今度はヤミのお話です。1話目はエロ無しとなっております。
3話くらいにはなるかなと考えいます。第2話は明日にでも!
それでは、どうぞお楽しみください(^^)!
ヤミのダークネス騒動からしばらく経ったときのこと。
彩南町はすっかり日常を取り戻し、今まで通り人がたくさん出歩くようになっていた。
「え~っと、今日買うものはこれで全部かな…」
「そうだね、後はララさんたちに何かお土産買ってこよっか」
そんな街中を、リトと美柑が兄妹二人で買い物袋を手に下げながら歩いていた。
二人はよく、放課後に家のものを買いに来ている。
美柑がスーパーで安売りしているものを手際良く調べ、それを無駄なく回る。
そして、安く済んだ分をお菓子等に費やしていた。
ララ・ナナ・モモ、そしてセリーヌと同居人の多い家なので、まめにちょっとしたお土産(と言うなのお菓子)も買っていた。
「ねえねえ、アイスキャンディー買おうよー」
「はは、またか?美柑は本当に好きだよな。」
二人は仲睦まじく話している。
しばらく歩いていると、ふと声がした。
「…よく、会いますね。」
「…え」
「あ!」
リトと美柑の前に現れたのは、漆黒の服を纏って、それにあまり似合わぬたい焼きの袋を抱えたヤミであった。
「ヤミさんだー!」
美柑はヤミの姿を発見するなり、とててと嬉しそうに駆け寄る。
「こんにちは、美柑。…結城リトも。」
「ははは…こんにちは」
美柑には穏やかな笑顔を、リトには凍てつくような鋭い眼光を。
これでも、ヤミ本人はすこぶる真面目に笑顔を作るつもりでいた。
…不器用の極みである。
すっかり心を許し合っている美柑とは違い、まだまだリトとは距離感が縮まった感じがしない、と言うよりは、事実として縮まっていなかった。
リトとしても、未だにヤミは自分のことを機会を見ては殺そうと思っていると言う認識を持っているので、不器用なヤミの態度と相俟って、ヤミの果敢な『結城リトと仲良くなるための試み』はまるで意味を成していなかったのである。
『好きなんでしょ?』
図書室でメアから言われた言葉が、ヤミの脳裏に焼き付いて離れなかった。
自分は、結城リトとどうしたいのか、どうなりたいのか。
ヤミは、色恋沙汰と言うものからはあまりにもかけ離れた生活を送っていたこともあり、本当にどうしたら良いか、心から分からずにいた。
「あ、そう言えばヤミ、この間は花壇の手入れを手伝ってくれてありがとな。」
他愛の無い話をしていると、ふとリトが話を切り出した。
あのときはメアに焚き付けられ、散々悩んだ末に手伝いに行ったのだが…。
いつも通り、ティア―ユが絶妙なタイミングで話しかけに来てからのラッキースケベ、と言う流れにより、全てが台無しになってしまっていた。
「…まあ、大したことはしてないですから…」
それでも、やはり感謝されるのは嬉しい。
まして相手はリトなのだから。
ヤミは、少しばかり頬を赤らめた。
「へー、それってこの間リトが一人でやるって言ってた話?ヤミさん、手伝ってくれたんだね!」
「え、ええ、まあ…」
美柑も加わり、ヤミは更に照れる。
ごまかすようにたい焼きを口に入れるが、食べきるまでのスピードが尋常でなかった。
「そうなんだよ。ヤミがたまたま通りがかって…あっ」
リトが話していると、不意に自分の靴紐を踏んでしまい、ヤミの方に倒れかかった。
どしーーーんっっ
「いたた…た…え?」
「…」
「…ええっ!?」
美柑が見ている前で、ヤミが上となって前後逆に重なり合う二人。
…リトの日常では見慣れた、『69』と呼ばれる体勢であった。
