将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜 作:夜叉五郎
王都の東区、華やかな歓楽街の奥深くに聳え立つ白亜の巨塔――愛欲の女神の神殿へと足を踏み入れた瞬間、濃厚な甘い香煙が鼻腔を突いた。
戦場の血と鉄の匂い、泥と汗にまみれた演習場の土埃とは対極にある、むせ返るような官能の気配。
実家を追われ、父から「兵站のための肉の駒」と切り捨てられた私は、背中に布で包んだ愛用の薙刀を背負ったまま、神殿の冷たい大理石の床を踏みしめていた。
「――ようこそ、新入りの小鳥さん。まずはその無粋な鉄塊と布を脱ぎ捨てていただきましょうか」
通された広大な更衣の間で待ち構えていた女官たちに、有無を言わさず武具を取り上げられそうになり、私は咄嗟に長柄を抱え込んだ。
「触るな! これは私の魂だ!」
「まあまあ、威勢のいいこと。けれど神殿の掟は絶対よ。ギルド登録を済ませるまでは、神の前で無垢な花にならなければならないの」
屈強な女官たちに囲まれ、無理やり仕立ての良い服を剥ぎ取られる。
長年、胸を締め潰し続けてきた固い晒をハサミで断ち切られた瞬間、解放された双眸がボロンと露わになり、冷たい空気に晒された。
「……っ!」
冷たい空気が、長年晒で押し潰されていた胸の先端を直に撫でた。
普段ならただの不快感でしかなかった感覚が、今は鋭い痺れとなって乳首を硬く尖らせる。
解放された重みに揺れるたび、敏感になった先端が空気に擦れて疼いた。
屈辱に奥歯を噛みしめる私の前に差し出されたのは、「神聖娼婦の正装」と呼ばれる衣服だった。
それは衣服と呼ぶのも憚られる、薄絹と豪奢な宝飾だけで構成された代物だった。
胸元は乳房の形が浮き彫りになるほど大胆に切れ込み、両肩から背中にかけては完全に露出している。
引き締まった腹部は丸出しで、腰回りを覆う薄布は深いスリットが腰骨まで裂け、脚をわずかに動かすだけで白磁のような太ももが惜しげもなく露わになる構造だった。
「な……んだ、この破廉恥な布切れは……!? こんなものを纏って人前に出られるか!」
「子爵令嬢として育てられた方でしょう? 神の寵愛を賜った者の、古来より定められたしきたりを守れないなど、はしたないですわよ」
女官の一人が、冷ややかにそう告げた。
「……っ」
子爵の娘として、神殿の礼法を無視すれば家の名を汚すことになる。
父に切り捨てられた身であっても、その一点だけは無視できなかった。
奥歯を噛み締め、私は無理やり袖を通された。
「嫌なら神罰を受けて灰になりなさいな。愛欲の女神に選ばれた【神聖娼婦】は、美しさと極上の一刻を男たちに分け与える天の使いなのよ」
無理やり袖を通され、女官たちはそこで手を止めず、私を化粧台の前へと座らせた。
「愛欲の女神に寵愛を賜った者の、初の礼拝の礼法よ」と告げられ、有無を言わさず髪を下ろされ、化粧を施され始めた。
「礼を守れぬなど、子爵令嬢の名折れですわ」
再びそう告げられ、私は声を押し殺して従うしかなかった。
筆で紅を引かれ、唇を艶やかに染め上げられる。
黒髪は丁寧に梳かれ、後ろでゆるく結い上げられながら、幾筋かが顔の輪郭を撫でるように残された。
女官の指が首筋や鎖骨を滑るたび、肌が小さく粟立ち、薄絹の下で熱を帯びた胸が疼く。
「……っ、これ以上は不要だ」
「黙ってお受けなさい。これが女神様の仕える者の正装なのですから」
化粧と髪結いを終えた私を、女官たちは姿見の前へと立たせた。
「……っ」
息が止まった。
鏡に映っていたのは、見知らぬ女だった。
艶やかに紅を差された唇。
ゆるく結い上げられた黒髪が、白い首筋と鎖骨を際立たせている。
薄絹は胸の形を隠すどころか、硬く尖った先端の輪郭まで浮かび上がらせ、腰骨まで裂けたスリットからは、鍛え上げた太腿の内側が惜しみなく露わになっている。
戦場で男たちを薙ぎ倒してきたはずの身体が、今は男の欲情を誘うためだけに飾り立てられた、極上の雌としてそこに立っていた。
(これが……私だというのか……?)
