※この作品はR-18です。

ランス 反逆の鬼畜戦士   作:てるゆき

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第11話 反撃の狼煙

スードリ10再陥落以後、魔軍は断続的にローゼスグラードへ侵攻を始めた。

 それまでの侵略が遊びだったとでも言う様に容赦のない攻撃だった。それは恐らく、バボラを殺したことでケッセルリンクがランスのことを脅威と認めたことが最大の原因なのだろう。

「今日の被害は?」

 香はJAPAN軍の総指揮をとりながらパットンやリックと共に防衛作戦を展開していた。スードリ10から撤退後、敵の攻勢を予想して急いで防衛用に砦を築かせていたのだ。

「はっ、魔軍の侵攻は苛烈ですが、地の利の優位もあって戦いの主導権は我々にあります」

 伝令の兵の言葉に香は表情を緩めることなく聞き返した。

「……戦場に魔人は現れましたか?」

 その場で一緒に報告を聞いていたリックとパットンが顔をしかめる。

「……いえ、現れておりません」

 この報告は一見いい報せのように思えるが、香達の目的がランスの防衛であると共に鈴女達のための大規模な陽動でもある。敵の最大戦力である魔人を引き付けられないことにはその用は半分程しか満たせていない。

「厄介だな……」

 そう感想を述べたのはパットンだった。

「ええ、魔人が現れれば敵の指揮も高揚するでしょうし、何より私達の陣を突破する穴を作り出せるはずです」

 リックの言う通り、人間は魔人に対して物量でしか対抗する術を持たない。魔人がそれを突破し、陣に少しでも穴ができればそれを足がかりにして一気に形勢を覆すこともできるはずだ。

「それをしないということは、向こうに何らかの策があるか、最悪鈴女さん達を追っているという可能性がありますね……」

「……とはいえ、俺らに出来ることは少ない。夜襲への警戒を強めるように言っとくくらいか」

 勝利に浮かれていたところを夜襲で一気に被害を受けたために、今でも夜間の見張りを出して警戒をしている。しかし、敵が全力でそれを狙ってくる可能性があるならそれに備えないわけにはいかなかった。

「そうですね。あと、念のためにランスさんの護衛を増やしていつでも脱出できるようにしておきましょうか」

 ランスの周囲にはいくらか護衛をつけているが、それはいざという時に即座にランスを安全なところ避難させる為に配置したものだ。

 健太郎が現れたとはいえ、依然ランスが人類にとって大きな希望であることには変わりない。ここで万が一にも死ぬことがあってはならないのだ。

「鈴女さん達がカラーの森へ出発してから三日経ち、予定通りならもうペンシルカウについている頃です。この苦境も折り返しです。頑張って凌ぎましょう」

 香がそう締めくくってその日の会議は終わった。

 

 ランスの解呪の為にカラーの森へ向かった面々はその帰り、行きとは違う道を選ぶこととしていた。当然、待ち伏せを警戒してのことだったが、さらに念を入れて鈴女が予め偵察して回ったルートをリセットを含むメンバーで通っていた。

 そして、一行が道を進んでいると、鈴女があまりよくない表情で偵察から帰ってきた。

「ちょっとまずいでござるな…… 予想してたけど、行きよりかなり魔物の数が多いでござる」

 鈴女がまずいという言葉を使うことは殆どないので、メンバーがその道の険しさを想像するのは簡単だった。

「と言っても行くしかないんでござるけどね。もうゆっくり歩いていくことはできないでござるよ。戦っては逃げての繰り返しになるから覚悟して欲しいでござる」

「元より望むところだ」

 鈴女の警告に戦姫は勇ましく答えた。その瞳は嬉しそうに輝いている。

「行こう!」

 リセットも強い眼差しで自分の行く先を見据えた。

 

「あーーーーーーーー、暇だ」

 ランスは目覚めてから二日間、もう何度この言葉を発したか分からないほどそう言っていた。

「じゃあしりとりするれす。あてなのな!」

「な、ななな、なす!」

 ランスはあてなの提案に乗ってしりとりを始める。この流れも何度もあった。

「カオス、お前だぞ」

「え!? 儂もやんの!? す、素股!」

「たれすね。たーたーたこ焼き!」

「たこ焼き食いたいな…… きき……」

 そんな中、部屋にノックの音が響いた。

「お、誰だ。入れ!」

 ランスも退屈なやり取りに飽き飽きしていたようで来客に喜んで応えた。

「失礼します……」

 それは可憐な女性の声だった。儚さを感じさせる繊細な美声にランスは首を傾げる。

「聞き覚えの無い声だな。誰だ?」

 声の主は無言でランスのベッドに歩み寄った。ランスの目には美しい金髪と整った顔立ちの高貴そうな少女が映る。

(おお! すごく可愛いぞ!)

