翌日の放課後——。
風邪から見事に全快した古都吹寿子、いつも通りマイペースにあんパンを齧る陸奥こまろ、そしてまだ少し怠そうにしながらも復帰した照井有栖の3人が揃い、生徒会室はいつもの賑やかさを取り戻していた。
「いやぁ、昨日はみんなで休んじゃって悪かったわね、梅くん、尾鳥くん」
「あんパン食べる〜?」
「ほんと、病み上がりで悪いけど今日の分の資料、手伝うわ」
先輩たちの声が飛び交う賑やかな空間。
しかし、その喧騒からほんの少しだけ離れた廊下の角——資材置き場の物陰で、二人の影が密かに重なっていた。
今日は全員が早めに合流して作業を始めたため、放課後早々に「ちょっと資料取ってきます!」と理由をつけて、二人きりの時間を無理やり作り出したのだ。
「……っ」
薄暗い物陰の中、水の江梅の制服の袖を、細く華奢な指先がぎゅっと掴む。
見上げると、そこには昨日の生意気な態度が嘘のように、瞳をウルウルと潤ませた尾鳥たんの顔があった。
はだけかけたシャツの隙間から、昨日梅が散々いじり倒したピンクのポッチが微かに覗き、彼の体温の高さを物語っている。
「梅…その、昨日の事は内緒だから//」
上目遣いに梅の瞳をじっと見つめながら、消え入りそうな声で囁く尾鳥。
うるんだ目元には、昨日涙目になりながら梅を受け入れた時の、あの淫らで甘い熱がまだ残っていた。
「……わかってるよ。あいつらにバレたら、俺も丸焼きにされる」
梅が低く落ち着いた声で返すと、尾鳥はぽつりと胸を撫でおろすような仕草を見せた。
……しかし、本当の問いかけはここからだった。
尾鳥はさらに顔を近づけ、梅の胸元に小さく額を押し当てるようにして、上目遣いのまま潤んだ瞳をさらにうるっと揺らした。
「それと!……これからも、また……してくれるよね?//」
「〜〜〜〜っ!?」
梅の喉が鳴った。
一瞬で首筋まで熱が駆け上がり、必死に保っていた理性の堤防がグラグラと揺らぐ。
「お前……昨日あれだけ『もうやだ』『助けて』って泣いてただろ……」
「だ、だって……っ!// 泣いてたけど……嫌なんて言ってないもん……! 梅がすっごく激しくするから……頭おかしくなりそうだったけど……すごく、嬉しかったんだから……っ//」
口元を袖で隠しながら、真っ赤な顔で本音を溢ぼす尾鳥。
強がりと素直さが混ざり合ったその表情は、どんな美少女よりも毒性が高く、梅の独占欲を猛烈に刺激した。
「……調子に乗るなよ。次はもっと手加減しないぞ」
梅が意地悪く囁くと、尾鳥はパッと顔を輝かせ、八重歯を覗かせてニシシと笑った。
「ふんっ、望むところだよ! 梅の『ざーこ♡』なんかに負けないんだから!……じゃ、戻ろっか♡」
密室の物陰から抜け出し、何事もなかったかのように賑やかな生徒会室へと戻っていく二人。
「あら、二人とも遅かったわね?」
「ちょっと資料探すのに手間取っちゃって〜」
いつも通りの日常へと溶け込んでいく中で、デスクの下、誰にも見えない位置でそっと重なり合った二人の手。
藤成学園生徒会室の片隅で、誰にも言えない「二人だけの秘密の放課後」は、これから何度も、密やかに繰り返されていくのだった。
古都吹side
昨日の時間に遡る
(なんという……なんという展開……!!)
学校の目と鼻の先にある大木の太い幹の上。
私、生徒会長・古都吹寿子は、高倍率の望遠鏡を構えながら、必死に自分の鼻血と息荒さを抑え込んでしまっていた。
「風邪で欠席」というのは、当然ながら大嘘である!。
一見すると完璧な生徒会長として振る舞う私だが、その実、私の脳内は常に高解像度な妄想と情熱で満ち溢れている、決してスケベでは無いからな!!??
