チート召喚勇者男性妊娠現代転生もの 作:さくらんぼ
アーク様の為に、空間魔法の教材を作らなくてはならない。
私は朝から机に向かっていた。
無限。
空間障壁。
瞬間移動。
空間収納。
空間切断。
空間そのものを歪めて攻撃を逸らす。
敵との距離を永遠に縮めさせない。
引力と斥力は使えないけど、その代わり収納が出来るのは大きい。
うむ。
「…………」
ペンを置いた。
「説明できるかぁ!」
なんとなくは分かる。
分かるんだけど、なんとなく分かるのと、人に説明できるのは全然違う。
私の場合、ゲームキャラ由来のスキルは、発動しようと思えばなんとなく使える。
魔法も同じだ。魔力とゲームシステムがいい感じに融合して、それは魔王の力を得た今も同じ。だからゲームにない空間魔法スキルを付与できたのだ。
なんかそれっぽい創作でわかってくれるかなと、推し漫画を模写をしようとするが普通に無理だった。仕方なく頑張って小説を書く。これなら魔法を使う際のイメージの補助になるかもしれない。
これでなんとかなれー!
それとは別に、教科書も……
「無限とは……無限である……」
無理だな。助けて世に溢れる作家さんたち。ファンタジー得意でしょ。
こんな教材を渡したら、アーク様に馬鹿だと思われる。
私はせっせと小説を書いた。
せっかく推しっぽい能力をプレゼントしたのだ。是非ともアーク様には最強になってほしい。
いや、アーク様本人は推しじゃない。
推しに似ているだけだ。
分かっている。
分かっているんだけど。
白銀の髪!
蒼い瞳!
目隠し!
空間魔法!
「ふおおお……!」
完成してしまう。
私の理想が。
「トール様」
「はい!」
扉の向こうから声を掛けられ、慌てて姿勢を正した。
「アーク様がお見えです」
「えっ」
時計を見る。
まだ朝食前だ。
「アーク様が!?」
「はい」
「今行きます!」
◇
「おはよう、トール」
「お、おはようございます!」
いた。
寮の談話室にアーク様がいた。
朝から美しい。朝日を浴びているだけで祝福されて見える。
美しすぎて眩しい。
「どうしたんですか、こんな朝早く!」
「迷惑だった?」
「まさか!」
ぶんぶん首を振る。
「アーク様なら二十四時間歓迎です!」
「二十四時間?」
「一日中って意味です」
「なるほど」
アーク様は小さく笑った。
「日本の言い回しかい?」
「そうですね」
「覚えた。今度言葉も教えてほしい」
おお。
日本に来る気満々だ。
嬉しいような、心配なような。
「それで、今日はどうしたんです?」
「……昨日、君が教材を作ってくれると言っただろう?」
「はい!」
「私も手伝おうと思って」
「アーク様が!?」
「私が使うための教材なのだから、私も参加した方がいいと思ったんだ」
「なるほど!」
天才か。
「それに」
「それに?」
「君がどんなものを作るのか、気になってね」
微笑まれた。
ぐっ。朝から攻撃力が高い!
