ビーツとの仲もケンカ友達な幼馴染みから一歩進んだな、とホクホク笑顔でいたら、
ある日、盛大に部族が襲撃された。
いつもの数人単位の小競り合いではなく、
本格的な集団戦闘である。
恐らく百人以上の規模のサイヤ人が夜襲を仕掛けてきてた。
上空から大量に連続エネルギー弾が打ち込まれ、
雨のように降り注ぐ気弾に顔をあげることも出来ない。
しかも無差別に乱射しているように見えて、この闇夜の中、
正確に人目掛けて撃ちだされている。
気を探れないサイヤ人に、視界が利かない闇の中で狙撃じみた真似が出来るとは驚きだ。
まだ戦闘に加われないレベルの幼いサイヤ人にも容赦なくエネルギー弾が打ち込まれる。
老若男女問わず、悔しそうな悲鳴を上げて死んでいく。
こういう時、キンキンうるさい悲鳴を上げるだけじゃない戦闘民族には感心する。
「ちくしょおおおお!」とか「舐めやがって!」とか叫んで、
ほぼ全てのサイヤ人が反撃を試みて死んでいく。
視界に入ったご近所の女サイヤ人も、その子供も
必死に空に向けて気弾を打ち返すが、あまりにも密度が違う。
こちらのエネルギーは全て飲み込まれてしまい、
「わぁぁぁぁッ!!」と断末魔を上げて焼きつくされた。
母親は子供を庇い、その態勢のまま親子揃って黒く炭化してしまった。
「見上げたもんだ…。 女は弱しされど母は強し、ってとこか…くそっ。
サイヤ人は親子の愛情が希薄ってのも場合によりけりか! 嫌なもん見ちまったぜ」
自分自身生き残るのに必死な現状では、とても助けに入るだなんて考えは浮かばなかった。
しかし、俺がなんとか切り抜けられているのだから、
ビーツも大丈夫だろうという確信はある。
だが、有象無象である俺達がここまでやられているのなら王宮はもっと大変だろう。
優先的に攻撃されているはずだ。
しかし延々降り注ぐ気弾の雨の中では、ビーツの応援どころか飛んで逃げるのも難しい。
そこら中で爆発が起き、激しい炎が巻き起こる。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した故郷を、方角も分からず駆け抜ける。
「ちくしょう! いつまでも雨霰と撃ち続けられるわけがねぇんだ!
皆生き残れ! 反撃すんなーー! 今は逃げるんだ!!」
叫んでみるが起き続ける爆音で誰の耳にも届きはしないだろう。
集落で最強の一角である俺のエネルギー弾も吸い込まれてしまう密度では、
反撃なんて意味は無い。
それが分かってもサイヤ人は立ち向かってしまうだろう。
走り回る内に、予想通り気弾の密度が低下する。
(ようやく疲れてきたか! これなら撃ち落とされない!)
地面すれすれを気を纏って飛行する。
いくらか冷静に見渡す余裕が出ててきた俺は、ようやく土地勘を取り戻し王宮へと急ぐ。
地を飛ぶ俺を追って、闇夜の空から三条の光が滑り落ちてきた。
「う!? き、貴様ら! その格好は…!」
俺を追う三人のサイヤ人。
その格好は、今までずっと毛皮を見て育った俺には、懐かしいというよりいっそ新鮮だった。
「ス、スカウターに戦闘服! て、てめぇらツフル人と組みやがったな!!」
何も答えずニヤニヤと笑う屈強な二人の男と、ガタイのいい女一人。
スカウターがあるのではとても振りきれないだろう。
一瞬スピードさらに上げる。
と、次の瞬間には急ブレーキをかけ、軌道を読んで振り向きザマに全力のキックを放つ。
「あぐぁ!?」
見事、女の顔面にヒットし、コントロールを失った女は
そのままのスピードで地面に墜落し、きりもみ状態になって岩山へと突っ込んでいった。
二人の男から笑顔は消えている。
「テメェら…ツフルの犬になりさがったか?
