ポケットモンスター Erotic Generation 作:破戒僧
おー、いたいた、悪の大ボス。
どうやら、すでに戦いは始まっていたと見られる。
少し荒れた様子の社長室に……臨戦態勢のナオヤとポリゴン、そして……サカキがいた。
そのサカキは、私が乗り込んできたことに……多少なり、驚いていたようだけど……それもすぐに引っ込んだ。やっぱり……根っこの部分で冷静な性格らしい。
そんな状況の中で、さらに、
「……ここで何をしていたのかしら、サカキ……?」
……私の後ろから、ナツメも追いついてきた。
監禁されていた最中の、弱弱しい姿は消えうせ……今は、ジムリーダーらしい……そして、私と並び立つにふさわしい、堂々とした姿でそこに立っていて、
傍らには……小さい頃からの相棒である、フーディンも一緒にいる。
「……なるほど、見事な手際だ……。これは一本取られたな……」
「褒めてもらっても何も嬉しくないわね……悪いけど」
そう突っぱねると……手っ取り早く、こっちの意向を理解させるために、腰のホルダーからモンスターボールを1つはずして、手に持つ。
「ナオヤ……選手交代。そいつ、私にもボコらせなさい」
「……了解」
言うなり、ナオヤは……ポリゴンを連れて下がった。
……よぉし……これでOK……
あとは……一応、こっちにも許可とっとこうかな……。私と同じで、コイツのこと……ブッ飛ばしたいと思ってるだろうし……。
「……ナツメ、悪いけど、私が先でいい?」
「ええ、構わないわ……。むしろ、私は別に戦わなくても……必要があったら助ける……ぐらいでいいわよ。さっさと1人で片付けちゃって」
「……あれ、そうなの?」
あんなことされたんだから……てっきりナツメも、コイツに相当腹立ってるだろうと思ってたんだけど……っていうか、立ってないはずないんだけど……
「私はそれより、この事態の収拾に従事しなくちゃ……。手始めに、社長―――ナオヤ君のお父さんを含めた、シルフ関係者全員の保護……それに、社屋内のロケット団員の拘束……全ての証拠品の回収……やることは山ほどあるわ」
「うわー……冷静ね、ナツメ……さすがジムリーダー」
「けっこう無理もしてるけどね……今は、こうしてた方が楽ってだけ。不測の事態を考えてここまでついてきたけど……後は任せるわ、アイカ」
そして……気丈ににこっと笑って、
「あなた1人でも、楽勝でしょ? このくらい」
「……もちろんじゃない! 誰に向かって言ってんのよ!」
……かわす言葉は、それだけで十分だった。
まあ、色々とおしゃべりしたいことはあるけど……後でいいや。
今は……きっちり、この場を片付けないとね。
それだけすますと、ナツメは……来た道を逆戻りし始めた。
……さあて、
せっかく任せてもらったんだから……きちっと期待に応えなくっちゃね……!
