チート召喚勇者男性妊娠現代転生もの 作:さくらんぼ
出産しました!!!
可愛い! めちゃくちゃ可愛い!!!
白髪碧眼の、アーク様によく似た赤ちゃんである。ちっちゃいお手々も、ふにふにのほっぺも、何もかもが可愛い。
アーク様は泣いた。
それはもう、めちゃくちゃ泣いた。
「……ありがとう、トール。本当に、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます! アーク様に似て、とっても可愛いです!」
「君にも似ているよ。ほら、目元が」
「ふおおおお! 可愛い!!!」
ちなみに、魔王の子供は成長が早い。妊娠期間も短かったし、生まれた子供も人間より早く成長するらしい。
武さんからは、お祝いと一緒に育児についての資料が届いた。
大変ありがたい。
アーク様は赤ちゃんを抱っこしては幸せそうに微笑み、私を抱きしめ、また赤ちゃんを眺めている。忙しい人である。
「……トール」
「はい!」
「もう一人欲しいね」
「早い! まだ生まれたばっかりですよ!」
「ふふ。そうだね。まずは、この子を大切に育てよう」
アーク様は、赤ちゃんの小さな手に指を握らせて、うっとりと微笑んだ。
幸せ。とても幸せ。
でも、そろそろ帰らなければならない。
日本へ。
私の故郷へ。
◇
帰還準備は、既に大詰めを迎えていた。
天華国と天翼国の住民には、改めて移住の意思確認を行っている。日本へ渡れば、元の世界へは戻れない。天空島の外へ出るにも、日本政府との取り決めが必要になるだろう。
それでも移住するか。
それとも、この世界に残るか。
当然、残る人もいた。
故郷を捨てられない人。家族と離れたくない人。魔力が失われても、この世界で生きていくと決めた人。私は、その選択を尊重した。
だって、私だって日本に帰りたいんだもの。
故郷を大切に思う気持ちは、よく分かる。
もちろん、魔力が失われたら生存が難しい種族もいる。そういう人達には、できる限り説明して、移住を勧めた。それでも残るというなら、仕方ない。
私は全員の人生に責任を持てるわけじゃないし、持つ気もないのである。
「……これで、ほぼ全員の確認が終わったね」
アーク様が、書類を閉じた。
「はい! あとは出発するだけですね!」
「そうだね。天華国の行政も、しばらく私が不在でも回るように整えたよ」
「さすがアーク様!」
私は拍手した。
アーク様は、以前よりもずっと仕事を人に任せるようになった。各種族の自治を認め、行政官を育て、必要な権限を分配している。
大変素晴らしい。
なお、最初の動機は私とイチャイチャする時間を増やすためだった。
愛の力って偉大ですね!
「それで、トール。帰還について、もう一度詳しく聞かせてほしいんだ」
「もちろんです!」
◇
会議室には、アーク様と武さんがいた。
私は、システム画面を開いた。
「まず、天空島をアイテムボックスに収納します! 天華国、天翼国、それから私のプレイヤーハウスですね」
「住民ごとか?」
「はい! 収納中は時間が停止しますから、皆さんには一瞬の出来事です」
武さんが頷いた。
「それで、お前は地球へ転生するんだな」
「そうです!」
「……で、俺達はいつ出られる?」
「私がアイテムボックスから取り出した時です!」
私は胸を張った。
「つまり、転生した直後でも取り出せるのか?」
「はい! 赤ちゃんでもシステムは使えますから!」
武さんが、微妙な顔をした。
「……赤ん坊に国の命運を預けるのか?」
「…………」
あっ。
そう言われると、非常にまずい気がする。
アーク様も、真剣な顔になった。
「トール。君が幼い間に天空島で何か問題が起きたら、どうするんだい?」
「えーと……」
「君が魔法を使えたとしても、赤ん坊の君に政治的な判断や責任を求めるわけにはいかないよね」
「……そうですね」
そもそも、日本政府との交渉はどうするのか。
赤ん坊が突然天空島を出現させたら、大騒ぎである。
いや、成人してからでも大騒ぎだろうけど、赤ん坊よりはマシだろう。
「……では、成人してからにしましょうか」
「それがいいと思う」
アーク様が頷いた。
「日本では、何歳で成人するんだい?」
「二十歳にしましょう!」
法律上の成人年齢とは別に、私達の再会の目安としては二十歳がちょうどいい。
自分の判断で動ける年齢だし、ある程度の教育も受けられる。
「……二十年か」
アーク様が、少し寂しそうに呟いた。
「でも、収納中は時間が止まりますから! アーク様にとっては一瞬ですよ!」
「……そうだね」
アーク様は微笑んだ。でも、何か考え込んでいる。
「……それに、幼い君と一緒に暮らすのは、少し問題があると思うんだ」
「問題ですか?」
「うん。君は私の伴侶だけれど、赤ん坊から育てたら、息子のように思ってしまうかもしれないだろう?」
なるほど。
光源氏計画は危険!