見慣れると言うのも、甚だ異常なことではあるのだが。
「…はっ」
「…本当に、よくもまあ…!!」
顔を真っ赤にした直後、ヤミの髪が変身能力で鋭い剣やハンマーに変化する。
「…殺します…!!」
どかどかと、コンクリートをも抉るような攻撃が繰り出される。
「うわーーー!!!ごめんなさい!!!」
リトはそこから必死で逃げた。
「わーーーヤミさん!!ストップストップ!!リト―!!」
美柑は必死に止めにかかっている。
このとき、ヤミの心のどこかでは、『きっと結城リトはこのくらいの攻撃ならば全て避けることだろう』と言う、ある種信頼に似たものがあった。
だから、いつも通り激しい攻撃を加える。
しかしこの日は、結果が少しだけ違った。
「…これでも食らいなさい…!!」
巨大な拳に形作った髪の毛で、リトの前方を囲む。
「おわーーー!!!やばいやばいやばい!!!」
その猛攻からも必死で逃げるリト。
何とか逃げ回るのだが、拳のうちの一つだけ、逃げ切ることが出来なかった。
ごんっっ
「あっ」
「!?リト!!」
「…え」
拳の一つが、リトの頭に直撃する。
そして、リアクションをとる余裕さえも無く倒れ込んだ。
美柑が一切の躊躇無く、リトの下へ駆け込む。
「リト、リト!?しっかり!?」
「う、うーん…」
リトは美柑の腕の中で、苦しそうに呻いている。
「早く、救急車で…ヤミさん!?まずはリトを運ばないと!」
慌てながらも冷静に対処しようとする美柑に対し、ヤミは呆然と立ち尽くしていた。
「あ…で、では、ドクター御門の所へ運びましょう。」
そう言って、ヤミは髪の毛でリトを優しく包むと、背中を羽に変化させてリトと美柑を運び出した。
…まさか、当たるなんて…
口では殺すと、もう何回言ったかも分からないほど言っている。
だが、もはやヤミ本人には、リトへの殺意どころか傷を付ける気さえ無かった。
彼女がリトへ抱いているものは…もう、好意・愛情でしかなかった。
そんな今のヤミが、リトを傷付けてしまった。
動揺すると同時に、どうしようも無い程の罪悪感がヤミを包んでいた。
「ま、軽い脳震盪ね。でも頭にショックが加わって転倒したときに、ちょっと足をやっちゃったみたいね…。頭に関しては一晩大人しく休んでいれば大丈夫。でも、足は…1週間は松葉杖での生活になるわね。」
診療所で一通りの診察を終え、御門がカルテを見ながら説明する。
「そうですか…。良かった…。」
美柑がほっと胸を撫で下ろした。
美柑が迷子になったり熱を出したりしただけで、大慌てで駆け付けるリト同様、美柑もリトに対して深い深い愛情を抱いていた。
まして、自分の目の前でリトが倒れたのである。
心配なんて言葉では済まなかった。
「…そう、ですか。ありがとうございます。」
俯きながら、元気の無い声でヤミが答える。
「程ほどにしておきなさいよ?彼を家まで運ぶのは任せていいかしら?」
「…はい。お手数をおかけしました、ごめんなさい。そして、ありがとうございました。きちんと送り届けます。」
そう言って、リトを髪の毛で包んだ。
「ヤミさん、気にするなって言うのは無理だろうけど…あんまり気にしないでね?その、どちらが悪い…とも言いづらいことだから…」
帰り道、ヤミに抱えられながら美柑が歯切れ悪く話す。
実際、美柑はヤミを責めるつもりはなかった。とは言え、リトに悪意が無いこともしっかり分かっている。
そのため、美柑の心の中にはやり場の無いもやもやと、リトへの心配だけが残っていた。
「…ありがとうございます、美柑。ですが、今回のことは…」
言葉の途中で、ヤミが口をつぐんだ。
