ポケットモンスター Erotic Generation 作:破戒僧
長くなったんで分けます。一挙2話投降です。
第34話とあわせてどうぞ。
○Side 三人称
―――時は、少しばかりさかのぼり、
場所は……『シルフカンパニー』の社長室。
その、限られたものしか入ることを許されない部屋で……2人の男が、神妙な面持ちで語り合っていた。
もっとも……片方がもう片方に対して、敵意をむき出しにしている……緊迫した状況であったが。
「……貴様……それでも血の通った人間か……!?」
「何とでも言ってくれて結構……。……結構だが……私としては、悪態よりも『答え』を聞かせてほしい所だな、社長」
サカキは……先ほどから自分を、射殺さんばかりの視線で睨んでいる……妙齢の男に、そう語りかけた。
シルフカンパニーの社長にして……ナオヤの父親である、その男に。
その社長が、ちらりと視線を向けた先には……サカキが持ってきたノートパソコン。
その液晶画面には……目を背けたくなるような、信じがたい光景が映し出されていた。
アイカと、ナツメ……
2人とも、ナオヤ……自分の息子と仲がよかった、旧知の親友。
その、立派に成長した2人が……ロケット団の下っ端達の手によって、汚され、嬲られ……女としての地獄を味わわせられている、その光景。
どうやら録画と思しきその光景を……下唇をかみ締めながら、ナオヤの父は、なんとも言いがたい表情で見て……やはり目を逸らし……そして、やはりサカキを睨んだ。
小さい頃から、ナオヤと一緒に……娘同然に可愛がっていた彼女達。
その無残な姿が見るに絶えず……こうなるように仕向けた男に、およそ40代とは思えない殺気をほとばしらせる。
しかし、対するサカキも、裏社会を滑る立場にある……良くも悪くも猛者。その程度のことで、何もひるんだりする様子は見せない。
逆に、畳み掛けるように……ナオヤの父に言葉をつきつけた。
「さて……もう、多くを語る必要はないと思うが……私の言いたいことわかるだろう?」
「……彼女達を、人質に……私を脅そうと言うのか……!?」
「まあ、そういうことになるな……。ダメならダメで、他の方法を考えるが……彼女達が、無事に解放される保障は出来ない、と言っておこう」
苦虫を噛み潰したような、ナオヤの父を気にかけず……サカキは何も遠慮することなく、ナオヤの父から見て向かい側のソファに腰掛けた。
「約束しよう……条件さえ飲んでくれれば、彼女達は直ちに解放しよう……なんなら、できる限りのアフターケアを付け加えてもいい…………だから、社長……」
そして、一拍置いて、
「……いい加減に教えてはくれないか? 『マスターボール』の製造方法を……」
☆☆☆
『マスターボール』
野生のポケモンにぶつければ、体力の消耗も何も関係なく、絶対に捕獲できてしまうという……まるで御伽噺のような力を持つ……最高のモンスターボール。
一般にはその存在を知られていない……シルフカンパニーの超最高機密製品だ。
なぜ機密なのか? ……考えても見て欲しい。
100%の確率でポケモンを捕獲できると言うことが、どれほどすばらしく……しかしそして、どれほど恐ろしいことか……を。
ポケモンとは……決して、ゲームのキャラクターのように、人間に捕獲されるのが当然の宿命として生まれ、死んでいくような存在ではない。
ポケモンは……紛れもなく、生き物であり……1つの命なのだ。
確かに……現代社会において、ポケモンは……モンスターボールにより捕獲され、人と共存する形になってはいる。
しかし、
そもそも、『モンスターボール』とは、ポケモンを『ゲット』する道具である。
……決して……『服従』させる道具ではないのだ。
仮にボールに捕獲したとしても、トレーナーの言うことを聞かないポケモンというのは、至極当然に存在している。
トレーナーの力量不足であったり、野性を色濃く残していたり、捕獲したトレーナー(俗に『親』と呼称される)が、指示を出すトレーナーと違う、など、理由は様々だ。
イッシュ地方で言えば、ツタージャなどは……極端かもしれないが、いい例だろう。
ツタージャは、トレーナーの実力不足を悟ると……『自分がついていくに値しない』と判断し、トレーナーを見限ってしまうこともあるのだ。
しかし……大概の場合、その問題は発生しない。
なぜかというと……トレーナーは、大抵、ポケモンをバトルの末に捕まえるからだ。
ポケモンを捕獲する際の『バトル』には……捕獲可能な所までポケモンを弱らせる、という目的の他に……トレーナーの力をポケモンに示す、というものがある。
そのトレーナーの采配や姿勢、トレーナーが育てたポケモンとのバトルなどから……野性のポケモンは本能的に、自分がこのトレーナーについていけるかどうかを判断する……と、一部の学派によって説明がなされている。
ちょうど、サルやライオンなどの群れのボスが、実力でその頂点に君臨するように……ポケモンもまた、自分を屈服させるほどの器のトレーナーを本能的に求めるのだ、と。
ボールによる『ゲット』は、その意思を表現するきっかけに過ぎないのだ、と。