あまりの悍ましさに、膝が小さく震える。
薄絹が胸の先端を擦るたびに、硬く尖った乳首が布地越しに疼き、下腹部の奥がじわりと熱を帯びていく。
自分の姿を見ているだけで、スキルが反応し、太腿の内側が熱く濡れていく感触がする。
女官や先輩神官たちが、息を呑んで私を囲んだ。
「……これは、久しく見たことのない上玉ね」
「抜けるような白い肌に、生まれつき紅を差したような唇……この黒髪の艶ときたら」
「この美貌なら、どんな殿方でも満足してくださるでしょう。羨ましい限りだわ」
「女神様の最高寵愛を受けたのも、当然ね。これほどの身体なら、男たちを狂わせずにはいられないわ」
褒めそやされる言葉が、まるで汚い言葉を浴びせられているかのように耳に刺さる。
「どんな殿方でも満足してくれる」などという評価は、武人としての私を根底から否定する侮辱でしかなかった。
翠の瞳を冷たく細め、唇を一文字に結ぶ。反応する価値すらない。
なのに、鏡の中の自分を見るほど、身体の奥が熱く疼いてしまう。
(……っ、こんな姿を、見ているだけで……!)
戦場で万夫不当の将軍を目指していたはずの私が、男の欲情を煽るためだけに飾り立てられた極上の雌として立っている。
あまりの悍ましさに身震いした。
更衣を終えた今年の新人たちが集められたのは、薄絹の天蓋が揺れる神殿の謁見の間だった。
そこへ、紫の煙管から細い紫煙をくゆらせながら、音もなく一人の女性が進み出てくる。
年齢不詳の艶やかな極上の美女。
歩くたびにしなやかに波打つ腰つき、男の魂を底から絡め取るような蠱惑的な眼差し。
愛欲神殿傘下、娼婦ギルド長――マダム・ヴィオラだった。
「今年の花々も、実に見事な咲き誇りようね」
ヴィオラは煙管の煙をふぅと吐き出し、並んだ新人たちをゆっくりと見渡した。
その視線が私の前で止まり、細められた瞳の奥に、面白がるような光が宿る。
ヴィオラの視線が、化粧で艶やかに染められた唇と、薄絹の下で形を際立たせた胸元を滑るたび、内側で硬くなった乳首が小さく疼いた。
腰のくびれを値踏みするように見下ろされるだけで、骨盤の奥が熱を帯び、太腿の内側がじわりと熱くなる。
「よくお聞きなさい、愛欲の女神に選ばれし愛し子たち。神聖娼婦とは、ただ股を開く浅ましい夜鷹とは違います。男という哀しくも愛おしい獣たちの滾りを鎮め、命の火を灯し直す神聖な導き手なのです」
「…………」
「男たちは脆く、愚かで、そして愛らしい生き物。戦さや名誉に狂い、己の業に押し潰されそうな彼らを、その柔らかな肌と技術で包み込み、救ってあげることこそが貴女たちの役務。……ふふ、背筋を硬くしているそこの子爵令嬢。いいわよ、その反抗的な瞳もまた、愛欲の蕾。いずれ貴女も、雄々しい殿方に抱かれて、本当の女の悦びを知ることになりますわ」
優雅に微笑むヴィオラに対し、私は声もなく拳を握りしめ、冷徹な翠の瞳で睨み返した。
男の可愛らしさなど知るものか。
下半身の衝動に支配される男など、私にとってはただの浅ましい獣に過ぎない。
訓示が終わると、新人一人ひとりに教育係となる先輩娼婦が割り当てられた。
私の前にやってきたのは、金髪をふんわりと揺らした、親しみやすい笑顔を浮かべる女性だった。
「初めまして、アリアちゃん! あたしはマリー。今日からあんたの面倒を見ることになったから、よろしくね」
周りの娼婦たちが私の険悪な武人オーラに怖気づいて遠巻きにする中、マリーは全く臆することなく、ポンと私の肩を叩いてきた。
「それにしても凄い身体立ちねぇ! 黒髪に白肌、スタイルも抜群だし……神殿が大騒ぎするのも無理ないわ。今年一番の期待のルーキー。でも、そんなカチコチな顔してたら美味しいご飯も不味くなっちゃうよ?」
あてがわれた個室へと案内される道すがら、マリーは真剣なトーンへと声を落とし、ギルドで生きるための絶対の掟を口にした。
「アリアちゃん、まずはこの神殿の『加護』と『ノルマ』の話をしておくね。あたしたち神聖娼婦は、女神様から特別な加護を授かっているわ。いかなる不浄の病にも冒されない完全な免疫と、新しい命を宿すかどうかを自らの意志で自在に操る力。病や望まぬ懐妊の恐れなく身を委ねられるからこそ、男たちにとっては願ってもない歓楽の相手となるし、あたしたちにとっても身を守る絶対の盾なのよ」
