勇者パーティーから追放された魔術師は実はチートだった件、そして新たなパーティーと気ままに冒険する 作:虚無神
1. 散り散りになる終焉と、身勝手な断罪
地底深く、古代遺跡『忘却の奈落』の最深部。
空気を押し潰すほどの重圧と、幾重にも重なる怪異の咆哮が洞窟全体を震わせていた。
「っ……【神威相殺の領域(ディバイン・ヌル)】、展開維持! ヴァルガス、右からの連撃を弾いて! セシル、術式の起点が崩れてる、補助詠唱に回って!」
薄暗い洞窟の奥で、蒼白な顔をした青年——ラゼル・アルフォードは、破裂しそうなほど脈打つ自らの魔力回路を強引に過熱させながら、絶叫に近い声をあげていた。
彼の前方に立ちはだかるのは、神話時代に封印されたとされる神級魔獣『極夜の執行者(エベル・レギオン)』。幾千枚もの闇の刃を撒き散らし、ただそこに存在するだけで空間そのものを腐蝕させる絶対的な災厄である。
「くそっ、なんだこの硬さは! 俺の『聖剣アスカロン』の光刃すら通らないだと!?」
パーティーのリーダーであり、王国で「太陽の勇者」とまで称えられた男、ヴァルガスが黄金の鎧を血と泥で汚しながら苛立ちを露わにする。その剣撃は確かに強大だったが、敵の表皮を掠めることすらできていなかった。
「ヴァルガス様、危険です! 敵の魔力波形が急上昇しています……っ、ラゼル! あなた何をやっているの!? 早く敵のバリアを壊しなさいよ! あなたの補助が遅いからヴァルガス様が怪我をされたじゃない!」
可憐な容姿とは裏腹に、甲高い声で罵声を浴びせるのは大聖女のセシルだ。彼女の手元では回復魔法の光が明滅しているが、その瞳には焦躁とラゼルに対するあからさまな見下しが含まれていた。
「セシル、無茶を言うな! 敵の防壁は三重の次元歪曲術式だ。俺が【極微干渉(ナノ・シークエンス)】で構造を解体しながら、お前たちの属性攻撃の相性をリアルタイムで変換・最適化して、さらに敵の即死攻撃を相殺する領域を全展開してるんだぞ! これ以上の並列処理は……っ!」
「うるさいわね! 言い訳なんて聞きたくないのよ! たかが『無属性』の雑用魔術師の癖に生意気言わないで!」
ラゼルの額から血の混じった汗が垂れ落ちる。
一般的に、魔法とは火、水、風、土の四属性、あるいは光と闇の聖魔属性を指す。それらを持たないラゼルが扱うのは、分類上『無属性』と呼ばれる、魔力の基本操作や初歩的な生活魔法しか使えない「出来損ないの属性」とされていた。
しかし、誰も知らなかった。
ラゼルが提供している「サポート」の真の異常さを。
彼が毎秒行っているのは、以下のような異次元の並列魔術処理であった。
【魔力純度極限最適化】:ヴァルガスやセシルが放つ魔法の魔力ロスを絶え間なく補正し、威力を100倍以上に引き上げる。
【自動座標修整・干渉】:敵の不可視の攻撃軌道をミリ単位で算出し、全員の防御障壁の強度を局所的に無限大へ高める。
【構造解体・再構築】:敵の絶対防壁を原子レベルで分析し、絶え間なく術式を解読して脆弱性を生み出し続ける。
これらを同時に、ミリ秒単位の思考でこなしながら、彼はパーティーの命をただ一人で繋ぎ止めていたのだ。
だが、仲間たちはそれを「当然の環境」と思い込んでいた。自分たちの攻撃が異様な威力を誇るのも、敵の凶悪な攻撃がなぜかかすり傷で済むのも、すべて自分たち自身の「選ばれた才能」によるものだと信じて疑わなかった。
「……チッ、使えねぇ『雑用係』だ。おいラゼル! 俺がトドメを刺す。お前は全魔力を絞り出して敵の動きをコンマ一秒止めろ! 失敗したらタダじゃ済まさねぇぞ!」
