時間はスードリ10陥落から少し遡る。
ウルザ・プラナアイスは頭を悩ませていた。政治、戦略の両面において非常に優れた能力を持つ彼女ではあったが、傷つける術のない相手は倒しようがない。できることはこちらに甚大な被害を与えられる代わりに相手を疲れさせ、引き返させることくらいだ。そして自分の仕事は勝つことではなく、いかに少ない被害で相手に飽きてもらうかを考えることだった。
(せめてランスさんがいれば……)
もう何度そう考えたことだろうか。頼みの綱は現在、ヘルマンで大いに活躍しているらしいという情報が入っていた。どんな困難だろうが乗り越えるエネルギーと気概を持つあの男は、傍にいるだけでこちらに活力を与えてくれる。きっとヘルマンもそんな彼の戦闘力以外の部分に大いに救われているのだろう。
「……はあ……」
現実逃避をしても仕事は進んではくれない。ウルザは書類に向き直るが、途端に忘れようとしていた疲労と眠気が彼女を襲った。思えば魔人来襲から碌な睡眠が取れていない。
「根をつめすぎよ、ウルザ」
ウルザに後ろから声をかけたのは、同じくゼス四天王の山田千鶴子だ。見ているだけで気疲れしてしまうような派手な色と意匠の服を常に纏い、面倒な仕事を共に引き受けてくれるウルザの親友だ。
「……わかっては、いるんですがね……」
ウルザの顔色は優れなかった。出口の見えない戦い、勝ちのない闘争はひたすら彼女の精神を蝕んでいる。千鶴子とウルザはそれぞれガルティア、カイトとの戦いを指揮しており、互いにその苦労を共有しあっている。
「……援軍は来てくれるけど、肝心のカオスがないんじゃ状況は変えようがないからね……」
何万の援軍を得ようが所詮は肉の壁を築き、敵を阻む程度しかできないのだ。彼女らは味方たちに時間稼ぎのために死んでくれとしか言えない。
「…………」
ウルザも同じ思いなのか、無言で答えた。
「けどね、それでもやんなきゃならないの。あなたが四天王に入ってくれるまで私はずっと一人でこんな状況に耐えてた。今はあなたがいてくれる分、ずっと楽よ」
ゼス四天王にチョチョマン・ホブリとウルザが加入したことでその負担は随分減ったが、千鶴子はゼスの身分差別が改善され、政治改革が行われる以前は腐敗しきった貴族とテロリスト対策を相手に一人で戦っていたのだ。その心労は今とさして変わらないのかもしれない。いや、敵が身内にいた分むしろ以前の方がつらかっただろう。
「……千鶴子……」
「さ、今日はこれ以上悩んでもいい案は浮かばないわ。少しはまとまった時間眠りなさい」
千鶴子はウルザを外に出そうと部屋のドアに近寄る。
「千鶴子さまー! お客さんがおみえですー!」
同時に千鶴子の弟子のアニス・沢渡が勢い良くドアを開けたため、千鶴子の顔面に思い切りドアがぶつかる。
「ああ! 大丈夫ですか千鶴子さま! あ、良かった無事ですね」
眼鏡が割れていないのを確認して一安心するアニス。しかし、千鶴子の鼻からは一筋の血が垂れていた。
「全っ然大丈夫じゃないわよ!! あんたは静かにドアを開けることもできないの!?」
「すっすいません!」
いつも通りの二人のコントにウルザが声を殺して笑っていると、アニスの入ってきたドアから誰か覗きこんでいることに気付いた。件の客というやつだ。
「あのーすいませーん」
「あ、あなたは……」
ウルザはその声の主に心当たりがあった。それはゼスの捜し求めていた光明であった。
それから時間は少し経ち、スードリ10が再び陥落した翌日。
あてなを除いたランスの仲間達はカラーの森へ向かうことを決めていた。
ランスを連れてカラーの森に行くことと、パステルを連れてくること。二つを天秤にかけて完全な足手まといになるランスを運ぶより、パステルを連れてくる方が時間がかからないと判断し、彼女らは実行の細かい確認をしていた。あてなはランスに付き添って待機だ。
「本当は鈴女一人で行くほうが早いんでござるが、この戦況で帰り道にパステル殿を一人で守りきれる自信はさすがにないんでござるよ」
鈴女は少し申し訳なさそうだった。カラーの森へ行く道は魔軍に占領されており、鈴女一人なら抜け道を使うこともできるが、パステルを連れながら敵の目をかわすことはできないだろう。
「気にしないで鈴女さん、なにもできないのは私達も一緒だから…… 志津香も一緒に来てくれる?」
マリアに話を振られた魔想志津香は嫌そうに顔をしかめる。
「……ランスを助けるのは嫌だけど、カオスがなきゃケッセルリンクは倒せないからしょうがないわね」
