※この作品はR-18です。

ランス 反逆の鬼畜戦士   作:てるゆき

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第9話 奇襲

 バボラ撃破後、スードリ10の中に設けられた野戦病院の中でランスは椅子に深く座り、仲間達と共にくたびれた様子を見せていた。祝勝会の準備が終わるまで手持ち無沙汰なので体力の回復に努めているのだ。

「やっぱりヒーラーが欲しいわね。魔人との戦いは一筋縄ではいかないし……」

 ベッドで上体を起こした姿のかなみがそうつぶやいた。

「……そういやカフェちゃんはどうしてる?」

 ランスはかなみの話に食いついた。カフェとは以前ランスと共に戦った超一流のヒーラーの名前だ。

「今はゼスにいるらしいわね。確認してないけど。というかランスの仲間でここにいないのは大体ゼスにいるわよ」

 ゼスもまた魔軍の侵攻を受けている最中だ。状況は戦力は整っているものの、ランスの到着をひたすら待っていなければならない分、ある意味ヘルマンより悲惨かもしれない。

「よし、呼べ」

「何がよし、よ!」

「うるさい。俺様が呼べば何をおいても駆けつけるのは当たり前だろう」

 断じてそんなことはないと心の中で叫ぶかなみだが、実際ヒーラーがほしいのは確かだ。

「……じゃあ手紙だけでも書いてみるわよ」

「なんだと!? 忍者なんだからそのくらい自分で行け!」

「無茶言わないでよ! こんな体で動けるわけないじゃない! すぐ書くから待ちなさいよ…… ほら、これ出しとくから!」

 かなみはすぐに援軍の要請をしたためてランスに見せる。

「こんなところでも郵便屋さんは来るのか?」

 この魔人との戦争の最前線では確かに郵便なんか来なさそうではあった。

「大丈夫よ。さっき来てるの見たし」

「くしゅん! 誰か噂してますねー。いやあ、モテル女はつらいなあ!」

 しかし、この世界には前触れもなく突如として現れる郵便配達人が存在するのだった。

「おやランスさん、奇遇ですねーこんなところで」

「亮子ちゃんは節操なくどこにでも現れるな……」

「おほほほ、ランスさんには言われたくない台詞ですね」

 その名を等々力亮子という。必要とあらば魔物界まで手紙を届けると言われるその道のプロだ。

「こんな所まで配達してるんですか?」

 かなみの言うこんなところとは、最前線の野戦病院の事だ。一般人にはひどく危険なところなのは間違いない。

「いえ、こういうところでは生き残ったぞーみたいな手紙を家族に送る人も多いんですよー。これも一種の戦争特需って奴ですかね。ランスさんもどっかのご家族に生存報告されます?」

「アホか。俺様はそんなことしない」

「あ、けどこれ届けて欲しいんです。ゼスのカフェ・アートフルさんまで」

 かなみが差し出した手紙を亮子はしっかり受け取った。

「はい確かに。じゃあさよならー」

「ま、カフェちゃんがくれば戦いも楽になるだろ。あーまた眠くなってきた。俺様は寝るぞ」

 ランスはそう言うとずかずかかなみのベッドの中へ入って行った。

「あ、ちょっと! 勝手に入んないでよ!」

「うるさい、俺様にはベッドがないのだ。ここで寝かせろ」

 ミネバに言えば特別な部屋が用意して貰えるだろうが、ここは野戦病院のため自分で歩ける人間に提供するベッドはなかった。

「ああ、もう……」

 かなみも結局この強引さに黙り込むしかなかった。

 

魔人討伐記念祝勝会が夜、盛大に開かれていた。見るものを絶望のどん底に突き落とすバボラの撃破はそれまで暗かったヘルマンの兵士の表情を明るく輝かせていた。

「あーさっきから男ばっかり挨拶に来てむさ苦しいったらないな」

 ランスはマリアと共にその宴席に出ていた。むしゃむしゃと料理を食らい、酒を飲む。かなみを始めとする他のメンバーはダメージが重く、まだ病院で休んでいる。

「ま、よかったじゃない。英雄様?」

「別に男に群がられても何も嬉しくない。女はいないのか、女は!」

 さっきからランスに取り入ろうというのは何らかのコネクションを築きたがる、腹黒そうなものたちばかりだった。何度カオスを抜きそうになってそれをマリアが止めたことか。危うく祝勝会が血に染まるところであった。しかし、次に挨拶に訪れた男は長身に美しい容姿を備えた美男子だった。

