ポケットモンスター Erotic Generation 作:破戒僧
総力戦。
まさに、そんな表現がふさわしい戦いで。
突如現れた無法な要塞を制圧すべく、警察が出動し、
それを迎え撃つ、したっぱのプラズマ団員達。
ジムリーダーや四天王も参戦する中……彼らの支援を受けて、私達は最上階のラスボスと裏ボスのところに登ることができていた。
今現在……私達は、敵のラスボス2人に対峙している。
「……残念だよ……わかりあえると思っていたのに、戦うことになるなんて……」
「全くですな……所詮はポケモントレーナー……おろかなものです」
「愚か者でかわいそうなのははあんたらね……ここで、何もかも終わるんだもの」
「今日が……プラズマ団最後の日だ!」
恐れることもなく背筋伸ばして立つ、私とナオヤ。
対するは、敵方の総大将……Nとゲーチス。
Nは悲しげな、哀れむような目で。ゲーチスは、いつも通りの腹黒い笑顔で。
私とナオヤは……純粋にやる気に満ちた、決意の炎を目に灯して。
「特にアイカ……君とは心も体も1つになって、共に未来への道のりを歩んでいけると思ったのに……。僕の妻は君しかいないと思ってたのに、本当に残念だよ……」
「全くですね……ふふっ、あのようにはしたない顔をさらして、もはや堕ち……もとい、心を入れ替えたとばかり思っていたのですが……ふん、中々どうして面倒な」
「……っ……!」
ゲーチスの脳裏には、洗脳下にあった時の……淫らに腰を振って精液をねだる私が呼び起こされているのだろう。口唇がつりあがり、下品な笑みが浮かぶ。
その顔に、私は……ぎり、と奥歯を鳴らす。
脳裏に、あの、自分が狂ってしまっていたころの……悪夢のような光景がよみがえっていた。
加齢臭ただようゲーチスに、自分から卑猥な言葉と共にセックスをねだっていた……誰でもいいから、いつでも、いつまでも犯して欲しいと思っていたあの頃が。
そうして奉仕させられた……屈辱が。
「本当に残念ですねえ、アイカのあの素晴らしさ……手放すには惜しい……どうです? もう一度私達の元へ来て、狂ってみませんか? そうすれば、心ゆくまで……」
「あんた……いい加減に……」
「いい加減に……しろォ!!」
「「「!?」」」
瞬間、
響いたのは……いつも気が小さくて、大人しいはずの……ナオヤの怒号だった。
額に青筋を浮かべ、歯を食いしばり、拳を震わせ……怒髪天を衝く勢いである。
事前調査だけで知った気になっていたNやゲーチスはもとより、幼馴染のアイカさえ見たこともないその様子に……一同、絶句する。
「さっきから聞いてれば……正義の味方気取ったり、世界の支配者にでもなった気になったり……聞くに堪えないことばかり……調子に乗るな!」
「何かおかしいことでも? ここにいるN様は、時期に本当に世界の支配者になるのですよ?」
「そんなことさせるか! そんな……多くの人が涙を流さなきゃいけない世界を作る奴が、英雄なもんか! 僕らはその世界を……その未来を認めない! ここで……絶対に叩き潰してやる! そして……」
……そして?
「僕の……僕の大好きなアイカは、お前らなんかに絶対……いや、誰にも!! 渡さない!!!!」
……時間が、止まったような気がした。
突然すぎる。シチュエーションとか段取りとかメチャクチャだし。
っていうか多分……こいつ、自分で今、何言ったか気付いてないでしょ。
……けど……気にならない。
だって……
一番好きな人から……一番聞きたかった言葉を、聴けたんだから……。
その瞬間……さっきまでどす黒く心の中に渦巻いていた、レイプや調教の思い出と、そのことへの恨みつらみ、憎しみとか、そういうものが……根こそぎ洗われた気がした。
……たいがい現金ね……私も……。
……ともかく、お惚気(のろけ)はこのくらいにして……
「いくよ、アイカ!」
「OK、あなた!」
「さぁ行……『あなた』!? ちょっ……何言ってんの!?」
「何よ、あんなに情熱的に告白して……お嫁にもらってくれるんでしょ?」
「そこまで言ってないよ!? っていうか、状況わかって……」
「つべこべ言わない、来るわよ!」
「ああああもう、やっぱりアイカはアイカだっ!」
なーに当たり前のこと言ってるんだか、私の未来の旦那様は。顔赤いよ?
