将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜 作:夜叉五郎
王都で一番の超高級宿、その最上階にある天蓋付きのスイートルーム。
m俺はふかふかの巨大なキングサイズベッドに沈み込みながら、天井の華美なシャンデリアをぼんやりと見上げていた。
「……なぁアリア、さすがにやりすぎじゃないか? もう三日部屋から一歩も出てないぞ」
隣でシーツを腰に巻きつけたアリアが、艶やかな黒髪をかき上げながら、熱っぽく潤んだ翠の瞳で俺を見つめてきた。
抜けるような白磁の肌は桜色に染まり、濡れた赤い唇からは甘い吐息が零れている。
「何を言うのだ、ワタル。お前と交わるたび、私の魂の器――才能限界が押し広げられ、際限なく力が満ちていくのだぞ? これほど合理的で、かつ至福の鍛錬が他にあるものか」
「鍛錬って……言い訳が武人すぎるだろ……」
呆れながらも、俺は苦笑した。
あの日、ギルドで受注した高ランク依頼を片っ端から片付け、大量の魔石と報奨金を手に入れた俺たちは、そのままこの高級宿へと雪崩れ込んだ。
俺の基礎ステータスはとっくに人外の領域を突破している。
アリアとの情交による【交歓の恩寵】の倍率バフが上乗せされると、ダンジョンの魔物などただの経験値の塊にしか見えなかった。
そしてアリアもまた、俺と交わるたびに才能限界の壁を軽々と突き破り、全六スキルの神威を極限まで研ぎ澄ましていた。
だが――そんな極楽のような籠城生活に、無粋な横槍が入った。
『――ウゥゥゥゥゥッ!! カンカンカンカンッ!!』
突如、窓の外からけたたましい鐘の音と警笛が王都中に鳴り響いた。
ただ事ではない。
俺が上半身を起こして窓のカーテンを引くと、眼下に広がる大通りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「な、なんだありゃ……!?」
王都の中央に口を開ける地下ダンジョンの大穴から、おびただしい数の異形のモンスターが津波のように溢れ出していたのだ。
騎士団の防衛線は一瞬で決壊し、逃げ惑う市民や冒険者たちが次々と薙ぎ倒されている。
ダンジョン・スタンピード。
「ワタル、見ろ!」
アリアが窓の外、路地の一角を鋭く指差した。
そこでは、金髪を乱した一人の女性が、二匹の凶暴なオークに追い詰められ、石畳の上に腰を抜かしていた。
「……あれは、先輩のマリーだ!」
切迫したアリアの声に、俺は即座に状況を察した。
以前、一度市場で見かけたことがある。
確か孤立無援だったアリアの面倒を見てくれた恩人だ。
見捨てる理由はない。
「ちっ……行くぞアリア! お前の恩人に死なれちゃ寝覚めが悪い!」
「うむ!」
俺たちは瞬時に衣服を纏い、ホテルの窓を蹴って地上へと飛び降りた。
数十メートルの落下など、俺の常軌を逸した耐久ステータスと、アリアの研ぎ澄まされた体幹の前にはそよ風のようなものだ。
ドォォォンッ!と地響きを立てて着地した俺は、怯える女性へ棍棒を振り下ろそうとしていたオークの顔面へ、迷わずノーモーションの右ストレートを叩き込んだ。
頭部が粉々に弾け飛び、巨体が吹き飛ぶ。
間髪入れず、もう一匹の背後へ回り込んだアリアの薙刀が一閃し、巨躯が音もなく両断された。
「ひ、ヒィッ……!? え……ア、アリアちゃん……!?」
血煙が舞う中、マリーが涙目で呆然と俺たちを見上げる。
その視線は、かつて見たことのない神々しい強さを放つアリアと、隣で拳を握る俺の姿を信じられない面持ちで捉えていた。
「マリー先輩、無事か! 一体ダンジョンで何が起きた!?」
アリアが問いかけると、マリーは震える声で叫んだ。
「わ、分からないの……! 最深部でとんでもない魔力の暴走が起きて、封印されていたはずの神話級の『邪竜』が目覚めちゃったらしいのよ! コアが狂って魔物が地上へ押し出されてる……あれを倒さない限り、王都は全滅よ……っ!」
「邪竜ね。オッケー、元栓を閉めればいいんだな」
「ワ、ワタル君!? 近衛騎士団ですら全滅しかけてるのよ!? 二人だけで行く気!?」
制止するマリーを背に、俺とアリアは顔を見合わせて笑った。
「さっさと片付けて、宿のベッドに戻るぞ」
「ふふ、望むところだ、ダンナ様♡」
俺たちは逆流するようにダンジョンへと突入した。
