アインツベルンの森、西部。そこでは三人の者達がただならぬ空気を放っていた。
あたりは鬱蒼と茂る樹の枝葉に日の光が遮断され、まるで夜のように暗い。何ともいえぬ薄気味悪さを醸し出していた。
「マダム! 早くお逃げください!」
黒髪の女が地面に這いつくばっている。右足からは夥しい量の血が溢れ、口から発される言葉には焦燥感と苦痛が含まれていた。
その様子を冷ややかな目で見ていた男は、躊躇なく、彼女の腹に足先をねじ込む。
「……ぅ」
女から洩れるのはうめき声。もはや人間としての言葉を出すことすらできないでいた。
男は何事もなかったかのように、歩き出す。その先にいるのは銀髪の女だ。
「shape ist Le────ッ!」
銀髪の女は呪文のようなものを唱えようとするが、それを言いきることはできなかった。
目の前の男────言峰綺礼に首をつかまれ、そのまま持ち上げられたからだ。
綺礼は銀髪の女をつかみ上げながら考える。この女はどうして自分に戦いを挑んできたのかと。彼女は聖杯の器。己の足どめをするにしては、重要すぎる人物だ。前線に送りだして無事に済むという保証がどこにある。
現に、この女は自分に殺されかけていると。
ほんの少し。ほんの少し手に籠める力を増してやれば、木の枝を折るよりたやすく、その細首は折れてしまうだろう。
「女よ。お前はなぜ。私に立ち向かってきた」
「夫に……あなたを近づけさせないためよ……」
彫刻のように美しい女の顔は苦痛にゆがんでいる。酸素を求めるかのように口を喘えいでいる。しかし、その口から出た言葉に、奪う側にいるはずの綺礼は大きく心を揺さぶられていた。
夫というのは衛宮切嗣のことである。その男こそが綺礼のターゲット。己と同じく、何に対する心も持たぬ生ける屍。そのうちに占めるのは虚無しかない、そう……思っていた。
己以外の何物も理解せず、何物にも理解されず、ただただ無情に生きる男。そんな奴だからこそ自分に何かを教えてくれるのではないかと思っていた。
「お前は……衛宮切嗣を愛しているのか」
「えぇ……」
「衛宮切嗣は……お前を……愛しているのか」
「そう……よ」
そんなはずはない。
それが綺礼の抱いた思い。いや、そう思いたかった。
だが、己を睨んでくる憎しみのこもったルビーのような赤い目。そこには確かな……愛があった。
愛があったからゆえに、こいつは自分に立ち向かって来たのだと。そう綺礼は確信させられてしまった。
「ふふ……ふふふ……ふははははは!」
綺礼は感情の欠いた表情で高らかに笑い声を上げる。
────どさり。
綺礼は手に籠めていた力を無くした。もはや、自分の戦う理由も無かった。綺礼は、切嗣が自分と同類だと思っていたからこそ、己の人生で初めて、他者に興味を持ったのだ。
しかし、箱を開けてみればそこにあったのは陳腐な人間愛。結局、衛宮切嗣もただの平凡で普通の普遍的な人間だったのだ。
「……」
怒り。
笑い声を止めた綺礼に湧いて来たのはそんな感情だった。
自分の中にそのような感情が芽生えるとは、綺礼自身驚いていた。衛宮切嗣は己の期待を満たすような人物ではなかった。だが、彼と巡り合えたのは行幸だったかもしれない。彼と出会わなければこのような感情は発露するはずもなかったのだから。己の期待を裏切った衛宮切嗣夫妻には感謝してもしきれない。
「女……いや、アイリスフィールフォンアインツベルン。お前とお前の夫には感謝している。この私に怒りという感情を教えてくれたのだからな……アサシン」
『はッ』
綺礼は傍に控える黒装束を纏った人物に視線を落とす。いつの間に現れたのか、気配も感じさせず綺礼の足もとへと控えていた。
その顔は白い骸骨のようなもので覆われていて、表情をうかがうことはできない。
「お前は今、
「私を含め、九名の者がこの場を定間隔で包囲しております」
「そうか」
そう呟くと、綺礼は銀髪の女と地に倒れ伏している黒髪の女に目を移す。そして、その口元に笑みのようなものを浮かべた。
「この場に全員召集しろ。いや、
綺礼の言葉を聞くや否や、アサシンと呼ばれた影は瞬く間に姿を消した。まるで最初からそこには何もなかったかのように。
だが、次の瞬間。周囲の枝の擦れるような音と共に、総勢五名もの影がその場に集結した。
そのいでたちは様々。熊のように大きな者もおれば、ひょろりとした体格の者までいた。彼らに共通しているのはその全身を覆う黒いスーツと、その顔を覆う白い仮面だけだ
