将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜 作:夜叉五郎
宿屋の薄汚れた安ベッドの上、私は気だるく熱を帯びた肢体を伸ばし、天井を仰ぎ見た。
窓から差し込む陽光が幾度巡ったのか、もはや数える気すら起きない。
かつての私は、一体どこへ消えてしまったのだろう。
薙刀の長柄を血豆で汚し、固い晒で胸を締め上げ、冷たい鉄の鎧に身を包んでいた日々。
「男などに屈さぬ」「万夫不当の将軍となって祖国に尽くす」――あれほど頑なに、命を賭して守り通そうとしていたはずの「武人の誇り」も「将軍の夢」も、いまや遠い前世の戯れ言のようにしか思えなかった。
凛とした声で号令を下していた口元は、いまやワタルの名を切なく呼び、甘い嬌声を漏らすためだけに蕩けている。
男兵士を容赦なく薙ぎ倒していたしなやかな脚は、彼の腰にすがりついて離さないための鎖へと変わってしまった。
太腿の内側が、まだ微かに熱を帯びて湿っているのを感じる。
ただひたすらに、ベッドの上でワタルと貪り合うように交わり続ける日々。
「……んっ、あ……ワタル……もっと、私を……」
微睡みの中、隣に横たわる彼の手の温もりが素肌に触れるだけで、背筋を甘美な電流が駆け抜ける。
薄絹の下で乳首が硬く尖り、布地に擦れて疼く。
太腿の内側がじわりと熱くなり、愛液が滲み出す感触がする。
かつては他人の視線一つで「無礼者」と刃を向けていたこの身体が、彼に触れられるたび、露を宿した花びらのように無防備に開かれ、歓喜に震えてしまうのだ。
彼と結ばれるたび、魂の奥底から甘露のような経験値が雪崩れ込み、私の才能限界は天井知らずに押し広げられ、第六階梯まで完全覚醒した全六スキルの神威が全身の隅々まで満ち溢れていく。
武芸の頂点を目指して血反吐を吐いていたあの修練は何だったのか。
男の腕の中で蕩け、愛し合うことこそが、私を神話の領域へと押し上げる唯一の道だったなど――なんという甘く、残酷で、愛おしい真実だろう。
もちろん、この甘美な籠城の最中、無粋な邪魔が入らなかったわけではない。
「借りを返してやるぜ、あの時の落とし前きっちりつけさせてもらうからなぁ!」と、目や鼻を真っ赤に腫らし、復讐の炎を燃やして血眼になったボマーが手下を引き連れて怒鳴り込んできたり、「愛玩品として囲い直してやる」と息巻く第二王子エドワードが放った近衛の手勢どもが、この安宿の扉を蹴破ろうと入れ替わり立ち替わり押し寄せてきたのだ。
だが――それらはすべて、部屋の敷居を跨ぐことすら許されなかった。
扉の隙間から見えたのは、ワタルの常軌を逸した膂力。
神の恩寵を持たぬゆえに、すべてのレベルアップ補正が基礎身体能力へと極振りされた彼の肉体は、もはや人間どころか最上級の魔獣すら凌駕している。
かつて威張り散らしていた巨漢のボマーなど、あの愛用のナイフを抜くまでもなかった。
大斧を振り上げる動作すら止まって見えるほどの超絶反応の中、ワタルが何気なく繰り出した指先一つのデコピン――それだけで、ボマーの巨体は弾丸のように吹き飛び、手下どもを巻き込みながら廊下の突き当たりの壁に激突して一瞬で白目を剥いた。
続けて押し寄せてきた鎧姿のエドワードの近衛兵たちですら、ワタルが軽く人差し指で額や胸板を弾くだけで、鋼鉄の兜ごと衝撃でへし折られ、小枝のように吹き飛んで転がっていく。
武器を構えることすら馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、指先一つで手勢を一掃されたエドワード王子は、廊下の奥で尻餅をついて顔面蒼白になり、自らの失禁に濡れながら這い逃げていった。