「ど、どうぞ! 私の部屋に!」
「いいのかい?」
「もちろん!」
アーク様を連れて自室へ戻る。
「…………」
机の上を見たアーク様が黙った。
「…………」
「…………」
「トール」
「はい」
アーク様は教材を見つめる。
「これは?」
「教材です」
「『無限とは無限である』」
「読まないでください」
「こっちは小説? これは私の絵?」
「わかりやすいと思って。漫画は無理ですが、表紙ぐらいなら書けるので」
「読んでみたい」
楽しそうにアーク様は言う。
「完成をお待ちください」
「一ヶ月で書き上げて見せます」
「楽しみにしてる。本は好きなんだ。特に冒険ものがね」
「趣味の一致!」
「そうだね、一致だ」
アーク様が笑った。
◇
結局、教材作りは一旦諦めた。
代わりに実技である。
私達は朝食を食べて学校へ行き、授業が終わると訓練場へ向かった。
「まずは一番簡単なところから行きましょう!」
「うん」
「空間拡張! いっぱい物が入ります!」
「?」
「例えば、この箱の中身の空間を何倍も広くすると言いますか……」
私はやってみせる。
「箱の中見えますか? 中身が何倍も広くなってる」
「すごい……」
私はその辺の石を拾って、箱に放り込んだ。
「重さはそのままですが、荷物がいっぱい入ります」
取り出す。
落とす。
「こんな感じです」
「…………」
「アーク様?」
「君がやると、どのくらい入るの?」
「これは初歩です。重さがそのままなのでこのままだと使いがたいんです。応用編は、ここではないどこか、倉庫の空間と繋げたり、亜空間……ここではない空間そのものに収納します。そうすると道を作るだけなので重くならないんです。そして、私は亜空間に城ひとつ余裕で入れられます」
「すごいね。私も出来るようになる?」
「アーク様の魔力量なら極めればちょうど城ひとつ分かと」
「すごい……」
「空間魔法はすごい魔法なんです。攻撃も防御もできますが、アーク様も収納から始めましょう」
「うん」
アーク様は目を閉じた。
魔力が動く。
私が埋め込んだスキルが反応している。
「そのままです!」
「……こう?」
空間が歪んだ。
用意した箱の空間が広がる。
「ふおおおおおお!」
「えっ」
「できた! アーク様できた! 天才!!」
「いや、まだ何も」
「初回ですよ!? 初回で空間広げた! すごい! 流石アーク様!」
「トール、近い」
「すみません!」
気づけば両手を握っていたので、慌てて離そうとする。
でも。
握り返された。
「…………」
「…………」
「教えてくれている先生がそんなに喜ぶなら、悪い気はしないね」
「せんせ……」
先生。
アーク様の先生。
いい。
ものすごくいい!
「毎日やりましょう!」
「毎日?」
「はい!」
「……そう」
アーク様が微笑む。
「毎日か」
なんで二回言ったんだろう。
◇
訓練を終える頃には日が傾いていた。
「今日はここまでにしましょう」
「ああ」
「魔力の感じどうです?」
「少し疲れたかな」
「じゃあ甘いもの食べましょう!」
「また?」
「魔力使った後は糖分ですよ!」
「そうなの?」
「多分!」
「多分なんだ」
昨日と同じ菓子屋へ向かおうとして。
影の護衛が鳴いた。
「チッ」
「ん?」
「チチッ」
私の足元から黒い生き物が顔を出す。
鼠っぽい。猫っぽくもある。犬っぽくもある。とにかく哺乳動物だ。
魔王の力を使ったなんちゃって眷属である。
「どうした?」
「チーチー!」
「…………」
報告を受ける。
私は眉を寄せた。
「トール?」
「アーク様」
「うん」
「今日、帰らなきゃ駄目です?」
アーク様の表情が止まった。
「……どうして?」
「昨日、アーク様に嫌な事をしようとした人。寮でまた待ってるみたいです」
「…………」
「会いたい人です?」
「いや」
即答だった。
「じゃあ帰るのやめましょう!」
「え」
「私の部屋に泊まります? それとも、寮じゃなくて家から通う?」
「…………」
「駄目?」
「いや、待ってくれ」
アーク様が額を押さえる。
「君はどうしてそう簡単に」
「嫌な人が待ってるところに帰る必要あります?」
「あるよ」
「なんで?」
「…………」
「家族?」
「違う」
「お金?」
「違う」
「人質?」
アーク様が黙った。
当たりか。
「私が昨日つけた護衛、信じられないです?」