心強い魔法使いの参入に一同が喜ぶ。このパーティーに魔法に特化した者はいなかったため、志津香の存在は攻撃力の増強に大いに役立つだろう。
「そういえばなんであんなところにいたの? 私達もびっくりしたよ」
スードリ10での騒動の際、マリアは病院で休んでいた面々を呼び、ランスの救出に向かっていた。その途中、あまりにもいいタイミングで志津香と再会したのだ。
「マルグリッド迷宮に篭ってたんだけどね…… まあナギに襲われて応戦しながら転々としてたらいきなりケッセルリンクが現れたのよ。場所はスードリ10とマイクログラードの間くらいで、ケッセルリンクたちはすごいスピードで進軍してたわ。私は隠れてやり過ごそうとしてたんだけど、ナギがあいつに見つかって連れて行かれたの。で、追ってきたらみんながいたってわけ」
「ナギが心配で追ってきたの?」
マリアは志津香が自分の命を狙うナギの心配をしていたことに驚いた。
「……あの子があんな風になっちゃったのは私の復讐心が原因だもの。悪いのは全部ラガールだけど、私もマリア達がいなかったら復讐を果たすまでナギみたいに暴走してたかも知れない。そう考えたらほっとけないでしょ」
「……そうだね」
マリアは志津香が優しくて責任感の強い女だと知っている。だからいつも文句を言いながらランスに協力してしまうのだ。決してマリアを気にしているだけではない。
二人の話がひと段落したとき、そこに暗い表情をしたリック・アディスンが入ってきた。
「失礼します。すみませんが、私はこの作戦に帯同できなくなりそうです……」
「え!? な、なんでですか!?」
リックの発言にかなみは動揺しながらたずねる。個人の技量でも大いに優れるリックの離脱はパーティーにとって大きな痛手だ。
「実は、ヘルマンのトップがランスさんの処遇でかなり揉めています。パットン王はローゼスグラードから一歩も引かず、カラーの女王を待つつもりですが、ミネバ将軍は本部をログAまで一旦引き上げ、それにランスさんを連れて行くつもりです。つまり皆さんの作戦にはミネバ将軍は協力しません」
場の者達はリックの言葉に衝撃を受ける。本部を引き上げるということはそれだけ帰還までの距離が遠くなるということだ。行きと違い、帰りは敵の迎撃も十分考えられるため、距離の違いはかなり大きい。
「な、なんでですか!? だってランスさんを助けなきゃこのまま魔軍にヘルマンが取られちゃうんですよ!?」
かなみがリックをまくし立てる。彼に罪がないのは百も承知だが、混乱した彼女にはそれを気遣う余裕はなかった。
「……ゼスに動きがありました。聖刀日光を持った青年が魔人に手傷を負わせ、撃退したという報が入ってます」
聖刀日光を持った青年。JAPANでランスと共に戦った者達はすぐその正体に感づいた。
「小川健太郎……」
それは魔王となってしまった少女を守る魔人である。そして、彼が味方になったということはランスの絶対的な価値であった『魔人を傷つけられる者』が唯一のものでなくなったということだ。
「ミネバ将軍は英雄の身の安全を優先するといい、実質ランスさんを切り捨ててゼスの問題が落ち着くのを待つつもりです」
「…………」
ミネバのあまりの変わり身の早さに一同は絶句していた。
「しかし、パットン王は全面的に皆さんを支援するつもりです。パットン派だけでもローゼスグラードに残し、皆さんの帰還が少しでも楽になるように戦い続けるそうです」
一度ランスに裏切られているパットンだが、それでもランスの為に戦ってくれるという話に皆感動していた。
パットンはパットンなりの打算があるが、それは殆ど直感でしかないものであり、仲間達からは激しい反対を受けている。しかし、それほどの価値がランスにあることも確信している。
「私はローゼスグラード防衛のため、リーザス赤の軍を率いなくてはいけません。誠に申し訳ないです……」
リックが頭を下げるとマリアが逆に謝り返す。
「こちらこそすみません! 大変なときなのに出て行っちゃって…… ローゼスグラードの防衛、よろしくお願いします」
「いえ、どうか皆さんも気をつけて」
「はい、ありがとうございます!」
話がまとまったところで鈴女が話す。
「じゃあ今回カラーの森に行くのはかなみ、鈴女、サチコ殿、マリア殿、ミル殿、ラン殿、アルカネーゼ殿、戦姫殿に志津香殿でござるね。じゃあグダグダしてる時間はないし、さっさと出発するでござるよ」
こうしてバボラとの戦いの傷も癒えず、スードリ10撤退戦の疲労も残しながら鈴女たちはカラーの森へと旅立つのだった。
「…………あ?」
ランスが目覚めたのは暖かいベッドの中だった。
ここはどこか?
