ゼロの伴侶 もしも才人が夜這いに成功したら 作:tonebon
月の光が窓から差す下で女体が桃色にうねっていた。
背中まで伸びたブルネットの髪を振り乱し、背中から腰のくびれに汗が流れている。
豊満な胸が後ろから突かれるたびにベッドにつぶれる。
顔をベッドにうずめ、上半身を支える腕に力はなく、すでに女性は力尽きかけていた。
だが、尻をつかむ逞しい両腕がそれを許さない。
尻だけ、いや、両脚も宙に浮いていた。
女性を攻める男は直立しているのだ。
女性は上半身をベッドにうずめ、両脚を開かされた形で下半身のみが不可視の力で浮いていた。
メイジがいたらこう言うだろう。
風の魔法。
男は風のメイジなのだ。
風の魔法をつかう杖は右手に握られ、右の尻に押し付けられている。
男が激しく下半身を女の尻につきつけるたびに、杖の突起が女の尻に傷をつけた。
「この平民が! 女が! メスが!」
肉棒を女体の奥に突きつけるたびに男が叫んだ。
男の逞しい肉体に秘められた筋力が女体の秘部に強烈な一撃を加える。加え続ける。
「も、もう勘弁してぇ…」
「うるさい! 売女めっ! だまれっ!」
長い口ひげから漏れる呼吸が乱れた時、男は陰部に熱い物が高まるのを感じた。
射精だ。
「ぐっ!」
男は下半身を引いた。
肉棒が女体の秘部からずるりと抜ける。
粘液がまとわりつく肉棒を尻に載せ、女性の背中に向け放った。
乳白色の飛沫が飛び散り、桃色に上気した背中に飛び散った。
同時に女性の下半身がベッドに崩れ落ちた。
風魔法が切れたのだ。
男の身体からも力が抜け、女性の身体にのしかかるように倒れた。
男は逞しい全裸の肉体をベッドにさらしていた。
両腕を顔に載せ、乱れた呼吸を整えている。
長い口ひげが呼吸のたびに乱れた。
「貴族様、よかったわよ。素敵だったわ」
ベッドに腰掛けたブルネットの女性は全裸で月の光を浴びていた。
女体からは若さは抜けかけていたが、むせ返るような色気を放っていた。
母性を感じさせる豊満な胸の上で、淫靡な視線が男を見つめている。
「…中に出してもよかったのよ…?」
くびれた腰をくねらせ、女性は男の胸に豊かな胸を載せた。
柔らかく、充分な弾力がある脂肪が男の胸でつぶれた。
「もう一回…する?」
しかし、ブルネットの髪の下で女性の瞳は凍った。
男の瞳を見たからだ。
「…うるさい。黙れ」
その瞳は殺気を含む狂気をはらんでいた。
男が杖をつかみ、早口で呪文を唱える。
空気の塊が女性を跳ね上げ、瞬時にベッドに落とした。
「きゃあっ!」
男はその叫びが終わらぬ内に女性の上にまたがり、両手で女性の首をつかんだ。
女性は首をつかむ両手から冷たい気配を感じた。
自分を殺そうとする気配。
「ひっ!」
女性の細い手が男の手首をつかむ。
「こ、殺さないで! いやっ!」
しかし、女性の腕の力では、男の引き締まった両腕は微動だにしない。
男の両目には狂気が燃えていた。
首をしめる両腕に少しづつ力が入ってゆく。
「…この! このっ!」
男の視線が女性の首からゆれる乳房に落ちた。
痙攣する女体にあわせ、ふるえる乳房と乳輪。
「お…俺に…母を思い出せるなっ! 母さんを汚すなっ!」
女性の見開かれた眼がぐりんと白目になり、かはぁと息が漏れた。
下腹部からは愛液にまじって尿が飛び散り、湯気が立った。
「……かあさん」
男の名前は「ワルド」。
「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」
トリステイン王国の魔法衛士隊グリフォン隊の隊長である。
彼の心には闇があった。
--母殺し。
それは昔の事。
ワルドの母は「魔法アカデミー主席研究員」だった。
歴史と地学を研究する、理知的な女性だった。
少年のワルドはそんな母を誇りに思っていた。
それだけに。それゆえに。
ある日を境にワルドの母は豹変した。
意味不明な事を繰り返し叫び、恐怖し、屋敷から一歩も外に出なくなってしまったのである。
心を病んでしまったのだ。
ワルドの父はこう言った。
「女だてらに難しい学問をするからだ」
そして、ワルドの母は屋敷の奥に幽閉される事となった。
ワルドは母を誇りに思っていただけに激しく落胆し、父と同じ考えをもつようになっていた。
「女だてらに」と。
ワルドの母が繰り返し叫んだ意味不明な言葉とは--
”ジャン、ジャック。聖地を目指すのよ”
聖地とは始祖プリミルがハルケギニアに降臨したとされる場所である。
現在はガリア王国のさらに東の砂漠「サハラ」の先にあるとされ、その地に到達するには
エルフの国を通らねばならない。
エルフとハルケギニア各国は聖地をめぐった長い戦いの歴史があり、近年の遠征軍の大敗から、
聖地到達はブリミル教貴族の悲願ながら、事実上、困難とされていた。
ワルド十二歳のパーティの日。
母が。なぜか、幽閉されているはずの母が部屋から出てきたのである。
母はワルドの名前を叫びながら屋敷を歩いた。
「ジャン! ジャン、ジャック! 聖地を! 聖地を目指すのよぉ!」
多数の貴族が集っていたパーティの中で。
その姿はワルドにとって”恥”としか思えぬ状態だった。
「母さん、部屋に戻ろう」
冷たい口調と視線で母の手を取り、ワルドは部屋へ連れていこうとした。
その時だった。
その時、母がワルドに抱きついてこようとしたのだ。
幽閉され、痩せた母の胸のふくらみがワルドの腕に触れた時、ワルドの心に湧いたのは。
”やめろ!”