「いつセイバーが駆け付けてくるかわからない。この場にいない者には今まで同様周囲の警戒を怠らないように伝えておけ」
一つの影が再び消えるが、すぐに戻ってきた。それを確認した綺礼は次の命令を出す。
「お前たちは今から、そこの女──」黒髪の女を指さす「──を輪姦しろ」
綺礼の声はまるで仕事を命じる上司のように平坦だった。その声にはそれ以上の感情を込めていないようで。すぐにアイリスフィールへと視線を戻した。
「あれは切嗣の道具にすぎないだろうが、自分のモノを壊されて何も感じない男ではないだろう。何せ切嗣は
「……切嗣はあなたを恐れていた。それはあなたがヒトとして歪だったから。だけど、今のあなたは。ただの最低な人間よ。そんなものに、恐れることは何もないわ」
アイリスフィールの顔には安堵が浮かんでいた。
自分の従者が男の欲望の牙にさらされているこの状況。まして、彼女自身にもどんな非道な参事が振りかかるかはわからないというのに。
そこには夫を心から愛する、一人の美しい女性の姿があった。
*
「……うぐぅ」
薄気味悪い大樹の下で、女性の悲痛な声が上がっている。そこでは下半身をあらわにした男達が、一人の女性に群がっていた。
女性は全身を黒いスーツで纏い、まるで闇に溶けようとしているかのようだった。その黒い服からは白い肌がのぞき、闇に差す光のようだった。
「なあ入れちゃっていい? めっちゃ俺のタイプなんだけど」
「焦るでない。女というのは散々焦らしてから犯すのがいいのだ」
「僕はもっと派手な女の子がよかったなぁ。なんかこいつ地味だし」
「さっさとやろーぜー」
異形共は、手負いの女をどうやって犯すかを話し合っていた。それはまるでケーキをどうやって切り分けるのかを決めるかのように穏やかな空気。
そんなサーヴァント達の話を、消え入りそうな意識の中で舞弥はしっかりと聞いていた。
舞弥は今まで様々な男に体を売ってきた。その目的は相手を油断させ殺すためだったり、情報を引き出すためだったりした。
任務だと割り切ればどんな相手とでも性交を行った。でっぷりと腹を膨らませた中年の男や、骨と皮しかないようなよぼよぼの老人。切嗣のためなら自分の何をも捨てることができた。
だから、これから行われるだろう淫行もそれほど恐れることではなかった。それに、舞弥には抵抗できるほどの力は残っていなかった。足は綺礼の黒鍵で貫かれ、肋骨も何本か折れていた。たとえ、無傷だったとしても、相手は過去の英霊。手も足も出なかっただろうが。
自分をどう犯すかの話を舞弥は淡々と耳に流していた。
「じゃあ、僕からいくね」
声調の高い声で、影の一人が前に出てきた。背は低く、舞弥よりも小さいかもしれない。だが、その腰からそびえるものは、以前みた切嗣のものよりもさらに大きかった。
その無邪気な言い方とは裏腹に、その肉棒は醜悪なまでに静脈動脈を波立たせていた。
「……ぅご!」
舞弥はその口にいきなり男性器をぶち込まれた。ショートカットの黒髪を乱暴に掴まれゆすられる。
それを無邪気な様子で見ながら、男は歌のようなもの口ずさむ。
「女は男の性処理道具ぅ。乱暴され犯され泣き叫べぇ。うちらハサンは略奪しゃ」
リズムよく舞弥の頭を前後に動かす。
舞弥は若干苦しげな表情になる。激しく動かされるたびに、肋骨に響くのだ。舞弥を襲うのは男たちの欲望だけではなく、自身の怪我もだった。
────びゅく……どく……どく、
何の前触れもなく男の突起の先から液体が放たれる。
舞弥はその流し込まれる量に内心驚愕した。口の中が強烈な苦みで満たされ、胃にも入ってくる。そして、それは舞弥の中に入りきらず溢れ出した。
「……ん! っげほ……ごほ」
液体はまだ止まっておらず、舞弥の顔へと飛び散ってくる。その鴉羽のような黒髪に、その液体が容赦なく振りかかった。
それでも舞弥の顔は無表情だ。強烈な生臭い匂いも意に反さず。氷のような表情を崩さない。それはまるで人形のようだった。
「その髪きれいだな。ちょっと白い液体ついちゃってるけど」
横から一人の影が現れる。影の男は指の隙間に漆黒の髪をはさみ、さらさらと梳いていた。首のあたりできれいに切りそろえられたその髪は、男が指を通すたびに緩やかにたなびく。
男は下半身のの一物を舞弥の頭へと近づけると、髪を掬い熱の滾る己の肉棒へと巻きつけた。さらりとした感触は女のやわ肌のようで、それは繊細な気持ちよさを男へと感じさせた。
「やべぇ、もうでる」
────どぴゅ……ぴゅ