「初めまして、ランス殿。私はアリストレス・カームという者です」

「イケメンに興味はない。どっか行け」

「ちょ、ランス! 失礼なことを言ってすいません! どうぞお話を続けてください!」

 手ひどくアリストレスをあしらうランスをマリアがいさめる。アリストレスはその様子を見て微笑んだ。

「いえ、噂にたがわないお方のようで安心しました。今日、挨拶に伺ったのは、お聞きしたいことがあったからです」

「ん、なんだ」

「何故、パットンの元を離れたのですか?」

「またそれか。こっちの方が待遇がいいのだ。お前こそミネバの部下だろう」

「……確かにその通りです。ですが、ヘルマンは元々貧乏な国です。待遇にそれほどの差はないのでは?」

 アリストレスの瞳には、何か真剣そうな事情が見え隠れしていた。ランスがそれを読み取っているかは微妙なところだが、マリアはその様子に違和感を持った。アリストレスが質問を続けていると、今度はミネバがランスの元へやってきた。

「ボウヤ、楽しんでるかい?」

「お、ババア」

「ふふ、アリストレス、ヘルマンを救ってくださる英雄様にあまり失礼なことを聞くんじゃないよ」

 現れたミネバは横目にアリストレスを据えながら牽制した。

「いえ、なにか思惑があってミネバ様に近づいたのかと思いまして」

「俺様がそんなせこいことするか!」

「それが失礼だって言うのさ。すまないね、ボウヤ。優秀だけど頭の固いやつでね」

 ミネバの後ろから美しい女性が出てくる。眼鏡をかけた知的な雰囲気の美女だ。

「む、その可愛い子は誰だ?」

「紹介する約束だったろ? クリーム・ガノブレードだよ」

「……どうも」

 クリームは顔を曇らせながらランスに挨拶した。

「ほうほう、君がクリームちゃんか。うひひ、噂どおり美人だぞ。グッドだ」

「待遇というのは……」

「すいません……」

 その様子を見るアリストレスがランスの言葉の真意に気付き、マリアは申し訳なさそうに謝った。

「よし、クリームちゃん。今日から君は俺の女だ。いいな?」

「……はい」

「うむうむ。じゃあこんなかったるいパーティーは抜け出して俺様の部屋で別のパーティーを始めるぞ。がはははは」

 ランスはクリームの肩に手を回し、さっさと会場から出て行ってしまった。

「ふふ、分かりやすくていい男だろ?」

「…………」

 ミネバはアリストレスに目配せし、アリストレスは不安そうに黙り込んだ。

「……私はどうすればいいのよ」

 一人残されたマリアは気まずそうに酒を一口飲むのだった。

 

 ランスの部屋はミネバに用意された豪勢なものだ。普段一人で使う分には落ち着かなさそうが、女性を連れ込むにはいい雰囲気でランスも気に入っていた。

 そこではランスが準備の整ったハイパー兵器をクリームになめさせている。

「がはははは。生真面目そうな子のフェラはやはりいいな。もっと根元からなめ回すのだ」

「ん……はい……」

 ランスの言葉に従ってハイパー兵器を奮い立たせるクリーム。

「…………! 心の友! ちょっと待て!」

 ベッドの脇に立てかけられていたカオスが急に声を上げる。

「だーーー! こういう雰囲気でしゃべるな! 捨てるぞ!」

「違う、魔人だ! ここに魔人が近づいてきてる!」

「はあ? 魔人はさっき倒したろ?」

「夜襲だ! 早く準備しろ!」

 カオスの尋常ではない雰囲気にクリームはランスへの愛撫をやめ、手早く身支度を整える。

「あ、おい。どこに行くのだ!」

「すいません、もしそれが事実ならすぐさま私は仕事に戻らなければなりませんので」

 ランスの呼び止める声も聞かずにクリームは部屋を出て行った。

「待てーーー! どうしてくれんだこれ! まだ一発も出してないんだぞ!?」

 ランスのハイパー兵器は元気なままだった。

「ほら、いいからおぬしも準備しろって」

「うるさい!! というかお前のせいだろ!!」

 仕方なくハイパー兵器をパンツの中にしまいこみ、身支度も調えてランスは部屋をでる。

「くそっ、クリームちゃんを見かけたら問答無用で一発やってやる」

「そんな暇ないぞ」

 