 少女はランスの目の届くところに佇むと、再び口を開いた。

「私は元へルマン国王女、シーラ・ヘルマンという者です」

「へ……」

 それは密かにランスが狙っていたヘルマンの美姫、シーラ・ヘルマンだった。

「なんでシーラ姫がこんな所にいるのだ。おお! ひょっとして英雄の俺様に抱いて欲しくて来たのか!」

 ランスの言葉にシーラは無表情で首を振る。

「……人払いをお願いできますか?」

「よし、あてな、カオス持ってどっか行け」

 ランスはシーラの頼みに間髪入れず答えた。

「えーあてなご主人様の護衛なんれすよ?」

「うるさい、いいから行け」

「ぶー、ひどいれす。しょうがないからおっきい雪だるま作って遊んでくるのれす」

 あてなは頬を膨らましながら部屋から出て行った。

「じゃあやるか! 今俺様の体が動かないからシーラちゃんが頑張ってご奉仕するんだぞ!」

「ありがとうございます。それと、私の用件はそういうことじゃないんです……」

「え? じゃあ何の用なんだ」

 ランスは真剣にシーラを抱くつもりだったようで、少しテンションが下がっている。

「実は……頼みがあるんです」

「……まあ、聞くだけは聞いてやろう」

 ランスの答えに、シーラは少し安心したような表情をしたが、すぐにまた暗い顔で話しはじめた。

「……現在のヘルマンの惨状は私の不徳が招いたものなんです」

「……どういうことだ?」

 ランスが聞き返す。

「母と私の政権は宰相のステッセル・ロマノフが私腹を肥やすために築かれたものだったからです」

「……は?」

「私達はステッセルに麻薬漬けにされ、抵抗できない状態でした。結果、政治の腐敗を招き、魔軍に隙を突かれて国が崩壊する破目に遭ってしまいました……」

「…………」

「今でも私の体は薬なしではまともに動けません…… ステッセルに、あの男の言いなりになったばかりにこの事態を招いたのに、私にはこの国の為にできることか何一つないのです」

 目を潤ませるシーラの言葉をランスは黙って聞いている。

「でもお兄様は、パットン・ヘルマンはそれを受け入れてそれでも国を背負って立つと言って下さいました。ランス様、私の願いはお兄様の味方として魔人と戦って欲しいのです」