その無様な後ろ姿は、実に滑稽で痛快極まりない見ものだった。
私との交歓によって得られる二十四時間のステータス超絶倍率バフまで乗った今の彼に、この街の有象無象やゴロツキごときが束になって敵うはずなどないのだ。
(ふん……全く、野暮にも程がある連中だ。せっかくの甘い逢瀬に水を差しおって)
下腹部の奥が、ワタルの熱を思い出して小さく疼く。太腿の内側がじわりと熱くなっていく。
暴徒を蹴散らして部屋に戻ってきたワタルは、どこか居心地悪そうに頭を掻きながら、乱れたシーツの上に倒れ込んできた。
返り血ひとつ浴びていないその逞しい身体。
かつては「無骨な異端者」としか見えなかったその胸板に、私はたまらず自ら擦り寄っていた。
「……もう、邪魔者はいなくなったな?」
「ああ。だがアリア、お前、少しは休まないと……」
「嫌だ。休むなど、勿体ない……」
かつて他人に懇願することなど一度たりともなかった私が、潤んだ翠の瞳で彼を見上げ、胸板に指先を這わせる。
将軍の威厳など、一片の欠片すら残っていない。
ただ、愛する男に抱かれたくて堪らない、一人の雌としての本能が疼いてやまないのだ。
指先が彼の胸を這うたびに、下腹部の奥が熱く疼き、太腿が勝手に擦れ合う。
「私の熱を……もっと奪ってくれ、ワタル。お前のその人外の腕で、骨が軋むほどきつく抱きしめて……私を、満たして……っ」
囁きながら、私は自らの紅い唇を彼の唇へと重ねた。
重ね合わせた瞬間、舌先が絡み合い、甘い吐息が混ざり合う。
武芸のために鍛え抜いたはずの口腔と喉の奥が、彼を受け入れるたびに甘美な蜜を滴らせ、歓喜の震えを全身へと送り届ける。
ワタルの大きな手が私の腰を引き寄せ、再び重なり合うと、安宿の部屋はたちまち濃密な愛の熱気で満たされていった。
太腿が彼の腰に絡みつき、奥をきつく締めつけながら、熱い蜜が溢れ出す。
かつて戦場で振るっていた薙刀の鋭さは、彼の背中を優しく掻き抱く指先の熱情へと変わり、敵を威圧していた澄んだ声は、切なく彼を求める啼き声へとほどけていく。
幾度果てても満たされず、ただ互いの肌と魂を溶かし合う至福。
世界が滅びようとも、この腕の中さえあればいいと、本気で思っていた。
――だが、そんな至福の時間にも、無情な終わりが訪れる。
来るものが、来た。
「……カラン」
ワタルが逆さにした革袋から、情けない金属音が響いた。
二人して顔を見合わせ、数秒の静寂。
――財布の底をつき、宿代が尽きてしまったのだ。
「……仕方ない、チェックアウトするか」
ボロ布のマントを羽織り、少し名残惜しそうに頭を掻くワタルに促され、私も起き上がった。
気だるく、けれど驚くほど軽やかな身体に、薄絹の正装を纏い直す。
背中には、かつて命のすべてだった白木の薙刀を背負った。
かつては死ぬほどの屈辱でしかなかった、肌の露出が多い神聖娼婦の衣服。
だが、いまや鏡に映るその姿は、ワタルの愛を一身に浴びて艶めき、彼に愛された証として誇らしくすらあった。
宿を出た私たちは、冒険者ギルドへ向かう前に王都の目抜き通りに広がる市場へと足を向けた。
両脇にずらりと並ぶ屋台からは香ばしい焼き肉や甘い果実の匂いが立ち込め、朝の活気に満ち溢れている。
歩道を行き交う商人や冒険者、買い物客の視線が、一斉に私へと突き刺さった。
無理もない。
討伐の証である白木の薙刀を背負いながら、身に纏っているのは肌を惜しげもなく晒した神聖娼婦の薄絹なのだ。
豊満な胸元の谷間、歩くたびにスリットから覗く抜けるような白磁の太もも、そしてワタルと愛し合った余韻を微かに漂わせる瑞々しい肌。
男たちの視線は瞬く間に垂涎と露骨な色情で濁り、息を呑む音がそこかしこから漏れ聞こえてくる。