奴隷根性が性根にまで染みちまったようだな…!」
鋭く眼光を飛ばすと、
「ち! おい…三人ならともかく、二人じゃこいつはヤバそうだぜ」
「みたいだな。 二人じゃ戦闘力が足りん…退くぞ!」
即座に逃げの一手を打たれた。
戦闘力か…俺は一体いくつだったのだろうか。
それにしても、
「いい逃げっぷりじゃねぇか…。
どこの部族だ? 蛮勇だけじゃねぇってのは……」
考えながら、一路、王宮へと急いだ。
邪魔もなく全速力で飛ばせば、ものの数秒で王宮が見えてくる。
闇夜を、まるで昼かと思うほどに煌々と照らす火の海に王宮は沈んでいた。
「…やってくれたぜアイツら……くそ、ビーツに万が一あれば皆殺しにしてやるぞ…。
ビーツっ!! 返事しやがれ! ビィーーツっ!!」
瓦礫の中を走り回るが、もはや敷地内は人と物の炭化した残骸だらけで、
とても生存者は見当たらない。
無事だとしてもビーツはとっくに避難しただろう…と思った矢先、
「さすがだはあたしの玩具だ。 あたしが心配で真っ先に来たか?」
炎の中、2つほどサイヤ人の生首の髪を掴んだビーツが佇んでいた。
彼女の周りには、半焼の死体がゴロゴロ転がっている。
「ビーツ! 無事だったか!」
急いで駆け寄り、体をパパパッと一通り触って怪我を調べる。
「おい、くすぐったいよ。 心配ない…こんなしょぼい奴らにやられるあたしじゃないさ。
アンタも怪我、なさそうだね」
さすがは王族。 さすがは超エリート。
突然の夜襲を無傷で切り抜けていた。
「王と王妃は…?」
「死んだ」
素っ気なくビーツが言い切る。
しかし、その顔は無表情ではなく、
僅かに眉が歪められ、瞳には怒りの炎が宿っているようだった。
「あたしを襲った奴らの顔には見覚えがある。
ベジータ王が連れ歩いていた下級戦士どもだ。
あたしに結婚申し入れといて、舌の根も乾かぬうちによくやるよ」
ビーツの言葉に今度はこちらの眉が歪む。
「…まさか俺のせいか……」
小声で呟いた俺を、ビーツは鼻で笑った。
「はん…アンタ如きが責任感じるなんざ身の程知らずだよ。
あん時言ったろ? もともと縁談はお流れにする予定だったんだ。
それに………考えてもみなよゴード」
死体の山に向けられていた視線を、俺へと向けるビーツ。
「コイツらの装備見たろ? ツフルのもんだ。
結婚断ってから何日経った? まだ二週間も経ってないんだよ?
あたしらサイヤ人を見下しているツフルと交渉して手を組んで、
奴らの装備を譲ってもらって、数揃えて…戦士共に教え込む。
どんくらいかかるか分かんねぇけど、こんな短期間じゃ無理だ。
ベジータ王は、端からあたしらを攻める用意をしてやがったのさ!
婚姻だの同盟だのは隠れ蓑……本心は裏をかいて”これ”さ」
忌々しそうに吐き捨てたビーツは、右手に掴んでいた生首を改めて握り直すと、
そのまま熟れたトマトを潰すかのように握り潰した。
肉片が飛び散り、血がビーツの頬にべたりと飛び付く。
ビーツの片頬は、炎の照り返しと血で真っ赤に染まって見える。
しかし、本当にそうだろうか…?
