※この作品はR-18です。

とある魔術と科学の|規格外《イレギュラー》   作:坂井雄二

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第6話

その後、一行は近くの広場へと移動し、空いているベンチに腰を下ろして各々が購入したクレープを食べ始めた。

 

「ん〜っ、やっぱりここのクレープは絶品ねぇ。ねぇ響、私のいちご、一口食べるぅ?」

 

「お、サンキュ。……ん、美味いな。俺のバナナも食うか?」

 

「ええ、いただくわぁ。……んふふ、響の味がするわぁ♡」

 

「相変わらず、外でも自分の世界に入り浸ってるわね、あんたたち……」

 

周囲の目をまったく気にせず、互いに「あ〜ん」と食べさせ合って甘い空気を振り撒く響と操祈。

淡希はやれやれと呆れたように肩をすくめて溜息をつくが――その瞳は、楽しそうに密着する二人の姿をどこか羨ましそうに見つめていた。

周囲にバレないようすぐに視線を外したものの、やはり年相応の少女として、素直に愛し合える恋人がいる構図には少なからず憧れを抱いてしまうようだった。

 

一方、そんな甘い空気を一瞬でぶち壊すように、広場には美琴の切迫した悲鳴が響き渡っていた。

 

「いらないって言ってんでしょう! 何よトッピングに納豆と生クリームって!!」

 

「そんなことおっしゃらずに! 共に未知なる味覚を分かち合うことで、お姉様と私(わたくし)の心と体がより深く結びつく――つまりは間接キスという崇高な儀式ッ! さあお姉様、私(わたくし)の愛を受け取って……!」

 

 逃げ回る美琴を、黒子が納豆が載ったクレープを手に嬉々として追いかけ回している。

 黒子が買い求めたのは、クレープをとして異彩を放つ『納豆生クリームクレープ』。

白い生クリームの中からネバネバとした納豆が顔を覗かせる狂気の逸品に、美琴は本能的な恐怖を感じて必死に拒絶していた。

 

「チッ、お姉様ったら照れ屋さんですのね……。ならば天城先輩! 風紀委員(ジャッジメント)の先輩として、この私(わたくし)のチョイスした至高の逸品に挑戦してみる気はありませんの!?」

 

「ちょっと黒子さん、響にそんなヘンテコなものを食べさせようとしないでちょうだいぃぃ!」

 

美琴に逃げられた黒子は、矛先をベンチに座る響へと変えてクレープを差し出した。

操祈が慌てて制止しようとするが、響は一切の躊躇を見せることなく、差し出されたクレープにパクリと大きく口を付けた。

 

「ひ、響ぃ!?」

 

「えっ、マジで食べた……!?」

 

全員が息を呑んで見守る中、響はモグモグと静かに咀嚼する。

そして、事も無げに言った。

 

「……ん。ネバネバした食感はアレだが、生クリームの甘みと納豆の塩気・コクが意外と合うな。お前、なかなか良いセンスしてるぞ」

 

「本当ですの!? さすが天城先輩、私(わたくし)の真の理解者ですわ!」

 

歓喜する黒子の横で、周囲の少女たちは「嘘でしょ……」と絶句していた。

だが――。

 

「……ちょっと黒子、一口ちょうだい」

「えっ、結標先輩!?」

 

響がそこまで言うならと、興味を惹かれた淡希がクレープに顔を近づけ、半信半疑でパクリと一口噛みちぎる。

モグ……モグ……と慎重に味わっていた淡希だったが、途中でハッと目を見開いた。

 

「……本当だわ。ネバネバした食感はアレだけど、クリームの甘さと納豆の塩気が絶妙にマッチして……案外イケるじゃない」

 

「ええっ!? 結標先輩まで何言ってるんですか!?」

 

「わ、私も一口いいですか……? ん……あ、ふぁっ!? 本当ですぅ! 納豆のコクが甘さを引き立てていて、意外と合いますぅー!」

 

淡希に続き、意を決して一口食べた初春までもが目を輝かせて絶賛し始めた。

 

「「「「ええええええええっ!?」」」」

 

「ちょっと待ちなさいよ! あんたたち全員、味覚どうなってんのよ!?」

 

「みんな舌がバグってるわよぉ……! 響、やっぱり怪しいお薬でも盛られたんじゃないかしらぁ!?」

 

まさかの三連続絶賛に美琴が叫び、操祈がドン引きしながら本気で響の体調を心配する。

しかし、響は悪戯っぽい笑みを浮かべてクレープを操祈の口元へ突き出した。

 

「アホ。いいからお前も一口食ってみろって。ほら、あーん」

 

「ちょっとぉ!? 待ちなさい響っ、私は遠慮しておくわよぉっ――んぐっ!?」

 

有無を言わさず、響が操祈の口にも納豆生クリームクレープをねじ込んだ。

 

「んんっ……!? ~~~~っ!?」

 

瞬間、操祈はビクンと肩を跳ねさせた。

 

(な、なんなのよぉこれぇっ! 甘いクリームを口に入れた瞬間に、納豆特有の発酵臭と糸引きが猛烈に襲ってきて、脳がパニックを起こしそうだわぁっ! 独特の『ネバネバ感』と『におい』がそのまま残ってるのが最大のハードルだわねぇっ!)