かつての私であれば、「無礼者」と一喝して刃に手をかけていたことだろう。
だが、いまの私は違う。
突き刺さる無数の視線を受け止めても、不快感など微塵も湧かなかった。
むしろ【愛欲の視線受容(パッションレセプター)】によって男たちの欲望をそっくり己の力へと変換し、心地よい熱として全身に巡らせる余裕すらある。
視線が胸元や太腿を這うたび、下腹部の奥が小さく疼き、頬がわずかに熱を帯びる。
甘いフェロモンが自然と立ち上り、周囲の男たちの喉を鳴らさせる。
「ふふ……」
私は薄く紅い唇に妖艶な笑みを浮かべ、あえて男たちの熱い視線を堂々と受け流しながら、隣を歩くワタルの腕をぎゅっと抱き寄せた。
自らの柔らかな胸の膨らみを、彼の逞しい二の腕へ惜しげもなく押し当て、すり寄せるようにしなだれかかる。
「ワタル、あの果実、とても甘そうな匂いがするぞ。一口食べてみたいのだが……よいか? それぐらいは銅貨は懐に残ってたであろ?」
「お、おいアリア……くっつきすぎだって。周りの視線が痛いんだけど……」
気恥ずかしそうに頬を掻くワタルを見上げ、私はくすりと喉を鳴らした。
周囲の男たちが、自分たちの手の届かない絶世の美女が、ボロ布のマントを羽織ったみすぼらしい青年に甘え切っている姿を見て、嫉妬と羨望で顔を歪めている。
それがたまらなく誇らしく、愛おしかった。
その時だった。
「――あれ? アリアちゃん……!?」
人混みの向こうから、聞き覚えのある明るい声が響いた。
振り返ると、買い出しのカゴを手にした金髪の女性――娼婦ギルドで孤立無援だった私に唯一親身に世話を焼いてくれた先輩娼婦、マリーだった。
「マリーか」
「アリアちゃん、無事だったの!? 顔の赤い隈取り……消えてる……!?」
駆け寄ってきたマリーは、私の顔をまじまじと見つめ、驚愕に目を見開いた。
無理もない。
数日前、私がギルドを飛び出した時には、ノルマ未達による神罰の最後通牒である朱の隈がくっきりと浮かび上がっていたのだから。
それが跡形もなく消え去り、それどころか以前を遥かに凌駕する瑞々しい輝きと艶気を放っているのだ。
「心配をかけたな、マリー。だが……もうノルマの心配は要らない」
「えっ……? ど、どういうこと?」
戸惑うマリーに対し、私はワタルの腕をさらに強く抱きしめ、とびきり甘く誇らしげな微笑みを浮かべて告げた。
「この人が、私の生涯の伴侶となってくれたのだ。……私のノルマも、神罰の呪いも、すべてこの人がその身一つで鎮め、払ってくださった」
「は、伴侶……!? この人が!? 話早すぎでしょ!!」
マリーは驚きのあまり、まじまじとワタルの顔を見つめた。
突然話を振られたワタルは、居心地悪そうに「あ、どうも……」とマリーへと視線を向けた。
その瞬間――。
マリーの身体が目に見えてビクッと跳ね上がり、呼吸を呑んで凍りついた。
同じ娼婦として【愛欲の視線受容】を持つ彼女のことだ。
ワタルが無意識に放った視線の奥にある、人知を超越した魂の質量と底知れぬ深淵を、その身で察知してしまったのだろう。
ガクガクと膝を震わせ、みるみるうちに血の気を引かせていくマリーの姿が目に入った。
かつて頑なに男を拒んでいた私が、なぜこうして蕩けた顔で一人の男にしなだれかかっているのか――その理由を、彼女は肌で理解したに違いない。
「わ、わかった……納得したわ……! アリアちゃん、あんた……本当にとんでもない人を捕まえたのね……!」
震える声でそう絞り出すマリーを見つめ、私は妖艶に目を細め、誇らしく頷いてみせた。
「ふふ、そうだろう。……さあ行こう、ワタル。ギルドで依頼を片付けたら、また二人きりでゆっくりしようではないか♡」