少なくともベジータ王は、ビーツとの結婚だけは乗り気だったように見えた。
断られた時のあの表情……俺を睨む憎悪の顔は、気に入ったメスを奪われたオスそのもの。
そんな風に見えた。
婚姻による緩やかな勢力吸収を、当初ベジータ王は考えていたかもしれない。
もしそうだとしたら、この襲撃の引き金になったのは俺、と言っても差し支えないだろう。
暗い感情に沈みかけていると、
「舐めた真似をしてくれるじゃないか。
この借りは必ず返すよ、ベジータ王……。
だが………今は…とりあえず身を隠すしかないね」
力強くも冷静なビーツの声に安堵する。
ビーツの提案に乗りたいところだったが、
忠告をするのが臣下で幼馴染みで玩具で未来の旦那の勤めだろう。
俺も頭をさっさと切り替えると、
「……隠れんのは難しいぜビーツ。
こいつらが片目につけてる”コイツ”」
まだ潰されていない、ビーツが持っていた生首から割れたスカウターを剥ぎ取る。
「前に、ツフル人を襲った時に奴らが付けていた。
そん時にどんなもんか調べといて良かったぜ(本当は知っていたのだが)。
スカウターってんだが、一人ひとりの戦う力…、
奴らは”戦闘力”って言っていたが、それを計る装置だ。
その戦闘力を持った奴の位置まで分かる。
探知範囲は惑星一個は余裕でカバーするぐらい。
………これは残念ながら壊れてるな。 この通りすぐぶっ壊れるが、故障は滅多にない。
ベジータ王共がスカウターを大量に手に入れたってんなら…逃げるのは無理だ」
説明を聞いたビーツは小さく舌打ちをした。
スカウターがどれほど優秀な道具か理解したらしい。
「ツフル人め……厄介なもん作ってくれたね。
………じゃあ…どうする? なんかいい案あるかいゴード。
いつまでもここでチンタラしてらんないよ……、燃えまくってて暑いしね…」
確かに、ベジータ軍がスカウターを持っているならのんびりしていられない。
戦闘力が大きいであろうビーツは確実に探知される。
ついでに俺もビーツに次いで大きい筈だ。 これはちょっと自慢だ。
「別々に行動しても意味は無いだろうな。
俺もお前も強い……どっちにしろ目立つ。
他の部族に匿ってもらうのも無理だろう……、七大部族は全部仲悪いし…、
サイヤ人は傲慢だからな……『次はお前らだぞ、協力しよう』と言っても笑われるだけだ」
「そうだろうね」
ビーツも他の部族を巻き込むのを考えて、自身で却下を下したのだろう。
同意の声は冷めたものだった。
「ツフル人共は当然頼れん………、となると…。
頼るべきは…お空の向こうしかあんめぇな」
「空の向こう?」
「宇宙だ」
親指をたて、クイッと夜空を指す。
ビーツが怪訝な表情で、
「おいおい、宇宙の何処にあたしら助けてくれるお人好しがいるんだ?
それとも宇宙の果てまで延々とベジータ王から逃げんのか?
