※この作品はR-18です。

将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜   作:夜叉五郎

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第十章 アリア・フォン・シルフィード視点

 ダンジョンの中層、湿った冷気が肌を刺す岩窟で、私は薙刀を振るい続けていた。

 銀光が弧を描き、襲いかかる魔物の頸を正確に断ち割る。

 散る血飛沫をステップ一つでかわし、息を整えたその刹那――ふと、背後からの「視線」に気づいた。

 

 通路の崩れた石壁の隙間から、何者かが私を見下ろしている。

 フード付きのボロ布マントを羽織った、泥臭い風体の見知らぬ青年。

 

 その瞬間、私の全身が激震に見舞われた。

 彼がただ無意識に、一人の女の肢体を素朴に見遣っただけに過ぎないはずの視線。

 それなのに、私の肌に触れた刹那、かつて経験したことのない暴威となって肉体を貫いたのだ。

 

(な、んだ……これは……っ!?)

 

 ぞくり、と背筋を焼き尽くすほどの甘美な雷撃が駆け抜けた。

 【愛欲の視線受容(パッションレセプター)】が狂ったように警報を打ち鳴らす。

 ボマーや王都の貴族どもの下品な色情などとは、まるで次元が違う。

 

 あれほど嫌悪し、押し殺してきたはずの肉体が、見知らぬ彼の視線を浴びた瞬間に奥底から歓喜の悲鳴を上げ、子宮がぎゅっと切なく収縮して熱い蜜を絞り出してしまう。

 薄絹の下で乳首が硬く尖り、布地に擦れて甘い電流が走る。

 太腿の内側がじわりと熱く濡れ、愛液が伝い落ちていく感触がはっきりとわかってしまう。

 

 頬が熱く上気し、翠の瞳が潤んで視界が滲む。

 自分でも制御できない、甘くねっとりとした女の香りが、薄絹の隙間から濃く立ち上っていく。

 

 同時に、全身の筋肉に途方もない力がみなぎった。

 【愛欲の視線受容】のバフが、相手の規格外の器に反応して劇的に跳ね上がる。

 筋力も敏捷も、反応速度も、これまでの自分とは別物のように跳ね上がった。

 

 襲いかかってきた残りの魔物を、私は息一つ乱れさせずに薙ぎ払う。

 普段なら数合を要する相手が、一閃で頸を断たれ、二撃目で胴を両断される。

 バフの力が、熱い疼きと同時に身体を軽やかに動かしていた。

 

(っ……!? 今の……一撃で……!?)

 

 手こずっていたはずの魔物が、あまりにもあっさりと薙ぎ倒されたことに、私は息を呑んだ。

 これまでどんなに鍛えても、これほどの一撃は出せなかった。

 視線を受けただけで、身体がここまで軽く、強くなっている。

 

(……この男の視線で、私の力が……!?)

 

 その直後、石壁の隙間から覗いていた青年の気配が、すっと消えた。

 視線が途切れた瞬間、全身を支えていた途方もない力が、嘘のように抜け落ちる。

 膝の力が抜けそうになり、薙刀の柄に縋りつくようにして辛うじて立脚を保った。

 バフが切れた反動で、下腹部の熱い疼きだけが残る。

 

(っ……視線がなくなっただけで、こんなに……!)

 

 底が知れない。

 格が違う。

 相手の才能限界や魂の質量を敏感に量る娼婦の受容体が告げている――あの男の身の内に眠る奔流は、建国王をも超える無限の深淵だと。

 

 底知れぬ恐怖と、抗いようもなく疼く熱に乱された呼吸を抑え込み、私は逃げるようにしてダンジョンを後にした。

 歩くたびに下腹部の熱い疼きが波打ち、頬の上気と瞳の潤みが残ったまま、甘く熟れたような香りを纏いながら石畳を踏みしめた。

 神殿の宿舎へ戻っても、肌に焼きついたあの異常な熱波が消えない。

 

(あのみすぼらしい青年は一体何者なのだ……?)