――群がる上位魔物の群れなど、道端の小石を蹴散らすのと変わらない。
俺のサバイバルナイフと人外の膂力、そしてアリアの華麗な薙刀術が、最深部の未踏層へと最短距離で道を切り拓いていく。
そして、かつて厳重な結界が施されていたと思しき大空洞に現れたのは、城塞ほどもある漆黒の巨躯――いにしえの封印から解き放たれた災厄、変異邪竜だった。
足元には噛み砕かれた無数の武具の残骸が散らばっている。
天地を揺るがす咆哮とともに、邪竜が灼熱の極大ブレスを吐き散らす。
「アリア、視線(ヘイト)を稼げ!」
「任せろ! ――【発情の淫舞】!」
アリアが腰を流麗にくねらせて前線へ躍り出る。
神聖娼婦の至高の舞いが邪竜の意識を釘付けにし、その殺意と威圧を【愛欲の視線受容】で吸収、己のステータスへと爆発的に変換していく。
ブレスの直撃コースへ、俺が割って入る。
「――邪魔だッ!!」
不壊のサバイバルナイフを真っ向から振り下ろし、概念すら断ち切るように竜の息吹を真っ二つに両断。
そのまま超高速の踏み込みで邪竜の眉間へと跳躍し、至近距離から熊避けスプレーの全噴射をその巨大な眼球へぶち込んだ。
『グギャオオオオオオンッッ!?』
視界と粘膜を焼かれて狂乱する邪竜の頭上へ、第六階梯の魔力を纏ったアリアの薙刀が、閃光となって振り下ろされた。
『ズバァァァァァァッッ!!』
巨大な竜の首が、ドスンと大地に落ちる。
これでダンジョンの最下層に存在するダンジョンコアも正常に戻るだろう。
スタンピードの悪夢は完全に沈静化した。
そして、消滅した変異邪竜の亡骸の跡には――眩い神話級の光芒とともに、一つのドロップアイテムが残されていた。
それは、黒く妖しい光沢を放つレザーと金属ストラップだけで構成された、ボンテージ風のビキニアーマーだった。
防御力こそ神話級の加護を帯びているものの、布地と呼べる部分は最小限しかなく、明らかに身に着ける者の豊満な胸元や引き締まったウエスト、白磁の太ももを限界まで露わにし、挑発的に誇示するための防具だった。
「……なぁアリア、これ、防具っていうか……」
俺が思わず引き気味に苦笑いを漏らすと、アリアは迷うことなくその漆黒の鎧を拾い上げ、愛おしそうに撫でた。
そして、自らの豊満でしなやかな肉体へ滑らせるように装着すると、抜けるような白肌の上に黒革のストラップを食い込ませ、紅い唇を三日月のように吊り上げて艶然と微笑んでみせた。
「ふふ、素晴らしいではないか。これほど軽快に動けて、しかも男たちの視線を集められる鎧など他にないぞ」
「いや、でもアリア、普通の服を着たら肌を隠したペナルティで神罰カウントが爆走するんだろ? そんな変な鎧を着て大丈夫なのかよ」
「案ずるな、ワタル。見ての通り、この鎧の露出度は神殿から賜った『神聖娼婦の正装』に勝るとも劣らん。胸も腹も太ももも、すべてが惜しげもなく陽光と視線に晒されている。――愛欲の女神様も、この破廉恥な姿を見れば『実に素晴らしい役務の装いだ』と大満足でお認めになるはずだ。神罰の対象などには微塵もならん、私が保証しよう」
「女神公認のビキニアーマーかよ……。まあ、似合ってるしアリアが無事ならいいけどさ」
黒革の光沢が、アリアの眩いばかりの白磁の肢体をこれ以上ないほど鮮烈に引き立てている。
かつて薄絹を纏わされて「こんな破廉恥な布切れを着て歩けるか」と床に項垂れていた生真面目な武人令嬢の面影は、もはやどこにもない。
自らの美貌と肉体が男たちの理性を狂わせる至高の凶器であることを完全に自覚し、それを俺のため、そして己の武のために手玉に取って見せる――前人未到の第六階梯に達した、誇り高き愛欲の武神の姿がそこにあった。
「……む? これは……」
ふと、アリアが自身の豊満な胸元や腰回りのレザーストラップに指先を滑らせ、不思議そうに瞬きをした。
「どうした、アリア?」
「いや……この防具の銘は【邪竜皇の縛帯衣(カラミティ・ボンテージ)】というらしいのだが、特殊スキルが付与されているようだ。【深淵の情欲視(デザイア・ピアシング)】……向けてきた者の欲望を感知する、とあるな。……少し試してみるか」
アリアは細めた翠の瞳を、すっと俺に向けた。
黒革のブラから零れんばかりの双乳を誇示するように胸を張り、首をわずかに傾げて、俺の視線を真っ向から受け止める。