それに宇宙船がねぇだろ。 ツフル人のは小っちゃくて入れねぇしな…」
「大型の客船があるはずだ。 そいつをかっぱらう」
確かにビーツの指摘の通り、
ツフル人はサイヤ人の半分ほどしか身長がない小人のような種族。
優れた宇宙船を多数保持しているが、それらは当然ツフル人サイズで、
サイヤ人の俺らが奪っても操縦や船内の居住区各を使うのは難しい。
しかし不可能では………ないと思う。
「……宇宙に出られたとしてもどうすんだい。
まさか伝承に残ってる、この宇宙にあるかもしれないサイヤ人の母星でも探そうってか?」
「………ツフル人を襲うとよお。
奴らの無駄話とか耳にすることがあんだけどよ。
宇宙一のやり手の地上げ屋がいるんだとさ…フリーザっていうな。
そいつ…結構、話が分かる奴らしくて、
利益があると判断すりゃホイホイ動くフットワークの軽さが売りなんだと」
俺の話をビーツはただ黙って聞いている。
腕を組み、肯定的とも否定的ともつかない態度だ。
「………続けるぞ。
だが、かなりの辣腕家で、しかもプライドが高い奴だとかで、
同じくプライドの高いツフル人は、フリーザと取引してもコジレちまうんだとさ。
いつも商談がまとまんねぇんだ……、でもフリーザはツフル人の技術が欲しいらしくって、
頑張って交渉してんだが今んとこ上手くいってねぇ。
最近は武力行使も視野に入れてるって噂だ。
だから俺達がツフル人の技術を売る。
データも物も、出来ればツフルの技術屋もふん縛ってまとめて売る。
で、俺達を囲ってもらう」
どうだ、と言外に問う。
「ゴード…お前随分フリーザって奴に詳しいね」
ジト目でこちらを見てくるビーツ。 う。 可愛い。
”なんで惑星プラントにへばりついてるサイヤ人のお前が
宇宙一の地上げ屋について調べてんだよ”って面してる。
嘘八百ではなく、殺した商人の車両内のコンピュータをいじって調べたのだから
これらの情報は本当だ。
本当なのだが、フリーザをなんで調べてたの?って聞かれたら…、
原作キャラクターでサイヤ人と関係深いからです、と答えるわけにもいかず…。
「い、いや……な、なんでもフリーザって奴は宇宙一の強さも持ってるらしくてな!?
やっぱりサイヤ人としては強い奴って気になるじゃないか! な!?」
「へぇーー、宇宙一強い…ね。 そりゃ確かに気になるな」
「だろ!?」
ビーツは頭が結構いいが、
やはりサイヤ人気質なので単純だ。(俺も他人のことは言えないが)
うんうんと頭を縦に振ると、
「それじゃあ、ツフルの宇宙港に行くよ。
フリーザへの手土産は……とりあえずこいつらの服と…スカウターだっけ?
これでいいね」
言いながら、ビーツは手早く生焼けのサイヤ人の死体から戦闘服を剥ぎ取る。
「…俺達も、毛皮のままってのもアレだからこの服に着替えようぜ」
「えー? 別にいいんじゃねぇか? それに服の大きさ合わねぇよ」
「いや、でも見ろよこれ。 硬いけどよく伸びるぜ…これなら俺達の体型にピシッと合いそうだ」
俺もサイヤ人の死体から、比較的状態のいい戦闘ジャケットを選ぶと脱がしていく。
知識として知ってはいたが、実際に手に取ると感動ものだ。
硬いのにグニングニンよく伸びる。 不思議な感触だった。
俺とビーツは、毛皮の上から戦闘服を着込む。
肩パーツが無い、漫画で言えば旧式のタイプで、色は俺のが深緑。 ビーツが着たのは焦茶色だ。
「ふーん………動きやすいし、悪かぁないね!
……でもちょっと胸のあたりが苦しい……」
おお、さすがビーツ。 何を着ても似合う。
毛皮以外のビーツの姿は初めて見る。 実に新鮮だ。
だけど…やはりこの戦闘服を着るとサイヤ人って感じがする。
本当はツフル人のだし、後々フリーザ一党も着ることになると思うが。
しかし、ビーツの胸部が苦しいのは…、
「女用のもあるみたいぜ。
でも、それ着てもお前は苦しいかもな…お前おっぱいでけぇかホゲぇ!?」
言い終わる前に、無言の裏拳が俺の鼻下にヒットしていた。
痛い。 人体の急所に迷いなく打ち込んできやがった。 さすがビーツちゃん。
「バカ言ってんじゃねぇよ! さっさと行くぞ…いい加減奴らの増援もくるだろうからね」
うずくまって涙目で鼻をさすっていた俺の腕をグイッと引っ張ると、
そのまま気を放出してビーツは飛び立つ。
「スカウターであたしらの位置はバレるんだろ?
追ってくる奴ら片っ端からぶっ殺して突っ切るぞ!」
ニヤリと笑うビーツの笑顔に惚れ直しそうだった。