すると、雰囲気から……いや、それが無くてもわかるけど……これから何が始まるかを悟ったのだろう。
サカキもまた……私の方を見て、にやりと笑っていた。
「……強いな、君達は……私が言うのもなんだが……あれほどの苦痛を受けてなお、こうして気丈に立っていられるとは……ふふ、私の目にはいささか眩しく映るよ」
「あっそ……心にも無い褒め言葉をどうも」
「いやあ、本心だよ。実際……君達には敬意すら払いたくなるくらいだ」
「その割には……私もナツメも、けっこうな目に合わされたけどね」
「まあ……敬意は払えど、遠慮はしない主義だからね、私は」
……ったく……相変わらず、つかみどころがないというか、なんというか……
イッシュ地方で戦った、あのエロオヤジ……ゲーチスとは、別の意味で厄介な奴ね。
あいつも、口先で人をもてあそぶのが大好きな、嫌な奴だったけど……今、目の前にいるこいつ……サカキは……あいつとは、また違うタイプの悪人だ。
目的と欲望に忠実なのは、ゲーチスと同じ……けど……徹底的に人を見下しているアイツと違って、こいつは……過小評価も過大評価もしない感じ。
口先で人を弄ぶ、というより……他人を測る、みたいな、思慮を感じる。
あくまでも、冷静に……かつ、冷徹に……物事を推し進めるだけの実力と技量を持ってる……それに必要なだけの、度胸と……おそらくは、実力も。
それゆえか……信念、とまでは言わないし、褒めるつもりも毛頭ないけど……こいつには、ゲーチスには感じなかった……威厳、みたいなものすら感じ取れる。
ゲーチスを、インチキ宗教の教祖とするなら……こいつは、マフィア組織のゴッドファーザー、ってところかしら。ちょっとわかりにくいけど。
……まあ、それでも……
「あいつにせよ、アンタにせよ……女の敵の助平親父、ってとこは変わんないわね」
「……ふむ……その『あいつ』が誰を指すのかはわからないが……それはまあ、そうだろう。私だって人間だ、人並みに性欲もあるし……それに従うだけの欲望もあるさ。美しい、魅力的な女性を見れば……抱きたいとだって思う。アイカ君、君のような……ね」
「あんたさっき、『敬意を持って接する』云々言ってたと思うんだけど?」
もう前言撤回ってわけ?
「側に置きたい女性として見ることと、敬意を払う対象として見ることは……必ずしも異なる立場には立たないだろう?」
「ふーん……はべらせる愛人を尊敬するようなこともあるって言いたいわけ?」
「無論だ。それに見合う優秀さを持っているのなら、私はそれが例え、二回りも年の離れた子供だったとしても、敬意を払うさ……客観的な視点を持たず、誰も彼も見下すようなまねは……身を滅ぼすからね」
……やっぱ、ゲーチスとは違うわね。
自分が一番偉いなんてこと、こいつは思ってない……きっちり、客観的な見方で状況を判断して、冷静に物事を運ぶだけの思慮を持ってるんだ。
……そして、
それゆえに……おそらくは、ゲーチスよりも手ごわい。
欲望・思慮・冷静さ・客観的視点・他者への敬意……それらを兼ね備えているからこそ……こいつには、ゲーチスよりも格段に隙が無い。
仮に、ポケモントレーナーとしてのレベルがゲーチスと同等だとしても……その点において、圧倒的にしのぐだろう。
「さらに言わせてもらえば……君に対しては、特に顕著にそれを感じるね……。その美貌に加え、トレーナーとしての確かな実力……最後まで自分を貫き通す不屈の心……ふふ、正直……今でも、できるなら私の愛人になってほしいと思っているくらいだ」
「……そのせいで、私はタマムシシティでああいう目にあった……ってこと?」
フジ老人のお孫さんの一件で、交換条件としてコイツに体を差し出した時の記憶がよぎる。……敬意を払う相手にするようなことじゃなかった気がするけど。
「そうだね……あの頃から君は魅力的だったよ。しかし今思えば、あの時は少々大人気ない方法に出てしまった気もするな……ふむ、それに関しては詫びておこう」
「……脅したり詫びたり、忙しい男ね。そんなに私が欲しいなら……」
「……そのへんにしてくれない?」
と、
多少なり怒気をはらんだ、ナオヤの声が割り込んできて……私もサカキも、はたと口を止めた。
「……いくらなんでも、目の前で人のガールフレンドについてなんやかんや言われるの、いい気分じゃないんだよね……。アイカも、やらないんなら僕がさっさと片付けるよ?」
……うわちゃー……こりゃ怒ってるなあ……。