無防備に晒された白磁の腹部、細いストラップが食い込む引き締まった太もも。
こんな姿を目の前で見せつけられれば、男として下腹部が熱く滾らないはずがない。
俺が無意識にゴクリと喉を鳴らした、その瞬間――
「っ……あ……っ」
アリアの透き通るような白い頬が、ぽっと鮮やかな朱に染まった。
翠の瞳がとろんと潤み、息を呑んで自身の胸元を抱きかかえるように身を縮こまらせる。
その妖艶な動揺ぶりに、俺は思わずたじろいだ。
「お、おい、大丈夫か? 変な呪いでもかかったのか……!?」
「ち、違う……っ。そうではない……っ」
アリアは熱っぽい吐息を漏らしながら、濡れた瞳で俺をじっと見上げてきた。
その紅い唇が、恥じらいと愛おしさを噛み締めるように微かに震え、やがて甘く蕩けた笑みを象っていく。
「ふふ……まったく、ワタルという男は……。視線を向けた者の『欲望の形』が手にとるように視えてしまうのだぞ、このスキルは……」
「えっ……? あ、いや、それは……」
己の頭の中の邪念が丸裸にされたのだと気づき、俺の顔が一気に火を噴いたように熱くなる。
そんな俺の慌てぶりを見て、アリアは愛おしさに耐えかねたようにふふっと喉を鳴らし、しなやかな指先を俺の胸元にそっと絡め寄せてきた。
「……そんなに、私を抱き潰したいのか? この黒革のストラップを引き千切る勢いで組み敷き、声を枯らすほどヨガらせまくりたいのか……? ふふっ、頭の中が私の乱れた姿でいっぱいではないか、ダンナ様……♡」
「なっ……! アリア、それは反則だろ……!」
「反則などではない、防具の正当な機能だ。……だが、そうか。そこまで私の躰を激しく求めてくれているのだな」
アリアは染まった頬のまま、上目遣いに紅い舌をちろりと覗かせ、悪戯っぽく、そして底知れぬ色香を漂わせて囁いた。
「良いぞ、ワタル。――その挑戦、受けて立つぞ♡」
妖艶に目を細めたアリアの宣戦布告に、俺の理性の箍はあっけなく吹き飛んだ。
薄暗いダンジョンの奥底から王都へと戻った俺たちは、迷うことなく直行した。
もはや定宿となり、王都で一番の格式を誇る超高級宿――その最上階にある天蓋付きのスイートルームへ。
――ふかふかの巨大なキングサイズベッドに雪崩れ込むや否や、俺たちは貪るように互いを求め合う。
だが、この【邪竜皇の縛帯衣】を脱ぎ捨ててしまっては【深淵の情欲視】のスキルが使えなくなってしまう――などという心配は、一切無用だった。
さすがは愛欲の女神公認の防具というべきか、実に用意のいいことに、秘部や胸元の肝心なところだけがジッパーで開閉できる極めて実用的な仕立てになっていたのだ。
黒革のストラップが抜けるような白肌に食い込んだままのボンテージ姿で、ジッパーを開け放ち、火照った素肌を直に重ね合わせる。着衣の緊縛美と淫靡さが入り混じるその光景は、一糸まとわぬ全裸よりも遥かに男の情欲を煽り立てた。
アリアの言う通り、それは前代未聞の「挑戦」だった。
身に着けたままの【深淵の情欲視】で俺の頭の中にある欲望を余すところなくリアルタイムで読み切ったアリアは、俺がどう触れられたいか、どこを突かれれば狂うのかを完全に把握した上で、第六階梯に達した至高の【口技】や【穴技】を容赦なく叩き込んできたのだ。
「あはっ……♡ どうだワタル、望み通り組み敷いて、声を枯らすほどヨガらせてみろ……っ! だが……っ、私に搾り尽くされて腰を抜かすなよ……っ!」
「っ……! 言われなくても、途中で泣きついたって逃がさねぇからな……!」
互いに限界を超えて腰を打ち付け合い、濃密な愛液と甘い吐息を部屋中に充満させる。
神話級の変異邪竜を討伐したことで得た莫大な経験値など、ほんの小手調べに過ぎなかった。
俺とアリアが魂の芯まで溶かし合うように交わるたび、【交歓の研鑽】が規格外の奔流となって雪崩れ込み、邪竜討伐の数十倍、数百倍もの経験値が天井知らずに二人を満たし、ステータスと才能限界を異次元の高みへと押し上げていく。
朝が来て、夜が訪れ、それが何度繰り返されたかもわからない。
ただひたすらに、ベッドの上で果てのない愛の交歓に溺れ、互いの限界を塗り替え続ける至福の籠城生活。
――そして、俺たちがそうやって部屋から一歩も出ずに濃密な愛欲に耽っているその間に、外の世界ではギルドと騎士団の調査が進み、あのスタンピードの大騒動を引き起こした驚くべき真相が明らかになっていたのだった。