 宿を出てみるとカオスの言葉通り、もう魔人は到着しているようでスードリ10は混乱に包まれていた。魔人が現れたという情報に踊らされ、浮かれきった兵達は一転パニックに陥っていた。

「ちっ、カオス、魔人はどこにいるのだ。俺様をいらだたせた罰を思い切り食らわせてやる」

「おい、仲間と合流してからの方がいいだろ。さすがに一人はやばいぞ。それに手勢を連れてきてるから一対一でもないし」

「やかましいわ! いいから教えろ!」

 ランスは頭に血が上っており、もう冷静な判断はできていないようだ。

「あー近くなのは分かるんだが……」

「肝心なときに使えん奴だ」

 ランスがいらいらしているところに外套を身にまとって襲い掛かってくるものがあった。

「お前がランスか!!」

 ランスはすぐさまカオスを抜いて刺客を吹き飛ばした。思いのほか軽かった刺客は激しく宙を舞う。一撃で意識を失ったらしく、倒れたまま動かない。

「ふん、魔人の部下だな。女の声じゃないか。ちょうどいいしこいつで一発……」

 ランスは刺客に近づいて半分臨戦態勢のハイパー兵器を取り出す。

「おい、馬鹿やめんか! さすがにそんな雰囲気じゃないだろ!」

「雰囲気とかどうでもいいわ! 顔を見せやがれー!」

 刺客の外套を剥ぎ取ると、それはカラーの姿だった。美しい容姿をした女性の外見に、額には澄んだ赤のクリスタルが目に入る。

「ん? カラーが敵なのか?」

 ランスが訝しそうにその顔を見つめていると、またカオスが騒ぎ出す。

「……っ! 近い! 魔人がこっちに来ているぞ!」

「ちっ、いいところだというのに……」

 混乱する兵士で溢れていたはずの通りは、いつの間にか刺客と同じ格好をした者達で埋めつくされていた。そのどれもが女らしく、華奢なシルエットをしていた。

「その汚いものをしまって彼女から離れるんだ」

 唯一顔を隠してない長髪の男がランスに呼びかけた。その声だけで体の芯から凍りつきそうな恐ろしい魔力を感じさせた。

「……お前が魔人か」

 ランスは片手に意識を失ったカラーの刺客を持って振り向いた。

(ちっ、いけ好かねーツラしてやがる)

 ランスにそんな感想を抱かせるのは、魔人の容姿があまりにも美しかったからだろう。その額にはまるでカラーのようなクリスタルが輝いていた。

「けっ、こいつから離れなければなんだと言うのだ? おっと、動くなよ。動けばこいつの命はないぞ」

 ランスはカオスを抱えている刺客の喉下に添えた。

「がはははは! こいつの命が惜しくばお前はその場で死ね!」

(うわーいつものことながらえげつねー)

 ランスお得意の戦法にカオスは少し引いていた。ランスも昼間のバボラとの戦いで体調は万全ではないし、ここは是非とも楽に勝ちたかった。魔人は顔を顰め、顔を隠した刺客たちは一斉に身構える。