男のペニスを巻きつけていた黒髪の中へと白濁のゲル状のものが飛び出す。瞬く間にその黒い髪に白い斑点模様が色がっていく。ぼたり、とあふれた精液が地面へと落ちる。
「早漏であるな。これだから小童共はダメなのだ。わしに任せるがよい」
ひと際巨体な異形が前へと出てくる。そいつは周りの影に指示を出した。
「お前たち、女の四肢を広げ抑えるのだ」
舞弥は大地に仰向けに倒されると、四つの影により大の字に固定される。その力は大きく、彼女には身動き一つできなかった。
倒された時の衝撃で、肋骨が悲鳴を上げる。それでも、舞弥は声を押し殺し、悲鳴を上げなかった。
「わしはハサンの中でも一番女の扱いがうまい。期待してよいぞ」
そう言うと、男はそのずんぐりとした指を蛇のような動きで舞弥の秘部へと添わせる。指先でその敏感な部分をそっとなでる。
「……」
舞弥は心を凍らせていた。顔は今まで以上に無機質な仮面めいたものとなり、その白い肌も相まって、本当に人形のように見えた。
それは舞弥の長年の経験から学んだ処世術であった。ターゲットと男女の行いをしなければいけないときは、心を閉ざすようにしていた。相手によってはそれはひどく味気ないものとなったが、その端正な顔立ちと引き締まった女の体は、それを補って余りあるものだった。彼女を抱いて満足しない男はいなかった。
「なかなか慣れているようじゃのぉ。さすがにそこらの可憐な少女の花を散らすようにはいかぬか。ならばわしも……ちと本気を出すかのう」
男は愛撫するかのような優しげな動きから一転、獲物へと襲いかかる狼のように激しくなる。
指を数本その淫だな穴へと差し込むと、ぐちゅりぐちゅりと中をかき混ぜ始めた。
静謐な空間に響く液体音。それはだんだんと大きくなっていき、舞弥の口からほんの少し、あえぎ声が漏れた。
「わしのテクニックに耐えられぬ女はいなかった。お前さんはどこまで耐えられるかのぉ」
舞弥はそのナイフのような煌めきを宿す眼光をより細くする。宙空を睨むその目には若干の感情が見え始めていた。その頬には一滴の汗が滴っており、彼女が完全に心を無にするのは無理なようだった。
ざらざらとした太い指が自分の体内をえぐるたびに、抑えられない疼きが生じる。男の言うことは虚言などではないようで、舞弥をこれほどまでに感じさせた者は今までいなかった。
「……んぅ」
口から洩れる声を押し殺す。今まで幾人も殺してきた舞弥だが、それを殺すのは難しかった。
自分の生殖器が男の刺激を敏感に感じ取っている。穴からはどこから湧いてきたのかという量の愛液が溢れ出してきており、男を受け入れる準備はもう出来上がっていた。
「それでは、わしのそそり立つ雄大なモノを『あーもうがまんできねー』」
熊のような男が舞弥へと挿入しようとした時、横からもう一人の男が割り込んできた。既に男根は戦闘態勢を整えており、何の前兆もなく舞弥の中へと抉りこんできた。
「ぅぐ……」
それは野性そのもの、なんの小細工もテクニックも無く。ただ己の本能だけを頼りに腰を振る飢えた獣。舞弥の膝をМ字に開き上からひたすらにたたきつけていた。
舞弥は自分に性欲をぶつけるその男を見る。その顔は白い骸骨のようなもので覆われて見えないが。荒々しい呼吸音と、自分の中で出し入れされているものの煮えたぎるような熱さは、舞弥に今まで以上に犯されているということを認識させた。だんだんと自分の中の生殖本能が目覚めるのを意識せざるを得なかった。
ズンズン…………びゅく。
繰り返される抽送が突然止まった。男は舞弥に強く抱きついてくる。その鍛えられた筋肉がぴったりと押しつけられる。とめどなく放出する精液をすべて注ぎ込もうといているのか、男は舞弥の奥深くに男性器を突き刺したまま静止している。ときおりびくりとふるえるたびに、肉壺から液体が零れ落ちる。
舞弥は己に注ぎ込まれるあたたかい液体を強く感じていた。それは舞弥の膣内にとどまらず、子宮へと侵入していた。舞弥は直感した、これは自分を孕ませるに足るものだと。
今まで、彼女は男に中出しをさせたことはなかった。もし妊娠でもしたらそれは仕事に支障を与えるからだ。
脳裏に浮かぶのは一人の男の後ろ姿。自分がその生涯を捧げることを決めた男。
気がつけば、目からつたうのは一筋の涙。それは当の昔に枯れたはずのもの。
そして気付いた。自分がいかに切嗣のことを愛していたのかを。
暗がりに光る、一つの淡い思い。
つぎはマーボーエセ神父かな