※この作品はR-18です。

好き勝手に生きる。   作:青い灰

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第一話『なんでもするって言ったもんな?』

 

 

 

 

「はぁ、やっとこ見つけたぞ……」

 

 

小さく呟き、溜め息をついて額の汗を拭う。

目の前に広がるのは、大きな祭壇。それを数えきれない数の黒装束が囲い、その場に膝をつき両手を組んで祈っている。まさに依頼主が危惧していた通りの光景だ。

 

しかしまさか、マジで帝国の地下にあるとは……

国中を嗅ぎ回った甲斐があったってもんだ。

 

祭壇の広場、その入口の角に姿を隠す。

連中は祈りに夢中っぽいが、気付かれたら大変だ。あの中に手練れがいるという可能性もある。もうちょい様子を見る。標的は司教だが、さてこれは……何処にいるんだ?

 

 

「(……祭壇の上に、誰かいるな)」

 

 

祭壇の上、四隅に焚かれた松明に照らされる影は二つ。

目を凝らし、観察してみる。

 

片方は祭壇下の連中と同じ黒装束だが、その装束には金糸の装飾が施されている。お抱えの〝仕立屋〟もいるんだろう、何かしらの特別な衣装かもしれない。握ってる大杖に嵌まる血の色をした魔石もかなり大きい。しかもあれ人間産だな、走っている光の紋様からして、人間から取れるやつだ。

 

もう片方……場違いな白装束が、へたり込んでいる。

女の子か。黒い眼帯で目隠しをされ、腕を拘束されている。装束越しでも分かるが、立派なお胸の持ち主だ。少なくとも拘束プレイしてるワケではなさそうだが、良い趣味してる。あの格好はちょっと興奮するな……

 

 

と、ここで杖持ちの黒装束が動いた。

杖持ちは祭壇の階段前に立ち、黒装束たちを見下ろす。

 

 

「同志よ、顔を上げてくれ!

 遂に……遂に、この時が来た!」

 

 

杖持ちの興奮気味な言葉。

黒装束たちは一気に顔を上げ、祭壇の杖持ちを見上げる。

ほうほう、何をしようと言うのだね。

 

 

「我等の……否、かの者たちの悲願は、

 今日!この日!………漸く、叶うことになる!」

 

 

悲願ってなに?

 

 

「天井に住まう神々への、報復を!

 三大世界を焼き払い、その全てを新生するのだ!

 さぁ、さぁ!さぁ!!」

 

 

「「「報復を!!新生を!!報復を!!新生を!!」」」

 

 

地下だから声が響きまくる。うるせぇ!

杖持ちがその杖を大きく薙ぐと、報復新生コールがゆっくり静かになっていく。サンキュー杖持ち。

 

しかし、ただの悪魔崇拝だと思えばやけに大仰な目的だ。

いやただの悪魔崇拝ってなんだよ。ともかく、こいつら世界滅ぼそうとしてるわけか。無理でしょ。この世界やべぇ奴がわんさかいるぞ。人もだけど魔物もやベーのいるし。

 

 

「オーレリア王国とヴァルカ帝国の大戦から、二年。

 魔族たちの介入で事なきを得たが、

 この大陸中には未だその爪痕が残っている……」

 

 

いやぁ、戦争は大変でしたね。

それに事なき得たってのは本当だよ。決戦兵器が出てきたらマジで大陸が滅んでた可能性あるわけだし、それ以前にあの地獄みたいな戦いが15年続いたって事実が酷いわ。たまに戦場が恋しくなるときもあるけど、戦争はやっぱクソだよ。

 

 

「大陸の国々は、既に腐り果てている!

 腐敗は最早誰にも止められぬ………故に、こそ!!

 この世界を、今一度!滅びを以て救って頂くのだ!」

 

 

話が飛びすぎじゃない?