……言っとくけど、本気だからね。
……すっごく、嬉しかったんだから……。
「……不思議だな……君達を見てると、なぜだか……祝福したく思えてきてしまうよ……。けど……戦いは別だ、容赦はしない……レシラム! ゼクロム!」
Nの呼び声に答え、白い龍と黒い龍……レシラムとゼクロムが姿を現す。
さすがに『伝説』……他のポケモンとは絶対的に違う、圧倒的な存在感とプレッシャー。……正直、予想以上だ。
その威光を、さも自分のものであるかのように鼻を鳴らし、ゲーチスがふんぞり返る。
「ふん……いくら意気込んだ所で……普通のポケモンでは、束になっても伝説のドラゴン2体にはかなうまい!」
「ああ……そうかもね……」
「普通なら、ね……」
「「……?」」
いぶかしむNとゲーチス。
……言ってる意味、わかんない? 大丈夫……すぐわかるから。
……せーの、
「出番だ、キュレム!!」
「お願い、ランドロス!!」
「「!?」」
姿を現す……更なる伝説のポケモン。
氷の龍・キュレム。
大地の守護神・ランドロス。
どちらも……レシラム&ゼクロムと同等かそれ以上の、凄まじい力を秘めている。
Nとゲーチスの顔から……余裕が完全に消えうせた。
☆☆☆
すぐに始まった、火花散る戦い。
レシラムの炎と、ゼクロムの雷は、確かに凄まじい。遠い昔にイッシュ地方を滅ぼしたと言われるだけのことはある。
……しかし、この2匹だって……負けちゃいない。
自分も凍り付いてしまうほどの冷気を操るキュレム。
地上だろうが空中だろうが、圧倒的なパワーでねじ伏せるランドロス。
こちらも同じく『伝説』……一歩も引かない戦いを見せている。
むしろ……戦っている土台である、この城の強度を心配したくなるくらいだし。
レシラムの炎を、キュレムの冷気が相殺し……爆発と同時に氷が解けて、煙と水蒸気がふき上がる。
その向こうから、電撃をまとって突っ込んできたゼクロムを……ランドロスが殴って叩き落とす。電撃によるダメージも、全くと言っていいくらいに無いみたい。
…………そして、
この頂上決戦は……ポケモンの力比べだけでなく……トレーナー同士の心のぶつかり合いでもあった。
「……君達は、そんなにも素晴らしいポケモントレーナーなのに……どうして、理解できないんだ……! この世界には、ポケモンの開放という変革が必要なのに……!」
「変革が必要なのはアンタの頭ン中ね、N。お互いを支えあってるポケモンと人間を引き離したって、後には悲しみが残るだけよ」
「……人間という鎖は、ポケモンをだめにする……というのに? 戦わせて、働かせて……ポケモンを縛り付けるだけじゃないか」
「……そう見えんの? この世界が……この世界で笑ってる、ポケモンたちが……!」
……このへんの話も、メタモンから聞いた。
Nは、あの城からほとんど出してもらえずに育って……しかも、人によって傷つけられたポケモンばかり、ゲーチスに見せられて育ったらしい。
……そのポケモン達を否定するわけじゃないけど……それは、ほんの一部なのに。
でも、そうやって育ったNだから……こんな風な考え方を持つに至ってしまったんだと思う。
偏った知識と、歪んだ愛で……けど、紛れもなくそれを『本心』として、この世界を、ポケモンを見るNが……できてしまったんだと思う。
……もし、普通に育っていたら……彼はどれほど、優秀なポケモントレーナーになってたんだろう。
―――まあ、
そんなこと、知ったこっちゃないけど。
「……やっぱり、アンタにゃ私はもったいないわね」
「……そうかい? 僕の思いは……変わらないつもりだけど……アイカ、君と一緒に、この世界の全てのポケモンを愛せたら、と、今でも思ってるよ?」
「……そうはならないさ、絶対に」
静かな圧力が、隣にいるナオヤから飛ばされる。
ピンポイントにNに向けられてるのに……私も感じてしまうほどのそれが。