拒絶だった。
無意識に左手を押し出した。母を拒絶し、押した。
軽く、軽く押したつもりだった。
押された母は。
その先には。
階段だった。
母は階段に後ろ向きに倒れ、そのまま崩れ落ちていった。
ぐぎり。
パーティを開いていた屋敷の広間に音が響いた。
枯れ木を折るような音。
首の骨が折れる音。
ワルドの母は背中から階段に転げ落ち、首の骨をぽっきり折って死んだ。
ワルドは見たのである。
落ちる瞬間の、母の驚愕の視線を。見開かれた眼を。
ぐにゃりと首が折れた母の死体を。
”お、おれは。俺は悪くない。は、母はもう、死んでいたようなものじゃないか!”
父は事故と処理した。
父も心を病んだ母の扱いに困っていたのだ。
”お、おれは。俺は悪くない。は、母はもう、死んでいたようなものじゃないか!”
母を殺した。
自分の罪にさいなめられたワルドは魔法の修行に没頭した。
8年間。
修業の日々は母殺しの罪から逃れるための日々でもあった。
スクウェア・メイジとなり、「閃光」の二つ名を得る程の使い手となった。
そして。
ワルド二十歳のある日。
彼は見つける事となった。
母の部屋に残っていた日記帳を。
そこには母の真実が記されていた。
”恐ろしい秘密”
いわく――ハルケギニア大陸の地下には恐ろしい秘密がある。
恐怖を呼ぶ、とてつもなく恐ろしい事実。
こんなことを他言するわけにはいかない。誰にも話せない。神に祈るしかない。
聖地に向かわねば、わたしたちは救われない。
しかし、聖地には恐ろしいエルフがいる。
可愛いジャン。わたしのジャン・ジャック。
母の代わりに聖地を目指してほしい。
きっと、そこに、この恐怖から逃れる救いの鍵がある…。
その日記を読んだワルドの両目から涙があふれた。
日記帳をもつ両腕が震えた。
母が心を病んだのには理由があったのだ。
そんな事に気が付かずに、母を”恥”と思い、そして殺してしまった…。
その瞬間、ワルドの道が決まった。
”これは義務だ。聖地になにがあろうと関係ない。俺はそこに行かなければならない”
母が求めた聖地へ。
そのためならなんだってする。
それが母への贖罪。
母を殺した自分の義務。
ワルドは聖地へ行く方法を探し始めた。
その中で、アルビオン王国で貴族派のレコンキスタによる反乱が表面化する。
その目的は「ハルケギニアの統一と聖地の奪回」。
ワルドがレコンキスタの一員となったのは必然だった。
レコンキスタの一員としてトリステイン王国の魔法衛士隊隊長の身分のまま潜み、
決起をまつ日々だった。
しかし、母の目指した義務を果たす事を誓っても、成人男性である。
女の身体が欲しくなる事もあった。
そんな時はチクトンネ街の夜の女達が集まる店に来るのだ。
しかし、自分で女を買っておきながら、激昂して首を絞めるのは狂気もすぎる。
そんなワルドの暴走をひとつの手が止めた。
「いけませんよ。女性にそんなことしては」
首を絞めるワルドの腕に細い手の指がからんだ。
細い指だった。ともすれば女性とも思える指と手だった。
しかし、その力は女性ではなかった。
ワルドの腕がしびれ、握力が消された。
「くっ!?」
瞬間、正気を取り戻し、壁にかけてあったレイピアような杖の元に飛ぶ。
戦闘に使う杖だった。
素早く手に取り、ワルドは突然現れた敵に杖を向ける。
「よかった、この女性は生きてますね。安心しました」
ひゅうと細い息をし、ごほごほと咳をして身体をまるめる女性の向こうに敵はいた。
月の光を背中からあびたその姿は、とにかく美しかった。
女性かと見紛う細身の身体。きらきらと輝く金髪。腰にかけた細身の剣。
ワルドはその美貌の主が身にまとう服に見覚えがあった。
「…ロマリアの神官か?」
月光の中に身を包む美貌の主がその両目をワルドに向けた。
左右の瞳の色が違った。
左の瞳は鳶色、右の瞳は碧色。
「月目」であった。
その瞳はワルドの身体のみならず、心の奥までを見通すような、魔の魅力を秘めていた。
ワルドが一瞬、呆然としたほどである。
「はははは! 「閃光」と恐れられるトリステイン魔法衛士隊隊長にケンカを売りに来わけではありません。
杖を収めてください。」
マントの裾をつかみ、優雅に礼をし、起こした顔は美しい笑顔だった。
「…何者だ」
「ぼくはあなたに始祖ブリミルの…教皇からの御神託を授けに来たのです」
「神託だと?」
「…ええ、神託です。三つの神託を。まず、一つ目」