いきなり何言ってるのか分からなくなっちゃったよ。戦争が大変だったねって話は納得出来たのに……なんでそうなる。

そういえば神々への報復の話ってどこ行ったっけ。

 

 

「この世界を創りし神々へ報復し、

 新たな神と共に、我等は新生する!」

 

 

説明サンキュー杖持ち。

話は大体分かっ……いや、分からないが、まぁいいや。

頭が終わってる連中の話なんて猿の鳴き声と同じだ。どうせ分からないんだから、理解しようとする必要はないのだ。

 

それより自己紹介はまだですか。

あんたが司教じゃないと帰れないんだけど。

 

 

「この娘は、哀れにも巡礼に送られた聖女の一人。

 旅の果てに心を壊し、この場に至る、哀れな孤児(みなしご)。

 見よ……この娘こそ、神が世を見捨てた証である!!」

 

 

お前の素性を教えろっつってんだろ無能が。

確かに聖女は哀れだけど、あのおっぱいで神が見捨てたって嘘でしょ。むしろ祝福されてるでしょ。神々の豊穣でしょ。あークソ、帰ったら娼館行こう。ムラムラしてきた。はあ、今は仕事に集中しないと。

 

 

「我等は報復と新生の第一歩を、この娘と共に踏み出す!

 娘の身を依代に、大いなるモノを喚び起こす!!

 さあ──────刮目せよ!!」

 

「……っ!?」

 

 

こん、と杖の石突きが祭壇を叩くと、その魔石が輝く。

それと同時に、黒く瞬く魔力光がその場に満ちた。まるで、空に浮かぶ星々のような光景は、だが。

 

 

 

「しまった……!!」

 

 

 

既に、準(・)備(・)が(・)終(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)証拠だ。

背中のハルバードを握り、石床を蹴って一気に駆け出す。

 

入口から、祭壇の前へ。

 

 

「っ、何者だ!?」

 

「邪魔だ!!」

 

「がっ、あぁぁあ─────ッ!!?」

 

「「「うわぁぁあぁっ!?」」」

 

 

ハルバードを振るい、黒装束を吹き飛ばす。

周囲を巻き込んで血肉を撒き散らすそれを横目に、祭壇上を見上げる。黒い魔力光が渦を巻き始め、ごうごう風が吹き、大気が震え、肌を突き刺すような感覚。

 

不味い……!!

とうに準備を終えていたのか!?

 

吹き飛ばした黒装束が、いや、その場にいた黒装束全員が、その場にバタバタと崩れ落ち始める。

 

これは……まさか……

 

 

「そういうことか……!!」

 

 

この祭壇は一種の魔法陣!

だとすれば、この場にいる黒装束全てが───生贄。

この祭壇そのものが黒装束の魔力を吸い上げ、そして召喚の魔術を起動するシステムの核だったわけか!!

 

最悪だ……!

あの娘を殺したら、恐らく依代を失って召喚が暴走する。

この感じ、神降ろしに近い召喚魔術式だ、もし召喚される〝何か〟が依代を失い、完全に召喚されたならば間違いなく大惨事だ!!

 

渾身の力を込めて石床を蹴りつけ、跳躍。

一気に祭壇の上に飛び上がる。

 

 

「くっ、愚か者めが……だが、もう遅い!!」

 

 

ハルバードを振り上げ、杖持ちがこちらを睨みつける。

確かにもう召喚の魔術儀式は止められない。ならばせめて、不完全な召喚に留め、ここで召喚される〝何か〟を殺す!!術者を殺せば、召喚は不完全で終わる!!

 

術者なら、その場から動けまい!

このまま斬り潰す!

 

 

「ははは……!!

 見える、見えるぞ……新たなる────」

 

 

笑い、嗤い、迎えるように大きく腕を広げる杖持ち。

─────ハルバードを振り下ろす。

 

 

 

「─────せか、ぎぢゅッ」

 

 

 

一撃が頭から股下までを切断しながら押し潰し、その血肉をブチまける。最後の最期まで……いや、今は……!!