ヴァルガスが聖剣を高く掲げ、黄金のオーラを爆発させる。
「無茶だヴァルガス! 今の敵の術式反動を受けたら、俺の魔術回路が灼け切れる……!」
「黙れ! 勇者である俺の命令が聞けないのか! 行けぇぇぇ!!」
ラゼルは歯を食いしばり、覚悟を決めた。
脳が灼けるような激痛。視界が真っ赤に染まる。
「——【多元構造局所固定(グラビティ・ブレイク)】!!」
ラゼルが放った不可視の魔力縄が、神級魔獣の動きを完璧に縫い止めた。敵の放った暴虐なエネルギーがラゼルの全身を襲い、彼の防具が弾け飛び、口から大量の血が噴き出す。
「今だ、ヴァルガス!!」
「ハァァァァッ! 技名・聖光断罪斬!!」
黄金の光が閃き、動きを止められた『極夜の執行者』の首が、ゆっくりと宙を舞った。巨大な胴体が地響きを立てて崩れ落ち、ダンジョン最深部に束の間の静寂が訪れる。
「……はぁ……はぁ……勝った……のか……」
ラゼルはその場に膝をつき、激しい吐血とともに血の海に倒れ込んだ。全身の血管が破裂しそうなほどの疲弊。だが、何とか全員生存で目的を果たしたという安堵感が胸を去来した。
しかし——。
「ふぅ、手応えのない怪物だったな。やはり俺の聖剣の力は神をも超えるか」
聖剣についた血を払いながら、ヴァルガスが満足そうに鼻で笑う。
「流石です、ヴァルガス様! 本当に素晴らしい剣技でしたわ! あの程度の魔獣、ヴァルガス様の敵ではありませんでしたね!」
セシルがうっとりとした表情でヴァルガスの腕に抱きつき、その功績を称え合う。そこには、身を挺して敵の攻撃を食い止め、防壁を解除したラゼルへの言葉は一切なかった。
「……あの、二人とも……回復を……セシル、急ぎの解毒と……魔力経路の……補修を……」
地を這いながら、かろうじて声を搾り出すラゼル。
セシルは嫌そうに冷たい視線をラゼルに向けた。
「はあ? なに甘えているのよラゼル。自分は後ろでコソコソ怪しい魔法を弄っていただけじゃない。戦いの大半はヴァルガス様が一人で担ってくださったのよ? たかが雑用くらいで倒れるなんて、情けないと思わないの?」
「な……っ!?」
「そうだぞラゼル」
ヴァルガスが足音を響かせてラゼルの元へ歩み寄り、見下ろすように嘲笑した。
「前々から思っていたが、お前の無属性魔法は威力がなさすぎる。せいぜいチマチマした足止めか、灯りをつける程度だ。我が『太陽の勇者パーティー』に相応しいのは、一撃で敵を殲滅できる大魔導士だ。お前のような地味で使えない『補填係』じゃない」
「ヴァルガス……本気で言っているのか……? 俺の支援がなければ、お前たちの攻撃はあの魔獣の皮一枚破れなかったし、お前は最初のブレスで即死していたんだぞ……!」
「ハハハ! 冗談は顔だけにしておけ!」
ヴァルガスは大声をあげて笑い飛ばした。
「俺の聖剣の威力を自分の手柄にする気か? 盗人猛々しいとはこのことだな! セシル、こいつの『能力測定の魔石』を出せ」
セシルは小さく頷き、懐から青く光る鑑定の魔石を取り出した。
「ご覧なさいな。あなたのステータスよ」
提示された魔石に映し出されたラゼルの情報——。
名前:ラゼル・アルフォード
職業:無属性魔術師
レベル:45
保有属性:無属性(極小)
攻撃魔力:12
防御魔力:15
習得スキル:【生活魔法】【魔力操作】【解析】
それらは、一般的な下級冒険者すら下回る、惨椠たる数値であった。
「……くくっ、見ろよこのゴミのような数値を! 攻撃力12だぞ!? 村の農夫に素手で殴られた方がまだ痛いわ!」