「皆、動くな」

「ホラホラ、どうした? 早くしないと可愛い部下が死んでしまうぞ? そうだ、せっかくだしお前に俺様とこいつが一発やるところを見せてやろうか!」

 ランスは人質の頬をカオスの腹でペシペシと叩きながらどんどん調子に乗っていく。

「……ん……」

 カオスで頬をはたかれたためか、人質のカラーは目を覚ました。そして、自分と最愛の主人の置かれた状況に驚愕する。

「こ、これは!?」

「お、目が覚めたか。いいご主人様を持ったな。お前を人質にしたらあいつ黙っちまったぜ」

 ガハハハハ、と楽しくて仕方なさそうに笑うランス。

「ケッセルリンク様……」

「……ケッセルリンク? こいつが魔人四天王か」

 ケッセルリンクの名にランスが反応する。それは魔人の中でも指折りのつわもの、魔人四天王の一人の名だった。

「そうかそうか、お前が魔人四天王のケッセルリンクか。いいことを聞いたぜ。よし、早く死ね。そうしたらこいつを助けてやる」

 ランスは再びカオスを人質の喉下に押し当てる。なんの労力もかけず、魔人四天王を殺せる。間違いなく最高の好機だ。

「……ケッセルリンク様、どうか勝ってください」

「えっ」

 そんなランスの期待は裏切られ、人質は自ら突き立てられたカオスに首を押し当て、自害した。頚動脈は完全に切り裂かれ地面に大量の血が滴る。

「あー! 何もったいないことをしてんだ!」

 ランスの言うもったいないとはケッセルリンクを殺す機会を逃したことではなく、せっかくの美人を死なせてしまったことだ。ランスが人質の死を嘆いていると、ケッセルリンクは隙を見逃さず魔法を放った。

「アンコク」

 それは文字通り暗黒の波動を光線のように放つ闇系の初級魔法だ。牽制にしか過ぎないはずのそれは、それでも一流の冒険者の命を奪って余りある威力を秘めていた。

「うおっ! あぶねえ!」

 そして、ランスも自身最大級の敵を前にみすみす隙を作るほど迂闊ではなかった。すぐさまマントを翻し、ケッセルリンクの魔法をかわす。しかし、わずかにかすった衝撃でマントの先は焦げている。

「ちっ、面倒だぜ」

 ケッセルリンクとランスの距離は走って4歩ほどの距離。ランスは迷うことなくケッセルリンクとの距離を潰し、必殺の一撃を放とうとする。

「ランスアタターーーーッ……!!」

「デビルビーム」

 後は振り下ろすだけ。そうすればいかに魔人四天王でも防ぐすべのないはずの必殺技を命中させられるというところだったが、それはケッセルリンクの真横の女が放った魔法によって妨げられた。

「ガフッ……! なんだと……!?」

 その魔法自体大した破壊力はなく、ランス自身も高いレベルと高級な装備を整えていただけあって、致命傷には至らなかった。

 しかし、術者が優秀だったのか、すぐには回復できないダメージをランスの身に刻んでいた。

 吐血し、地面に転がるランスが魔法を放った術者を見上げると、フードの中からは見覚えのある顔が見えた。

「……ナ、ナギ……!?」

 それはランスの昔からの知人の一人、魔想志津香にとって仇敵の娘であり、胤違いの妹に当たるナギ・ス・ラガールだ。

「なんで、ケッセルリンクと一緒に居やがる……!」

「……ひとつは貴様に復讐するため、だ。父上を殺したこと、忘れたとは言わせない……!」

 ランスは志津香の復讐を手伝う際に瀕死にあった志津香の仇敵、チェネザリ・ド・ラガールに止めを刺したことがあった。

「まだ、そんなこと言ってんのか…… ふん、俺様に抱かれりゃ忘れちまうぜ、そんな事は」

「ふざけるな!!」

 ナギは横たわるランスを手にした杖で何度も何度も打ち据える。

「貴様に抱かれたとき、私がどれほどの怒りを抱いたか! 貴様も、魔想の娘も! 決して許さない!」

 ランスはナギの杖に殴られながらも何とかこの状況を生き延びる術を考えていた。

(ナギの杖は痛くも痒くもないが、この状況はまずい。何か、使えるものは……)

 そしてランスが思いついたのはやはり、あの手だった。

 ナギが思い切り振りかぶって落とした杖を、ランスはあっさり掴んだ。

「へっ……魔法使いがこんな距離で肉弾戦とは間抜けな選択だったな」

 戦闘を再開できる程度まで体が動くようになったランスはそのままナギに飛び掛ろうとする。

「やい、ケッセルリンク! こいつの命が惜しけりゃ……!」

「アンコク」

 ナギを人質にしようとしたランスを、ケッセルリンクはあっさり撃ち抜く。

「ガハッ……!」

 ランスは今度こそ気絶したようで、左手に持ったカオスも離してしまった。

「貴様のような外道の手には二度もかからない」

「おい! 心の友! しっかりしろ!!」

 カオスの必死の呼びかけにも反応を示さない。もはや生きているかも怪しかった。

「ナギ、復讐をしようというのはいいが、相手の力を見誤らないことだ。君は強いが、ランスは人間離れした強さだ。侮ってはならない」

「……はい」

 ケッセルリンクの注意にナギは意外なほど素直に頷いた。

「その男に止めを刺すんだ。それで君の復讐は一つ終わる」

「…………」

 ナギは呪文の詠唱を始める。それは、暗黒系の最強魔法、黒色破壊光線のものだ。その威力は光系の最強魔法、白色破壊光線以外に比肩するもののないまさしく最強の魔法である。