 

視界を巡らせる。

そうして、白い装束に身を包んだ娘を見つけ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、黒い光が弾けた。

 

同時にその場から飛び退き、距離を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

祭壇の縁に着地し、ハルバードを構え直す。

その場に満ちた光が、ゆっくりと晴れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い霧のような魔力に包まれた女が、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………しくったな、クソ」

 

 

晴れていく黒い光のなかで、悪態をつく。

12年戦場にいたが、こんなものと戦った経験はない。

 

渦を巻いていたそれは既に収まっている。だが、それの放つ肌を突き刺すような感覚は、未だその中心であったものから放たれている、強烈な魔力によるものだろう。

 

 

 

「────永く、永く眠っていた」

 

 

 

女が、ゆっくりとした口調で、だが確かにそう口にした。

戦場で強大な敵を前にした時のような威圧感はない。いや、或いはこの魔力が、そうなのかもしれない。

似た感覚は、だが一つ思い出す。

 

本来の姿を見せた彼女と相対したときも、そうだった。

形容し難い、底の見えない穴を見下ろすような。

 

 

 

「久しい目覚めだ。

 ─────不愉快、極まりないな」

 

 

 

女の視線がこちらを捉える。

同時に、女の纏っていた霧が薄れていく。

 

黄金の瞳。

夜闇のような黒の長髪と、その頭から伸びる二(・)本(・)の(・)角(・)。

漆黒の衣に身を包み、そこから伸びる腕は人のものでなく、暗い鱗に覆われ、そして長く鋭い爪を備えている。

そしてその背に揺れる、黒い翼と尾。

 

 

「……とんでもないのを、喚びやがったな」

 

 

ドラゴン……或いは、竜種。

 

神話の時代に生きた、太古の怪物。

この世界を賭けて神々と争い、そして滅び去った種族。

 

最悪中の最悪だ。

召喚されたのが悪魔なら、まだ殺せる手段はあった。だが、本当に世界を焼き払いかねない存在が出てくるとは……

 

 

「誰の許可を得て、妾をその視界に納めている?

 誰の許可を得て、妾の前でその口を開く?」

 

「……お前たちの時代はとうに終わってるのさ」

 

 

言葉を返し、ハルバードの長柄を回して弄ぶ。

不完全な召喚ならば勝ちの目はある。戦闘で最悪の手段は、相手に背中を向けることだ。相手が生物である以上、そして滅び去った種だという伝承から、殺せぬ相手ではない。

 

 

「ならば、妾の時代を再臨させるまで。

 まずは貴様の死血を啜り、この喉を潤そうぞ」

 

 

女が一歩、竜の足を踏み出す。

それに身構え────

 

 

 

 

「─────?」

 

 

 

 

 

女は、その眉を潜めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬歩。

その背後に回り込み、ハルバードを振るう。

 

 

「──ッ!!?」

 

 

振り向くと同時に払われた爪に、その一閃を弾かれる。

金属音と共に火花が散り、その弾かれる重さを利用し後ろへ飛び退き─────ハルバードを投擲。

 

右手に弓を、左手に大矢を不完全召喚。

着地するより先に、矢を放つ。

 

 

「ぐッ……ちぃッ!!

 きさ──────ッ!?ぐぅッ!!?」

 

 

ハルバード、大矢、それぞれ爪に弾かれる。

着地と同時に女へ向かって駆け抜け、大剣を不完全召喚して斬りかかる。両手の爪に受け止められるが、ガラ空きの胴を蹴りつけ、その体勢を崩す。

 

 

「まっ───がッ、ご──────ッ!!?」

 

 

 

大槌を不完全召喚。

横に踏み込んで、女へと叩きつけて吹き飛ばす。吹き飛んだ女は剥き出しの岩壁に叩きつけられ、土煙の中へ呑まれる。

 

 

「〝蟲討ちの聖弓〟」

 

 

大弓と、一本の大矢を召喚。

矢をつがえると同時に弦を引き絞り、大きく足を開いて力を込める。魔力を込めた矢は黄金色に輝き、土煙の中へ向けて閃光の矢を放つ。

 

