チート召喚勇者男性妊娠現代転生もの 作:さくらんぼ
アーク様が、空前絶後のモテ期です。
いや、前からモテていたんですよ。あんなに綺麗で、頭も良くて、魔法も使えて、性格までいいんだから、モテないわけがない。
でも、やばいお立場だったから、遠巻きにしていたわけです。
ところが、アーク様の価値が上がって、多少の火遊びも許容できるくらいに旨みが出た。
それで群がっているわけです。
私の書いた小説が流行し、天空島の事が広まってからというもの、アーク様の周囲には人が集まるようになった。しかも、以前はアーク様を見下していた人達まで、今では親しげに話しかけてくるのである。
手のひら返しが凄い。
まあ、私も話が進む度にキャラに対してグルグル手のひら返してた人間ですけれども。
それはそれとして。
「アーク様! 今日もお美しいですね!」
「おはよう、トール。君も元気そうだね」
「はい! ところで、昨日の夜は何をしてたんですか?」
「勉強をしていたよ。忙しいけれど、成績を落とすわけにもいかないからね」
「さすがです!」
「それから、王宮からも使者が来た」
「おおう……」
楽しい話が終わってしまった。
「何の用です?」
「私の国に、王国の人間を受け入れるようにと言われたよ」
「お断りしましょう!」
「ふふ。即答だね」
「だって、いらないですもん! よっぽど優秀でよっぽど美しいなら話は変わってきますけど、それならエルフ一人加えた方がいいし……。アーク様はどう思います?」
「コメントは控えておくよ」
アーク様は笑った。可愛い。
でも、王国の人間はいらない。そもそも私は、魔力に依存した生き物を日本へ持って帰るつもりなのである。それだって救済措置で、こちらとしてはなくても全然構わない。ただ、獣人とかエルフとかドワーフとか、会えたら喜ぶ人がいるかなってそれだけ。人間はこの世界に残っても生きていけるんだから、わざわざ連れていく必要がない。天空島を使って暴れ出したら害にしかならないし、少数の部族をちょっと連れて行くぐらいが好ましい。
「王宮には、移住の対象は魔力に依存する種族だと説明したんだけどね」
「聞いてくれませんでした?」
「王国に貢献する機会を与えてやる、と言われたよ」
「……何それ?」
「献上させてやる、とのことだ」
「うわー……断りました?」
「保留にしたよ。私一人の判断では決められないからね。悪いけど、盾にするよ」
「どんどん盾にしてください!」
さすがアーク様。
断って角を立てるより、決定権がないことにして時間を稼ぐ方がいい。
「なんとかのらりくらりと5年、時間を稼げればいいのだけどね。難しそうかな」
◇
アークは王宮からの使者を迎えていた。
「魔王との関係は、順調なようだな」
「はい」
「ならば、そろそろ成果を見せてもらおう」
「……成果、ですか」
「天空島の権利を王家へ譲渡させろ」
アークは微笑んだ。
「難しいでしょうね」
「何?」
「魔王は、新たに作る島を私に与えると約束しています。ですが、魔王には明確にこのような島を作るという展望があり、そこに魔王を拉致した人間は含まれておりません。私の決定権などあってないようなもの。逆らえば、島を作ること自体なかったことになるでしょう」
使者の顔が歪んだ。
「……忌々しい雌犬め。人間に逆らうとは」
「急がなくても良いのではありませんか? あの島は魔王の力によって維持されています。無理に奪えば、何が起こるか分かりません。魔王が帰還魔法を使って死ねば、空間魔法は破れ、財産はばら撒かれます。そこを回収すればいいのでは」
「ええい、それではこちらの都合のいいように配分できん! それに島に先住者がいるのも困る!」
アークは穏やかに続けた。
「今は、魔王の機嫌を損ねないことが重要です。私が交渉を続けますので、どうかお任せください」
「……分かった。だが、王家への忠誠を忘れるな」
「もちろんです」
アークは深く頭を下げた。
使者が去った後、アークはゆっくりと息を吐いた。
欲深い王国。恐らく、卒業まで待たないだろう。その前に大事な人を避難させなくてはならない。
トールは既にアークの親しい人へと護衛を配しているし、意図せず監視体制が整った事で、アークを本当に思う人、騙していただけの人間の仕分けも出来た。
卒業したいと、今はアークも思っていない。
いずれは大切な人を回収して、天空島に移動して住む事になるだろう。
だが、その前に集めておきたい物資は山とある。
トールは大まかな枠組みは作れるが、食器や調度品などは用意できない。
日本と対するにあたり、最低限守りたい格式もある。
その準備が出来るのは今だけだ。
そして、それは周囲も見透かしていて、ここぞとばかりに協力して欲しくば自分達を仲間にしろと言ってくるだろう。
チキンレースはもう始まっている。