「おい! 心の友! 本当に死んじまうぞ! 魔人をぶっ殺して英雄になるんだろう!? シィルちゃん助けるんだろう!? 起きろ!!!」

 カオスは懸命に呼びかけるもランスは目を覚まさない。もうすぐナギの詠唱が終わる。そうなれば、ランスの体は跡形もなく吹き飛ぶだろう。

「……!? 散れ!!」

 強大な魔力の奔流を敏感に感じ取ったケッセルリンクが部下達に回避を命じた。同じくナギも気が付いたようで、詠唱を中断し身をかわす。

 ケッセルリンクの部下達はいくらか回避に失敗し、眩い白色の光に巻き込まれた。その光はそれでも勢いを全く衰えさせず、正確にケッセルリンクへ向かっていく。

 だが、ケッセルリンクに命中する寸前、見えない壁に弾かれるように霧散した。ケッセルリンクの無敵結界が攻撃をかき消したのだ。

「白色……破壊光線……!」

 ケッセルリンクとナギが同時に呟く。それは黒色破壊光線の対極の魔法。光系最強の魔法だった。

「まさか……!」

 ナギがその光の照射元を睨むと、そこには憎むべき姉の姿が目に入った。

「ナギを、妹を返してもらうわ、ケッセルリンク」

 魔想志津香はランスの仲間達を引き連れて現れた。

「ランス! しっかりして!」

 涙目のマリア・カスタードがランスに駆け寄る。直後、場は乱戦の様相を呈した。

「死んではいないけどひどい怪我よ…… 早く治療しないと……」

 見当かなみはランスの様子を見て青ざめている。やたらと頑丈なランスの弱りきった姿に衝撃を隠しきれていない。

「志津香! 早く逃げないと……!」

「でも、ナギが……!」

 自分の命が狙われているにも関わらず、志津香はナギの身の安否を気遣っている。

「ランスがいなくちゃ魔人の相手なんてできないんだよ!? 行くの!!」

 マリアは志津香の腕を引っ張って強引に引きずろうとする。

「くっ……」

 志津香も根負けし、退くことを承知する。

「俺がランスを担ぐ! みんな! ここは引くぞ!」

 ランスに裏切られているにも関わらずこの場に来たパットンは、カオスを鞘に収め、ランスを担ぎ上げてケッセルリンクの部下達を蹴り飛ばしながら走り出す。

 だが、そんなパットンの前に一つの影が立ちはだかった。ケッセルリンクだ。

「君らを見逃すのは構わない。だが、その男は置いていけ」

 あまりにも冷たく、恐ろしいケッセルリンクの声にパットンは脂汗が異常に吹き出るのを感じた。

「……ここは勘弁してくんねえかな……?」

 パットンは精一杯の虚勢を微笑みに込めてケッセルリンクに語りかける。

「駄目だ。その男とカオスはあまりにも魔人にとって危険すぎる。この場で始末する」

 しかし、ケッセルリンクの決意は固かった。ケッセルリンク自身、ランスという男の強さを感じ、何より危険に思っていた。

「ちっ、しょうがないか……」

 パットンは覚悟を決めた。最早ランスを担いで逃げることは叶わない。ならばせめて自分が時間を稼ぐ間に何とか逃げて貰うしかない、と。最悪、自分の跡はミネバに継がれても構わない。だが、ここでランスが死ねば確実にヘルマンそのものが滅びる。それだけは許せなかった。