 

 一度火がついた疑念と渇望は、私の頭から離れなくなっていた。

 翌朝、私はフードを深く被り、冒険者ギルドや換金所、路地裏の酒場へと足を運んで情報収集を開始した。

 あの身なりと特徴を頼りに探りを入れると、すぐにひとつの名に行き当たった。

 

 ――界道ワタル。

 

 だが、返ってくるのは不気味がるような、冷笑混じりの噂ばかりだった。

 

「ああ、あの素性不明の浮浪者か」

 

「どこの神殿の加護も名乗らねぇで、登録の恩寵欄も白紙のまま提出したらしいぜ。一人なのに身元も隠すような薄気味悪い得体の知れねぇ奴だから、誰もパーティに誘わねぇよ」

 

 誰もが奴を「得体の知れない気味の悪いボッチ」と蔑み、避けているだけだった。

 だが、私の肉体が感知したあの底知れぬ器が、ただの不審者のはずがない。

 

 ――しかし、噂話を聞き出す過程で、私は奇妙な感覚を味わうことになった。

 最初は私を警戒し、口を噤んでいた情報屋やギルドの男たちが、私が薄絹の隙間から白磁の首筋を晒し、翠の瞳で上目遣いに見つめ、憂いを帯びた赤い唇から吐息を漏らしただけで――一瞬にして態度を軟化させたのだ。

 

「……なぁ、もっと近くで話してくれないか?」

 

「あ、ああ……なんでも教えてやるよ、お嬢ちゃん」

 

 鼻の下を伸ばし、喉を鳴らし、こちらの問いかけにホイホイと口を割る男たち。

 彼らの視線が胸元や首筋を這うたび、下腹部の奥が小さく疼き、頬がわずかに熱を帯びる。

 淡く甘酸っぱい香りが自然と立ち上り、男たちの理性をさらに溶かしていく。

 これまで「武芸の邪魔な肉塊」と切り捨てていた己の美貌と肢体が、男たちにとっては理性を狂わせる劇薬なのだと、このとき初めて肌身で理解した。

 

(ふん……色香を少し匂わせるだけで、男という生き物はこうも簡単に言うことを聞くものなのか)

 

 侮蔑と冷ややかな全能感が胸を満たす。

 

 だが、その直後、ふと学院の記憶がよぎった。

 女生徒たちが、男の気を引くために美容に熱中していた理由が、今なら少しわかる気がした。

 あの頃は「くだらん」と切り捨てていた生き方にも、一理あるのかもしれない。

 

 ただ、そんな小手先の術で手玉に取れる有象無象どもの視線など、あのワタルが放った一瞥の重みには爪の先ほども及ばないのだ。

 彼の奴の底知れなさが、かえって際立つだけだった。

 

 ――だが、残酷にも現実は私を待ってはくれない。

 

 翌日、鏡の前に立った私は、唇を噛み締めて己の顔を見つめた。

 抜けるような白磁の頬に、薄っすらと、だが確実に浮かび上がった朱色の筋――神罰の予兆である赤い隈取り。

 客を取ることを頑なに拒み続け、法外な週次ノルマを放置し続けた代償。

 愛欲の女神が下す死の宣告へのカウントダウンが、無情にも始まっていた。

 

 冒険者ギルドで魔石を換金し、少しでも免除金を工面しなければ死ぬ。

 焦燥を胸にギルドの重い扉を押し開けた私を待っていたのは、最悪の男の嘲笑だった。

 

「おいおいおい! 見なよ野郎ども、アリアのお嬢ちゃんの顔をよぉ!」

 

 酒臭い息とともに立ち上がったのは、巨大な両刃斧を背負ったボマーだった。

 手下の荒くれどもが下品な囃し声を上げながら、瞬く間に私を取り囲む。

 

「顔に赤い隈取りが出てんじゃねぇか! いよいよ神罰のタイムリミットだなぁ? もう意地張ってられる状況じゃねぇだろ。全身を灼かれて悶絶死する前に、俺がタダで抱いてその火照りを鎮めてやろうかぁ!?」

 

 涎を垂らさんばかりの薄汚いニヤケ面で、ボマーが手を伸ばしてくる。

 ボマーの視線が胸元と太腿を這うたび、下腹部の奥がドクンと熱く疼き、薄絹の下で乳首が硬く尖る。

 頬が熱く上気し、翠の瞳が潤み、ねっとりとした甘い香りが再び立ち上る。

 なのに、その熱を意志の力で抑え込み、私は背筋を伸ばした。

 