まあ、嬉しいけど……なるほど、余裕はないと。さっさと終わらせろと。
「……と、いうわけで……彼氏が待ってるのよね。だから……おしゃべりはここまで、さっさとケリ付けさせてもらうわよ、ラスボスさん!」
「ふむ……いいだろう。君の挑戦を受けて立とうじゃないか」
☆☆☆
結論から言う。
やっぱり……サカキは強かった。
それも……とんでもなく。
サカキが繰り出してきたポケモンは……ゴローニャ。
対する私のポケモンは……ヘルガー。
タイプ的に考えれば……明らかにこっちが不利だった。
それに……そのゴローニャ、そもそもの育ち具合がとてつもなくレベル高くて……スピードもパワーも、孫所そこらのトレーナーのそれとは段違い。
真っ向から勝負したら……まず、苦戦は免れないほどに強力な相手。
しかし、
だからって……ヘルガーが負ける理由にはならない。
攻撃力・防御力は……向こうが上。
だけど、持久力やスピードは……ヘルガーの方が圧倒的に勝っていた。
それを生かして、超高速で立ち回り……ゴローニャに狙いを定める暇を与えないスタイルで、ヘルガーは戦った。
ゴローニャは、物理防御力は高くても、特殊攻撃に対する防御力はそれ程でもない。
そして……ヘルガーというポケモンは、悪タイプの中でも屈指の特殊攻撃力を持つことで知られている。
その2点をを生かし……ヘルガーは、目にも留まらぬ速度で駆け回りながら……ゴローニャの攻撃を見事に避け続ける。
その合間を縫って……高速移動中ながら、まるでプロの殺し屋のような俊敏さと正確さで……主に、特殊攻撃を中心に叩き込んでいく。
時には、攻撃すると見せかけてフェイントをかけて、がら空きのところに強烈な一撃を叩き込んだり……『えんまく』や『火の粉』で目くらましをして、終始ペースを握り続けて戦った。
『あくのはどう』に『シャドーボール』、『れんごく』に『メタルクロー』……強烈な技を立て続けに叩き込まれ……次第に、強大なタフネスさを誇るゴローニャの動きも鈍くなっていき、
それとは対照的に……相手の攻撃が単調になっていく分、こちらからの攻撃は、速度も威力も激しさを増していく。
……そして、
雨あられと飛んでくる猛攻撃の嵐に、ついにゴローニャが膝をついたその瞬間……ヘルガーのとどめの『だいもんじ』が炸裂し……勝負はついた。
「……タイプ的に考えて優勢といえる、岩タイプのポケモンを前にしてこれとはね……いやはや、君には驚かされてばかりだよ、アイカ君」
……とは、サカキの弁。
ゴローニャをボールに回収しつつ……しかし、それほど悔しがるような様子は見せない。むしろ……その表情には、まだまだ余裕すら感じられた。
……さすがに、1匹倒したっていっても……何にも楽になった気がしないわね……。相変わらず、とんでもない威圧感のままだし……。
……このまま、ストレートに勝てるとは思わないほうがいいかも……
……さて、次は何を繰り出してくるのかしら……?
そして、
不敵な笑みを浮かべたまま……サカキは、次のモンスターボールを懐から取り出…………ん……?
……違う……?
サカキが懐から出したのは、モンスターボールじゃなかった。
……あれって、何……? 金属の、筒みたいな……
と、次の瞬間、
サカキは……その謎の物体を、空中に放り投げ……
……直後、
「―――すまないね、もう時間だ」
―――ピカアァァアア―――ッ!!!
「「……っ!!?」」
いきなり、その物体から、目もくらむような光と、耳をつんざく爆音が……って、コレもしかして、目くらまし用の閃光手榴弾(スタングレネード)!?
いきなりだったから……私もナオヤも、完全に不意をつかれて……しばらく、その衝撃で動けなかった。
「―――っ!! あ、あんの極悪人~~~っ!!」
「……っ、く……ゆ、油断してた……っ……あ、アイカ、無事!?」
「ええ、まだ、ちょっと見えづらいけど……なんとか……」
そして、
ようやく視力が回復した私達の目の前には……おそらく、サイドンか何かに掘らせた戸とも思われる……特大の風穴が、天井に空いていた。
大急ぎで、私とナオヤが、その穴を……といっても、垂直に空いてるから……ナオヤのポリゴンにつかまって浮かんでもらって、追跡すると……
屋上まで穴は続いていて、そこには……今にも、ヘリ(しかも明らかに軍用)で逃げようとしているサカキがいた。
近づいて阻止したいけど……くっ……ふ、風圧がすごい……!