青ざめるマリーに見送られながら、私たちは市場を抜け、冒険者ギルドへと向かった。
目的はただ一つ、宿代と生活費を稼ぐこと。
ギルドの重い扉を押し開けると、かつて私を品定めするように見つめ、あるいはボマーを恐れて蜘蛛の子を散らすように避けていた冒険者たちが、息を呑んで一斉に道を開けた。
すでにボマーの失脚と、エドワード王子の近衛部隊が壊滅した報せはギルド中に知れ渡っているのだろう。
彼らが見つめるのは、もはや神罰に怯える孤立無援の哀れな娼婦ではない。
規格外の異端者を隣に引き連れ、白磁の肌を神々しく輝かせる、人知を超えた異形の強者たちだ。
私たちは掲示板へ向かうと、そこにあった討伐依頼、ダンジョン深層の探索依頼、受けられる依頼を片っ端からすべて毟り取った。
「おいおい……それ、全部受けるのかよ……?」
受付の職員が震える声で尋ねてきたが、私は薄く紅い唇を吊り上げて微笑むだけにとどめた。
心配など、微塵もしていない。
今のワタルは、文字通り無敵だ。
どのような凶悪な魔物の群れが立ち塞がろうと、彼がその人外の力で粉砕してしまうだろう。私が出る幕など、おそらく薙刀の先を汚す程度にもありはしない。
早く依頼を片付け、魔石と報酬を山のように換金しよう。
そして――今度はこんな埃っぽい安宿ではなく、王都で一番豪奢な高級宿の、ふかふかの天蓋付きベッドで、誰にも邪魔されずにワタルとの逢瀬を心ゆくまで楽しみたい。
ギルドの扉を押し開け、まばゆい陽光の下へと踏み出す背中を見つめながら、私は駆け寄り、彼の逞しい腕に自らの豊かな胸を押し当てるようにして絡みついた。
薄絹越しに乳首が擦れ、下腹部の奥が小さく疼く。
「さあ、行こうか、ワタル。……いや、私のダンナ様♡」
耳元へ顔を寄せ、蕩けるような吐息とともに甘く囁くと、ワタルは困ったように、けれどどこか嬉しそうに頬を緩めるのだった。
〜 続く 〜第十四章 アリア・フォン・シルフィード視点
宿屋の薄汚れた安ベッドの上、私は気だるく熱を帯びた肢体を伸ばし、天井を仰ぎ見た。
窓から差し込む陽光が幾度巡ったのか、もはや数える気すら起きない。
かつての私は、一体どこへ消えてしまったのだろう。
薙刀の長柄を血豆で汚し、固い晒で胸を締め上げ、冷たい鉄の鎧に身を包んでいた日々。
「男などに屈さぬ」「万夫不当の将軍となって祖国に尽くす」――あれほど頑なに、命を賭して守り通そうとしていたはずの「武人の誇り」も「将軍の夢」も、いまや遠い前世の戯れ言のようにしか思えなかった。
凛とした声で号令を下していた口元は、いまやワタルの名を切なく呼び、甘い嬌声を漏らすためだけに蕩けている。
男兵士を容赦なく薙ぎ倒していたしなやかな脚は、彼の腰にすがりついて離さないための鎖へと変わってしまった。
太腿の内側が、まだ微かに熱を帯びて湿っているのを感じる。
ただひたすらに、ベッドの上でワタルと貪り合うように交わり続ける日々。
「……んっ、あ……ワタル……もっと、私を……」
微睡みの中、隣に横たわる彼の手の温もりが素肌に触れるだけで、背筋を甘美な電流が駆け抜ける。
薄絹の下で乳首が硬く尖り、布地に擦れて疼く。
太腿の内側がじわりと熱くなり、愛液が滲み出す感触がする。
かつては他人の視線一つで「無礼者」と刃を向けていたこの身体が、彼に触れられるたび、露を宿した花びらのように無防備に開かれ、歓喜に震えてしまうのだ。
彼と結ばれるたび、魂の奥底から甘露のような経験値が雪崩れ込み、私の才能限界は天井知らずに押し広げられ、第六階梯まで完全覚醒した全六スキルの神威が全身の隅々まで満ち溢れていく。
武芸の頂点を目指して血反吐を吐いていたあの修練は何だったのか。