発端は、あのゴロツキ冒険者のボマーだった。
俺に手も足も出ず叩きのめされ、安宿でも指先一つで撃退されたボマーは、プライドをズタズタに引き裂かれて狂乱。
「奴を殺す力が欲しい、伝説の武器さえあれば!」と血眼になり、取り巻きを連れて実力不相応な最深部の未踏層へと無謀な特攻を仕掛けたらしい。
そして最深部で見つけた「いにしえの神々が施した邪竜の封印」を、あろうことか「強力な古代兵装の封印」と勘違いし、力任せに解いてしまったのだ。
目覚めた邪竜に力を与えられるはずもなく、ボマー自身は復活した邪竜の最初のおやつとして、悲鳴を上げる間もなく頭からバリバリと喰い殺された。
運良く腰を抜かして岩陰に隠れ、命からがら逃げ延びた手下の一人が、街で保護された後に涙と鼻水を垂らしてすべてを白状したのだという。
……まあ、ボマーをそこまで精神的に追い詰めた原因を辿れば、俺とアリアのせいと言えなくもない。
「……なぁアリア、これ、半分くらい俺たちのせいじゃないか?」
「ふっ、何を言うか。身の程知らずの豚が勝手に自爆して勝手に喰われただけだ。我々には塵芥ほどの非もない」
「だよな。よし、俺たち何も聞いてないし知らないってことで通そう」
二人して顔を見合わせ、綺麗さっぱり知らぬ存ぜぬを貫くことに決めた。
――数日後。
救国の英雄として、俺とアリアは王城へと呼び出された。
謁見の間に通される前、俺たちは王城の奥にある貴賓用の控室で待たされていた。
部屋の壁面には、建国神話を彩る巨大な油彩画が恭しく掲げられている。
稀代の英傑たる建国王を中心に、その一族や歴代の重臣たちが並ぶ壮麗な肖像画だ。
アリアは革張りのソファーから立ち上がると、その絵の前に歩み寄り、腕を組んでじっと見上げていた。
視線の先にあるのは、建国王の隣で凛々しく微笑む麗人――初代王妃の姿だ。
「……ふむ」
何やら得心がいったように、アリアが小さく顎を引いて頷く。
「どうした、アリア?」
「いや……マリーから聞いた伝説を思い出してな。初代王妃様は水揚げの折、建国王様のおかげで固有スキルを五つも解放したと聞いた。だが、なぜ六つ全てではなかったのか……ずっと疑問だったのだ」
「へぇ、それで絵を見て分かったのか?」
「ああ。見てみろ、ワタル。あの王妃様の胸元を」
アリアに促されて絵画に目を凝らすと、豪華絢爛なドレスを纏った初代王妃の胸元は、なんというか……実に慎ましい。控えめを通り越して、ほぼ平坦と言っていいほどの見事な「ちっぱい」だった。
「なるほどな……【乳技】の素養だけは、物理的に満たせなかったというわけか」
「うむ。あれではどれほど建国王様が英雄であろうと、挟む肉が存在すまい。五つで頭打ちになったのも至極納得だ」
アリアは得心の笑みを浮かべると、自らの豊満な胸元へとすっと視線を落とした。
細い革ストラップに押し上げられ、こぼれ落ちそうに自己主張している白磁の双丘。
初代王妃に勝るとも劣らぬ武人としての矜持に、たわわな果実の説得力が加わり、アリアはどこか誇らしげにふふんと鼻を鳴らした。
そんな他愛のないやり取りをしていた時だった。
控えめなノックとともに扉が開き、銀のトレイにお茶を載せた若い女官が入ってきた。
「し、失礼いたします……救国の英雄様に、お茶を……」
栗色の髪を上品に結い上げた、いかにも育ちの良さそうな小柄な女性だ。
深々と頭を下げて室内へ入ってきたのだが――ふと顔を上げた瞬間、彼女の身体がピシリと凍りついた。
ガタッ、とトレイの上の銀器が耳障りな音を立てて激しく揺れる。
「ひっ……え……!?」
女官の瞳が、信じられないものを見るように見開かれていた。
その視線の先にあるのは、部屋の中央で堂々と佇むアリアだ。
邪竜のドロップ品である漆黒のボンテージ風ビキニアーマーを纏ったアリアは、細い革ストラップが食い込む豊かな胸元や引き締まったウエストを惜しげもなく晒し、抜けるような白磁の肌をこれでもかと際立たせている。
俺から見ても目の毒すぎる露出だが、目の前の女官の取り乱し方は明らかに尋常ではなかった。
顔から急速に血の気が引き、ガタガタと膝を震わせている。
「ア……アリア、様……!? な、なんで、そんな格好を……!?」
女官のうわずった声を聞いて、アリアが涼しげな翠の瞳を向けた。
知り合いなのか?