「……そうか、君もアイカのことが好きなんだね……僕の……最大のライバル……ナオヤ。まさか、恋敵にまでなるなんて思ってなかったけど……」
「ふざけるな、お前じゃ恋敵なんかにもなりゃしない」
いつも落ち着いているナオヤには珍しく……強気を通り越して攻撃的な口調。
「へえ……たいした自信だ。けど……僕は負けるつもりはないよ。必ず、アイカに……僕の愛を受け取ってもらうんだ……そして……」
「もう……負けてるよ、お前は」
「…………なんだって?」
「……周りを見ずに、自分と自分の行動を逐一、そんな風に美化して何とか我を保ってるような奴に……僕は負けない。絶対に」
言い放つナオヤの目は、どこまでも真剣で、真っ直ぐで。
私も、途中から……割り込めなくなっていた。
というか……何か言うより、このまま見ていたい気分。
「お前の育ちはよくわかったよ……そういう環境で育ったんだろう? 知識も感情も、偏ってしまうような環境で……」
「…………」
「でも……お前は旅をした。そして、いろんなポケモンと触れ合ったはずだ……それを見て、何も思わなかった? 自分が見ていたポケモンが、世界の、ほんの一部だ、って……気づかなかった? ……そんなはず、ないよな?」
「……それでも、僕は……」
Nは、さっきまでの勢いが徐々になくなってきているように見えた。
……図星……ってことか。
当然よね……旅して、ポケモン鍛えてれば……そういうポケモンとも多く出会う。
「それでも僕は……ポケモンの解放が、彼らの……進化につながると、思ってた……だから、最後まで……その信念を貫かなきゃいけないと思った……!」
「……迷うんだったら、そんなもの変えればよかったのに」
「っ……そんな軽々しく……」
「軽かろうが重かろうが関係ない。それが他人を巻き込むもので、かつ、そこに自分自身も迷いがあったんなら……進む方向を変えればいい。恥ずかしいことじゃない、人なんだから、間違うことだってあるさ。……でもN……お前は、そうしなかった」
「…………開き直りじゃないか、それじゃあ」
「だから?」
「だから、って……」
Nの顔から、余裕がなくなっていく。
ポケモンバトルに関する余裕だけじゃない……精神面での余裕も、だ。
「人は間違う生き物だ……『本当に』自分が望むものを手に入れたいなら、恥ずかしかろうが何だろうが……度胸も努力もそこにつぎ込むべきだ!! そうすれば……結局、同じものが手に入る」
「同じ、もの……?」
「そうだよ……お前が望む、ポケモンに優しい世界……だ」
……論戦で、次第に押されていくN。押していくナオヤ。
その影響が、バトルにまで出てきているのか……ゼクロムとレシラムは、キュレムとランドロスに押され始めていた。
「『ポケモンの開放』だって、その為の『手段』だったはずだ! お前が大好きなポケモン達を救うための! ……そこに固執してしまっていた時点で、手段と目的が逆転してるし……そもそもお前は目的を見失ってる!」
レシラムの炎が、キュレムの冷気に負ける。
「結局君は、美化しすぎた自分と目的を否定できずにがむしゃらに突っ走ってるだけだ! 脇目もふらないんじゃなく、ふれない……信じてきたものが揺れるのが怖いから!!」
ゼクロムの雷が、ランドロスの拳で消し飛ぶ。
「……そんな不安と迷いと自己暗示だらけの心に、誰かに注ぐだけの愛なんかあるもんか! さもポケモンのことを考えてるみたいに言うけど……君はただ、レシラムとゼクロムっていう力にすがって自分を正当化して……アイカっていう、自分にはない真っ直ぐで強い心と、深く純粋な愛情を持った存在をそばに置いて、さも自分もそれを持ってるみたいに信じたかっただけだ! そんな……そんな都合のいい奴に……」
……そして、
「―――アイカは、渡さないっ!!!」
ナオヤ自身の咆哮と共に……キュレムの『こごえるせかい』がゼクロムに、
ランドロスの『だいちのちから』がレシラムに見事に決まり……
難攻不落と思われた伝説の2匹が……ついに、陥落した。