 退路を塞がれ、背後に迫る死の気配と外道の悪意。

 私は薙刀の柄を固く握りしめ、冷徹な殺気を込めて男を睨みつけた。

 

「無礼者……! 貴様のような下劣な豚に抱かれるくらいなら、私は舌を噛んで死を選ぶ!」

 

「ケッ、死に損ないの淫売が吠えてんじゃねぇぞ! 腕ずくで組み伏せて、泣いて許しを乞うまで犯してやるよ!」

 

 一触即発、殺気立つ空気がギルドを呑み込もうとした――その刹那だった。

 カランコロン、と場違いなほど間の抜けた音を立てて、ギルドの入り口の扉が開いた。

 入ってきたのは、土埃にまみれたボロ布マントを羽織り、薬草の束を抱えた青年――ワタルだった。

 店内の張り詰めた異様な空気に気圧されたのか、彼は目を丸くし、間抜けな声を漏らした。

 

「……あ、すいません、なんか取り込み中でした?」

 

 毒気を抜かれたボマーが呆気に取られ、ギルド中が静まり返る。

 その瞬間、私の頭の中で閃きが走った。

 

(あの男……! 街の誰も正体を知らぬ、私の肉体を一撃で屈服させかけた規格外の才能の深淵……!)

 

 この窮地を脱する道は一つしかない。

 奴の本当の膂力をここで引きずり出し、ボマーを排除させると同時に、あの底知れぬ器を確かめる。

 私は握っていた薙刀の切っ先をすっと下ろし、鮮やかな赤い唇を吊り上げてボマーを見据えた。

 

「……ボマー。そこまでして私を抱きたいか」

 

 ボマーが眉をひそめ、訝しげに鼻を鳴らす。

 

「あぁ……? 何を今さら」

 

「ならば、条件を出してやろう」

 

 私は腕を組み、冷ややかな翠の瞳で、入り口で立ち尽くすワタルを真っ直ぐに指差した。

 

「あそこにいる男――ワタルと決闘しろ。その者に勝てたなら、私の処女でも何でも、好きに抱かせてやろう」

 

 ギルドの換金所に向かおうとしていたワタルが、雷に打たれたように硬直した。

 

「………………は?」

 

 信じられないものを見るように目を白黒させるワタルを他所に、ボマーは彼の貧相な身なりと頼りない風体を眺め、腹を抱えて耳障りな大爆笑を響かせた。

 

「ギャハハハハ! おいおいマジかよお嬢ちゃん! こんな道端の乞食みたいなひょろガリを片付けりゃ、あの極上の身体が手に入るってのか!? 安すぎるぜぇ!」

 

 ドシン、と重々しい音を立ててボマーが背中の両刃斧を引き抜く。

 だが、ギルド内で振り下ろそうとしたその手を止め、ボマーはぎらついた狡猾な笑みを浮かべた。

 

「……いや、待てよ。こんな街中で殺しちまったら、衛兵の野郎どもが嗅ぎつけて来る。――ダンジョンへ来い、乞食!」

 

 ボマーは巨大な斧の切っ先をワタルの鼻先に突きつけた。

 

「迷宮の底なら、どんな無残な死体が転がってようが『魔物に喰われた事故』で誰も追求できねぇからなァ! おい野郎ども、こいつを逃がすな! ダンジョンへ引きずり出せ!」

 

「ヒューッ! 迷宮送りだ!」

 

 荒くれどもが下品な指笛を鳴らし、ワタルの退路を塞いで取り囲む。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 俺ただ薬草を売りに来ただけなんですけど!? ダンジョン戻るの嫌なんですけど――!!」

 

 悲鳴をあげるワタルを、ボマー一味が暴力的に連行していく。

 私は薙刀を握り直し、その背中を静かに追った。

 

(見せてみろ、ワタル。魔物の蠢く死線の中で……私の魂を震わせた、貴様の本当の力を……!)

 

 死人が出ても誰も問われぬ暗鬱たる迷宮へ、決闘の舞台は移された。

 

 〜 続く 〜

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