「月目」の男が右手の人差指を立てた。
「先日囚われた「土くれのフーケ」です。彼女の本名はマチルダ・オブ・サウスコーダ」
「なに?」
「そう、サウスコーダ。アルビオン王弟、モード大公の直臣だった方の娘なのですよ」
ワルドは杖を静かに降ろした。
「ほう…」
それはアルビオン王家に恨みを持つ者という事だった。
だとするなら、レコンキスタにとっては重要な情報となる。
また、トリスタニアを騒がせた「土くれのフーケ」ならば、魔法の腕も相当なものだろう。
「…証拠は?」
「ご本人に本当のお名前で訪ねてみるとよいのでは」
「…わかった。二つ目は」
月光の中の美貌がくすりと笑うと、美しい指がもう一本立った。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「ルイズ!?」
ワルドは突然の名前に驚愕した。
昔、父親のつてでラ・ヴァリエール家に出入りした時、婚約の約束をした少女の名前だった。
桃色の髪の少女は魔法が使えず、泣いてばかりいた。
母の一件以来、修行に没頭したため、忘れていた名前だった。
「…ルイズがどうかしたのか?」
「彼女が召喚したのは平民の使い魔でした」
ワルドは一瞬の沈黙の後、苦笑した。
あの可愛らしい少女は、いまだ魔法に失敗するようだ。
「もっとも、その使い魔は”ガンダールヴ”ですが」
ガンダールヴ。苦笑していたワルドの表情が引き締まる。
「ガンダールヴ…だと?」
「ええ。と、いう事は」
「はは、バカを言え。という事はルイズは虚無の担い手なのか? 冗談は…」
その時、月光の中で右手の甲が光り、文字が浮かび上がった。
その光景はあまりに神秘的で、ワルドの心から猜疑心を消し去っていた。
「なにを隠そう、僕は”ヴィンダールヴ”ですよ。神の右手です。嘘は言いません」
「と、いう事は、お前の主人は…」
「ええ、虚無の担い手です」
「では、ルイズも?」
「ええ、間違いなく虚無の担い手ですよ」
あの少女が。
あの泣き虫の少女が。
あの小さなルイズが虚無の使い手だと?
虚無。
風・土・水・火の系統魔法を上回る、始祖ブリミルが使ったという虚無の魔法。
それを、あの少女が使うという。
ワルドは心の闇が薄れていくような感覚を覚えた。
俺の婚約者が虚無の担い手だと…それはこの世で最強の力が俺の物という事か。
母の願いを達成するために、これ以上の朗報は無い!
「そ、そうか、あの小さなルイズが…俺の婚約者が…」
「婚約者ですか」
神の右手と名乗った男の神々しいまでの表情が、この時、曇ったのを知るものはいない。
「そうか、そうか! それは吉報だ! まさに神託だな! 残りの一つは?」
美しい指がもう一本立ち、3本目となった。
「近く、あなたはアルビオンへの使いの命を受けます。
アンリエッタ姫からね。その命には、ラ・ヴァリエール嬢も同行する事になります」
「なんだと?」
「アルビオンのウェールズ皇太子宛ての手紙を授かるのです」
は、ははは。
ワルドは久しぶりに笑いがこみ上げてくるのを感じた。
ウェールズ皇太子に公式に接触できるというのか。
さらにその旅にはルイズが同行するという。
こんな好機は二度と無いだろう。
「はは、そうか! ロマリアの神官殿、いや、神の右手殿! 素晴らしい神託を感謝します!」
ワルドは全裸の身体でかしずき、頭を下げた。
「いえいえ、これも始祖ブリミルの導きですから」
その時、ベッドの女性が気がついた。
「な、なによ、あんた…」
月光の中で輝く美しい少年を見て、女性は呆然とした。
「おや、起きましたか。運がない。アズーロ」
その瞬間。
月光を遮り、窓から黒い影が入ってきた。
それは巨大な竜の首だった。
女性は月光の美貌に呆然としたまま、竜に咥えられ、瞬間的に部屋から運び去られた。
「このお店は不審火に会います。後の始末はまかせて、さ、行ってください」
美貌の主の声は美しかった。どこまでも冷たく、冷酷なまでに。
ワルドは服を着て、杖を掲げ、騎士の礼をした後、部屋を立った。
夜の街をかけるワルドの背後でチクトンネ街の一角から炎が上がった。
あの炎の中で何人の生命が燃えているのか。
ワルドはそんな事など知る由もない。考えもしない。
「ルイズ…俺の小さなルイズ! 会える時を楽しみにしているよ!」
ルイズがすでに”母”になっている事も、知る由もなかった。