俺が不思議そうに眉をひそめると、アリアは気負う様子もなく、ふっと口元を緩めて口を開いた。
「ワタル、紹介しよう。こちらは士官学院時代の同級生で、子爵令嬢のクラリスだ。……昔は何かと話す機会も多かったのだが、私が『娼婦』のクラスを授かってから、何かと忙しくて疎遠になってな。元気だったか?」
「へぇ、同級生か」
アリアの言葉遣いは穏やかで、大人の対応そのものだった。
だが、その直後――クラリスの激しい動揺の視線を受けたアリアの唇が、ふっと悪戯っぽく吊り上がった。
数日前、ダンジョン最深部でこの鎧を手に入れた時、アリア自身が教えてくれた特殊スキル――【深淵の情欲視】。
向けられた視線から相手の欲望を読み取るというあの邪竜の力が、いま働いたのだと隣にいてすぐに分かった。
クラリスが胸の内に隠している打算や下心のようなものが、アリアにはまるで見透かせてしまったのだろう。
アリアは俺の腕にすっと自慢げに寄り添い、豊満な胸の柔らかさを押し当てながら、クラリスへとさらりと言葉を重ねた。
「お前は王城で女官を務めていたのだな。息災そうで何よりだ。城勤めならば男を選び放題ではないか。王都中の身分の高い立派な男たちがいくらでも揃っているだろう。……私のように、良い伴侶が見つかるといいな」
――あ、こいつ、相手の一番痛いところを正確に突いたな。
アリアの言葉を聞いた瞬間、俺はそう確信した。
アリアとしては、かつて手のひらを返された相手の浅ましい本音を覗き見て、軽くチクリと刺してやった程度のつもりだったのかもしれない。
だが、クラリスの反応は見ていて気の毒になるほど劇的だった。
「っ…………!!」
クラリスの喉から、ヒュッと息の詰まる音が漏れた。
誰にも言えない心の奥底の欲望をど真ん中から射抜かれたのか、顔が真っ赤に沸騰したかと思えば、次の瞬間には血の気を失って真っ青に脱色していく。
反論しようと引き攣った唇を開くが、アリアの放つ圧倒的な武威と色香に気圧され、喉が痙攣して声すら出ないようだった。
「あ……う、ふふ……は、はい……ありがとうございます、アリア様……ふふ……っ」
クラリスはトレイを持つ指先を白くなるほど震わせ、屈辱と敗北感のあまり今にも膝から崩れ落ちそうになりながら、泣き出しそうな愛想笑いを必死に顔に張り付けることしかできなかった。
ちょうどそのタイミングで侍従が迎えに来る。
「では行こうか、ワタル。陛下がお待ちだ」
「おう」
完全に心が折れて竦み上がるクラリスを一瞥もせず、俺とアリアは腕を組んで控室から出て渡り廊下を渡る。
案内の侍従の合図で、謁見の間へと通じる大扉を押し開けられた。
――重厚な大扉が左右に開き、俺とアリアは絢爛豪華な謁見の間へと足を踏み入れる。
広間には、この国の重鎮や高位貴族たちが居並んでいた。
ざわめきの中を進む俺はいつも通りの普段着だったが、隣を歩くアリアの姿に、広間中の男たちが一斉に息を呑み、生唾を飲み込む音がそこかしこから響いた。
黒革のストラップと極小の布地だけで構成された、漆黒のボンテージ風ビキニアーマー。
白磁のように透き通る柔らかな肌、豊かな胸の谷間、キュッと引き締まった細い腰が惜しげもなく晒されている。
数百人もの男たちから突き刺さる、あからさまで下卑た視線。
だが、アリアは眉ひとつ動かさず、完璧な営業用の上品な笑みを紅い唇に貼り付けていた。
玉座を見上げると、そこには国王リチャードが座っていた。
その脇には、第二王子エドワードとその婚約者エレオノーラ。
そしてもう一人、金の刺繍が施された豪奢な礼服を着た長身の男――第一王子のヘンリーの姿もあった。
二人の王族は、まさに「これが弟(息子)が血眼になって執着していたシルフィード家の令嬢か」とばかりに、興味津々の生々しい視線でアリアの白い素肌を頭から爪先まで舐め回している。
エドワードの父と兄だけあって、揃いも揃って好色の血筋らしい。
さらに玉座の脇に控える白髭の老宰相カシムまでもが、アリアの露わな肢体を見て、舌なめずりをしていた。
(……うわぁ、上から下まで見事なまでにスケベ面ばっかりだな)
俺が内心で引き気味に眺めていると、アリアが微かに眉根をピクリと動かした。
ダンジョン最深部で邪竜から手に入れた【邪竜皇の縛帯衣】――その特殊スキル【深淵の情欲視(デザイア・ピアシング)】。
向けられた視線から相手の心の奥底にある欲望をありのままに知覚するあの邪竜の力が、いまこの場で凄まじい勢いで発動しているのだと隣にいてすぐに分かった。
国王、第一王子、老宰相の視線を肌で受け止めた瞬間、アリアの脳内に奴らのドロドロとした欲望の形が生々しく流れ込んできたらしかった。
貼り付けた笑顔の奥で、アリアの翠の瞳が(……心底ウンザリだ)と言わんばかりに冷え切っていくのが、隣にいる俺には痛いほど伝わってきた。