「確かに! せっかく夫婦になったのに、親子みたいになったら困りますね!」
「そうなんだよ。君の成長を見守りたい気持ちもあるけれど、私は君の夫だからね」
アーク様が、私の手を取った。
「二十歳になった君と、また夫婦として会いたい」
「はい! 約束です!」
武さんが、何とも言えない顔で私達を見ていた。
「……まあ、本人達が納得してるならいいが」
◇
「では、二十歳になるまでに、何を勉強しておきましょうか!」
私は、張り切って相談した。
「大学まで行った方がいいでしょうか? それとも大学院?」
「……大学院まで行くと、二十歳を過ぎるよね」
「そうですね!」
アーク様が、少し考え込んだ。
「必要な学問なら、再会してから一緒に学びたいな」
「一緒に?」
「うん。君の故郷の知識には興味があるし、私も学びたい。そもそも、国の運営に必要な専門知識を、私達だけですべて修める必要はないだろう?」
「なるほど!」
「必要なら専門家を雇えばいい。君も私も、専門家の意見を理解して判断できれば十分だと思うんだ」
おお、合理的!
確かに、私が医者や法律家や建築家になる必要はない。
それぞれ専門家を雇えばいいのである。
「では、バイトをするか、料理と掃除と服飾を勉強したいです!」
「……料理と掃除と服飾?」
「はい! 家事能力はあって困らないので!」
アーク様が笑った。
「君らしいね」
「アーク様にも美味しいものを食べていただきたいですし、お洋服も作ってあげたいです!」
「それは楽しみだね。可愛い君を食べるのは好きだよ」
「アーク様ぁ」
イチャイチャイチャ。 武さんがまとめた。
「……それなら、二十歳で再会しよう」
「はい!」
「それ以上は、待ちたくないからね」
アーク様、寂しがってくださっている!
「私も早く会いたいです!」
「……それに」
アーク様が、少し目を細めた。
「君が私の知らないところで、誰かに言い寄られるのも困る」
「えっ」
「大学院卒業の年齢なら、結婚を考える人も増えるだろうし、君に好意を寄せる人が現れるかもしれないだろう?」
「ふおおおお! 嫉妬ですか!?」
「もちろん」
アーク様は、にっこり笑った。
「私の大切な伴侶だからね。悪い虫がつく前に迎えに行きたいくらいだよ」
「アーク様ぁ!」
私は感激して抱きついた。
武さんが咳払いした。
「……話、終わったか?」
「はい!」
◇
さて。
ここで、非常に重要な問題がある。
キャラクリエイトである。
そう!
転生するなら、キャラクリエイトができるのである!!!
私が勇者として召喚されたときも、ゲームのアバターを利用していた。
そして、魔王になった今も、ゲームシステムの一部を使うことができる。
今回の帰還魔法では、魂を地球へ送り、転生先の肉体を新しく作る。
その際、キャラクター作成画面を利用できるのだ。
つまり!
自分好みの外見を選べる!!!
「……アーク様!」
「何かな?」
「キャラクリエイトしましょう!」
私は、システム画面を開いた。
目の前に、立体的な人体模型が現れる。
髪の色。瞳の色。顔立ち。身長。体格。
そして、性別。
「……これは」
アーク様が、目を見開いた。
「次の人生の外見を、自分で決められるんですよ!」
「……凄いね」
アーク様は、興味深そうに人体模型を眺めた。
「……君は、どんな姿になりたいんだい?」
「うーん。どうしましょう!」
私は、画面を操作した。
今の私は赤毛赤眼で、ほっそりした体格だ。
結構気に入っている。
でも、せっかくなら、もっと格好よくなりたい。
アーク様に、もっと好きになってもらえるように!
「……アーク様!」
「何かな?」
「どんな姿が好きですか!?」
アーク様が、にっこり笑った。
「どんな君でも好きだよ♡」
「ふおおおお! ありがとうございます!」
私は感激した。
アーク様は、私の肩を抱いた。
「……でも、せっかくだから、少し触ってみてもいいかな」
「もちろんです!」
私は、操作権限を渡した。アーク様が、人体模型を眺める。
アーク様はまず、髪の色を変えた。
元々日本人として転生予定なのだから黒だったのだが、茶髪っぽい黒からカラスの濡れ羽のような黒へと変わった。
瞳も黒。
顔立ちは、東洋的なものに。
すっきりとした目元。通った鼻筋。涼しげな表情。
おお。
塩顔イケメン!
でもどこかで見たような?
「……アーク様、こういう顔がお好きなんですか?」
「うん。とても綺麗だと思うよ」
アーク様は、真剣な顔で調整を続けた。
肩幅が広くなる。胸板が厚くなる。腹筋が割れる。
腕にも筋肉がついた。
おおおお。
マッチョ!
しかし、アーク様はそこで止まらなかった。
「……少し違うな」
「えっ?」
「筋肉が多すぎる。もう少し細い方がいいね」
肩幅を少し狭くする。腰を絞る。胸筋を調整する。
腕の筋肉も、太くなりすぎないように整える。
さらに、脚の長さや首の太さまで調整し始めた。
……アーク様?