「……だが、タダで与えられる恩恵ではないのだろう」
「ええ、その通り。神聖な加護を賜る代償として、あたしたちには一週間ごとに『役務のノルマ』が厳格に定められているの。一週間でどれだけの異性の滾りを鎮めてあげられたか、その人数と、ギルドに納める奉納金の額。そして……」
マリーは私の顔と身体を痛ましげに見つめた。
「加護が大きければ大きいほど、課せられるノルマも跳ね上がる。アリアちゃんは女神様の最高寵愛を受けちゃったでしょ? だから、新人の枠を遥かに超えた法外なノルマが課されることになってるのよ」
「ノルマを拒めば、どうなる」
私の問いに、マリーの表情がサッと青ざめた。
「絶対に拒んじゃダメ。ノルマを無視し続ければ――【神罰】が下るわ。全身の骨を軋ませ、内臓を焼き焦がすような激痛と衰弱に苛まれて、最後は命を落とすのよ。……そしてね、神罰の執行リミットが迫ると、その前兆として『顔や体に薄っすらと赤い隈取り』が浮かび上がってくるの」
「赤い、隈取り……」
「そう。朱色の禍々しい紋様よ。顔や首筋、胸元にその赤い隈が現れたら、もう猶予は数日もない。それは『間もなく神の鉄槌で命を刈り取られる』っていう、女神様からの最後通牒なの。だからアリアちゃん、意地を張らずに早く――」
「断る」
私は即座に言い放ち、マリーを見据えた。
「男に阿るくらいなら、死んだほうがましだ。……それに、マリーと言ったな。なぜ貴様らは、そうやって男に媚びる生き方を平然と受け入れられるのだ。神託とはいえ、己の尊厳を売り渡しているとは思わないのか」
立ち止まったマリーは、怒るでもなく、困ったように眉を下げてクスリと笑った。
「尊厳、かぁ。アリアちゃんは武門の出だから、そう考えちゃうのも無理ないよね。でもね、アリアちゃん……あんた、この国の初代王妃様の伝説って知ってる?」
「初代王妃……? むろん知っている。建国王の傍らに常に侍り、数多の敵軍や強大な魔物を王と共に屠ったという、建国神話の武神たる英傑の妻だ」
戦さの神を信仰する武人ならば、誰もが一度は耳にする憧れの象徴。
だが、マリーの口から返ってきたのは、私の常識を根底から覆す一言だった。
「その初代王妃様ね……実は、授かったクラスが【娼婦】だったのよ」
「…………は?」
息が止まった。
頭を石で殴られたかのような衝撃に、喉が引き攣る。
「ば、馬鹿なことを言うな! 初代王妃が……娼婦だと!? あの武の頂点に立った御方が、よりによって愛欲の神殿の……!?」
「神殿の最奥にある機密記録にちゃんと残ってる紛れもない事実よ」
マリーは声を潜め、真剣な眼差しで私を見据えた。
「あたしたち神聖娼婦にはね、最初から使える基本スキルの他に、娼婦として活動を始めてから目覚める【固有スキル】があるの。口技、足技、棒技、乳技、腰技、穴技の全六つ。……普通はね、一生懸命励んでも最底辺で一つ、並なら二つ。あのギルド長のマダム・ヴィオラ様だって天才と呼ばれて四つよ。ちなみにあたしは二つしか持ってないしね」
そこまで言って、マリーは指を五本立てた。
「でも、初代王妃様は、そのうちの『五つ』の固有スキルを完全に手に入れて覚醒したの。そして王妃様は、そのスキルをすべて戦場での武芸と、王を支える力へと昇華させて、文字通り神話になったのよ」
「固有スキル……五つ……」
茫然と呟く私に、マリーは決定的な秘密を告げた。
「身につくスキルの数はね、本人の才能だけじゃ決まらないの。何よりも決定的なのは――『最初の客の格の大きさ』なのよ」
「最初の……客の、格……?」
「そう。神聖娼婦がその身を捧げ、その滾りを初めて鎮める男の『魂の器』……つまり、相手がどれだけ途方もない才能限界(レベル上限)を秘めた大物かどうかが、掛け算になってスキルの解放数を決めるの。初代王妃様は、稀代の英傑だった建国王が最初の相手だったからこそ、五つものスキルを解放できたのよ」
マリーの言葉が、私の乾ききった胸の奥へ、激しい熱となって染み渡っていく。
(娼婦でありながら……武人として生きる道が、本当にあるのか……?)