自分は何をやっているのか?
それらが全く分からないままあたりを見回そうと首を動かす。
「あっ、ご主人様起きたれす」
「おっ、ようやく目覚めたか。おーい、カフェー」
「呼んでくるれす。たったったー」
ベッドの右手、手を伸ばせば届く位置にカオスがいて、左にはあてなが座っていた。カオスがカフェを呼ぶとあてなが小走りに部屋を出て行ったようだ。
「……ちっ、看病はかわいい女の子がいいのに傍にいるのは馬鹿剣とあてなだけか」
ぼやきながらランスが上体を起こそうとひじを突いて腹筋に力を入れた。
「……あれ?」
つもりだった。しかし、目の前の光景は天井のままで、体のどの箇所も布団を押しのけた手ごたえを感じていない。
ランスの体は首から下が一切動いていない。確かに感触はある。厚い布と動物の毛に包まれている暖かさは感じているのに、指一本動かすことができない。
「何だこれ? ふんっ!」
「あっ、いま呪いのせいで体動かんらしいぞ?」
「はぁ!? 呪い!? またパステルか!?」
以前パステル・カラーにかけられた呪いのせいでひどい目に遭っていたランスはとっさにその名前を出した。
「いや、ケッセルリンクだ」
「は? あいつにそんな力があるのか?」
「みたいだな。あいつに関しては謎が多くて儂も詳しいことは分からんのよ。ほれ、手下にカラーがたくさんいたし、あいつらにやらせたんじゃないのか?」
ランスとカオスがしゃべっていると部屋の中にカフェが入ってきた。
「あ、ほんとに目が覚めてるね。おはよう、ランス君気分はどう?」
「おお、カフェちゃん! ようやく来たか」
「うん、手紙見てすぐ来たけどちょっと遅かったみたいだね」
ランスが以前ゼスに送った手紙を読んでカフェが手伝いに来てくれたようだ。
「というか俺の体はどうなってるんだ? 全然動かないぞ」
「うーん、拘束モルルンっていう呪いをかけられたみたいね。私も解除しようとしてみたんだけど上手くいかないのよ。やっぱりカラーじゃなきゃ駄目みたい」
カフェはランスの右手、カオスの近くにあった椅子に腰掛ける。
「ちっ、こんなことならパステルも呼んどきゃよかったな。他の女達はどうした? 俺様がこんななのに傍にいないとは、気の利かない奴らだな」
「あっ、みんなは一昨日カラーの森に向かったって。ランスの呪いを解いてもらうためにパステルさんを呼びに行ってるとか。私は昨日着いたからみんなもういなかったんだよね」
カフェは残念そうに苦笑いをする。
「じゃあもうすぐ帰ってくるか」
「ううん、もうしばらくかかると思うよ」
「ん? カラーの森なんてすぐそこだし明日には帰ってくるんじゃないのか?」
「いまカラーの森への道は魔軍に封鎖されてるから無理よ」
そこまで聞いてランスは思い出した。
「……あれ? 俺はどんくらい寝てたんだ?」
思えば自分の状況が全く把握できていないのだ。大体このベッドがどこにあるものかも分かっていない。
「あ、そっか。説明してなかったよね。ランス君は三日間意識を失ってたの。そして三日前、ケッセルリンクの奇襲に遭ってスードリ10は再び陥落した。ここはローゼスグラードよ」
「……ちっ、まあ俺様が倒れれば当然か」
「今は鈴女ちゃんたちがランス君の呪いを解いてもらうためにカラーの森に向かっていて、ローゼスグラードの外ではパットン王と香姫が共同戦線を張って必死にケッセルリンク率いる魔人軍を引き止めているところだね」
「ん? ミネバたちはいないのか?」
カフェは言いづらそうに顔をしかめる。
「……ミネバ将軍はローゼスグラードを引き払ってログAまで撤退した」
「はあ!? 俺様がここにいるんだぞ!」
「うん、ミネバ将軍はランス君も連れて行こうとしたんだけど、パットン王が鈴女ちゃんたちが帰ってくるとき少しでも楽させてあげたくて撤退を拒否したの。パットン王の意見に香姫もリック将軍も賛成したからミネバ将軍はランス君を諦めて渋々引き上げたよ」
「ちっ、ババアめ、俺様が寝てるからって好き放題しやがって…… ん? なーんか忘れてる気がするぞ」