「……ふん」

 ランスはシーラの願いを聞き終えると小さく鼻を鳴らした。

「俺様にはパットンにつこうがババアにつこうが大した違いはない。だが、シーラちゃんが俺様の言うことを何でも聞くと言うなら考えんでもない」

 ランスは大きな口をにやりと歪ませそう言う。

「……なんでもおっしゃってください」

 シーラは再び自分以外の手にその身を翻弄されることを覚悟して唇を噛み締める。

「シーラちゃんは俺様の女になること。俺様以外の男に俺様の許可無く裸を見せるのは許さんし、他の男と寝ることも許さん」

「……はい」

「俺様の命じることには何でも従うのだ。俺がヘルマン兵士の前でシーラちゃんとセックスすると言えばどれだけ恥ずかしくても逆らわず相手しろ」

「……従います」

 自身の罪がそれで晴れるならと、シーラはランスの要求を呑んでいく。汚れた我が身を差し出すことでヘルマンが救われるならどんな辱めだって受けると。

「がはははは。じゃあ最後。俺様がその麻薬中毒を治してやるから、そうしたらもう二度と薬に手を出すな」

「……え?」

 ランスの言葉にシーラは思わず聞き返した。

「俺様の女が中毒で体調が悪いなど許されると思うのか。嫌がっても俺様が健康にしてやる。覚悟するんだぞ」

「わ、私の体の毒は非常に強いものです! お兄様やアリストレス殿も治そうとして尽力してくださいましたが、それでも駄目だったのですよ!?」

「ふん!」

 パットン達の努力に再び鼻を鳴らしてランスは言う。

「この俺様をそんな凡人どもと一緒にするな。俺様は超英雄ランス様だぞ? ヤク中くらい簡単に治す方法を見つけてやるわ! がはははは!」

「…………」

 シーラはこの時ようやくランスを理解した。何故パットンがハンティに反対されても強引にランスの味方をしたのか。それは戦士としての強さだけではない。不思議と惹かれるその人間性も欲しかったのだろう。

「どうなんだ? 俺の女になると誓えるか?」

「……はい。心からあなたに仕えます、ランス様」

 跪き、深く頭を下げて涙を隠しながらシーラは誓う。

「がははははは! よし、じゃあ早速セックスだ! まずはフェラから念入りにな!」

「……はい」

 本当に嬉しそうに笑うランスを見てシーラも微笑みながらそう答えるのだった。

 

 鈴女達がカラーの森へ旅立ってから六日。ローゼスグラード防衛戦線は確かに厳しい戦いを続けていたが、予想よりもはるかにその被害は少なかった。

 理由は魔人の不在にある。

 警戒を強めてからも夜襲はなく、かといって戦場に現れることもなかった。

「これは、最悪のパターンかもな……」

 ヘルマン、リーザス、JAPANの三国の代表を交えた会議の場でそう言ったのはパットン・へルマンだ。

 そのパターンとは、魔人がローゼスグラードではなくカラーの森に向かったもの達を追っている場合のことだ。

「予定ではもうそろそろこちらに到着するはずです。今は皆さんを信じて待つしかありません」

 香は強い眼差しでそう言う。鈴女の言によれば、魔物の妨害も計算に入れて片道三日とのことだ。もういつローゼスグラードに到着してもおかしくはない。

 一応定めた期限は10日であり、それまで可能ならローゼスグラードを防衛し続けることになっている。

「その通りです。いずれにしてもここまで魔人の進軍もなく戦えたのは我々にとって幸運です。引き続き警戒しつつもうしばらく皆さんを待ちましょう」

 リックの言葉で締めくくり、三者が再び陣頭指揮に戻ろうとしたとき、一人のJAPAN軍人が会議の場に現れた。真田透琳だ。

「大変です! 戦場に動きがありました!」

「魔人か!?」

 一気に高まった緊張感の中、パットンが素早くそう聞くと、透琳は小さく首を振った。

「じゃあ何が……」

「……ぐ、軍神が……」

「……え?」

 透琳の言葉に香姫は戦慄を覚えた。

「JAPANの軍神が、敵として現れました」

 

「退くなあああああああ!! 我々は決して退いてはならないっ!」

 JAPANの武士隊の中、上杉勝子は動揺する兵士に必死の激を飛ばして耐えていた。動揺も当然だった。上杉家にとって象徴と言える軍神、上杉謙信が敵として戦場に現れたのだ。

「くっ、なんで……!」

 味方と敵が入り乱れる波を掻き分けて勝子は目的の場所へと向かう。

 そこはこの戦場における死地ともいえる所、上杉謙信の目の前だった。

「謙信様っ!」

 謙信の前に躍り出ると、勝子はまず謙信に呼びかけた。

「よくぞご無事で……!」

 敵として現れたのに、勝子の表情は安堵に崩れた。魔人の前に立ちはだかりランスの為に死んだと思われた謙信が、敵とはいえ五体満足で目の前に立っていた。そのことが嬉しくて仕方なかった。

「何故です……? 謙信様がいるべきところはそこではありません! 私達の元にお帰りください!」

「…………」

 勝子の呼びかけに謙信は何もこたえない。その表情はいつものように力の抜けたものだった。しかし、それゆえに臨戦態勢を崩さないその構えは勝子の心を不安にさせる。

「みんな心配してます……。愛様も、虎子も、きっとあの異人だって! おにぎりもたくさん用意します! 一緒に帰りましょう!」

 謙信は無言で一瞬身を低くすると、直後勝子に飛びかかった。

「謙、信様……?」

「私はただ、ケッセルリンク様の為に……」

 それだけ言って謙信は構えもしていない勝子を一刀の下に切り伏せた。

「か、勝子様が敗れた!! 皆、撤退しろーーーー!!」

 兵のうちの一人がそう叫び、意識がなくなり力の抜けた勝子の体を運んで上杉武士隊は撤退していった。

 

