将軍を目指した薙刀令嬢、愛欲の女神の寵愛を得て「娼婦」となる 〜神罰寸前で無恩寵の男に抱かれたら、無限の経験値で最強の武神になりました〜 作:夜叉五郎
愛欲神殿の豪奢な薄絹の天蓋を睨みつけながら、私は激しい怒りに奥歯を噛み締めていた。
手元に投げ出された一枚の書簡――そこには、第二王子エドワードからの夜の指名状が記されていた。
添えられた多額の喜捨の金貨は、新米娼婦にとっては目の眩むような額だったが、私にとっては唾棄すべき侮蔑の塊に過ぎない。
『我が愛玩品として、その気高い肢体を余すところなく差し出せ』とでも言わんばかりの、下卑た欲望にまみれた紙片。
「アリアちゃん、どうするの……? これを受ければ、今週のノルマなんて一発で片付くし、贅沢な暮らしだって……」
心配そうに覗き込んでくる先輩娼婦マリーの言葉を、私は冷徹な一言で断ち切った。
「断る。あの軟弱な豚に差し出す肌など、私の爪の先ほども持ち合わせてはおらん」
マダム・ヴィオラや神官たちが眉をひそめるのを歯牙にもかけず、私は金貨を床へ払いのけた。
愛用の薙刀を布で固く巻き直し、娼婦ギルドの門を乱暴に蹴破るようにして飛び出す。
初代王妃が選んだ建国王すら凌駕する、圧倒的な器を持つ「真の強者」を見出すまでは、誰の手垢にも塗れるつもりはない。
向かった先は、神の恩寵を持たぬはぐれ者や荒くれが集う、王都の冒険者ギルドだった。
重い樫の木の扉を押し開けた瞬間、むせ返るような安酒の臭気と血生臭さが鼻腔を突いた。
そして――次の瞬間、店内のざわめきが潮が引くように止まった。
数十対の濁った瞳が、一斉に私へと突き刺さる。
神聖娼婦の薄布を纏った私の肉体に、男たちの剥き出しの視線が触れた刹那、背筋に強烈な悪寒と甘い痺れが奔った。
薄絹越しに胸の先端が硬く尖り、布地に擦れて疼く。太腿の内側がじわりと熱を帯び、愛液が滲み出す感触がはっきりとわかってしまう。
同時に、頬が熱く上気し、翠の瞳が潤んでいく。
自分でも制御できない甘い香り――女のフェロモンが、薄絹の隙間から自然と立ち上っていく。
【愛欲の視線受容(パッションレセプター)】が男たちの欲情を感知し、下腹部の奥を疼かせて膂力へと変換していく。
周囲の男たちが、その香りに反応して喉を鳴らした。
「……おい、なんだこの良い匂い……」
「ヤバいな、こいつ……」
視線がさらに熱を帯び、ざわめきが低くうねる。
「おいおいおい……! 誰かと思えば、愛欲の女神の最高寵愛を賜ったシルフィード子爵家のお嬢様じゃねぇか!」
哄笑とともに立ち上がったのは、身の丈ほどもある両刃斧を背負った筋骨隆々の大男だった。
札付きのゴロツキ、ボマー。
手下の荒くれどもを従え、涎を垂らさんばかりの下品な視線で私の胸や腰を嘗め回しながら間合いを詰めてくる。
――なぜ街のゴロツキ風情が、私の授かったクラスを知っているのか。
どうやらエドワードの執着も含めて面白おかしく噂が広まり、こんな場末まで浸透してしまっていたようだ。
(……あの軽薄な連中め)
脳裏をよぎるのは、根拠のない噂話に目を輝かせていた学院の同級生、クラリスたちの顔だった。
「娼婦ギルドの極上女が、こんな薄布一枚で何しに来たんだぁ? 神罰に怯えて男漁りか? なら俺がたっぷり可愛がってやるよ!」
ボマーが分厚い手を伸ばし、私の肩を抱こうとした――その瞬間。
奴の濁りきった瞳が、至近距離から私の薄絹越しに剥き出しの胸元と太ももをねっとりと視姦した。
(っ……!?)
