将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜 作:夜叉五郎
見知らぬファンタジー風の村「オルド」に迷い込んでから、俺の頭はずっとオーバーヒートを起こしていた。
異様な身なりの怪しい俺を村人たちは警戒し、宿はおろか軒先すら貸してくれない。
仕方なく村外れの少し開けた草地に一人用のテントを張り、そこで夜を明かすことにした。
翌朝、テントから這い出て伸びをした俺は、朝食をとろうとバックパックを開けて目を疑った。
「……は? なんで?」
昨晩空腹に耐えかねて平らげたはずのカップラーメンと、飲み干したペットボトルの水が、何事もなかったかのように元の位置に収まっていたのだ。
封を破って食べたカロリーメイトの箱も新品に戻り、減っていたはずのウェットティッシュまで満タンになっている。
何度目を擦っても幻覚ではない。
異世界に迷い込んだショックですでにキャパオーバー気味だった俺は、「……まあ、飢え死にしないならいっか」と、深く考えるのをやめて温かいカップ麺を胃袋に流し込んだ。
だが、のんきに構えていられたのもそこまでだった。
二泊目の夜。
テントの外から響いてきた低い唸り声と土を踏む音に、俺は跳ね起きた。
ジッパーをわずかに開けて外を覗くと、青白い月明かりの下、巨大な猪のような――だが頭部から三本の禍々しい角を生やした、明らかに地球の生物ではないモンスターがテントを睨みつけていた。
「ブモォォォッ!」
鼻息を荒くした巨体が、テントめがけて突進してくる。
避ける暇もない。
パニックになりながらも、俺は反射的に両手に持っていた道具を突き出した。
右手には頑丈さが売りのサバイバルナイフ、左手には山歩き用の熊避けスプレー。
「うわああああっ、来るなッ!」
無我夢中で、熊避けスプレーのレバーを全力で押し込んだ。
シューッ!とけたたましい噴射音とともに、高濃度のカプサイシンを含んだ霧状のガスが、猛進してくる怪物の顔面と目鼻を真っ正面から覆い尽くす。
「ブギャアアアッ!?」
鼻の利く獣にとって、それは地獄の激痛だったに違いない。
怪物が鼻先を振り乱して狂乱し、突進の軌道が大きくブレる。
無防備に晒された分厚い首筋へ、俺は必死の形相でサバイバルナイフを突き刺した。
硬い毛皮を切り裂き、深く刃が吸い込まれる。
ビクンと痙攣した怪物は、そのままドスンと土煙を上げて動かなくなった。
「はぁっ……はぁっ……死ぬかと思った……」
へたり込んだ瞬間、脳内に直接、奇妙な感覚が流れ込んできた。
体が芯からカッと熱くなり、節々の疲労が一瞬で吹き飛ぶような感覚――言葉にするなら「レベルが上がった」という直感だった。
力もスピードも、さっきまでの自分とは明らかに違うのがわかる。
「おい! 今の騒ぎは何だ!?」
松明の明かりを引き連れて、村人たちが駆けつけてきた。
転がる巨大な魔物の死骸と、血のついたナイフを握る俺を見比べて、村人たちがざわめく。
「アンタがこれを倒したのか……? 若いのに大した腕前だ。いったいどこの神に仕えている? 戦さの神か、狩猟の神の恩寵かい?」
賞賛交じりに問いかけられ、俺は困惑した。
神?
恩寵?
「え、いや……俺、どこの神様にも仕えてないですし、恩寵とかもよくわからないんですけど……」
正直に答えた瞬間、村人たちの表情から温かみが消え失せた。
松明の火に照らされた顔に、露骨な嫌悪と軽蔑が浮かび上がる。
「……なんだと? 成人の儀を受けていないのか?」
「他国から流れてきた流民か何かか。いや、それなら大きな町の合神殿で儀式を受けるはずだ」
「わざと成人の儀を避けて暮らしてるのか……? 神々に逆らって生きる、まつろわぬ民(服わぬ民)か!」
「働かずにふらふらしてる、ただの穀潰しじゃないか!」
口々に浴びせられる罵声。
この世界では十八歳で合神殿の儀式を受け、神から職業と恩寵を授かって生きるのが絶対の掟らしい。
他国から逃れてきた流民であっても、街に寄れば合神殿で成人の儀を受けるのが当たり前なのだ。
それを怠り、神々の庇護と義務から逃れて暮らす者は、社会の寄生虫――いわゆる「ニート」であり、軽蔑と忌避の対象でしかなかった。
「おい、早く合神殿に行って一人前になりな! 神罰が下っても知らねえぞ!」
親切そうな年寄りがそう心配して忠告してくれたが、周囲の若い男たちは容赦がなかった。
「神に背く無恩寵の薄汚い流民め!」
「村に災いを持ち込むな! 出ていけ!」
足元に石が投げつけられる。
コツン、とスネに小石が当たり、俺は顔をしかめた。
悪意に満ちた石を投げつけられるのも当然とされるほど、この世界における「無恩寵のまつろわぬ民」の扱いは過酷で理不尽だった。
「……分かりましたよ! 出ていきますから!」
これ以上ここにいてもリンチに遭うだけだ。
俺は急いでテントを畳んでバックパックに詰め込むと、夜明け前の暗い街道へと足早に逃げ出した。
石を投げてきた村人たちの罵声を背中に浴びながら、俺は歯を食いしばる。
合神殿。
王都。
まともに生きていくためには、とにかくそのデカい街とやらへ行って、神様の恩寵とやらを貰わなきゃ始まらないらしい。
「くそっ……ゴールデンウィークのソロキャンが、なんでこんなサバイバルになってんだよ……」
愚痴を吐き出しながら、俺は一人、朝焼けに染まり始めた街道を王都へ向かって歩き出した。
〜 続く 〜