 ランスを下ろそうとしたパットンの前に白く華奢で、それでいて何より頼もしい軍神が立った。

「あなたはその人を担いで逃げて。ここは私が引き受ける」

 上杉謙信は刀を構えケッセルリンクから目を逸らさずにパットンに語りかけた。

「だが……!」

「ランス殿を担いで逃げ切れるのはあなた以外いない。どうか、その人を頼む……」

「……わかった」

 謙信から滲む悲壮なまでの覚悟に、パットンは踵を返して応えた。

「みんな! 脱出するぞ!! ……生き延びろよ……!」

 最後の台詞を謙信に向け、パットンは駆け出した。

「道は私が拓きます! バイラウェイ!!」

 無数に立ちはだかるケッセルリンクの部下を、リック・アディスンはその奥義で一度に切り伏せる。

「もはやここでのとどめは無理か……」

 ケッセルリンクはなにやら聞き覚えのない呪文を唱え始める。

「貴様の相手は私だ!」

 ケッセルリンクに斬りかかる謙信だが、その刃は決して結界を破ることはできない。ケッセルリンクは詠唱を終え、逃げて行くパットンに担がれたランスにその掌を向ける。

「……拘束モルルン」

 禍々しい光が掌から溢れていく。それは意識のないランスにまとわりつき、やがて吸収される。

「貴様、何をした……!」

「……右腕は殆ど利いていないな? 握力が入らないのだろう。聞けばバボラを倒すために随分無茶をしたようではないか」

「…………!」

 謙信は確かに万全ではなかった。いや、謙信に限らず、入院をしていたものは皆何らかの負傷を抱えながらもランスの危機に駆けつけていたのだ。

「それほどのことをしてまで彼の味方をするのか? 望めば私の使徒として永遠の命も与えられるぞ?」

 ケッセルリンクは誘うように片手を差し出す。凍えるような殺気は消え、ほのかな温もりすら感じた。

「……迷うまでもない。私はあの方のために戦い、あの方のために死ぬ」

 しかし、謙信はぶれない。ただひたすら一途にランスを思い続けているのだ。

「そうか……」

 一瞬でも気を許せばケッセルリンクはすぐにランスを追うだろう。勝算はない。生き残る道も見出せない。

「……毘沙門天の加護ぞある……!」

 それでも謙信は唱え慣れた祈願の言葉を口にし、ケッセルリンクに立ち向かう。

 

 意識のないランスを連れた決死の脱出は何とか成功した。スードリ10には敵の大群が迫っていたとの情報もあってすぐさま放棄され、ヘルマン軍とJAPAN、リーザス赤の軍の連合軍はローゼスグラードへと退却した。ランスが治療のためにベッドへ乗せられたのは明け方だ。

 脱出は成功した。だが、被害はどうしようもないほど大きい。

 謙信は消息不明。ランスは意識不明の重症。そして、診断の結果判明したこともあった。

 ランスは脱出の間際、呪いをかけられていた。それはカラーによるものらしく、人間に解呪は無理だという。

 呪いは拘束モルルン。文字通り肉体の自由を奪い、身動きできなくする呪いだ。

 例えランスの体が治っても、起き上がることもできないのだ。

「どう、しよう……」

 かなみは涙に震える声でそう呟いた。その場には脱出を果たしたランスの仲間達がいたが、空気は重い。普段はランスに憎まれ口を絶やさない志津香も顔を伏せて押し黙っている。

「こうなってしまったものは仕方がないでござるよ」

 鈴女は淡々とした口調で言った。

「仕方がないって、そんなの……」

 マリアは涙を零して反論しようとした。

「ランスはまだ生きているでござる。鈴女たちはランスがまた立ち上がるのを信じて行動するしかないでござる」

 しかし鈴女の瞳に絶望の色はない。ただただ現実にやらなければならないことが映っていた。

「カラーの森に行ってパステル殿に治してもらう。それしかないんでござるよ」




 はい以上9話でしたー。
 やったーーーーーー! やっと魔想さん出せたよーーーー! きっと皆さん待ち望んでいたことでしょう。作者もです!

 まあ、ふざけた話は置いときましょう。ついにランス負けちゃいました。反逆の鬼畜戦士というのは元々予定していたタイトルが既に使われていたため、ぶっちゃけ急遽適当に決めたんですが、今では『反逆』という言葉にはいくつか意味を込めてます。
 まあひとつはランスの世界に対する反逆ですね。AL教に追われ、悪者にされてしまったランスの反逆です。
 もうひとつは、自身の立場に対する反逆。立場と言うのは別にランス城の主とかそういうものでなく、主人公としてヒロインの救出に失敗してしまった者、という意味です。ヒロインはもちろんクルックーです。それによってランス君は主人公として一度失敗してしまいました。今はそんな中どうにかあがいているという意味での反逆です。
 これから今回のようにランスらしくもなく泥臭い失敗をしてしまうかもしれませんが、そういう苦労も含めての『反逆』です。
 ランスの反逆が成功するか、最後まで楽しみに見ていただけると幸いです。
 その前にちゃんと終わらせられるか心配なんですけどね!