玉座の前まで進むと、老宰相カシムが傲慢に顎をしゃくった。
「救国の英雄たちよ、前へ。……国王陛下の御前である。名を名乗りなさい」
「界道ワタルです。冒険者やってます」
「アリア・フォン・シルフィードです」
俺たちが淡々と応えると、カシムは咳払いをし、仰々しく広げた羊皮紙を読み上げようとした。
だが、その儀礼を遮るように、空気を一切読まずに割って入ってきた男がいた。
第一王子のヘンリーだ。
「待たれよ、宰相。褒賞の儀の前に、私から聞きたいことがある」
ヘンリーはニヤニヤとした締まりのない笑みを浮かべ、アリアの豊かな胸元を凝視しながら一歩踏み出した。
「アリア嬢。君の授かったクラスは【神聖娼婦】だと聞いている。……単刀直入に聞くが、いくら払えば私の相手をしてくれるのだろうか?」
広間が一瞬で静まり返った。
見てくれだけは立派な美男子だが、どうやら頭身のバランスに反してオツムが絶望的に弱いらしい。
その隣で、第二王子のエドワードが「兄上、この場で何を……」と恥と屈辱で顔を歪めていた。
(あぁ……エドワードの家庭環境、色々複雑なんだな……)
普段は傲慢なクソ王子だが、こんな頭の足りない好色な兄と父親に囲まれて育ったのかと思うと、俺はほんのちょっぴりだけエドワードに同情してしまった。
――その後、カシムが気を取り直して国王リチャードからの恩賞を読み上げた。
「其方らの武勇を称え、ワタルには男爵の爵位と領地、そして近衛騎士団・副団長の座を下賜する。我が王国に忠誠を誓い、共に繁栄を築くが良い」
だが――この時点で、俺はこの国に関わるメリットを完全にゼロだと見切っていた。
トップに立つ王族も宰相も、揃いも揃って欲情を隠せない無能か変態ばかり。
こんな連中の下について忠誠なんぞ誓ったら、面倒事と足の引っ張り合いに巻き込まれる未来しか見えない。
デメリットの塊だ。
アリアの横顔を見ても、かつて憧れていた「祖国」「将軍」という枠組みに対して、完全なる幻滅の色が浮かんでいた。
俺は耳の穴を小指でほじりながら、あっさりと告げた。
「あ、君臣の誓いとか縛られるの面倒なんで、爵位も騎士団長もいりません。報奨金の金貨だけもらえます?」
シーン、と謁見の間が凍りついた。国王も宰相も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
静寂を破ったのは、エドワード第二王子の激昂だった。
「き、貴様ッ! 無礼極まるぞ! 父上からの温情を袖にするか! どこの馬の骨とも知らぬ乞食風情が、アリアを囲って調子に乗りおって――!」
青筋を立てて喚き散らすエドワードに対し、列席していた実父シルフィード子爵も「王家への侮辱は許さん!」と剣の柄に手をかけた。
だが、動いたのはアリアだった。
「――騒ぐな、下劣共が」
冷徹な声とともに、アリアが紅い唇からフッと艶やかな息を吹きかける。
――【口技LvMAX:鉄腸蕩かしの吐声】。
見えない快楽波を脳天に浴びたエドワードは、「ひぎっ!?」と白目を剥き、股間を大量の白濁液で濡らしながら泡を吹いてその場に昏倒した。
「殿下ぁぁっ!?」とエレオノーラが悲鳴を上げる中、抜刀しかけたシルフィード子爵の喉元へ、目にも止まらぬ神速で薙刀の切っ先がピタリと突きつけられる。
圧倒的な殺気と武威。
「……動くな、父上。私の主はワタルだけだ。次にその鈍刀に触れてみろ、首を刎ねるぞ」
武神の領域に達した娘の気迫に、かつて傲慢にアリアを見捨てた父親は腰を抜かし、無様に床へとへたり込んだ。
横で竦み上がっていたレオナルドが情けない悲鳴を上げるが、アリアは一切容赦しなかった。
流麗な【足技】で弟の足を払い、床に転がすと、その股間をヒールで容赦なく踏み抜く。
「ぐぎゃあっ!? い、イクゥゥゥッ!!」
急所の経絡を刺激された弟は、強制的に絶頂させられ、白目を剥いて気絶した。
義母は「化け物よ!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。
静まり返り、恐怖で凍りつく謁見の間。
その混沌の壇上へ、アリアが凛とした声を響かせた。
視線の先にあるのは、玉座のリチャード王、第一王子ヘンリー、そして老宰相カシムだ。
「――報酬を受け取る前に、問いたい。いったいこの国の上層部は、どうなっているのだ!」
アリアの一喝に、リチャード王がたじろぐ。
「な、何を無礼な――、狂ったか!」
「狂ってるのは貴様たちだ! 貴様らはこの私の装いを、単なる破廉恥な痴態とでも思っているのか? ――否! これは王都を滅亡の危機に陥れ、貴様ら王族や近衛騎士団が束になっても手も足も出なかった、あの奸智に猛る変異邪竜を討伐して手に入れた【神話級のアーティファクト】だ!」
アリアの朗々たる宣言が、絢爛豪華な謁見の間の隅々まで雷鳴のように轟き渡る。