刹那、全身の毛穴が逆立つような強烈な熱波が肌を駆け巡り、下腹部の芯がドクンと激しく脈打った。
薄絹の下で硬く尖った乳首が布地に擦れて甘い電流が走り、骨盤底を極限まで鍛え上げてきた筋肉が意思とは無関係にうねる。
子宮の奥が熱い塊を抱えたように重くなり、太腿の内側から愛液が伝い落ちていく感触が、はっきりとわかってしまう。
頬がさらに熱く染まり、翠の瞳が潤んで視界が滲む。
甘いフェロモンが、ボマーの至近距離で濃く立ち上った。
これまでエドワードや学院の有象無象、街の男たちから向けられてきた下卑た視線とは、まるで格が違う。
ステータスを無理やり跳ね上げられる感覚とともに、息が詰まるほどの甘い痺れが骨髄まで浸透し、不覚にも膝の力が抜けそうになる。
これまで向けられた誰の視線よりも、私の肉体が最も淫らに、強く反応してしまったのだ。
(くっ……この外道ごときの欲情に、私の身体が……!?)
屈辱と怒りに唇を噛み切りそうになりながら、私は猛烈なホゾを噛んだ。
なのに、ボマーの視線を浴びるほど、全身の筋肉には力がなみなみとみなぎり、同時に秘部がじゅわりと熱く濡れていく。
力が漲る感覚と、下腹部の疼きが混ざり合い、区別がつかなくなってくる。
ボマーが鼻を鳴らし、下品に笑った。
「へえ……たまんねぇ匂いじゃねぇか。身体が正直に反応してやがる」
周囲の荒くれどもも、その香りに喉を鳴らし、視線をさらに熱くする。
ボマーはさらに顔を近づけ、私の首筋から立ち上る甘いフェロモンをわざとらしく嗅いだ。
「聞いたぜ、神聖娼婦ってやつは、強い男が近寄ると発情して勝手に股を開いちまうらしいが……その噂、本当らしいな。いいぜ、俺が抱いてやるよ」
「下品な真似はやめろ、ボマー」
澄んだ涼やかな声とともに、銀色の刃がボマーと私の間に鋭く割り込んだ。
現れたのは、端正な顔立ちをした若い剣士だった。
その背後には、同じく身なりの整った数人の若手冒険者たちが凛と控えている。
「彼女は一人の冒険者としてここに来ているんだ。力づくで汚すような真似は、この僕――アストリアが許さない」
「……チッ、清廉潔白ぶった坊ちゃんが」
舌打ちしたボマーは、周囲の空気を察したのか、忌々しげに踵を返した。
「覚えてろよ、アリア。お前は必ず俺の女になるんだからな」
立ち去る背中を見送った後、アストリアは私に向き直り、穏やかに微笑んだ。
その瞳には、周囲の男たちのような卑しい色情はなく、純粋な武人としての敬意が宿っていた。
彼の仲間たち――魔法使いの青年や軽装の女戦士も、暖かな眼差しで私を迎えてくれた。
「話は聞いているよ、アリアさん。君のひたむきな薙刀の腕前は素晴らしいと評判だ。もしよければ、僕たちのパーティでダンジョンに挑まないか? 君が誇りを保ったまま戦えるよう、僕たちが支える」
その申し出は、四面楚歌だった私の心に差した一筋の光明のようだった。
「……感謝する、アストリア殿。不肖の身だが、薙刀の腕前で必ずや盾となろう」
私は深く頷き、差し出された彼の手を握り返した。
だが――握手を交わしたその刹那、アストリアの端正な頬がわずかに朱に染まった。
彼の視線が、無意識に私の薄絹から覗く豊かな胸の谷間へと落ちたのだ。
(あ……)
肌を通して【愛欲の視線受容(パッションレセプター)】が発動する。
微かに流れ込んでくる熱量と、肌を掠める痺れ。
だが――それは、先ほどボマーが放った圧倒的な熱気の足元にも及ばない、ひどく頼りないものだった。
胸の先端がわずかに疼く程度で、下腹部の奥はほとんど熱を帯びない。
頬の上気も、瞳の潤みも、甘いフェロモンも、ほとんど立ち上らない。
このスキルは、相手の持つ魂の器――才能限界の高さを正確に映し出すスカウターでもある。
どれほど清廉な美丈夫であろうと、どれほど周囲に有望株と持て囃されていようと、アストリアの秘めた器は、あの下劣なボマーの足元にすら届いていない。
彼が持っている才能の限界は、ボマーよりも遥かに低いのだ。
(アストリア殿は……あのゴロツキより、弱い……?)