昨日、陸奥さんと照井さんが本当に風邪でダウンしたと知った瞬間、私の脳内に稲妻が走ったのだ。
(生徒会室に……年上の常識人(実は潜在的ポテンシャルの高い)水の江くんと、可愛らしい男の娘(の娘)である尾鳥くんの……二人きり……!?)
この千載一遇のシチュエーションを逃す手があろうか、いやない。
私は即座に「私も風邪にかかりました」と嘘の連絡を入れ、双眼鏡と望遠鏡をバッグに詰め込み、生徒会室の窓が真っ正面に見えるこの樹上へと陣取ったのである。
そして昨日——私の眼前に繰り広げられたのは、まさに神の配給と言うべき光景だった。
最初はいつものように尾鳥くんが煽り、水の江くんがツッコむ日常の一幕。
しかし、あの伝説のバナナの皮(陸奥さんが仕掛けた奇跡のトラップ)によって事態は急転直下した。
「あっ……♡」
望遠レンズ越しに見えた、尾鳥くんのあのトロけきった表情!
そして、いつもの冷静さを完全に失い、野獣のような目つきで尾鳥くんを押し倒す水の江くんの男らしい背中!
デスクが激しく揺れ、舞い散る書類——夕日の中で紡がれる、男子二人の密やかで激しい交わり……!
(ハァ……ハァ……っ!けしからん!!実に!!??でも男の子同士でもあんなに激しくやるものなのね)
木の上で悶絶しながら、私は幾度となく鼻血を拭い、その一部始終を網膜と脳内メモリに焼き付いてしまった。
——そして、本日。
全員が無事に(?)復帰し、いつもの生徒会室での業務が始まった。
資材置き場の物陰で、二人して「資料を探す」という建前のもと密会しているのを、私は書類の山越しにすべて察知していた。
戻ってきた二人の手。
デスクの下で、誰にも見つからないようにそっと重ね合わされた、あの密やかな指先……!
(ふふふ……尾鳥くんは『内緒』だと思っているようだけど……私は昨日見てしまったからね!)
私は完璧な生徒会長の微笑みを浮かべながら、手元の生徒会日誌のページをそっとめくった。
バラすわけがない。
こんなにも極上で、甘酸っぱく、そして破壊力抜群の「リアルな関係性」を、わざわざ野暮なツッコミで壊してしまうなんて愚の骨頂だ、と言うのはまぁ本音と言えば本音だが彼等の社会的立場や地位を守る為にも!。
二人が「誰にも言えない秘密」を共有し、スリルに胸を躍らせながら、放課後に密かに惹かれ合っていく——その過程を特等席で観賞することこそ、この生徒会長・古都吹寿子の密かな、そして最大の愉悦なのだから。
「おぉ〜、二人とも遅かったね〜、資料は見つかった?」
私は何食わぬ顔で、慈愛に満ちた(そして内面にドロドロとした欲望を秘めた)笑顔を二人へと向けた。
「ええ、ちょっと手こずっちゃいまして……」と照れくさそうに目をそらす水の江くんと、「ふんっ、僕がか弱くて重い資料持てなかったから梅に持たせたんだ〜」と強がる尾鳥くん。
(……良い。非常に良いわ……! 水の江くんのあのちょっと後悔しつつも理性が崩れかけている目つき! そして尾鳥くんの、隠し切れていない首筋の赤み……!、興奮し過ぎもいかんな正常に…正常に‥)
二人にはこれからも、存分に「誰にも言えない二人だけの秘密」を深めていっていただきたい。
そのためなら、私はこれからも喜んで「風邪」をひき、樹の上から温かい(そして粘着質な)視線を送り続ける所存である。
藤成学園生徒会の日常は、今日も実につつがなく、そして芳醇な妄想とともに過ぎていくのだった。
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