ランスは自分が意識を失う寸前のことを思い出そうとする。しかし、どこで意識を失ったか思い出せない。ケッセルリンクが攻めてきたことは覚えていた。そのせいで……
「あーーーーーーーーーーー!!!」
ランスは全てを思い出して大声を上げる。
「三日も寝てたってことは俺様は三日間誰ともセックスしてないんじゃないか!! くそ、思い出したら滅茶苦茶ムラムラしてきた……! カフェちゃん、やろう!」
「え、ちょっと……」
「駄目ーーーーーーーーーーー!!!!」
ランスは急激に押し寄せた性欲に任せてカフェとのセックスを要求するが、カオスにものすごい勢いで拒否された。
「うっさいわ! カフェちゃんもこんな馬鹿剣ほっといて俺様とやろう!」
「ご主人様、あてないるれすよ、あてな」
「え……でも」
「駄目ったら駄目!! カフェもこんなアホに付き合わなくていいから!!」
「あてなとセックス!」
「じゃ、じゃあねランス君。また来るから」
「あっ! おい待て!!」
ランスの必死の呼びかけも空しく、カフェはカオスを持って部屋を出て行ってしまった。
ベッドに横たわって呆然とするランスにあてなが飛びつく。
「ご主人様、あんなちんちくりんほっといてあてなとエッチするれす。体が動かないご主人様の代わりに張り切るれすよ! なでなでー」
あてながランスのハイパー兵器を撫でると、溜まっていたのかむくむくと大きくなる。動かせはしないものの、ランスも股間の快感は感じ取れるため気持ち良さそうだ。
「はあ、もうあてなでいいや…… よし、俺様を満足させるんだぞ?」
「はいれす!」
ランスは文句を言いつつもあてなで大満足したのだった。
「や、やっと着いた」
ランスが目を覚ました1日後、かなみたちはようやくカラーの森に到着した。道中はただでさえ険しい道の中で万全ではない体を引きずり、しかも普段よりはるかに多い魔物の妨害にも遭った。見た目にもボロボロの彼女達は何とかカラーの森に辿り着いたのだ。
「いやぁ、みんなを連れてきたのはやっぱり正解でござったな。この魔物の数じゃ鈴女一人だと行きも危うかったでござる」
「ああ、帰りもあるのよね……」
マリアは帰路の険しさを想ってうんざりとした様子で溜め息をつく。
「とはいえ、ここで小休止ができるだろう。……待て、なにか近づいてくる。気をつけろ」
戦姫は一度は解いた緊張感を再び張り詰めさせる。各々に臨戦態勢を整えながら接近してくるものを見据えた。
「お前達は…… どうしてここにいるんだ?」
しかし、一行を森の中で出迎えたのはイージス・カラーだ。その額にはランスに処女を散らされたせいで青くなったカラーのクリスタルが輝いている。
「イージスさん! じ、実は、ランスが大変なことに……!」
「……まあ、事情はなんとなく想像がつく。皆疲れているようだし、とりあえずペンシルカウへ向かおう。話はそこで聞く」
イージスはかなみの顔色を見て事態の深刻さを察し、ペンシルカウへと案内する。
「……カラーというのは人間に対して強い警戒心を抱いていると聞いていたが、随分と信頼されているんだな」
初めてカラーを見たらしい戦姫が意外そうに言った。
「ランスが色々して、女王とはあんま仲良くないんだけど、それ以外とは結構仲いいのよね……」
志津香は不本意そうだ。
「だってあのときのランス格好良かったじゃん! カラーがピンチのときにガハハーって現れてズババーってへルマンを倒しちゃうし」
「なるほど、大体何があったのかは分かった。ふむ、やはりあの人についていったほうが面白かったかもな」
ミルの大雑把な説明を聞いて戦姫は少し悔しそうだった。
「断る」
ランスと人類の現在の状況を聞き終えたうえでパステル・カラーの下した答えがそれだった。
「こ、このまま動けなければランスは死んじゃうんですよ!?」
かなみはなんとかパステルを説得しようとする。
「ふん、普段のあやつの行いを考えれば当然の罰じゃ」
(た、確かに……!)
