氷河期肉便器マンション ── 山本沙耶香の狂気調教と堕ちた女たち 作:black menthol
灰色の世界と金色の契約
空は永遠に閉ざされた。
巨大隕石が地球を直撃してから四十五日。大気中に舞い上がった塵が太陽の光を遮断し、世界は鉛色の薄明かりに包まれていた。気温は日に日に下がり、窓の外にはもう雪ではなく、微細な氷の結晶が絶え間なく降り注いでいる。かつて三百万人都市として栄えたこの街も、今や静寂と寒さに蝕まれていた。
高宮勇人が住むタワーマンション「スカイ・クロニクル」の最上階、八十八階からの眺めは、かつては夜景の宝石箱と讃えられた。今は灰色のベールに覆われ、地上の灯火のほとんどが消えている。それでもこのマンションにはまだ電源が供給されていた。勇人が創造する小型発電装置が、最上階の居住空間を維持していたからだ。
携帯端末の画面には、マンション住民専用グループチャットの通知が絶え間なく流れていた。
【10階・田中】誰か食料分けてくれませんか? 子供が二日間何も食べてないんです
【25階・鈴木】管理会社の緊急備蓄も底をつきました。助けてください
【33階・佐藤】水が出ません。トイレも流せない。このままでは衛生面で
【15階・伊藤】寒すぎて動けません。毛布が余っている方いらっしゃいません。
書き込みは次第に切迫したものになり、時折、絶望的な怒りや他者への非難が交じるようになっていた。生存本能が倫理を侵食し始めている。
勇人はソファーに深く座り、琥珀色のウイスキーを傾けながらそれらの書き込みを眺めていた。二八歳の若者だが、目にはこの状況を既に計算し尽くした者の冷静さが宿っている。彼の能力──あらゆる物資を創造し、あらゆる怪我や病気を治癒し、無限の収納空間を持つ「リソース・マニピュレーション」──が、この世界でどれほどの力を意味するか、彼自身が一番理解していた。
「ご主人様、玄関に人間がおります」
無機質ながらも完璧な女性的な声が響いた。メイド服を着たアンドロイド、モデル名「イリス」が、頭を軽く下げて報告する。そのメイド服は、機能性よりもむしろ装飾性を追求したデザインで、胸元は深く切り込まれ、乳房の膨らみの大部分が露わになっていた。スカートは極端に短く、陰部の輪郭が透けて見えるほど薄い素材でできている。勇人が趣味で創造した、完全に私的な使用のためのセクサロイドだ。
「誰だ?」
「山本沙耶香、二十歳、五十二階住人です。生体スキャンによると、栄養失調の初期症状、軽度の低体温症、そして強いストレス反応を示しています」
勇人は鼻で笑った。「またか。今日で三人目だな」
「お断りいたしますか?」
「いや、入れろ。退屈だったところだ」
イリスがうなずき、自動ドアを開けた。冷気が一陣の風となって室内に流れ込むと共に、一人の女性がよろめくようにして入ってきた。
山本沙耶香は、かつてならグラマラスと形容される体つきをしていただろう。しかし今、彼女の頬はこけ、唇は乾いてひび割れ、かつては豊満だった乳房も飢えによって萎みかけていた。それでも彼女の目だけは、鋭い意志の光を宿していた。安物だが手入れされたロングヘアは、この悲惨な状況下でもある程度の美しさを保っている。
「暖かい……」
彼女が最初に発した言葉は、呻きのような感嘆だった。勇人の部屋は摂氏二十五度に保たれており、外の零下十五度とは比べ物にならない。空気には、ウイスキーの樽香、革ソファーの匂い、そしてどこからか漂う料理の香りが混じっていた。
沙耶香の胃がグーと音を立てた。彼女の目が、リビングルームの大理石のテーブルに置かれた食べ物に釘付けになる。サラダ盛り合わせ、スチームで湯気を立てるロブスター、ミディアムレアのステーキ、そして洗練されたデザートまで。
「あれ……全部本物?」
「現実だ」勇人はグラスを置き、沙耶香を仔細に観察した。「で、用件は?」
沙耶香は一瞬
「お願いです……食べ物をください。何でもしますから」
その声はかすれ、震えていた。しかし勇人は、その屈辱的な姿勢の中に、計算された何かを感じ取った。
「何でもする、か……」勇人は椅子から立ち上がり、沙耶香の周りをゆっくりと歩き回った。「具体的に言ってみろ。お前には何ができる?」
沙耶香は顔を上げた。その目には涙が浮かんでいたが、勇人はそれが本物か演技か見分けられなかった。
「掃除も洗濯もできます。秘書業務の研修経験もあります……」
「不要だ」勇人は手を挙げて遮った。「掃除も洗濯もイリスがする。秘書業務? 今この世界で誰が秘書を必要とする?」
沙耶香の顔が一段と青ざめた。彼女の爪がカーペットに食い込んだ。
「それじゃあ……体なら……」
「それも不要だ」勇人はイリスを指差した。「セックスはこいつが十分にこなす。しかも疲れを知らず、感情的な煩わしさもない。完璧なセクサロイドだ」
イリスは無表情で一礼した。「ご主人様のご要望にはいつでもお応えいたします」
沙耶香の目がイリスの露出度の高いメイド服に移り、そして彼女自身の痩せ細った体を見下ろした。しかし、そこで彼女の目に一瞬、諦めではなく、逆上の色が走った。
「そんな機械なんか……」彼女の声が突然、力強さを取り戻した。「そんな冷たい機械よりも、私の生身の体の方がずっと気持ちいいに決まってます」
勇人は眉を上げた。
沙耶香はよろめきながら立ち上がった。彼女の動きにはどこか演劇的な誇張があった。
「私のおまんこは温かいんです。中はいつもトロトロで湿ってる。あの子みたいな人造の膣じゃなくて、本当の女の、生きてる粘膜の感触です」