「状況は極めて悪いです。戦力面はもちろんですが、味方の士気への影響が特に深刻です。上杉軍も勝子が既に重症を負ってしまいました」

「…………」

 JAPANの陣営で香は直江愛から現状の報告を受ける。

 運の悪いことに謙信の現れた場所はその影響力の最も強いJAPAN軍の、さらにまずいことに上杉勢の前だった。むしろ、ケッセルリンクは戦略的な影響を考慮の上でそう配置したのだろうが。

「謙信様のご様子は常ならざるものだったらしく、ケッセルリンク、ないし魔軍によって精神を操られている可能性があるようです……」

 謙信とはいつも行動を共にしていた愛は内心誰よりも心を痛めながらも、険しい表情をするに止めて私情をほとんど見せずに淡々と報告を重ねる。

「……今のレベルの謙信さんを一騎打ちで凌ぐのは不可能でしょう。謙信さんには多人数で少しでも時間を稼ぎながら戦うしかありません」

 香も苦々しい面持ちでそう答えた。レベル90であの技巧を持つ謙信を止めるには物量に頼るしかない。魔人がさらに増えたような頭の痛くなる問題だった。

「JAPANの総大将殿に伝令です!!」

 思い雰囲気の場にひどく慌てた様子のヘルマン兵士が駆け込んできた。

「どうしましたか?」

「ヘルマン軍の前にケッセルリンクが自身の手勢を連れて現れました!!」

「…………!!」

 畳み掛けるように状況は悪化していくのだった。

 

 緊急に集まった三陣営の首脳会議ではまず各々に報告を始める。

「状況は芳しくない。ケッセルリンクは奴自身恐ろしいほどの強さだが、その部下の錬度もとんでもない。うちの兵士も数で当たらせようとしているが、個々の能力差がでかくて向こうに傾いた流れを取り戻せないでいる。結果、第一防衛線を突破されちまった」

 パットンは悔しげな様子を滲ませた。またしても魔人の一方的な侵攻に屈することになると思えばその無念さは相当のものだろう。

「JAPANはその武力の象徴とも言える上杉謙信の参戦にひどく指揮が低下しています。また、こちらの隙に乗じてか敵軍の攻撃も激しさを増しています」

 香の率いるJAPAN軍も多大な被害を被っており、その表情は先ほどより一層暗い。

「また、上杉謙信は精神操作が行われているらしく、説得は困難です」

「……猫の手も借りたい状況で軍神様が帰還してくれれば随分楽になるってもんだが、そううまくはいかないか……」

 パットンは溜め息混じりにそう言った。

「思えばケッセルリンクの不在は謙信殿の洗脳の為だったのかもしれませんね……」

 リックはそんな判断をした後、自身も報告をする。

「リーザス赤の軍はヘルマン軍がケッセルリンクの参戦で崩れるのを支えるため、そちらに主力を移しました。敵軍の指揮が大いに高揚しているため防戦一方となってますが、魔人や軍神の相手をしていないだけまだ余裕があるほうかもしれません」

 決して楽な状況ではないが、他の軍の惨状を鑑みるにリーザス軍が一番まともな状況なのは間違いない。

「あと4日くらい持つと思ってたが、きついな」

「はい、3日……いえ、2日が限界でしょう」

 香とパットンはそう判断を下す。

「2日後、ランスをローゼスグラードから移送し次第俺達もローゼスグラードを撤退しよう」

 

 その翌日、ローゼスグラードから目と鼻の先、戦場からほんの少し離れた林の中に鈴女達一行がいた。

「予定より一日遅れで済んだのは、正直幸運だったでござるな……」

 鈴女は心底くたびれた様子でそうつぶやいた。接敵するやいなや逃亡を繰り返し、その際には積極的に殿を務め、みんなが休息を取る間も気を張り詰めさせながら周囲を警戒していたのだ。この強行軍を一人も欠くことなく遂行できたのは、言うまでもなく鈴女の力が大きい。幽霊の身とはいえ、その疲労は尋常ではないだろう。