「本当、笑えてきますわ。私たちSSSランクパーティーの面汚しです。今までパーティーの成果にタダ乗りして、報酬の分け前をもらっていたなんて、図々しいにも程があります!」
ラゼルは呆然とそれを見つめた。
(……当たり前だ。俺は自分の魔力の99.9%を、常時彼らのバフとステータス偽装、そして世界法則への直接干渉に回している。魔石の簡易的な判定システムなんかに、俺の本当の術式構造が感知できるはずがない……)
彼らは知らなかった。
ステータス画面に表示される数値など、世界の表層を撫でただけの『結果』に過ぎないことを。
ラゼルが扱っているのは、ステータスという枠組みそのものを裏側から改変する【概念改変魔術(オリジン・コード)】であることを。
だが、それを説明したところで、基礎的な魔力学すら理解せずゴリ押ししかしてこなかった彼らに理解できるはずもなかった。
「というわけだ、ラゼル」
ヴァルガスは抜刀した聖剣の先を、ラゼルの喉元に突きつけた。
「お前は本日をもって、我が『太陽の勇者パーティー』をクビとする」
「……追放、か」
「感謝しろよ? 命まで取ろうとは言わない。だが、お前のような足引っ張りをこれ以上連れて歩くのは、王国の利益にならん。このダンジョンの戦利品の分配も当然ゼロだ」
「ちょっとヴァルガス様、追放するだけじゃ甘いですわ! この男が今まで私たちの足を引っ張ってきた慰謝料として、そいつが持っている装備と鞄を置いていかせましょうよ!」
セシルが悪毒な笑みを浮かべる。
「ほう、名案だな」
ヴァルガスはラゼルの背負っていた鞄を蹴り飛ばし、ラゼルが長年愛用していた古びた杖を踏みつけた。
パキッ……!
「あ……」
それは、ラゼルが名も顔も知らない唯一の母と父の私物、魔力干渉の触媒として大切にしてきた唯一の品だった。
「これで手打ちにしてやる。身一つでここから這い上がるんだな。もっとも、無属性のゴミがこの深層ダンジョンから生きて出られるとは思えんがな! ハハハハ!」
「行きましょうヴァルガス様。こんなジメジメした男のことなんて忘れて、街で勝利の宴を張りましょう!」
「そうだな! 王都で最高級の酒と肉を用意させよう!」
二人は倒れ伏すラゼルを一瞥もせず、奥の転送陣へと歩いていった。
高笑いがダンジョンの暗闇に響き渡り、やがて転送の光とともに消え去った。
静寂が戻ってきた。
冷たい石の床の上で、ラゼルは一人取り残された。
全身を襲う激痛と、空っぽになった魔力回路。
折れた杖の破片が、虚しく散らばっている。
「……くっ……ふふ……」
ラゼルの唇から、乾いた笑いが漏れた。
「『使えない雑用』……『足引っ張り』……か」
怒り? いや、違った。
胸の中に広範囲に広がっていたのは、驚くほどの「解放感」だった。
「やっと……終わったんだ」
毎秒数千回の魔力計算。
我が儘な勇者の暴走を止めるための裏工作。
聖女の稚拙な回復魔法を本物の奇跡に見せるための裏打ち。
傲慢な仲間たちのプライドを傷つけないよう、自分の手柄を隠し続ける日々。
それらすべてから、自分は今、完全に解放されたのだ。
「あいつら……本当に分かってないな」
ラゼルはゆっくりと体を起こした。
全身の骨が悲鳴をあげていたが、彼は小さく溜息をつくと、空中で指を軽く弾いた。
【事象書き換え(プロトコル・リライト)】
瞬時に、彼の周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。
血みどろだった全身の傷が、光の粒子となって消え去る。