彼女は自分の腿に手をやり、ゆっくりと撫で上げた。
「それに私のケツまんこ……」彼女の声が少し嗄れた。「初めての人にはきつすぎるって言われるくらい締まってるんです。ローションをたっぷり塗れば、ヌルヌルでキツキツの締め付けが気持ちよくて……」
イリスが一瞬、頭を傾げた。「ご主人様、この人間の主張は論理的ではありません。私の膣はあらゆる圧力、温度、分泌物の組成を再現可能です」
「でも嘘くさいのよ、その再現は」沙耶香がイリスを睨みつけた。「本物の女の狂ったような喘ぎ声、我を忘れて体をくねらせるあの感じ、あなたに再現できる?」
勇人は思わず笑い出した。これは予想外だった。
「面白い女だな」彼が言った。「で、結局何が言いたい?」
沙耶香は勇人に一歩近づいた。彼女の体からは、飢えと寒さの汗の酸っぱい匂いがしたが、その下に、かすかに甘い女性の体臭も混じっていた。
「あなた専属の娼婦にしてください」
その言葉は、リビングルームに重く響いた。イリスが一瞬、処理速度を上げたような微妙な動作を見せた。
「娼婦、だと?」勇人が繰り返した。
「そうです。それもただの娼婦じゃない」沙耶香の目が輝いた。「変態肉便器娼婦です。あなたの欲望の全てを受け入れる、生きた便器にしてください」
勇人は本当に驚いた。彼は多くの人間が生き延びるために屈するだろうと予想していたが、ここまで積極的に堕落を求める者に出会うとは思っていなかった。
「それは……かなり厳しい契約になるぞ」勇人は慎重に言葉を選んだ。「肉便器という言葉の意味、理解しているのか? 単なるセックスじゃない。人間としての尊厳を捨てることを意味する」
「わかってます」沙耶香の口元が歪んだ。「だって今この世界で、人間の尊厳なんて何の価値があるんです? 外を見てください。人々は犬のように飢え、寒さに震えている。私はこの四十五日間、僅かな食糧で生き延びてきた」
彼女の声が震え始めたが、それは今度は本物の感情からだった。
「私は美しくなりたかった。男たちにちやほやされ、高い服を着て、美味しいものを食べて生きたかった。それが私の幸せだった。でも今は……鏡に映る自分の痩せこけた顔を見るのも怖いんです」
涙が彼女の頬を伝った。しかし彼女の目は、勇人から離さなかった。
「あなたの専属肉便器になれば、暖かい部屋に住み、美味しいものを食べ、美しい服を着られますよね? それだけで十分です。尊厳なんて、暖かい食事と引き換えなら安いものだと思います」
沈黙が流れた。勇人は沙耶香をじっと見つめ、彼女の言葉の真偽を量っていた。そして彼はある結論に達した──彼女は本気だ。狂っているかもしれないが、本気だ。
「イリス、契約書を準備しろ」
「かしこまりました」
イリスが軽くうなずくと、ウォールパネルから薄いタブレットが現れた。彼女がそれを操作すると、プリンターから紙が吐き出される。それは羊皮紙のように厚く、上質な紙だった。
勇人はその紙を受け取り、沙耶香に手渡した。
「読め。すべての条項が書かれている」
沙耶香は紙を受け取ると、貪るように読み始めた。彼女の目が行を行き来する。
契約書
第一条 山本沙耶香(以下「被契約者」)は高都勇人(以下「契約者」)の専属の性的所有物となる。
第二条 被契約者は契約者のあらゆる性的要求に無条件で応じる義務を負う。
第三条 被契約者は契約者の居住空間内での生活を許可され、衣食住の全てを契約者と同等の水準で保証される。
第四条 被契約者は契約者の許可なく居住空間から外出してはならない。
第五条 契約者は被契約者の健康状態を常に最良に保つ義務を負う。
第六条 本契約は被契約者の自発的な意思により締結されるものとする。
第七条 契約違反があった場合、被契約者は直ちに居住空間からの退去を命じられる。
沙耶香は最後の一行まで読み終えると、顔を上げた。
「同意します」
「本当に良いのか?」勇人が念を押した。「これは明確な性的搾取だ。もし司法が機能していたら、お前の同意など無効にされる可能性が高い」
沙耶香は笑った。それは悲しげで、しかしどこか解放された笑いだった。
「司法? もうあの世界は終わったんです。今は力のある者が全てを支配する世界。そしてあなたはその力を持っている」
彼女は契約書をしっかりと握りしめた。
「私はこれを完全な自由意思で選びます。あなたと同等の生活ができるなら、このチャンスを逃すはずがない」
「……どっちが主人なんだ?」勇人が呆れたように言った。
沙耶香の顔がたちまち甘ったるい笑みに変わった。
「もちろん、あなたがご主人様です」
そして彼女は突然、契約書をひったくるように取り上げると、自分の股間に押し当てた。
「朱肉貰えますか?」
勇人が能力で朱肉を創造し、沙耶香に手渡す。彼女は片手で陰唇を広げると、もう片方の手で指に朱肉を塗り込む。その紅いインクを陰唇に塗り付けると、彼女は契約書の署名欄にしっかりと押し付けた。
「ほら、生きたおまんこ印♡」
勇人は言葉を失った。イリスでさえ、一瞬処理が止まったような気がした。
「……頭がおかしいんじゃないか?」
「多分ね」沙耶香は契約書を勇人に返しながら言った。「でも、これで正式な契約成立でしょ?」
勇人は契約書を受け取り、そのまだ湿った「印」を見下ろした。彼はため息をついた。
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