「ヤミさん…」
美柑は、これ以上の言葉をかけることは出来なかった。
予め連絡をしていたとは言え、怪我をしているリトを目にして同居人の3姉妹は大いに慌てた。
セリーヌも、今にも泣きそうな表情でリトの顔をぺちぺちと叩く。
そんな4人に、ヤミは丁寧に事の経緯を説明して、深々と謝罪した。
「ヤミちゃん、大丈夫だって♪気にしなくていいよー!♪」
小さいララが、ヤミの肩をぽんぽんと叩く。
「ヤミさん、リトさんが無事だったのですから、あまり気に病まずに。」
「こいつはタフだからな、殺したって死にはしないよ。」
「ヤミさん…本当に、気にしすぎちゃだめだよ?リトは絶対、ヤミさんのこと責めたりしないから。」
それぞれ、ヤミを責めることもせずに優しい言葉をかける。
皆、リトのことが心配でしょうがなかったが、それでも、ヤミを責めようなどと言う気は、美柑同様に全く無かった。
「皆さん…結城リトのことが心配で仕方がないでしょうに、そんな中で私に気を遣って頂いて…ありがとうございます。
今日は…私が彼の目が覚めるまで見ておきますので。それで償いになるとは思えませんが…お願いします。」
いっそ、怒鳴り散らしでもしてくれた方がまだ楽だった。
でも、そうしてもらうことで楽になるのはあくまで自分だけだ。そんなことは許されない。
…そんな風に思いながら、ヤミは言葉を紡いだ。
「ヤミさん、わかった。目が覚めたり、他に何かあったら連絡してね?」
「美柑、わかりました」
こうして、リトがベッドで休んでいるのをヤミが見ておくことになった。
数時間後。
時間は夜更け過ぎで、ララたちは皆眠りについていた。
「う、うーん…あれ、ここは…俺の部屋…?」
リトが、目を覚ました。
辺りを見回すようにしながら起き上がると、すぐ横に居た人物を見て驚く。
「…って、ヤミ!?…どうしたんだ?」
一瞬大きな声を出したリトであったが、ヤミの落ち込んだ表情を見て、すぐに心配をする。
…怪我をした自覚も無いのであろうが、こんなときでも、彼は純粋に優しい。
ヤミはリトが目覚めたのを見た瞬間、一瞬だけ目が輝いたが…またすぐに俯いた。
「…結城リト、目覚めましたか。あなたは…」
事の経緯をリトに説明した。
「そうだったのか。皆に心配かけちゃったな…。…ヤミ?」
リトが気付くと、ヤミの目には涙がたまり、ぽろぽろと零れ落ちていた。
自責の念だけでは無く、様々な感情が混ざり合った涙であった。
「結城リト…ごめ、ごめん…なさい…」
そして、ぽつりぽつりと、今までリトに話せなかった本心を語り出す。
「わ、私は、ダークネスの一件で、皆さんの日常を壊しかけて、それをあなたに救ってもらって、本当に感謝していたんです。
なのに私は、あなたがいつもわざとやっている訳ではないと分かっていながらも攻撃してしまって、でもそれもあなたが毎回無事に逃げてくれていたからどこか安心していて。
だけど今回、初めてあなたに本当に害を及ぼしてしまいました。
あなたが居たから、この町に居場所を見つけて、楽しくなって。
あなたが居たから、ダークネスから戻ることが出来て。
あなたが居たから、あなたが居たから…あなたに、どれだけの感謝を伝えたって伝え切れない程の思いをもっていながら、こんなことを…私、私は…」
「ヤミ…」
ずっとためていた感謝の気持ちと、今回のことへの申し訳無さ。
様々な感情が、混ざり合って、溶け合って、溢れ出した。
ヤミは、言葉を続ける。
「やっぱり、私は、この町には居てはいけないんです。
こんな危険な能力を持っていながら、大切な人を守るどころか傷付けてしまった。