 以下解説。

 ヒーラー
 回復魔法役。たしかランスの世界だと神魔法という技能を持ってる奴が使えた気がします。

 カフェ・アートフル
 ランスクエストで登場。エターナルヒーローの一人でランスの仲間になるヒーラーでは最強クラス。神に絶世の美女になることを望んだら男を狂わす魔性の魅力を身に着けてしまい、それにに翻弄されて約1500年もの間不幸に過ごすことになる。とある拷問器具により永遠の陵辱を受けているところをランスが発見。それを見たカオスがカフェの名前を呼ぶことでなんとか解放され、さらには神にかけられた呪いまでも解けた。TADAさん(ランスの製作者でえらい人)の好みドストライクのようで今後もさまざまな優遇が予想される。

 等々力亮子
 ランス6で登場。その正体はもう死亡済みの魔人ジークの使徒、オーロラである。仮装程度の変身でどこにでも見破られることなく潜入するライカンスロープ。今でも亡き主ジークを慕っており、なんとか復活させようと頑張っている。しかし、ジークはアベルトに魔血魂を上書きされたようで消滅してしまった可能性が非常に高い。そのいじりやすさから製作者からもプレイヤーからも広く愛されている。

 アリストレス・カーム
 鬼畜王ランスに登場。パットンの親友であり、昔から神童と呼ばれていた天才。ヘルマンの王女シーラを心から愛しており、そのためにパットンと敵対することもある。むしろ鬼畜王ではパットンとアリストレスは背反の関係にあり、どっちかを仲間にするとどっちかが仲間になりません。ちなみに反逆の鬼畜戦士では以前シーラ姫の処遇を書いたことがありますので、原作のファンの方は今彼が誰の味方か分かることでしょう。

 アンコク、デビルビーム
 ランスクエストで登場。他のシリーズで登場したかは覚えてません。大したことのない初級単体攻撃魔法と初級全体攻撃魔法。とはいえ、一流の魔法使いが使うと特にアンコクは侮れない威力になる。

 黒色破壊光線
 ランスシリーズに登場する中で最強と言っても過言じゃない魔法。黒色は味方に使い手が少なく、敵の使う技としての印象が強い。対策を講じていない味方たちが一瞬で吹き飛ぶさまは怒りを通り越して最早笑えるレベル。

 白色破壊光線
 黒色破壊光線と同じく最強の魔法。味方に使い手が多いのでよくお世話になる。集団戦ではそこまでずば抜けた威力ではないが、個人戦(RPG)での活躍ぶりは最強の名は伊達じゃないと納得してしまう。ちなみに両破壊光線は魔法の技能レベルが2以上じゃないと覚えることもできない。ただし、ランスクエストのパステル・カラーはなぜか魔法レベル1なのに黒色破壊光線を使える。

 拘束モルルン
 反逆の鬼畜戦士オリジナル技。元はカラーの呪いがxxモルルンという名前なのでそのノリで名付けた。モルルンが女王の呪い専用の名前だったらどうしよう。どうもしませんが。


 追記。
 今後書く予定があるかも分からないのでここで魔想さんの合流までの経緯を書いときましょう。
 志津香はランス達とはぐれたあと、またマルグリッド迷宮で腕を磨きつつ過ごしていたが、ナギに遭遇。ヘルマンを転々としながら戦い続けるが、あるときケッセルリンクと出会う。ナギとケッセルリンクは以前に知り合ったことがあるらしく、どこか親しい様子であった。最終的にケッセルリンクの誘いにナギは乗り、ケッセルリンクに連れ去られていった。

 とまあこんな具合です。アリスソフト様のブログに書かれた追加設定を織り交ぜながらのお話になってます。今回は破壊光線撃てなくなるまで魔想さんの腕が鈍るということはなかったようです。ナギンセスメーカーいいと思います!
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