「もうすぐ、おとーさんのところ、着くんだよね……」

 ここまで苦しい旅にはリセットが特に堪えているようであった。いくら芯が強くてもその身は子供に過ぎない。ヘルマンの極寒の中、心休まる暇もない4日間のストレスは幼い身を蝕んでいる。

「にょほほ。そう、もうすぐでござる。とはいっても少し先ではすごい規模の戦争してるでござるがね……」

 軽い様子を貫きたい鈴女だったが、戦場の様子を把握できてしまう彼女はそれを維持することはできなかった。

「戦況はかなり悪いでござるな。もう最終防衛線も崩れる間近でござる。そうなれば問答無用でランスが遠くに行っちゃうでござるよ。みんなお疲れのとこ申し訳ないけど、もうひとふん張りいくでござるよ」

 鈴女の言葉に一同が表情を引き締めると、そのうち一人がすぐに異常を察知した。

「散ってください!!」

 サチコの言葉にパーティーが瞬時に散開すると、そこにはすぐ雷撃の雨が降り注いだ。

「……まさか本当にカラーを拉致してくるとはな」

 そう言って現れたのは魔人、レイだった。レイはどうやらリセットやイージスが彼女達自身の意思に基づいて行動しているとは思ってないらしい。

「魔人……!」

 かなみがそう呟いて表情を険しくすると、鈴女が大きな声で呼びかけた。

「みんなはリセットを連れてランスの所へ! ここには鈴女が残る!」

「す、鈴女さん!?」

 かなみは心配そうな表情で彼女の師を見遣る。

「……大丈夫でござるよ。鈴女なら上手いこと逃げ回りながら戦えるでござる」

 鈴女がかなみにだけ聞こえるようにそう言い、微笑んで見せた。

「行くでござるよ。ここがかなみの忍者としての腕の見せ所でござる!」

「……はいっ!」

 かなみは師の期待に答えるべく、力強くそう答えて駆け出す。

「みんな! 急いで!」

 レイは走って離脱していく一行を追わずにその場に留まった。

「いい覚悟だな、女」

「みんなを見逃すなんて随分優しいでござるな?」

「お前を殺してから追えばいい」

「鈴女、簡単にはやられないでござるよ?」

 直後、声だけ残して鈴女は姿を消した。

「そうか、忍者と言うやつか」

 大陸生まれのレイには初めての行動で少し驚いているようだ。

「ならば隠れている場所ごと雷撃で焼き払ってやる」

 レイは言葉通り、体から大量の電気を迸らせ、雪を溶かして林を燃やし、立ち並ぶ木をなぎ倒した。レイの半径15メートルは焼け野原となり、鈴女の隠れる場所はすぐに消え失せた。

「……ふん、死体を確認することすらできないな」

 そう言ってかなみ達を追おうとしたレイだったが、一歩踏み出した直後、彼の足元が爆発した。

 それはいつの間にか仕掛けられていた罠だった。

「にょほほ、あのくらいで鈴女を殺そうなんて甘すぎるんでござるよ」

 と言っても鈴女は既に死んでいるのだが。

 姿は見せずに声だけ響かせる鈴女に、爆煙の中から無傷で現れたレイが舌打ちする。

「……小賢しい」

 仏頂面だったレイの表情に初めて怒りの感情が表れた。

 