「……っ……周到だな……もしもの時に逃げる準備も、きっちり済ませてた、ってわけか……」
「そういうことだ。計画には自信はあるにはあったが……物事に絶対はないからな」
「へえ……逃げるの?」
……まあ、挑発した所で……乗ってくるとも思えないけど。
案の定、
「ああ、そうさせてもらおう……ここで意地を張っても、出来ることは少なそうだ」
「ふぅん……潔いというか、思慮があるというか……なるほど、やっぱ、そんじょそこらの悪党とは違うみたいね……あんた。いろんな意味で手ごわそうだわ」
「おや、ほめてもらえるのか? それは光栄だ」
話してる間に、サカキはヘリに乗りこみ……直後、離陸が始まる。
くっ……止めたいけど……下手やって、ヘリの燃料とかに引火したりして、爆発とかしたらまずいしな……。ましてやあれ、軍用だから……搭載してる兵器類に誘爆なんかしたら……それこそ大惨事になるし……。
それもわかっているんであろうサカキは、
「ふふっ……今回は、私の完敗だよ。アイカ君、ナオヤ君……いずれ、また戦うことになるだろうが……その時はまた、よろしく頼むよ」
「……っ……こちらとしては、そんな時は来て欲しくないんだけどね……」
「それで……その、『次に会った時』は……私は、拉致されて脅されて調教されて、今度こそあんたの肉奴隷にでもされちゃうのかしら?」
「ふむ……いや、やはりそれはやめておこう。力づくででも手に入れるべきものと、それでは意味のないものがあるからね……」
ふーん……? それも、あんたの考え……っていうか、こだわりかしら?
「私は君に魅力を感じているし、側に置きたいとも思っている……しかし、性奴隷としての君が欲しいわけではないからね……体だけものにしても、君が私に賛同し……心も預けてくれるのでなければ、意味は無い」
「あっそう……なら、わたしをはべらせるのは未来永劫無理ね」
「ああ、そのようだ。残念ながらね…………おっと、そうだ」
すると、
サカキは……ふいに、懐に手を伸ばす。
思わず身構える私とナオヤに、サカキは……
「ついでだ……哀れな敗北者から、勝者にプレゼントでもさせていただこうかな」
そう言うと、取り出した『何か』を……私とナオヤに、それぞれ投げてよこした。
何かはわからなかったけど、とっさにキャッチしてしまったそれは……
「……あれっ、これって……」
「……バッジ……? ……まさか、トキワジムの『グリーンバッジ』か!?」
はっとしてサカキを見返すと、肯定する意味で……サカキは笑みを返してきた。
「ご名答……ポケモンリーグ公認のジムバッジだ。君達に進呈しよう」
「……何のつもりよ、一体……?」
「そのままの意味さ。今回の件で、私がロケット団のボスであることが露呈した……同時にもう、私はジムリーダーではいられなくなるだろう」
……まあ、当たり前だ。
悪の組織のボスが『ジムリーダー』なんて……そんなこと、ポケモンリーグの委員会が認めるはずない。
「別に未練などないが……幸いにも『今』ならまだ、私の権限で、君達にバッジを進呈できる……だから、ジムリーダーとしての最後の仕事をさせてもらったわけさ」
「ふぅん……随分優しいじゃない、情けでもかけたつもり?」
「まさか。正当な評価だよ……君達ならどの道、いずれ手にするバッジだろう」
そして、
サカキの乗るヘリが、本格的に飛行体勢に入っていく。
同時に、手を出す術の無い私達の目の前で……その出入り口の扉が、ゆっくりとしまっていき……
「では、また会おう……さらばだ!」
その言葉を最後に、ヘリのドアが完全に閉じ……
サカキを載せたその機体は……空のかなたへと飛んでいき……見えなくなった。
大きな戦いが1つ……終わりを告げた、瞬間だった。