「毒という手もあるからね」
「じゃあ、アークキャッスルに攫いましょう。まずはお城の設計からですね」
「トール、私にも戦わせてくれ」
「戦う、ですか?」
私はアーク様を見る。
「まだ何も準備出来てない。力も、財産も得ていない。学園生活だって。だから、私にも頑張らせてくれ。日本に行ったらもっと大変な交渉ごととかも出てくるだろう。だから、私を見守ってくれ。君に守られるだけの人形にはなりたくないんだ」
「アーク様……かしこまりました。でも眷属のアーク様には、影の魔物の指揮権を与えておきます」
「……ありがとう」
アーク様を、信じよう。
「卒業まで、時間をくれ」
「わかりました」
それから、アーク様を送り届けた。
とても不安だけど、アーク様を信じないといけない。
殿下にも、メンツという物があるからだ。
それにしても、魔王というのは完全に王国に知られているらしい。
こうしてハニトラ要員を送ってくる程度には、行動パターンとかも熟知しているということ。
なら隠すのは無駄だな。
日本への転移の準備を進めていることを公表するか。
旧魔王様とも接触しないとだしね。
私は、自室で旧魔王様の武さんに連絡をした。
『武さん。ちょっと用事があるんだけど』
『ほお“お”お“お”お“!! らめぇぇぇ!!』
『……取り込み中みたいなんで2時間後くらいに連絡するね』
魔王は魔力に汚染されると、戦う事とエッチする事しか考えられなくなるのである。そして転生を繰り返しながらひたすら産みまくって周辺を襲うのだ。この時、相手の種族は問わない。人間はもちろん、動物魔物植物までも。亜人のルーツはだいたいそこにある。
なので理性がなくなって暴れだし始めると、魔王の座を譲位させて殺す。
本当にクズなシステムなのである。武さんもその後遺症があるのだろう。
私は魔力汚染の対策が出来てるので、凶暴化も淫乱化もないはずだ。
科学の発展に乾杯。
『もう終わったー?』
『恥ずかしい声を聞かせた……』
私は事情を話した。
『そうか。確かに魔族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、ドリアッド、竜族は影響があるな。事前に声をかけて置くことは必要か』
『そう。ギルドキャッスルを譲るから、声掛けと取りまとめはお願いしたい。魔王国を建国して欲しいっていうか』
『君が王となるのではないのか?』
『そしたら面倒見ないといけないし、必要に応じて雇う形式がありがたいかなぁ』
『はぁ、まあ良いだろう……。ギルドキャッスルとはこの城か?』
『ううん。そこはプレイヤーハウス。休暇に話に行くよ』
天空島とかデートスポットに良さそう。アーク様も誘おう〜。
◇
「遅かったな」
戻ったアークを、昨日と同じ男が待っていた。
「申し訳ありません」
「魔王とは?」
「放課後を共に過ごしておりました」
「何を聞き出した」
「空間を操る術を教わりました」
「……何?」
「次代魔王は、私に力を与えようとしています」
男の顔が変わった。
「どの程度の力だ」
「まだ分かりません」
「全て報告しろ」
「承知しております」
「他には?」
アークは少し考える。
「彼は、故郷への帰還を考えております」
「はっ」
嘲笑する。
「世界の壁は越えられん。越えられるとしても魂だけだ」
「…………」
「まあいい。その計画を立てている間は大人しいという事だな。報告は怠るな」
「…………わかりました」
男の目が細くなる。
「これは一々殺す手間も必要なさそうだな。その後は待たせた分、せいぜいサービスしてもらおうか」
ニヤニヤと下卑た顔で言われても、アークの表情は変わらなかった。
「承知しております」
「ならいい」
男が去り、扉が閉じた。
アークはしばらく、その扉を見つめていた。
「……オールオアナッシング。上等だ」
魔王の事を信じるのはリスキーだ。わかっている。
だが、座していても待っているのは破滅だけ。
魔王に、魔王の故郷に賭ける。
その為に、魔法を、日本語を覚えて財を為す。
それらは魔王の為ではなく、アーク自身を守るものだ。
亜空間に保存したものが次元を越えられるかは賭けだけど。
どうせ生き残っても、死んだほうがマシな目にあうだけ。
トールと共に、次元の壁に挑戦する。
途方もなく命がけの行為なのに、トールと一緒なら簡単に思えた。