ゆえに……『バトル』と『ゲット』、この2段階のプロセスが在る以上、ほぼその後に問題などは発生しないのだ。
しかし、
そこに……『ダメージに関係なくポケモンを絶対に捕まえる』などという機能がついたボールが投入されれば、どうなるか……もうお分かりだろう。
もしこの学説が正しければ……たとえ100%の確率で捕獲できたとしても、その後に問題が出てくる可能性が高い。ポケモンとの意思疎通の問題で、だ。
さらに、その他にも理由はまだまだある。
もし、そんなものが流通すれば……ポケモンは本当に、ただ人間に捕まえられるだけの、ゲームキャラのような存在に認識されてしまうだろう。
邪な目的によるポケモンの乱獲……絶滅危惧ポケモンの更なる減少・絶滅……想像するだけでも問題はいくらでも出てくる。
それゆえに、シルフカンパニーは……『マスターボール』の存在を公表しておらず、あくまで都市伝説のようなレベルの噂にとどまっているのだ。
……もっとも、
サカキのように……耳ざとくかぎつけてくる輩も……ゼロではないのだが……
☆☆☆
「……あくまで、要求はそれか……」
「無論だ。最初に伝えた通りさ……この会社を占拠させてもらったのも、そのためだ」
サカキは、ナオヤの父に対して……何の遠慮もなく、そう言い放つ。
「マスターボール……素晴らしいじゃないか。絶対にポケモンを捕まえる、究極のボール……まさしく、全てのポケモントレーナーの夢だ。そこに、善も悪もない」
「……だが、危険な代物だ。だからこそ……外に出すわけにはいかん。仮にも貴様はトキワジムのジムリーダー……マスターボールがもたらす危険くらい、わかるだろう……!」
「もっともな主張だ。だが……私の目的のためには、それが必要だ」
サカキはソファを立ち、窓の外に目を向ける。
シルフ最上階・社長室の大きな窓からは……ヤマブキシティが一望できた。
「何……なにも私は、この世界の全てのポケモンを手中に収めようなどと思っているわけではないさ……相対的にそうなるかはわからんがね」
「ではなぜ、マスターボールを望む……? 伝説・幻とされているポケモンの捕獲が目当てか? それとも、一般に流通させて金でも儲けるのか?」
「前者はいい使用例だ……いくつかハードルはあるが、力も人望も手に入る。が……後者は愚策にもほどがある。一般市民などが使うには、マスターボールは過ぎた力だ」
「……貴様は、使うに値する存在だとでも?」
「自画自賛になるがね……有効活用できるだけの分別はあるつもりだ」
そして、再びサカキはソファに腰掛ける。
そのサカキに……今度は、ナオヤの父から問いかけた。
「……もう一度問おう……マスターボールを手に入れて、一体何を望む……? あの禁じられたボールを使って……貴様は一体、何をしようというのだ……!?」
「……もう一度答えよう……残念ながら、それを話すにはまだ早い」
表情を変えず、サカキはオウム返しのように答えた。
「だが……ロケット団の目的は話せずとも……マスターボールの使用用途など、『ボール』である以上、大方予想がつくものだろう? さっきあなたが予想した通りさ……必要に応じて、われわれがポケモンを捕まえる時に使用する……まあ、例外もあるがね」
「……例外とは何だ? 権力者に裏で賄賂として渡して、懐柔でもするつもりか?」
「……ふふっ、ご想像にお任せしよう」
肯定も同然の答えだった。
確かに……もしそんな用途に使われようものなら……金などよりもよほど魅力的な取引材料になるだろう。それこそ、小国の政府1つ2つなら動かせてしまうほどに。
そしてそれこそ……社会の混乱材料になりかねない。
しかし、そんなことで治安その他が乱れれば、ろくなことにならない……それも、サカキならわかっていそうなものである。ナオヤの父は未だに、その真意をつかめない。
と、
「……おしゃべりは……ここまでにしようか」
サカキは……流れを断ち切るようにそう言った。
「我々は、ここを占拠したその日に……会社内外の全てのデータバンクを、セキュリティの全てを解除して徹底的に調べた……。消去されたデータも復元して、だ」
「…………」
「しかし……どこを探しても、マスターボール関連のデータは、それが開発された、という1つの事実をのぞいて、何一つ見つからなかった……」
「……それは、データは全て廃棄……」
「できるはずがない。社長……あなたも、商売人としてとはいえ、ポケモン研究に携わる1人……その集大成ともいえる『マスターボール』そのものを、そう簡単に捨て去ることなどできはしない……あなたにとっては、大事な子供のようなものだ」
口答えさえ許さない、とばかりに、サカキはたたみかけた。
「研究者にとっての研究成果とは、そういうものだ……かならずどこかに、バックアップはある……そのありかを教えてほしい」
「……そんなものは、ない……」
「そのように滝のような汗を流しながら言われても、説得力に欠けるというもの……」
その言葉通り、滝のように汗をかくナオヤの父は……感じていた。