救国の英雄が討ち取った未曾有の災厄――その最深部の邪竜が遺した神話級の遺産という事実に、ざわめいていた貴族や騎士たちが息を呑み、誰もが反論の言葉を失って圧倒された。
「この【邪竜皇の縛帯衣】に宿る固有能力――【深淵の情欲視】は、視線を向けた者の心の奥底に眠る欲望の形を、余すところなく知覚する絶対の力! 貴様らが私に注ぐ下劣な視線を通じ、その胸の内に潜む浅ましい邪念など、すべて手に取るように視えているのだぞ!」
広間中の貴族たちが息を呑む中、アリアの容赦のない暴露と弾劾が炸裂した。
「国王リチャード! 貴様の性癖は『寝取り』だな! 家臣の妻たちを権力で奪うことに執心し、いま私に向けた視線の奥では――あろうことか、息子の婚約者であるエレオノーラ公爵令嬢を寝取ろうと画策している生々しい奸計が丸見えだぞ! すでに裏で甘言を弄して手懐け、二人きりの密会を重ねている現在進行形の不義密通の欲望がダダ漏れなのだ!」
「な……な、ななな……っ!?」
リチャード王が図星を突かれて顔面蒼白になり、玉座でガタガタと震えだす。
だが、アリアの鋭利な翠の瞳は、玉座の国王だけでなく、その足元で倒れるエドワードの傍らにいたエレオノーラをも鋭く射抜いていた。
「そしてエレオノーラ! 貴様も被害者のような顔をして取り繕うな! エドワード殿下の不甲斐なさに内心で見切りをつけ、国王の権勢と色香にほだされて『第二王子の妃で終わるより、国王の愛妾として宮廷を牛耳るのも悪くない』と、まんざらでもない笑みを浮かべて誘いに乗っかっている貴様のあざとい欲望も、すべて白日のもとに見透かせているぞ!」
「ひっ……!? な、何を根も葉もない出鱈目を……っ!」
エレオノーラは顔を真っ赤にして狼狽し、取り繕おうと言葉を詰まらせる。
だが、その恥じらいと計算が入り混じった表情そのものが、アリアの告発が事実であると雄弁に物語っていた。
そんなふしだらな令嬢に対し、アリアは一切の容赦なく、凛烈な気迫を込めて一喝を叩きつけた。
「かつて私を『高潔ぶった泥棒猫』と罵り、学院で喚き散らしていた女が、その舌の根も乾かぬうちに婚約者の父親の寝所へ滑り込もうとするなど――笑止千万! 誇りも節操もかなぐり捨てて権力に股を開く己の浅ましさに、少しは恥を知り、目を覚ませ!!」
「っ…………!!」
アリアの痛烈無比な一喝に、エレオノーラはまるで雷撃に打たれたかのように硬直した。
己の薄汚い打算を大衆の面前で完璧に暴き立てられ、かつて見下していたはずのアリアから浴びせられた絶対的な正論と武威の前に、エレオノーラは屈辱のあまり床にへたり込み、言葉を失ってガタガタと震えることしかできない。
その異様な光景を目の当たりにし、エレオノーラの父親である公爵が激昂して前に進み出た。
「国王陛下! これはどういうことだ! 我が娘を裏で誑かし、そのような破廉恥な関係を結ぼうとしていたのか!? エレオノーラ、貴様もだ! 公爵家の誇りをどこへ捨ててきたのだ!!」
(……うわぁ、地獄絵図だな)
俺は思わず頬を引きつらせながら、床に白目を剥いて倒れ伏しているエドワードを一瞥した。
もしも今こいつの意識があったらどうなっていただろう。実の父親が自分の婚約者を裏で寝取ろうとしていて、その婚約者もまんざらではなく親父になびいていたなんて知ったら――間違いなく狂乱して父親に斬りかかるか、血反吐を吐いて発狂していたに違いない。
この場は収拾のつかない阿鼻叫喚の血みどろ劇になっていただろう。
……なるほどな。アリアが真っ先にエドワードを快楽の吐息で沈めたのは、単にうるさい小蝿を黙らせただけじゃなかったわけだ。
連中の欲望を暴く前にこのクソ王子を気絶させておいた方が、余計な横槍を挟まれずに確実に王家を追い詰められると、そこまで計算しての一撃だったのだろう。
やっぱりこの女、恐ろしく頭が回る。
玉座周辺の醜悪な親子・男女の修羅場に、広間中が騒然となる。
だが、アリアの舌鋒は止まらない。
「そして第一王子ヘンリー! 貴様、娼婦ギルド長のマダム・ヴィオラに筆下ろしされて以来、重度の『授乳プレイ』マニアと化しているとは、なんと情けない! 夜な夜な貴族の令嬢たちを自室に集め、己が赤子になりきって乳を吸いまくっている異様な光景が、貴様の視線から流れ込んできて虫唾が走るわ!」
大衆の面前で最悪の性癖を暴露されたというのに、ヘンリーは恥じ入るどころか――パァッと顔を輝かせた。
見てくれだけの整った美貌に、無邪気そのものの阿呆面を浮かべ、両手を広げて嬉々としてアリアへ駆け寄ってくる。
「すごい! 君は僕の望みをそこまで完璧に理解してくれたんだね! ああ、素晴らしい! 君も是非、僕の部屋においでよ! その豊満なおっぱいで、僕を思いっきり甘やかして――」
「近づくな、豚め」
ドゴォッ!!