パステルの返しに不覚にもかなみを含むパーティーの大半が心の中で同意してしまった。
「ラ、ランスがこのまま倒れたら人類の負ける可能性が高くなっちゃうんですよ!?」
マリアは大きな声でそう訴えるが、パステルの表情は変わらない。
「人間なんぞどうなろうがわらわの知ったことではない。それに、ケッセルリンクと人間ならばケッセルリンクの方がカラーにとって信頼できる」
「……え?」
マリアはパステルの言葉の真意が推し量れなかった。人間は確かにカラーに対してひどい行いをしてきたが、だからと言って魔人の方が信頼できるとは到底思えなかいからだ。
「……ケッセルリンクは元々カラーだそうじゃ。ゆえに、人間界を統一したときにはカラーの保護を確約した。現に、魔人が近くの村を占領してから人間は来んようになったし、カラーに害を成す魔物の数も減った。カラーには人間に与する益がない」
「…………」
もうマリアには返せる言葉が無かった。今まで人間がカラーに対してやってきた行為を考えればパステルの言い分は完全に正しい。
「それでも、でも…… お願いします! ランスを助けてください!! もうあなたに頼むしかないんです!!」
納得させる術はない。それでもマリアは必死に頭を下げるしかない。
「……止さんか。どう言われようがわらわは動かん」
パステルは冷たくマリアをあしらう。
「おかーさん!!」
「……パステルっ!?」
一同が話をしていた大部屋のドアが開け放たれると、そこにはリセット・カラーが表情を怒りに染めながら立っていた。リセットはランス達と冒険したときより少し大きくなっていた。
「おとーさんが危ないんでしょ!? 何で助けに行かないの!!」
「あ、あやつを助けたところで何もいいことはないんじゃ! しょうがないじゃろう!?」
「しょうがなくないよ! おとーさんはペンシルカウを助けてくれた恩人じゃない! おかーさんはその恩人を見殺しにするの!?」
ランスは以前ヘルマン軍に襲われたカラーの村を救ったことがあり、村人からも英雄詩されている。
「し、しかしじゃな……」
「しかしじゃない!!」
「で、でも……」
「でもじゃない!!」
「……うう、行かんったら行かん!! リセットがどう言おうがわらわは絶対に行かん!!」
リセットの剣幕に遂にパステルは涙目で駄々をこね始めた。
「なんでわからんのじゃあ! だってあやつがわるいんじゃもん!! びえぇぇーーーん!!」
そして堪えきれずに泣き出すのだった。
「……ごめんなさい、おかーさん、一緒に行けなさそう」
「そ、そうだね」
マリアは苦笑いでそう答える。
「けど、代わりに私が行く!」
「ええ!?」
リセットの発言にはその場にいた全員が驚く。
「おとーさんの呪いを解けばいいんでしょ? 呪いのことは今勉強してるからきっと治せる!」
「な、ならんリセット! どれだけ危険じゃと思っとる!」
「そうよ! 帰り道は襲ってくる魔物が増えるんだから来ちゃ駄目!」
少し泣き止んだパステルと志津香がリセットを止めようとする。
「大丈夫だよ! 私おとーさんたちと一緒に戦ったことあるもん!」
「リ、リセット…… それならわらわが! わらわが行く!」
「……いや、リセットの方がいいかもしれない」
パステルの意見に反対し、リセットに賛成したのは意外にもイージスだった。
「何故じゃ!? リセットには危険じゃし、呪いも解けるか定かではない!」
「しかし、パステル様がペンシルカウを離れるとペンシルカウの防衛に支障が出ます。リセットの護衛には私が就きますのでいかがですか?」
「うう、しかし……」
パステルは可愛い娘が心配で仕方ないらしく、中々納得しない。リセットは人間で言えばまだ7歳前後程の子供なのでその心配も無理はなかった。
「大丈夫だよ! おとーさんとおかーさんの娘だもん!」
「リセット……」
パステルは俯いてしばらく考え込むと、意を決して顔を上げた。
「あやつにかけられた呪いはなんじゃ?」
「あ、拘束モルルンとかいう奴です」
パステルの問いにかなみが咄嗟に答える。
「……リセット、解除できるな?」
「……うん!!」
リセットはとびきりの笑顔で返事をした。
「……止むを得ん、リセットの帯同を許可しよう。イージス、頼んだぞ」
「はい」
パステルの顔にもう涙は無く、カラーの女王として、一人の親として決意を秘めた表情だった。