 かなみは後方からの爆音も振り切って必死にパーティーを先導した。ローゼスグラードに入るには戦場を突っ切らなければならない。

「みんな! 戦闘に巻き込まれないように気をつけて!」

 かなみがそう言って突っ込んだのはJAPAN軍と魔軍が衝突する場だ。

自身の目、耳、直感、持てる感覚全てで危機を感じ取り、かなみは最小限の被害で済むように気を使っていた。

 しかし、どれだけ気を張ろうともかなみは鈴女にはなれない。絶対的な才能の差があるのだ。

 それ故に鈴女ならば決して犯さない致命的なミスを犯した。

「ぎゃあああああ!!」

 一行の左前方でJAPANの兵士が血飛沫を上げて倒れた。そしてすかさず先導するかなみの前に躍り出たのは彼女達にとってなじみの深い人物だった。

「け、謙信さん……?」

 良かった、無事だったのかと思考しかけたところで違和感を覚える。その身に纏う敵意は確実にかなみ達に向けられているものだからだ。

「…………」

「…………!!」

 無言で謙信は構え、疑惑が確信に変わる。謙信は敵に捕らえられて呪いか何かで寝返らされたのだと。

「謙信さん、ランスを助けられるんです。お願いします、刀を下げて……!」

「……ランス、ケッセルリンク様の、敵……」

 かなみは無駄と思いながらも説得を試みるが、やはりその努力が実ることはなかった。

「無駄だ。正気の目ではない」

 そう言って戦姫が前に出た。

「ここには私が残る。皆は先に行ってくれ」

「戦姫さん……!」

「軍神とは一度本気で手合わせしたいと思っていたんだ。丁度いい」

 戦姫は心底嬉しそうに微笑んだ。

「わ、私も残ります! 謙信さんの攻撃は私が防いでみせます!」

「アタイもだ! いいとこは譲らないからね!」

 戦姫に追従してサチコ、アルカネーゼも名乗りを上げる。

「ふふ、余計なことを。さあ行け、もう一刻を争う状況だろう」

「……すぐにランスを連れて戻ります!」

 戦姫に促されてかなみ達は再び走り出した。

「さて、軍神様の力とやらを見せてもらおうか」

 

「香姫様!!」

 かなみはJAPAN軍の陣営に駆け込み自身の帰還を伝える。

「かなみさん!! と、リセットちゃん!?」

 パステルが来ると思っていた香はその代わりにリセットが来るなどとは思っておらず、驚いているようだ。

「久しぶりおねーちゃん! おかーさんが来れないからわたしが代わりに来たの!」

「そうなんだ…… リセットちゃん、ランス兄様の呪い、解けそう?」

「うん! 絶対大丈夫!」

「そう……」

 香姫はリセットの力強い言葉に久しぶりの笑顔を見せた。

「かなみさん、最終防衛線が突破されれば兄様は最優先でローゼスグラードを脱出することになってます。歯がゆいですが、もうそれほど長く持ちこたえられそうにありません…… 急いでください!」

「はい! 行こう、みんな!」

 香への挨拶を済ませてかなみはローゼスグラード内へと駆け込んでいった。

 

 ローゼスグラード内のランスの部屋は緊張感に包まれていた。その場にはあてな2号、カオス、カフェの他にJAPANの兵士も数名待機し、今にも町を脱出しようと身構えている。

「あー、鬱陶しい! 俺の周りにこんなに男を近寄らせるな!」

 体が動かせないランスはイライラした様子で怒鳴る。

「駄目だよランス君。いざという時に逃げ出せるように待機してもらってるんだから」

「ふん! いざという時なんぞ来ないわ! 俺の女がカラーの森に向かったなら確実にここに帰ってきて俺の呪いを解く!」

 優しく諭すカフェの言葉も突っぱね、ランスは首を持ち上げて自室のドアを見ている。

「必ず、来る!!」

「…………」

 その場の者達が不安そうな面持ちで黙り込むと、複数の足音がランスの部屋目指して向かって来るのが聞こえた。

 それは、現実的に考えて最終防衛ライン崩壊の報せと思われたが、今のランスの発言からも一同はわずかな期待を込めてドアが開くのを待った。

「ランスッ!! 連れてきたよ!!」

 それは皆が待ち望んでいた希望の光明だった。部屋に駆け込んだかなみは肩で息をし、全身から疲労を滲ませてランスのベッドに駆け寄る。

「遅いぞかなみ!! 俺様をどれだけ待たせる気だっ!」

 そんな様子に構わずランスはいつものように怒鳴り散らした。

「うるさいな! これでも大急ぎで来たのよ!!」

「おとーさん!! 来たよ!!」

 かなみの脇を走り抜けてリセットが寝たきりのランスに飛びつく。

「リセット!? お前も来たのか!?」

「お前も、じゃなくてリセットがランスの呪いを解いてくれるのよ」

 呆れた様子で志津香がランスに事態を伝えた。

「あれ? なんで志津香が居るんだ?」

「……めんどくさいから落ち着いたら話すわよ」

「ふーん。まあいい。リセット、やれるのか?」

「うん! もう呪いの使い方も勉強してるから大丈夫!」

(……やはり天才だな)