満面の笑みで擦り寄ろうとしたヘンリーの鳩尾へ、アリアの容赦のない前蹴りが突き刺さった。
細いストラップが食い込むしなやかな美脚から放たれた武神の一撃に、ヘンリーは「ほげぇっ!?」とカエルの潰れたような情けない悲鳴を上げ、見事な放物線を描いて謁見の間の床をゴロゴロと転がっていった。
(……いやぁ、オツムが弱いってレベルじゃねぇな、あの第一王子)
床で「おっぱぁ……」とうわ言を漏らしながら痙攣している長男を見下ろし、俺は思わず呆れ返ってしまった。
その『マダム・ヴィオラ』ってのが誰なのかは知らないが、要するに相当な爆乳の女に脳を焼かれたってことなんだろう。
だが、その一方で、ヘンリーのあの直情的な反応には妙に納得してしまう自分もいた。
何気なく隣のアリアの姿に視線を落とす。
(まあ……アリア、手足もウエストもあんなに細いのに、胸だけは暴力的にデカいからなぁ。奇跡の痩身巨乳っていうか……地球の基準なら確実にHカップ以上はあるぞ、あれ。そりゃあんな性癖の奴からしたら、拝みたくなるほどのドストライクだろうよ)
黒革のストラップが豊満な胸肉をこれでもかと締め上げ、こぼれ落ちそうなほどの迫力で自己主張している。
そんなのほほんとした呑気な感想を抱いている俺の目の前で、アリアは蹴り倒したヘンリーを一瞥すら平然と見下し、冷酷に踏みつけんばかりの気迫を放っていた。
「さらに老宰相カシム! もっともらしい顔をして、若い女を鞭で嬲るのが趣味の重度なサディストめ! 私のような気が強くて白い肌の女を縛り上げ、いたぶりたいという醜悪な欲望がダダ漏れなのだ!」
「それだけではない! 貴様は裏で盗賊集団と繋がっているな! 平民の白い肌の女たちをさらっては監禁し、毎夜鞭打ちを楽しんでいた犯罪者め! 行方不明事件の真相が、貴様の視線から手に取るように伝わってきたぞ!」
「う、ぐ……っ、滅相もない、そのようなことは……!」
カシムは冷汗を滝のように流し、髭を震わせて後ずさった。
その瞬間、列席していた騎士団長が激昂した。
「カシム宰相! それは本当か! 私はあの行方不明事件をずっと追っていた! 貴様が黒幕だったのか!?」
アリアの痛烈な喝破が広間に木霊する。
「――このような破廉恥と下劣に塗れた為政者どもに、誰が忠誠など誓うものか! 恥を知れ!」
次の瞬間、謁見の間は大恐慌と化した。
「国王様がエレオノーラ様を……!? ま、まさか私の妻も……!?」
「ヘンリー殿下、あんなに凛々しいお顔で赤子ごっこを……!?」
「カシム宰相、なんておぞましい性癖を……! 行方不明事件の犯人は宰相だったのか!?」
集まっていた貴族や騎士たちが騒然となり、疑惑と糾弾の怒号が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。
「よしアリア、潮時だ。金だけ持ってずらかるぞ」
「うむ、ダンナ様♡」
俺は用意されていた山盛りの金貨と財宝の麻袋を軽々と肩に担ぎ上げた。
もはや誰一人として、俺たちを制止できる者はいなかった。
衛兵も騎士も、恐怖と混乱のあまり腰が引けて道をあけるだけだ。
王都の巨大な城門を抜けると、目の前にはどこまでも広がる澄み渡った青空と、緑の大草原が続いていた。
「いいのかアリア? あんな風に全部ぶちまけちまって。将軍の夢もあったんだろ?」
振り返って尋ねると、アリアは愛用の薙刀を軽やかに肩に担ぎ、ボンテージアーマーに包まれた豊かな胸を俺の腕にぎゅっと押し当ててきた。
その表情には一片の曇りもなく、最高に眩しい、蕩けるような笑顔が咲き誇っていた。
「ふふ……あのような腐りきった小国の将軍など、今の私にはあまりに狭く、小さすぎる。私の仕えるべき唯一の主も、私の神も、すべてこの腕の中におられるのだからな♡」
「はいはい。じゃあ、次の国へ向かうか。美味い飯を食って、またキングサイズの広いベッドがある宿を探そう」
「うむ! 旅先でもたっぷりと、私の才能限界を押し広げてもらおう、ダンナ様♡」
世界の理の外側にある俺と、神話の枠組みを飛び越えた彼女。
縛るものの何一つないあてもない旅路の先に、何が待ち受けていようとも――二人で並んで歩くこの場所こそが、最高の天国だった。
〜 完 〜
最強のモンスター、それはクマー。
これにて本編終了です。
あと外伝を2、3作成するやもしれん。
アリアにカップラーメン食わせる話と、出番のなかった大光量の懐中電灯の話、お約束の現代戻り、あたり。
震えて待て!