男の腕の中で蕩け、愛し合うことこそが、私を神話の領域へと押し上げる唯一の道だったなど――なんという甘く、残酷で、愛おしい真実だろう。
もちろん、この甘美な籠城の最中、無粋な邪魔が入らなかったわけではない。
「借りを返してやるぜ、あの時の落とし前きっちりつけさせてもらうからなぁ!」と、目や鼻を真っ赤に腫らし、復讐の炎を燃やして血眼になったボマーが手下を引き連れて怒鳴り込んできたり、「愛玩品として囲い直してやる」と息巻く第二王子エドワードが放った近衛の手勢どもが、この安宿の扉を蹴破ろうと入れ替わり立ち替わり押し寄せてきたのだ。
だが――それらはすべて、部屋の敷居を跨ぐことすら許されなかった。
扉の隙間から見えたのは、ワタルの常軌を逸した膂力。
神の恩寵を持たぬゆえに、すべてのレベルアップ補正が基礎身体能力へと極振りされた彼の肉体は、もはや人間どころか最上級の魔獣すら凌駕している。
かつて威張り散らしていた巨漢のボマーなど、あの愛用のナイフを抜くまでもなかった。
大斧を振り上げる動作すら止まって見えるほどの超絶反応の中、ワタルが何気なく繰り出した指先一つのデコピン――それだけで、ボマーの巨体は弾丸のように吹き飛び、手下どもを巻き込みながら廊下の突き当たりの壁に激突して一瞬で白目を剥いた。
続けて押し寄せてきた鎧姿のエドワードの近衛兵たちですら、ワタルが軽く人差し指で額や胸板を弾くだけで、鋼鉄の兜ごと衝撃でへし折られ、小枝のように吹き飛んで転がっていく。
武器を構えることすら馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、指先一つで手勢を一掃されたエドワード王子は、廊下の奥で尻餅をついて顔面蒼白になり、自らの失禁に濡れながら這い逃げていった。
その無様な後ろ姿は、実に滑稽で痛快極まりない見ものだった。
私との交歓によって得られる二十四時間のステータス超絶倍率バフまで乗った今の彼に、この街の有象無象やゴロツキごときが束になって敵うはずなどないのだ。
(ふん……全く、野暮にも程がある連中だ。せっかくの甘い逢瀬に水を差しおって)
下腹部の奥が、ワタルの熱を思い出して小さく疼く。太腿の内側がじわりと熱くなっていく。
暴徒を蹴散らして部屋に戻ってきたワタルは、どこか居心地悪そうに頭を掻きながら、乱れたシーツの上に倒れ込んできた。
返り血ひとつ浴びていないその逞しい身体。
かつては「無骨な異端者」としか見えなかったその胸板に、私はたまらず自ら擦り寄っていた。
「……もう、邪魔者はいなくなったな?」
「ああ。だがアリア、お前、少しは休まないと……」
「嫌だ。休むなど、勿体ない……」
かつて他人に懇願することなど一度たりともなかった私が、潤んだ翠の瞳で彼を見上げ、胸板に指先を這わせる。
将軍の威厳など、一片の欠片すら残っていない。
ただ、愛する男に抱かれたくて堪らない、一人の雌としての本能が疼いてやまないのだ。
指先が彼の胸を這うたびに、下腹部の奥が熱く疼き、太腿が勝手に擦れ合う。
「私の熱を……もっと奪ってくれ、ワタル。お前のその人外の腕で、骨が軋むほどきつく抱きしめて……私を、満たして……っ」
囁きながら、私は自らの紅い唇を彼の唇へと重ねた。
重ね合わせた瞬間、舌先が絡み合い、甘い吐息が混ざり合う。
武芸のために鍛え抜いたはずの口腔と喉の奥が、彼を受け入れるたびに甘美な蜜を滴らせ、歓喜の震えを全身へと送り届ける。
ワタルの大きな手が私の腰を引き寄せ、再び重なり合うと、安宿の部屋はたちまち濃密な愛の熱気で満たされていった。
太腿が彼の腰に絡みつき、奥をきつく締めつけながら、熱い蜜が溢れ出す。