あ、あの。あくまでも参考程度で、特にマッチョは持ち主の努力もないと維持できないんですけど……。仕方ない。アーク様の理想の伴侶の姿を目に焼き付けて訓練しよう。お嫁さんなんだから美容に気をつかわないとだよね。
それにしてもアーク様、めちゃくちゃ真剣ですね?
「……アーク様、すごくこだわりますね!」
「せっかく君の体を作るんだから、最高に格好よくしたいだろう?」
アーク様は、涼しい顔で答えた。アーク様も男よのぅ。
でも理想の姿がたおやかな美女じゃなくて、イケメンマッチョなんですが……。
夜のアーク様を思うとちょっと意外だ。今までアーク様が好きだって言ってくれたえっちな服シリーズ、これ似合わないよ?
「……このくらいかな」
完成した人体模型を見た。
黒髪黒眼。東洋的な塩顔の美青年。適度に筋肉がついた、引き締まった体格。
しかし、全体的には細身の美しさを保っている。
推しキャラのマイワンアンドオンリーだった。
まじで?
「アーク様! すごいイケメンですけど、大丈夫? 私に気をつかってます? 本当にこれに勃つ?」
「以前見せてもらった絵の中で、変わった雰囲気の魅力的な外見だと思ってね。英雄の親友っていうのもいいかなって」
「アーク様がいいならいいですけど」
私は、人体模型をぐるぐる回した。
どの角度から見ても推しキャラのカプ相手である。
私が推しキャラと結婚して推しキャラになる……?
はっ つまり成り変わり……!?
私はアーク様の様子を見た。
あ、これめちゃくちゃ好みなんだ。
とても満足そうに眺めている。
なんだか少し腹が立ったのでアーク様をつねった。
落ち着け、これは浮気相手じゃなくて私なんだ。
やはり私は推しキャラ成り変わりだった……?
◇
アークは、完成した人体模型を見つめていた。
完璧だった。
かつてトールが描いた、英雄の無二のパートナー。
東洋的な顔立ちの、精悍な美青年。
筋肉はあるが、太すぎない。肩幅と腰の細さのバランスも素晴らしい。
そして、何より。
この姿のトールを、自分が抱きしめられる。
自分より強そうな男を、自分の腕の中に閉じ込める。
……素晴らしい。
アークは、内心で満足していた。
トールは、そんなアークの思惑など知らず、嬉しそうに人体模型を眺めている。
「アーク様! こんなに格好よくしてくださってありがとうございます? ちゃんと転生後の私に惚れてくださいね。体型の維持大変そうですけど、頑張りますから!」
「どういたしまして。それは心配ないよ。絶対好きになる」
アークは、微笑んだ。
どんな君でも好き。
それは本当だ。
だが、自分好みの姿になってくれるなら、なお嬉しい。
しかも、トール自身が喜んでいる。何の問題もない。
……本当に、何の問題もない。
アークは、心の中で満足げに頷いた。
◇
「それでは、次は能力設定ですね!」
私は、画面を切り替えた。
マッチョにしたので、戦士タイプにするか魔法戦士タイプにするしかない。
魔法戦士タイプでいいか。
適当にステータスを割り振り、完成!
私は、迷わず決定ボタンを押した。
そもそも、転生先に倒すべき魔王はいないのだし。むしろ私が魔王だし。
「楽しみだね」
「本当に」
そして、出発の日。
天華国と天翼国の住民達は、それぞれの島で待機していた。
収納中は時間が停止する。
私が二十歳になって天空島を取り出すまで、皆さんには一瞬の出来事である。
もちろん、アーク様も、武さんも、子供も。
皆、私のアイテムボックスの中で待つことになる。
「……トール」
アーク様が、私の手を取った。
「……二十年後だね」
「はい!」
「……約束だよ」
「もちろんです!」
私は、アーク様を抱きしめた。
「二十歳になったら、すぐに取り出しますから!」
「……うん」
アーク様が、私に口づけた。
「……愛しているよ」
「私も愛しています!」
私は、子供を抱きしめた。
可愛い。大切な、大切な私達の子供。
「……またね!」
私は、アーク様に子供を預けた。
そして、天空島を収納した。
天華国。
天翼国。
プレイヤーハウス。
すべて、アイテムボックスの中へ。
最後に残ったのは、私一人だった。
私は、かつて奪った魔法陣の中央に立った。
荷物も人も全部アイテムボックスにしまってある。
時限式の魔法陣の完全破壊装置もセット済み。
よし!
勇者召喚の魔法陣を解析し、改造した送還魔法を発動する。
「……それでは!」
私は、大きく息を吸った。
「日本へ帰ります!!!」
魔法陣が輝いた。
眩しい光が、私を包み込む。
そして。
世界が、反転した。
◇
そして。
私は、日本で生まれた。
新しい体。
新しい人生。
でも、記憶はそのまま。
魔法も、ゲームシステムも、アイテムボックスも、全部ある。
そして、二十歳になったらアーク様と、また会える。
私は、小さな手を握りしめた。
……ふふふ。
待っててくださいね、アーク様!
今度こそ。
日本で、家族みんなで幸せに暮らしましょう!!!