この、目の前にいる男は……自分などが、交渉術で勝てるような存在ではないと。……長引けば長引くほど……泥沼にはまっていく、と。
「繰り返しになるが言おう……マスターボールを……その製法も、研究過程の記録も、全てを含めて我々に提出してくれたまえ。なんなら、言い値で買い取ろう」
「…………を……」
「ん?」
「……マスターボールを……世に出すわけには、いかん……!」
「……ほう? では、取引を断り……彼女達を見捨てると?」
サカキの目は……ディスプレイを社長側にして、動画が再生されっぱなしの、ノートパソコンに向いた。
その液晶には……アイカとナツメが、ロケット団の構成員達に、欲望のままに犯され……穴と言う穴を蹂躙され、悲痛な声を上げている様子が、まざまざと映し出されている。
ナオヤの父にしてみれば……少し目が行くだけでも、胸をえぐられるような画だ。
「……言うまでも無いとは思うものの、あえて言っておくが……取引に応じないのであれば、彼女達はこちらで処分させてもらおう……」
「……殺す、とでも言うのか……?」
「さすがにそこまではしないさ。ただ……彼女達くらい魅力的な女性であれば……裏に手を回せば、『買い手』には困らないだろう……」
「……っ……!?」
「美貌はもちろん、彼女達の出自は……『売り』に出すときには大いに目を引くからね……ふふっ、物好きが飛びつくだろう。ナツメ君は、ヤマブキジムのジムリーダーを務める天才美少女トレーナーであり……そして、アイカ君の姉は…………おや?」
サカキはそこで、気付いたように……いや、実際気付いて、声を上げる。
……社長……ナオヤの父が、膝の上に乗せて、握り拳を作っている、その手元……
手のひらに爪が食い込むほどに強く握られた、そこから……赤い雫が、ぽたぽたと零れ落ち……高価なズボンに染みを作っていることも。
よく見れば、頬もふるふると震えている。
娘同然のアイカ達の未来と、この世界の秩序……その2つを天秤にかけられて、葛藤していることは明らかだった。
「心中お察ししよう。確かに、残酷な二者択一だ……」
「……白々しいことを……」
「それについても言い訳はしない。……それに、さっき言ったことも本気だ……交渉が決裂した場合、彼女達は処分する。あなたとの取引は、他の方法を考えよう」
「……考える……時間を、くれないか……?」
「却下だ。結論を先延ばしにする意味は無い」
きっぱりと言い切るサカキ。容赦はない。
「そして前にも言ったが……助けは期待するな。この社屋から外部への救援要請手段は、全てシャットアウトしてある。外部からこの社屋内の情報を探ろうとするラインも同様だ……万に一つも、時間経過で解決できる問題などない」
そして、
「これが最後だ、社長。彼女達の自由と引き換えに……『マスターボール』に関する全ての情報を我々に渡したまえ。YESかNOか……それ以外の答えは不要だ」
「……っ……!」
その問いかけに……社長は、呼吸をするのも忘れて、頭の中で自問を繰り返す。彼女達の未来と、社会に対しての責任……どちらを取るのが正しいのか……と。
しかし……答えは出てこない。出てくるはずがない。
そもそも、答えなどなく……この2つは本来、同じ天秤の両側にかけるべきものではないのだから。
そんな、頭がパンクしそうなほどに追い詰められた、ナオヤの父の耳に……
あるいは、こうなることも予想済みだったのかと疑いたくなるほどに適確に……サカキの、悪魔のささやきがしみこんでいった。
「……苦しむことは無い……。社長……あなたが抱える重責は相当なものだろう……しかし、かかっているのは、人の命であり、未来なのだ。言えた義理ではないが……人の命以上に尊ぶべきものなど、この世にあるとお思いか……?」
「………………!!」
「この交渉において、悪は我々ロケット団だ……。社長……例え、あなたが社会に対して責任ある人間として配慮を怠る選択をしたとしても……それは前途ある若者の未来のため……誰も、あなたを悪などと責めることはない…………さあ……」
……そして、
ついに、ナオヤの父は……
「……マ……」
「……ふむ?」
「マスターボールの……データの……場所は…………!!」
……その時、
―――バリィィイン!!!
「「「!!?」」」
突如、轟音と共に……強化ガラスで出来ているはずの、社長室の窓が一部割れた
同時に吹き込んでくる、高所特有の強風と、凍えそうな冷たい空気。
……そして、
その風と同時に……吹き込んで……否、
乗り込んできた者が……1人。
それには……さすがに、社長はもちろん……サカキすらも、驚愕を隠せない。
ガラス窓に空いた穴から入ってきた、その人物は……強風をものともせず、割れて室内に飛び散ったガラスを、ぱきぱきと踏みしめながら……ゆっくりと歩いて、
そして、
「ただいま、父さん。……随分と尻の長い客がいるね……塩撒いていい?」
普段の彼からは創造もできない……カミソリのように鋭く、氷のように冷たい威圧感を漂わせながら……
トレードマークの、若草色のコートをなびかせるナオヤは……その隣に1匹のポリゴンを従え、父とサカキの前に立った。