 リセットは元気に返事をすると、解呪の呪文を唱えながら集中していく。ランスは自分の娘の成長を緊張した様子で見守っている。

「……呪いよ、解けろ!」

 その言葉と共にリセットの掌から光が溢れ、ランスを包んでいった。

 光が収まったとき、ランスはまず手を握ってみた。

 動く。

 体を起こしてみる。

 起こせた。

「ふっ、がは、がはははははははははははは!!! 俺様大復活!!!」

 ランスは一気に跳ね上がり今までの鬱憤を晴らすように高笑いをした。その様子に周りの者達は皆嬉しそうにしていた。

「あてな! 俺の鎧を持って来い!」

「はいれす! あてなはいつでもご主人様の鎧を持ってるれすよー」

 あてなから渡された鎧をいそいそと装着しながらランスが話す。

「ケッセルリンクが来てるんだったな?」

「……うん」

 かなみはランス復活の喜びで一瞬忘れていた外の状況を思い出し、緊張した面持ちで答える。

「かなりまずい状況よ」

「ふん、ずっと寝てたから元気が有り余ってる。リハビリついでにさっさと片付けてやるぜ」




 はい以上11話でしたー。
 お待ちして下さっていた方々(いれば)、大変お待たせいたしました。私生活のごたごたがようやく落ち着いたのでこれからは週一ペースに戻します。
 まあ私生活の方は置いときます。例のごとくその間書いてた話は11話だけなんですが、それとは別に何らかの形で反逆の鬼畜戦士を発信したいと思います。その時は告知しますんで、全然期待しないで待ちもしないでください。ハーメルンさんが絵の投稿できないのが悪いんや……

 以下解説
 シーラ・ヘルマン
 鬼畜王ランスに登場。名前だけなら他でもちょくちょく出てる。先代のヘルマン王とパメラ・ヘルマンの娘ということになっているが、実際はパメラとステッセル・ロマノフの不義の子。ステッセルに母共々薬漬けにされ、その傀儡となっていた。鬼畜王では彼女の中毒は完治できない。

 パメラ・ヘルマン
 鬼畜王ランスに登場。シーラの母。宰相のステッセル・ロマノフを愛しており、快楽に溺れる完全な操り人形だった。本心ではステッセルはパメラのことを疎んじており、鬼畜王では最終的にリーザスとの戦争のドサクサにまぎれてミネバ・マーガレットに殺されるなど、救いのない最後を迎える。個人的には同情の余地もないのでそれに関しては何も思わないが。反逆の鬼畜戦士では魔軍侵攻の際、首都陥落と共に死亡。

 ステッセル・ロマノフ
 鬼畜王ランスに登場。ヘルマンの宰相にしてシーラの実父。自分の遺伝子の入った人間しか愛せないナルシストであり、そのためにシーラを自分の娘だと知りながら近親相姦を繰り返した。その私腹を肥やすためにただでさえ貧しいヘルマンの内政を腐らせており、重臣からはすでに怪しまれている。反逆の鬼畜戦士では首都陥落の際に行方不明になる。恐らくもう死んでいる。

 上杉勝子
 上杉家の後継者候補。相方の虎子と共に次代の上杉家を担う存在として期待されているが、二人がいつも喧嘩ばかりしているためにどうにも頼りない。ランスクエストの後日談で虎子の弟と結婚して正式に上杉家の後継者になったとされる。反逆の鬼畜戦士では後継者云々は未定。ストーリーに絡むことがあれば決めます。

 補足設定
 レイはケッセルリンクから鈴女達の足止めを命じられましたが、その内容はランスの解呪の為にカラーが拉致されるだろうという予測に基づいた内容でした。ケッセルリンクはパステルとリセットの両方と面識がありますが、ランスがリセットの父ということまでは知りません。レイに至ってはパステルの顔もリセットの顔も知りません。ケッセルリンクが見せないからです。だからレイはイージスとリセットを見たとき、鈴女達が急いでいたため適当なカラー二人を脅して拉致したのだと思ってます。
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