※この作品はR-18です。

将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜   作:夜叉五郎

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第三章 界道ワタル視点

 見知らぬファンタジー風の村「オルド」に迷い込んでから、俺の頭はずっとオーバーヒートを起こしていた。

 異様な身なりの怪しい俺を村人たちは警戒し、宿はおろか軒先すら貸してくれない。

 

 仕方なく村外れの少し開けた草地に一人用のテントを張り、そこで夜を明かすことにした。

 翌朝、テントから這い出て伸びをした俺は、朝食をとろうとバックパックを開けて目を疑った。

 

「……は? なんで?」

 

 昨晩空腹に耐えかねて平らげたはずのカップラーメンと、飲み干したペットボトルの水が、何事もなかったかのように元の位置に収まっていたのだ。

 封を破って食べたカロリーメイトの箱も新品に戻り、減っていたはずのウェットティッシュまで満タンになっている。

 

 何度目を擦っても幻覚ではない。

 異世界に迷い込んだショックですでにキャパオーバー気味だった俺は、「……まあ、飢え死にしないならいっか」と、深く考えるのをやめて温かいカップ麺を胃袋に流し込んだ。

 

 だが、のんきに構えていられたのもそこまでだった。

 二泊目の夜。

 

 テントの外から響いてきた低い唸り声と土を踏む音に、俺は跳ね起きた。

 ジッパーをわずかに開けて外を覗くと、青白い月明かりの下、巨大な猪のような――だが頭部から三本の禍々しい角を生やした、明らかに地球の生物ではないモンスターがテントを睨みつけていた。

 

「ブモォォォッ!」

 

 鼻息を荒くした巨体が、テントめがけて突進してくる。

 避ける暇もない。

 

 パニックになりながらも、俺は反射的に両手に持っていた道具を突き出した。

 右手には頑丈さが売りのサバイバルナイフ、左手には山歩き用の熊避けスプレー。

 

「うわああああっ、来るなッ!」

 

 無我夢中で、熊避けスプレーのレバーを全力で押し込んだ。

 シューッ!とけたたましい噴射音とともに、高濃度のカプサイシンを含んだ霧状のガスが、猛進してくる怪物の顔面と目鼻を真っ正面から覆い尽くす。

 

「ブギャアアアッ!?」

 

 鼻の利く獣にとって、それは地獄の激痛だったに違いない。

 

 怪物が鼻先を振り乱して狂乱し、突進の軌道が大きくブレる。

 無防備に晒された分厚い首筋へ、俺は必死の形相でサバイバルナイフを突き刺した。

 

 硬い毛皮を切り裂き、深く刃が吸い込まれる。

 ビクンと痙攣した怪物は、そのままドスンと土煙を上げて動かなくなった。

 

「はぁっ……はぁっ……死ぬかと思った……」

 

 へたり込んだ瞬間、脳内に直接、奇妙な感覚が流れ込んできた。

 体が芯からカッと熱くなり、節々の疲労が一瞬で吹き飛ぶような感覚――言葉にするなら「レベルが上がった」という直感だった。

 力もスピードも、さっきまでの自分とは明らかに違うのがわかる。

 

「おい! 今の騒ぎは何だ!?」

 

 松明の明かりを引き連れて、村人たちが駆けつけてきた。

 転がる巨大な魔物の死骸と、血のついたナイフを握る俺を見比べて、村人たちがざわめく。

 

「アンタがこれを倒したのか……? 若いのに大した腕前だ。いったいどこの神に仕えている? 戦さの神か、狩猟の神の恩寵かい?」

 

 賞賛交じりに問いかけられ、俺は困惑した。

 

 神?

 恩寵?

 

「え、いや……俺、どこの神様にも仕えてないですし、恩寵とかもよくわからないんですけど……」

 

 正直に答えた瞬間、村人たちの表情から温かみが消え失せた。

 松明の火に照らされた顔に、露骨な嫌悪と軽蔑が浮かび上がる。

 

「……なんだと? 成人の儀を受けていないのか?」

 

「他国から流れてきた流民か何かか。いや、それなら大きな町の合神殿で儀式を受けるはずだ」

 

「わざと成人の儀を避けて暮らしてるのか……? 神々に逆らって生きる、まつろわぬ民(服わぬ民)か!」

 

「働かずにふらふらしてる、ただの穀潰しじゃないか!」

 

 口々に浴びせられる罵声。

 

 この世界では十八歳で合神殿の儀式を受け、神から職業と恩寵を授かって生きるのが絶対の掟らしい。

 他国から逃れてきた流民であっても、街に寄れば合神殿で成人の儀を受けるのが当たり前なのだ。

 それを怠り、神々の庇護と義務から逃れて暮らす者は、社会の寄生虫――いわゆる「ニート」であり、軽蔑と忌避の対象でしかなかった。

 

「おい、早く合神殿に行って一人前になりな! 神罰が下っても知らねえぞ!」

 

 親切そうな年寄りがそう心配して忠告してくれたが、周囲の若い男たちは容赦がなかった。

 

「神に背く無恩寵の薄汚い流民め!」

 

「村に災いを持ち込むな! 出ていけ!」

 

 足元に石が投げつけられる。

 コツン、とスネに小石が当たり、俺は顔をしかめた。

 悪意に満ちた石を投げつけられるのも当然とされるほど、この世界における「無恩寵のまつろわぬ民」の扱いは過酷で理不尽だった。

 

「……分かりましたよ! 出ていきますから!」

 

 これ以上ここにいてもリンチに遭うだけだ。

 俺は急いでテントを畳んでバックパックに詰め込むと、夜明け前の暗い街道へと足早に逃げ出した。

 石を投げてきた村人たちの罵声を背中に浴びながら、俺は歯を食いしばる。

 

 合神殿。

 王都。

 

 まともに生きていくためには、とにかくそのデカい街とやらへ行って、神様の恩寵とやらを貰わなきゃ始まらないらしい。

 

「くそっ……ゴールデンウィークのソロキャンが、なんでこんなサバイバルになってんだよ……」

 

 愚痴を吐き出しながら、俺は一人、朝焼けに染まり始めた街道を王都へ向かって歩き出した。

 

 〜 続く 〜

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