かつて戦場で振るっていた薙刀の鋭さは、彼の背中を優しく掻き抱く指先の熱情へと変わり、敵を威圧していた澄んだ声は、切なく彼を求める啼き声へとほどけていく。
幾度果てても満たされず、ただ互いの肌と魂を溶かし合う至福。
世界が滅びようとも、この腕の中さえあればいいと、本気で思っていた。
――だが、そんな至福の時間にも、無情な終わりが訪れる。
来るものが、来た。
「……カラン」
ワタルが逆さにした革袋から、情けない金属音が響いた。
二人して顔を見合わせ、数秒の静寂。
――財布の底をつき、宿代が尽きてしまったのだ。
「……仕方ない、チェックアウトするか」
ボロ布のマントを羽織り、少し名残惜しそうに頭を掻くワタルに促され、私も起き上がった。
気だるく、けれど驚くほど軽やかな身体に、薄絹の正装を纏い直す。
背中には、かつて命のすべてだった白木の薙刀を背負った。
かつては死ぬほどの屈辱でしかなかった、肌の露出が多い神聖娼婦の衣服。
だが、いまや鏡に映るその姿は、ワタルの愛を一身に浴びて艶めき、彼に愛された証として誇らしくすらあった。
宿を出た私たちは、冒険者ギルドへ向かう前に王都の目抜き通りに広がる市場へと足を向けた。
両脇にずらりと並ぶ屋台からは香ばしい焼き肉や甘い果実の匂いが立ち込め、朝の活気に満ち溢れている。
歩道を行き交う商人や冒険者、買い物客の視線が、一斉に私へと突き刺さった。
無理もない。
討伐の証である白木の薙刀を背負いながら、身に纏っているのは肌を惜しげもなく晒した神聖娼婦の薄絹なのだ。
豊満な胸元の谷間、歩くたびにスリットから覗く抜けるような白磁の太もも、そしてワタルと愛し合った余韻を微かに漂わせる瑞々しい肌。
男たちの視線は瞬く間に垂涎と露骨な色情で濁り、息を呑む音がそこかしこから漏れ聞こえてくる。
かつての私であれば、「無礼者」と一喝して刃に手をかけていたことだろう。
だが、いまの私は違う。
突き刺さる無数の視線を受け止めても、不快感など微塵も湧かなかった。
むしろ【愛欲の視線受容(パッションレセプター)】によって男たちの欲望をそっくり己の力へと変換し、心地よい熱として全身に巡らせる余裕すらある。
視線が胸元や太腿を這うたび、下腹部の奥が小さく疼き、頬がわずかに熱を帯びる。
甘いフェロモンが自然と立ち上り、周囲の男たちの喉を鳴らさせる。
「ふふ……」
私は薄く紅い唇に妖艶な笑みを浮かべ、あえて男たちの熱い視線を堂々と受け流しながら、隣を歩くワタルの腕をぎゅっと抱き寄せた。
自らの柔らかな胸の膨らみを、彼の逞しい二の腕へ惜しげもなく押し当て、すり寄せるようにしなだれかかる。
「ワタル、あの果実、とても甘そうな匂いがするぞ。一口食べてみたいのだが……よいか? それぐらいは銅貨は懐に残ってたであろ?」
「お、おいアリア……くっつきすぎだって。周りの視線が痛いんだけど……」
気恥ずかしそうに頬を掻くワタルを見上げ、私はくすりと喉を鳴らした。
周囲の男たちが、自分たちの手の届かない絶世の美女が、ボロ布のマントを羽織ったみすぼらしい青年に甘え切っている姿を見て、嫉妬と羨望で顔を歪めている。
それがたまらなく誇らしく、愛おしかった。
その時だった。
「――あれ? アリアちゃん……!?」
人混みの向こうから、聞き覚えのある明るい声が響いた。
振り返ると、買い出しのカゴを手にした金髪の女性――娼婦ギルドで孤立無援だった私に唯一親身に世話を焼いてくれた先輩娼婦、マリーだった。
「マリーか」
「アリアちゃん、無事だったの!? 顔の赤い隈取り……消えてる……!?」
駆け寄ってきたマリーは、私の顔をまじまじと見つめ、驚愕に目を見開いた。
無理もない。