破裂していた魔力回路は極上の輝きを取り戻し、空っぽだった魔力タンクには、無限とも思えるほどの漆黒と黄金が混ざり合った純粋魔力が満ちていく。
ステータス鑑定の魔石などという玩具には決して映らない。
ラゼルの真の能力——それは、世界の構成言語そのものを直接書き換える、【神命言語の解読者(オーバードライブ・アナライザー)】。
「さて……あいつらにかけていた『常時ステータス100倍強化(オーバーバフ)』と『環境ダメージ即時中和』の術式……解除するのを忘れてたな」
ラゼルは折れた杖の欠片を拾い上げ、愛おしそうにポケットにしまった。
「まあいいか。もう俺には関係ない」
彼は勇者たちが消えていった転送陣とは逆の、未知の深層へと続く暗い通路を見つめた。
「自由だ。これからは、誰の顔色もうかがわず、誰のための嘘もつかず……ただ自分のために、気ままに世界を見て回ろう」
ラゼル・アルフォードの、本当の冒険がここから始まる。
2. 奈落の最深部と、氷漬けの怪物
勇者パーティーから追放され、身一つで『忘却の奈落』のさらに奥へと歩を進めるラゼル。
普通であれば、この最深部は人類生存不可の極大危険地帯である。出現するモンスターの一体一が国を滅ぼすレベルの災厄であり、空気そのものが濃密な毒魔力で満ちている。
しかし、ラゼルにとっては散歩コースと変わりなかった。
「ふむ……このあたりの魔力濃度はなかなか良いな。術式の展開速度が地上より30%ほど向上する。やはり人間ドックのような街よりも、こういう過酷な環境の方が魔導の理を探るには心地いい」
サクサクと足音を立てながら歩く。
彼の周囲半径十メートルには、無意識のうちに【絶対不可侵領域(アブソリュート・パッシブ)】が展開されていた。襲い掛かってくるはずの毒気や猛炎、空間の歪みすらも、ラゼルの周囲に達した瞬間にただの心地よいそよ風へと変換されてしまう。
歩くこと数時間。
暗い洞窟を抜けた先には、広大な地下空間が広がっていた。
そこは、一面が結晶化した美しい蒼い氷で覆われた、幻想的な氷結回廊だった。
「これは……『万年永久氷晶』か。神代の氷結魔法によって作られた空間だな。素晴らしい……自然発生したものではない、緻密な階層構造が見える」
ラゼルが興味深そうに壁の結晶に触れようとした、その時。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!
猛烈な地響きとともに、氷結回廊の中心に位置する巨大な氷の柱が内側からヒビ割れた。
「アアアアアアアアアアアアッ!!」
咆哮一発。
大気が凍りつき、空間そのものが割れるような音を立てて、その『存在』が目覚めた。
氷の中から現れたのは、美しくも恐ろしい姿をした巨大な魔獣——『銀氷竜(アルヴァ・グリザード)』。
古代の文献にしか登場しない、氷の概念そのものが竜の形をとったとされる伝説の神獣である。
「なるほど、この遺跡の真の主か。封印が解けかかっていたんだな」
銀氷竜はその巨大な瑠璃色の瞳でラゼルを射抜き、侵入者を排除せんと即座に開口した。
【絶対零度息吹(アブソリュート・ブレス)】
分子の運動すら完全に停止させる、絶対零度の冷気が濁流となってラゼルを呑み込んだ。直撃すれば、城塞都市すら一瞬で氷の砂となって崩壊する極大の滅び。
周囲の空間全てが真っ白な氷の世界へと変貌する。
しかし——。
「冷たさは心地よいが、少し湿気が強いな」
白い霧の中から、何事もなかったかのようにラゼルが歩み出てきた。
その身には氷の一片すら付着していない。
「な……ッ!?」
竜が驚愕に目を見開く(ように見えた)。