背筋を冷たい風が吹き抜けたような、拭いきれない一抹の不安が胸をよぎる。
ボマーの視線で激しく濡れてしまった秘部が、アストリアの視線ではほとんど反応しない。
その落差が、スキルの残酷さを改めて思い知らされる。
だが、温かな眼差しを向けてくれる彼のパーティを信じたい一心で、私はその違和感を胸の奥へ押し込み、翌朝のギルド前での合流を約束して別れたのだった。
――しかし、その不安は最悪の形で的中することになる。
翌朝、約束の時間になっても、ギルドの前にアストリアたちの姿はなかった。
刻一刻と刻限が過ぎ、胸のざわつきが抑えきれなくなった頃、酒場の扉が乱暴に開け放たれた。
「――第十三区画の未探索エリアで、アストリアのパーティが全滅したぞ!!」
飛び込んできた探索者の絶叫に、ギルド内が凍りついた。
強力な罠に嵌められ、魔物の群れに囲まれての無惨な死体となって発見されたという。
誰の手によるものか――誰もその名を口にしなかった。
だが、酒場の奥で悠然とエールを煽り、酷薄な笑みを浮かべるボマーの姿を見れば、何が起きたのかは火を見るより明らかだった。
「よう、アリア。随分と頼りない連中に身を預けようとしてたんだな」
ボマーが手下を引き連れ、再び私の前へと立ちはだかる。
「あんな坊ちゃんたちじゃ、お前を守りきれねぇよ。分かっただろ? 俺の女になりな。そうすりゃ、神罰の前にたっぷり天国を見せてやるぜ」
「……寄るな、外道が」
私は薙刀の柄に手をかけ、殺気を放ってボマーを睨みつけた。
ボマーの視線が再び胸元と太腿を這うたび、下腹部の奥がドクンと熱く疼き、薄絹の下で乳首が硬く尖る。
頬が熱く上気し、翠の瞳が潤み、甘いフェロモンが再び立ち上る。
なのに、その熱を意志の力で抑え込み、私は背筋を伸ばした。
周囲の冒険者たちは、私の体臭に喉を鳴らしながらも、ボマーを恐れて目を逸らす。
一斉に目を逸らし、蜘蛛の子を散らすように距離を取る。
アストリアの惨劇を見た後では、誰もボマーの怒りを買ってまで私に関わろうとはしなかった。
他のパーティに声をかけても、怯えたように首を横に振られるだけだった。
完全なる孤立。
だが、私の背骨はまだ折れていない。
「……結構だ」
誰にも頼れぬというのなら、ただ一人で潜るまでのこと。
神罰の刻限が迫ろうと、外道が待ち構えていようと、私は私の手で薙刀を振るい、この泥沼を切り拓いてみせる。
私は薄絹の裾を翻し、誰の手も借りず、ただ単身で暗鬱たる迷宮の入り口へと歩を進めた。
歩くたびにスリットから露わになる太腿の内側が冷たい空気に擦れ、下腹部に残る熱い疼きが波打つ。
頬の熱と瞳の潤みが残ったまま、甘いフェロモンを纏いながら、私は背筋を伸ばしたまま、前だけを見据えて歩き続けた。
〜 続く 〜