もう、私なんて、私なんて、う、うう…」
やがて、俯いたままのヤミの目から、先程よりも大粒の涙が零れ落ちてきた。
太ももに置いて手を、きゅっと握りしめた。
「ヤミ、ちがうよ、ヤミは…」
ヤミを見て、自分が彼女に今何が出来るかを必死で考えるリト。
そして、数瞬でどうするべきかを決めた。
「私なんて、生まれちゃいけな…!」
ふわっと、ヤミの身体を温かいものが包む。
ヤミの言葉を、リトが抱擁で止めた。
「あ…え…?」
ヤミは戸惑った表情を見せる。
涙も、止まった。
「ヤミ…落ち着いて…!」
優しくも、真剣な表情でヤミに語り掛けるリト。
ヤミは、彼女は、ダークネス騒動が終わった今も、まだ、心のどこかで、少なからず不安を抱いていた。
そんな中、自分が一番感謝すべき恩人で、深い好意を抱いている(と言っても、ヤミ自身はあまり分かっていないのだが)リトに怪我を負わせてしまった。
このことがきっかけで、下手をすればヤミは本当に自分を責めて、今この場で何とか出来なければ、本当にこの町を去るのかもしれない。
リトは、自身に対する好意にこそ気付いていないが、ヤミがずっと抱えている不安を、今までずっと見て来た。
だからこそ、慎重に、慎重に言葉を選ぶ。
「皆がどう思ってるかは分からないから、今から言うのは全部、俺の正直な気持ちだ。…聞いてくれるか?」
「は、はい…」
「俺は、お前が兵器だなんて思っちゃいないよ。普通の、でもちょっとすごい、たい焼きが好きな、かわいい女の子だって思ってる。」
「…!」
ヤミの頬が、ほんのり赤く染まる。
「今回だって、俺がちょっと逃げそびれただけだから、気にしないでくれよ。
もし、今回のことを気に病むのであれば、今後俺への攻撃の手をちょーっと緩めてくれるだけでいいからさ♬
それでもまだ気に病むのなら…俺、全治1週間って言ったっけ?その間、俺の面倒を見てくれよ。それで、俺にはヤミが必要なんだってことを、改めて感じさせてくれよ。な♬」
にこっと笑うリト。
「結城リト…」
ヤミの顔が見る見る綻んで行く。
リトの本領発揮であった。
「…どうだ?」
「ありがとうございます…。」
ヤミの頬を涙が伝う。
しかしこの涙は先程と違い、悲しみの涙ではなかった。
ヤミの心を、温かいものが包む。
「ぜひ、一週間、あなたのお世話をさせてください。」
「ああ、よろしくな♬」
「そ、それで、その…」
ヤミが急に、恥ずかしそうにもじもじし始めた。
「?どうしたんだ?」
「あ、そ、その、今の言葉の…最初の方…私をどういう女の子かって…」
「え?さっき言ったのは、ええっと…『普通の、でもちょっとすごい、たい焼きが好きな、かわいい女の子』ってとこ?」
その言葉を聞いて、ヤミの顔が更に赤くなる。
「はう…」
「?どうしたんだ?」
「な、なんでも…ありません…」
顔をぶんぶんと振って、必死で誤魔化すヤミ。
そして、顔を上げると、リトを見つめながら優しく微笑む。
「…あなたの言葉は、本当に、何度でも、私の心を救ってくれるのですね…」
その笑顔に、リトはどきんとする。
「よ、よせよ…」
「…♬」
頬を赤らめながら照れるリトを見て、ヤミはもう一度、優しく微笑んだ。
「…はわわわ…」
二人の様子を、こっそりと見ていたモモ。
リトを心配しての行動だったのだが、思わぬ収穫だった。
「リトさん…ああ、もう…素敵過ぎます…♡♡♡
…は、一週間、身の回りの世話…!?これは、もしや色々なチャンスですか!?
うふふふふ…♬」
しっぽをこすりながら、よだれを垂らしていた。
続く。