そして翌日、リセットとイージスを加えたランスの仲間達がペンシルカウを出発した。
はい以上10話でしたー
とりあえずすいません。週一更新守れませんでした……
自宅のほうにネットワークトラブルが発生しましてしばらく接続できませんでした。じゃあその間書き溜めた話があるんだろうな、と言われるとそんなことは全然ないんです。本当に申し訳ない。見てもらえてるというのが執筆における最大のモチベーションなんでそれがわからない間はぜんぜんやる気が出ませんでした。
その代わりと言っては何ですが、活動報告に前やりたいなーみたいに言っていたssを上げています。活動報告には二本のssが置いてあり、片方は今回健太郎が参戦した理由が書かれています。
健太郎参戦決定直後に慌てて書いたもので、ハーメルンにアップロードしたのは実際少し前です。告知しなかったのは健太郎参戦を本編より早く知らせんのはどうかなーって気持ちがほんの少しと、健太郎参戦直後に後書きで書いて読者を驚かせたろう!という気持ちでこうなりました。
10話と同時に上げた方はぶっちゃけ話の重要度がかなり低いです。ランスクエストでほぼ同じ話ありましたし。
あんま反逆の鬼畜戦士を書いてない期間、いい機会なのでゆっくりとこの話のエンディングについて考え、いい感じの案が出ました。時間とやる気さえあれば完結できそうです! あればですが!
ただ、やはりもうしばらく安定しなさそうなので週一更新に戻るのはもう少し後です。すいません。
以下解説
ウルザ・プラナアイス
ランス6に登場。本文の通り凄まじく優秀な人物。ゼスの魔法至上主義に異を唱えるレジスタンス、アイスフレームを家族で運営していた。そんな時、とある人物の策により彼女を残して家族が全滅。深いトラウマを抱えてしまってしばらく立ち直れずにいたが、命を賭して自分に仕えてくれたダニエル・セフティの言葉で復活。その後は驚異的な能力の高さを示し、潜在能力的には人類トップクラスであることまで判明した。魔人からゼスを救った後、ゼス四天王に任命されて国の運営に携わるようになる。ランス6では最強ユニットの一角。
山田千鶴子
ランス6に登場。ゼスにおけるマリスポジションとも言える優秀な人物。だが、鬼畜王ではかなりのハチャメチャっぷり見せており、正史では結構な性格の改変をされている。その悪趣味な意匠は某聖闘士のあれにピンクとか金とかぶっかけたようなセンスをしており、多分新手のセイントだと思われる。
アニス・沢渡
ランス6に登場。千鶴子の弟子で魔法レベル3を持つ超天才魔法使い。その実力は敵味方問わず作中最強クラスだが、その頭脳が残念すぎるため実力を発揮することは極めて少ない。ただし、ランス6で敵として出てきた際にはその実力をいやと言うほど思い知らされる。
イージス・カラー
ランスクエストに登場。カラーの警備隊長。人間に捕らえられ、100人に輪姦されてからクリスタルを抜き取られそうになっているところをランスに救われる。とはいえ、それでランスに惚れるということはなく、むしろペンシルカウへの侵入を拒んでいた。しかし、また捕らえられてランスと鈴女の拷問で口を割らされそうになった際、記憶を失う薬草で過去5年の記憶を失う。その後はランスに自分がランスの恋人だと騙されて仲間になる。
パステル・カラー
ランスクエストに登場。現カラーの女王。丁度次の女王を孕む儀式の最中にランスに犯される。結果、リセット・カラーを生む。ランスにはその腹いせに禁欲モルルンという呪いをかけ、自殺寸前まで追い込んだこともある。私怨を晴らすために色々やったが、クルックー・モフスに隙を突かれてペンシルカウの結界を破られるという大失態をやらかす。鬼畜王でも同名のキャラが出ており、同じくリセットを生むが、性格、容姿共に今とは全く異なっている。鬼畜王のパステルはパステルの母、モダン・カラーに性格と容姿が反映された。
リセット・カラー
ランスクエストに登場。ランスがパステルを犯したら出来た子。その存在にはランス本人も大いに慄いている。ランス譲りの才能限界無限と父親に似ない真っ直ぐな心を持ついい子。その張り手は「クラウゼンの手」という謎の力を宿しており、一発で正気を取り戻させてくれる。鬼畜王でも登場するが、ランスクエストよりも幼い精神年齢の状態で出てきており、性格などはかなり異なる。いい年してエロゲをやる作者のような大人の父性本能を刺激しまくった。