 

着弾。

 

 

黄金の閃きは土煙を貫き、強烈な魔力の爆発を起こす。

岩壁の亀裂が走り、大部分が崩落していく。

 

 

「………」

 

 

まだ息があるな。

特に、最後の一射は全力だったつもりだが………

聖弓を消し、祭壇の上から飛び降りる。

 

土くれが転がり落ちると同時に、瓦礫の山が破壊される。

土煙と共に、息を切らした女が現れた。

 

 

「はあッ、はぁッ、ぐ、っ……きっ、貴様……」

 

「割と脆いな。竜鱗といえば、

 この世界じゃ最高級の硬度だったはずだが」

 

「ッ……有り得ぬ……在ってはならぬ…….!

 こんな、人間如きに、こんな……何故だ……!?」

 

 

やはり力を出しきれないか。

困惑に息を切らした女は、歯噛みしてこちらを睨み付ける。その身体からは黒い霧が溢れ……いや、魔力が漏れている。

成程、今のを耐えきったのは魔力防護によるものか。無駄な魔力の使い方をしているな。魔力量自体は桁が違うが……

 

それにしても、竜種であることは間違いなさそうだ、が。

弱すぎる。戦争で戦ってきた連中の中でも、下の上といった程度だろうか。そもそも身体の使い方がなっていない……

いや、使っているのが人間の依代だから当然か。本来ならば巨体で空を飛びながら炎を吐く、なんてワイバーンみたいな戦いが本領なのだろう。

 

 

「哀れだな」

 

「なっ……貴様ッ……ぐ、ぅッ!!?」

 

 

背中に回り込み、短剣で女の横腹を軽く裂く。

振り払われる爪と尾を避けながら、少しだけ距離を取る。

 

 

「この程度か?」

 

「ぐ………ッ!」

 

 

短剣を腰の鞘に納め、その場に膝をつく女を見下ろす。

司教とやらが杖持ちでなくとも、あの騒動で死んだだろう。依頼は達成した。こいつもこの程度の強さならば、どこかで野垂れ死ぬ。放っておいても然したる問題はなさそうだ。

 

まぁ、殺すが。

 

ハルバードを手元に召喚し直す。

 

 

「まぁなんだ。悪いな。

 寝起きにこういうのは疲れるだろ?」

 

「ッ………」

 

「一瞬で首を落とす。

 目を閉じて、身体から力を抜くことだ。

 痛い思いをしたくないのならな」

 

「やっ、やめろ……!!」

 

「動くと痛むって言ってるんだけど」

 

 

殺すから動くな、というと、焦った表情で女が喚き出す。

あんまり動かれると困るんだよ、最悪こっちまで汚れるし。取り押さえようとすると、ぺシリとその手を弾かれる。

 

仕方ない、腕から切り落とすか……

そうやってハルバードを振り上げると、女が叫ぶ。

 

 

「なっ、なんでも……貴様の願いを叶えてやる!!」

 

「えっマジ?」

 

「財宝かっ、いや、身分か!?

 なんでもいいッ、言ってみろ!

 だからッ、殺してくれるな………!」

 

 

こいつ今なんでもするって言ったよね?

びっくりした。命乞いとしては100点だわ。

 

ハルバードを下ろし、女の前に屈み込む。

改めて観察してみれば、中々に美形だ。大人びてはいるが、少女のあどけなさも残り、その顔もスタイルもかなり良い。怯えてる顔も可愛いね♡命乞いなら誠意を見せろ。

 

 

「………な、なんだ……?」

 

「んー」

 

「あぅ……ッ!?」

 

 

良し、決めた。

その頭を髪ごと鷲掴み、顔を更に近付けて笑う。

 

 

 

 

「俺のモノになれ」

 

 

 

 

なんでもするって言ったもんな?

 

 

 

 

 

女は、それに涙目でこくこくと首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

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