「今の術式は素晴らしかった。だが、冷気の本質である『分子の運動停止』に対する干渉が甘い。熱エネルギーを奪うのではなく、空間そのもののベクトルの向きを『逆転』させれば、もっと効率よく冷却できるはずだ。例えば——こうだ」
ラゼルがすっと右手を掲げ、軽く指を鳴らした。
【概念干渉・絶氷領域(フリージング・ヴェール)】
パキん、と小さな音が響いた。
次の瞬間、銀氷竜が放っていた残存の冷気領域どころか、空間全体がさらに深い『絶対の静寂』へと上書きされた。
銀氷竜の巨体が、ピキピキと音を立てて自らの魔法の波形に囚われ、完全にフリーズした。
攻撃を仕掛けようとした姿勢のまま、指一本動かすことすらできない。
「ガ……ア……!?」
竜の瞳に宿るのは、圧倒的な恐怖。
自分が司るはずの『氷』という概念を、目前の小さな人間が余りにも容易く、より高次元の精度で上書きし、支配してしまったのだから。
「安心しろ、殺すつもりはない。俺はただ、この先の出口を探しているだけなんだ」
ラゼルはトコトコと竜の足元まで歩み寄ると、巨大な爪にポンと手を置いた。
「よし、解体完了」
ポン、と手を叩いた瞬間、銀氷竜を縛り付けていた氷結術式がさらりと霧散し、同時に、竜が太古から受けていた『凶暴化の呪い(狂乱の術式)』だけが綺麗に浄化されて消え去った。
「……グル? ……ガ……?」
正気を取り戻した銀氷竜は、己の内に満ちていた激しい破壊衝動が消えたことに困惑し、次いで目の前に立つ青年の『異常なまでの魔力の深淵』を感じ取り、恐怖と敬意を込めて深く巨頭を下げた。
それは、真の支配者に対する、獣の服従の姿勢であった。
「言葉が通じるか? よかった。地上へ出る最短の道を知らないか? あの身勝手な勇者たちと鉢合わせするのは気まずいからな、別の出口が良いんだが」
銀氷竜はコクリと頷くと、翼を持ち上げ、その背後にある隠された次元の亀裂(抜け道)を指し示した。
「おお、助かる! ありがとうな、竜の旦那」
ラゼルは微笑み、懐から干し肉を取り出すと、竜の鼻先に置いた。
「これは途中で見つけた食料だ。腹が減っていたら食べてくれ。じゃあな!」
そう言って、ラゼルは軽快な足取りで次元の亀裂へと飛び込んでいった。
取り残された神級魔獣『銀氷竜』は、去っていった人間の背中を呆然と見送り、ポツンと残された干し肉を恭しく口に運ぶのだった。
3. 光の射す場所へ
次元の歪みを通り抜けること数分。
「眩しいな……」
ラゼルが目を細めると、そこには青々とした空と、見渡す限りの広大な緑の森、そして遠くに見える雄大な山々が広がっていた。
『忘却の奈落』の裏手、王国の国境を越えた先にある未開の地——『アストリア大森林』。
何年ぶりだろうか。ダンジョンの湿った空気ではなく、本物の太陽の光を浴び、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むのは。
「ふはぁ……生き返るな」
ラゼルは大きく伸びをした。
もう、ヴァルガスの怒鳴り声を聞く必要もない。
セシルの嫌味に耐える必要もない。
自分の力を隠し、泥をすすりながら誰かのために裏方として擦り切れ続ける必要もないのだ。
「まずは……近くの街を探そう。温かいスープと、柔らかいベッド。それから、新しい杖を作るための材料も探さないとな」
ラゼルは晴れやかな笑顔を浮かべ、広大な世界へ向けて第一歩を踏み出した。
彼が去った後のダンジョンで、残された勇者パーティーにどれほど恐ろしい「崩壊」が訪れるのかを、この時のラゼルはまだ知る由もなかった。