロチロと揺らしてみせる。

 

「ほら、操祈。俺の分はお前に預けとくわ。帆風(ほかぜ)にでも渡してやれよ。あいつもゲコ太、好きだっただろ?」

「…………」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 先程まで美琴をからかって楽しそうにしていた操祈の笑みが、ピタリと凍りついた。

 スッと星の輝きを宿す瞳が細められ、綺麗な唇が不満げに尖る。彼女は響の腕に抱き着いていた力をさらに強めると、ぷくっと頬を膨らませて下からジト目で睨み上げてきた。

 

「……むぅ。なんで響が、わざわざ潤子にプレゼントなんてするのよぉ」

 

「いや、だからおまけが余ったから……」

 

「嘘よぉ。さては響、私じゃなくてあの子の『豊かなお胸』に惹かれてるんじゃないかしらぁ……?」

 

(……もちろん、潤子のあの規格外に豊満なお胸を前にして、まったく見ない男なんていないってことくらい私だって分かってるわよぉ。でも……いくらなんでも見すぎじゃないかしらぁっ!? 私という恋人がいながら、あんなにガン見するなんて絶対に許さないんだからぁ!)

 

 心の中でギリィッとハンカチを噛むような思いを抱きながら、操祈はずいっと身を乗り出し、至近距離から響の顔を覗き込んだ。

 

「だいたい、前に気分転換で潤子と組手をした時だってそうじゃない! あの子の胸が大きく揺れるたびに、バッチリ視線が胸に釘付けになってたわよねぇ? あのままじゃ、響、潤子に負けそうになってたじゃない!」

 

「げっ……。い、いや、あれは違う! 男の悲しいサガというか、どうしても激しく動くものに本能が反応しちまうだけで……! 決して見とれてたわけじゃ……!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 響の苦しい言い訳が響き渡った瞬間。

 周囲で聞いていた女性陣から、それぞれの反応が返ってきた。

 

「……やっぱり男って、とにかく大きい胸の方がいいわけ……?」

Dカップはある自身の胸元へ視線を落とし、「もう少しあった方が……」とどこか悔しそうに呟く淡希。

 

「……結局のところ、殿方はあのような無駄な脂肪の塊がお好きなんですのね……」

 自身の平坦な胸を見下ろし、ギリィッと歯を食いしばる黒子。

 

「天城先輩みたいなすごい方でも……やっぱり、ただの男の人なんですね……」

少しだけ幻滅したような、遠い目をする初春。

 

 「あはは……男の人って、やっぱそういうとこありますよねぇ……」

 ドン引きした顔をする佐天。

 

そして美琴に至っては、無言で露骨な軽蔑のジト目を響に突き刺していた。

 

針のむしろ状態に冷や汗を流す響を逃すまいと、操祈はさらに頬を膨らませて詰め寄った。

学園都市最大派閥の女王(じょおう)としての威厳などそこには一切ない。

ただただ、大好きな恋人が自分よりスタイルの良い女の子の胸を見ていたことが気に入らない、年相応のやきもち焼きな少女の顔だった。

 

「ふ〜ん? みんなもああ言ってるけどぉ? やっぱり、私よりあの子の大きい方がお好みなのかしらぁ……? 私の『彼女力ぅ』じゃ不満だって言うのかしらぁ?」

 

「アホ。俺が一番好きなのはお前だっての。……それに、あいつにはいつもお前の世話を焼いてくれてる礼代わりだ。変な嫉妬すんな」

 

「むぅぅ……言ったわねぇ、絶対よぉ……?」

 

 タジタジになりながらも、響は空いている手で操祈の肩をそっと抱き寄せると、その白い額にチュッと優しくキスを落とした。

 すると、不満げに唸っていた操祈の顔が途端にりんごのように真っ赤に染まり、目を細めてとろけたようにすり寄った。甘い額へのキスにすっかりご満悦な様子で、大人しくゲコ太ストラップを受け取る。

 

 一方――その一連の甘ったるくもアホらしい痴話喧嘩と、公衆の面前でのキスを文字通り特等席で見せつけられた少女たちの反応は、見事に分かれていた。

 

「……はぁ。また始まりましたわね、あのバカップル特有の空間が」

 

「全くだわ。外なんだから少しは自重しなさいよね」

 

「あはは……天城先輩たち、今日も相変わらず仲良しですねぇ……」

 

 黒子、淡希、初春の風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部組は、日頃から支部や響の自宅でこの手のやり取りを嫌というほど見慣れているため、「またか」とばかりに呆れ果てた溜息を吐いている。

 

「わわっ……! 額にキ、キス……!?」

 

 佐天は目の前で繰り広げられた過激なスキンシップに、顔をゆでダコのように真っ赤にして両手で顔を覆っていた。(指の隙間からバッチリ見ているが)

 

 そして――。

「…………ウ、ウソでしょ……?」

 

 ただ一人、美琴だけが手にしたクレープを持ったまま石像のように固まっていた。

 あの、狡猾で腹黒く、常に余裕の笑みを崩さない常盤台の『女王(じょおう)』食蜂操祈が。

男の目線にムキになって嫉妬し、額にキスされて嬉しそうに頬を染めているのだ。

 先ほどの冷ややかな空気から一転、あまりにも普段の姿からかけ離れたただの『恋する乙女』な一面を目の当たりにして、美琴は信じられないものを見るような目でただただ戦慄するしかなかった。

 

 

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