 

強烈なファーストインパクトに涙目になる操祈だったが、モグモグと咀嚼を続けるうちに、ふと星の瞳をパチリと見開いた。

 

(……あらぁ? でもぉ、納豆の油分と生クリームの乳脂肪分が混ざり合うことで、クリーミーさが倍増してるんじゃないかしらぁ……? しかも大豆のコクが引き立って、まるで高級チーズやナッツのような濃厚さになってるわねぇ……!?)

 

強烈なにおいの奥に潜む、計算されたかのような濃厚なハーモニー。

ゴクリと喉を鳴らし、操祈は信じられないといった顔で呟いた。

 

「……悔しいけれどぉ……これ、美味しいわねぇ……」

 

「嘘でしょ……食蜂まで……!?」

 

「あはは……もう私、誰の味覚も信じられません……」

 

 まさかの四連続絶賛に美琴が頭を抱えて叫び、佐天が遠い目をして完全に魂を抜かれていた。

 しかし、そんな二人に黒子がニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて迫る。

 

「さあさあお姉様! 佐天さんも! ここまで来たら四の五の言わずに一口食べてみるべきですわ!」

 

「ちょ、やめっ……んぐっ!?」

 

「わひゃっ!? ちょっ、白井さっ……むぐぅ!?」

 

抵抗も虚しく、黒子によって美琴と佐天の口にも強引に納豆クレープがねじ込まれた。

途端に口いっぱいに広がる発酵臭とネバネバ感に、二人は涙目で悶絶する。

だが――モグモグと咀嚼を続けるうちに、二人の動きがピタリと止まった。

 

「……なによこれ。においは最悪なのに……クリームの甘みと納豆の塩気が絶妙に絡み合って……くそっ、美味しいじゃない……!」

 

「ほ、本当ですね……!? なんですかこの奇跡のバランス……悔しいけど美味しいです……!」

 

 かくして、最後まで抵抗していた二人もあえなく陥落。

 結果として全員が『納豆生クリームクレープ』を絶賛するというカオスな状況に陥りながらも、広場のベンチには騒がしくも平和な放課後の日常が流れていた。

 

 ――かに見えた。

 

「……ん?」

 

 ふと、残りのクレープを口に運びながら周囲の景色を眺めていた響が、訝しげに眉をひそめた。

 彼の視線の先にあるのは、広場の目の前に建つ立派な銀行の建物だ。

 

(……なんで、こんな時間にシャッターが降りてるんだ?)

 

時刻はまだ平日の放課後。銀行の営業が完全に終了するには早すぎる時間帯だというのに、その建物の入り口は、分厚い金属製のシャッターによって完全に封鎖されていた。

定期点検か、それとも何かトラブルでもあったのか。

微かな不審を抱き、響が隣でクレープを頬張る操祈に声をかけようとした――まさにその時だった。

 

 ドゴォォォォォォンッ!!

 

「えっ……!?」

「きゃああっ!?」

 

突如として、広場前の銀行のシャッターが内側から吹き飛ばされ、激しい爆発音と黒煙が巻き起こった。

吹き飛んだ瓦礫が周囲に散らばり、広場にいた一般市民たちの悲鳴が第七学区の空気を乱暴に切り裂く。

 

「……ッ、テロか強盗か! 初春!」

「は、はいっ!」

 

響は即座に立ち上がると、ポケットから見慣れた緑色の腕章を取り出し、自身の腕に手早く巻きつけた。盾をモチーフにしたそのデザイン――『風紀委員(ジャッジメント)』の証である。

先程までの気の抜けた顔は完全に消え失せ、治安維持を担う者の鋭い目つきへと一変していた。

 

「初春は直ちに警備員(アンチスキル)へ通報! そのまま周辺市民の避難誘導に当たれ!」

 

「了解しました!」

 

「淡希、黒子! お前らは俺と一緒に来い。被害が拡大する前に、一気に鎮圧するぞ」

 

「ええ、任せなさい」

「腕が鳴りますわね」

 

響の的確で迅速な指示に、淡希と黒子も即座にクレープを食べて臨戦態勢に入る。

その光景を見て、美琴も咄嗟に立ち上がって前髪に青白い火花を散らした。

 

「ちょっと、私も行くわよ! こんな目の前で事件が――」

「お姉様はお待ちください! これは風紀委員(ジャッジメント)の管轄ですの!」

「黒子!?」

 

飛び出そうとした美琴の前に、黒子が両手を広げて立ち塞がる。

さらにその横から、操祈がスッと美琴の肩に手を置いて彼女の動きを牽制した。

 

「そうよぉ、御坂さん。一般人はすっこんでなさいな」

「い、一般人って……!」

「それにぃ、あなたみたいな大雑把な能力がしゃしゃり出たら、余計に街が破壊されかねないしねぇ。ここは私の響の鎮圧力に任せておけばいいのよぉ」

「なっ……!」

 

痛いところを突かれた美琴が言葉に詰まる。

美琴の『超電磁砲(レールガン)』は強力すぎるがゆえに、市街地での戦闘には不向きなのだ。

操祈の牽制と黒子の制止を受けた美琴が歯噛みしている間に、腕章を身につけた響、淡希、黒子の三人は、黒煙の上がる銀行へと迷いなく駆け出していった。

 

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