私は自らの掌を見つめた。
薙刀の長柄を握り続けたマメ。
男を組み伏せるために鍛えた太もも。一撃の威力を高めるために締め抜いた深層筋。
掌を見つめるうちに、薄絹の下で熱を帯びた下腹部が、じくりと疼いた。
「最初の客の格」という言葉が頭をよぎるたび、子宮の奥が熱く重くなり、太腿の内側がじわりと濡れていく感触がする。
成人の儀で水晶板に浮かび上がった、あの忌々しい素養の数々――。
* 口技の素養(全軍を震わす号令と発声)
* 足技の素養(男兵士を容赦なく蹴り倒した体術)
* 棒技の素養(薙刀を自在に操る卓越した操法)
* 乳技の素養(固い晒で苛烈に虐め抜いた双眸)
* 腰技の素養(流麗な骨盤の回旋と身のこなし)
* 穴技の素養(極限まで鍛え上げた骨盤底筋群)
あれは、男に媚びるための恥辱の印などではなかった。
すべては、初代王妃すら超える力を呼び覚ますための、眠れる牙だったのではないか?
「……マリー」
私はマリーの両肩を激しく掴み、翠の瞳をらんらんと輝かせて詰め寄った。
「その男の『格』というのは、どうやって見分けるのだ!? 相手の才能限界が高ければ高いほど、私の武芸は蘇るのだな!? 詳しく教えろ、すべてだ!」
「ひゃっ!? ちょ、ちょっとアリアちゃん落ち着いて!?」
血相を変えた私にマリーは目を白黒させながらも、たじたじと教えてくれた。
「だ、だからね! 相手の器が小さければ、どんなにアリアちゃんが凄くても宝の持ち腐れになっちゃうの! でも、あんたほどの美貌と上玉なら、黙って待ってるだけで大貴族や上位冒険者の強い男たちがいくらでも大金を積んで申し出てくるわよ……」
「待つだと? 馬鹿を言え」
私はマリーの手を離し、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
エドワードのような軟弱なバカ王子や、欲情を垂れ流すだけの小汚い貴族などに、私の処女を差し出してたまるか。
そんな器の小さな男たちに抱かれれば、私の武人としての命は永遠に閉ざされてしまう。
私がこの身を捧げるべき相手は、ただ一人。
初代王妃が選んだ建国王すら凌駕する、圧倒的な器を持つ「真の強者」でなければならない。
(探すのだ。肌に赤い隈取りが現れ、神罰の刻限が訪れるまでに……私のすべてを預けるに足る、本物の男を)
薄絹の裾を翻し、私は窓の外を見据えた。
歩くたびにスリットから露わになる太腿の内側が、冷たい空気に擦れて疼く。
下腹部の奥に残る熱い疼きを意志の力で抑え込みながら、城壁の向こうに広がる、無数の冒険者と魔物が蠢く広大な迷宮都市を見つめた。
私の本当の戦いは、今ここから始まるのだ。
〜 続く 〜