数日前、私がギルドを飛び出した時には、ノルマ未達による神罰の最後通牒である朱の隈がくっきりと浮かび上がっていたのだから。
それが跡形もなく消え去り、それどころか以前を遥かに凌駕する瑞々しい輝きと艶気を放っているのだ。
「心配をかけたな、マリー。だが……もうノルマの心配は要らない」
「えっ……? ど、どういうこと?」
戸惑うマリーに対し、私はワタルの腕をさらに強く抱きしめ、とびきり甘く誇らしげな微笑みを浮かべて告げた。
「この人が、私の生涯の伴侶となってくれたのだ。……私のノルマも、神罰の呪いも、すべてこの人がその身一つで鎮め、払ってくださった」
「は、伴侶……!? この人が!? 話早すぎでしょ!!」
マリーは驚きのあまり、まじまじとワタルの顔を見つめた。
突然話を振られたワタルは、居心地悪そうに「あ、どうも……」とマリーへと視線を向けた。
その瞬間――。
マリーの身体が目に見えてビクッと跳ね上がり、呼吸を呑んで凍りついた。
同じ娼婦として【愛欲の視線受容】を持つ彼女のことだ。
ワタルが無意識に放った視線の奥にある、人知を超越した魂の質量と底知れぬ深淵を、その身で察知してしまったのだろう。
ガクガクと膝を震わせ、みるみるうちに血の気を引かせていくマリーの姿が目に入った。
かつて頑なに男を拒んでいた私が、なぜこうして蕩けた顔で一人の男にしなだれかかっているのか――その理由を、彼女は肌で理解したに違いない。
「わ、わかった……納得したわ……! アリアちゃん、あんた……本当にとんでもない人を捕まえたのね……!」
震える声でそう絞り出すマリーを見つめ、私は妖艶に目を細め、誇らしく頷いてみせた。
「ふふ、そうだろう。……さあ行こう、ワタル。ギルドで依頼を片付けたら、また二人きりでゆっくりしようではないか♡」
青ざめるマリーに見送られながら、私たちは市場を抜け、冒険者ギルドへと向かった。
目的はただ一つ、宿代と生活費を稼ぐこと。
ギルドの重い扉を押し開けると、かつて私を品定めするように見つめ、あるいはボマーを恐れて蜘蛛の子を散らすように避けていた冒険者たちが、息を呑んで一斉に道を開けた。
すでにボマーの失脚と、エドワード王子の近衛部隊が壊滅した報せはギルド中に知れ渡っているのだろう。
彼らが見つめるのは、もはや神罰に怯える孤立無援の哀れな娼婦ではない。
規格外の異端者を隣に引き連れ、白磁の肌を神々しく輝かせる、人知を超えた異形の強者たちだ。
私たちは掲示板へ向かうと、そこにあった討伐依頼、ダンジョン深層の探索依頼、受けられる依頼を片っ端からすべて毟り取った。
「おいおい……それ、全部受けるのかよ……?」
受付の職員が震える声で尋ねてきたが、私は薄く紅い唇を吊り上げて微笑むだけにとどめた。
心配など、微塵もしていない。
今のワタルは、文字通り無敵だ。
どのような凶悪な魔物の群れが立ち塞がろうと、彼がその人外の力で粉砕してしまうだろう。私が出る幕など、おそらく薙刀の先を汚す程度にもありはしない。
早く依頼を片付け、魔石と報酬を山のように換金しよう。
そして――今度はこんな埃っぽい安宿ではなく、王都で一番豪奢な高級宿の、ふかふかの天蓋付きベッドで、誰にも邪魔されずにワタルとの逢瀬を心ゆくまで楽しみたい。
ギルドの扉を押し開け、まばゆい陽光の下へと踏み出す背中を見つめながら、私は駆け寄り、彼の逞しい腕に自らの豊かな胸を押し当てるようにして絡みついた。
薄絹越しに乳首が擦れ、下腹部の奥が小さく疼く。
「さあ、行こうか、ワタル。……いや、私のダンナ様♡」
耳元へ顔を寄せ、蕩けるような吐息とともに甘く囁くと、ワタルは困ったように、けれどどこか嬉しそうに頬を緩めるのだった。
〜 続く 〜