追手を、読んで字の如く千切っては投げして宇宙港まで逃走を図ったが、
ツフルの都市防衛網に当然引っかかり、
ツフル人の武装集団とサイヤ人の追手に挟撃されるという窮地に陥った。
しかし乱戦に持ち込むと、元々上同士でしか話がついていなかったのだろう。
ツフル人は、追手のベジータの配下ごとレーザーやミサイルを乱射してきて、
それに腹を立てた追手達は、ツフル人達を攻撃しだしたので呆気無く虎口を脱した。
都市外縁部でサイヤ人がハデにドンパチ始めたので、
俺とビーツは、簡単に大型宇宙船を確保できた。
うーん、呆気無い。
「やっぱ狭いねぇ……。
操縦桿はまだしも、席には座れないよ!」
「大丈夫だ……ほら、自動操縦装置がある。
航路図…星系………、え~~と…検索…惑星フリーザ…お! 出てきた……うげ!?
No1~No790!? 惑星フリーザってこんなあんのか!?」
驚愕しているとビーツがちょいちょいと肩をつついてきて、
俺が覗いているモニターの隣…小さな立体ホログラムを指さす。
「これに書いてあるっぽいぜ?
え~と、『惑星フリーザに渡航する際の注意事項。
フリーザは極めて危険な力と思考を持った野蛮人であるので
交渉の際は細心の注意を持って――』、…このあたりはいいや。
なになに…、『――尚、フリーザが主な拠点にしている惑星は、No79惑星フリーザである。』
だってよ」
「へぇ~ありがとうよビーツ! そんな小せえの見落としてたぜ。
しっかし、さすが宇宙の帝王だな……とんでもねぇ奴だ。
んじゃ設定、と……………OKだ。 これで寝てりゃ着くぜ」
「ゴードって機械強いんだな」
ビーツから尊敬の眼差しを感じる。 嬉しい。
「まぁ、ちょこちょこツフルの商人共襲ってたからな。
商品とか奴らの道具いじってたら結構扱えるようになったんだ」
「へへへ、その成果の一つがこれだろ?」
嬉しそうに笑いながら赤髪をてっぺんで縛る髪留めを弄るビーツ。
それは以前、俺がプレゼントしたものだ。
あの時からビーツはずっとつけてくれている。
この狭いコクピット内で密着した状態でそんな可愛いこと言われると、
なんだかムラムラしてしまうじゃないか。
だが残念ながら、盛れる余裕はさすがに無いので自重する。
ビーツちゃんの笑顔だけでとりあえず今はエナジー補給完了だ。
「惑星フリーザまでは、距離14日……結構かかるなぁ」
「やることないね…こう狭いと、お前と手合わせするわけにもいかないしなー」
「あるある! エロいこと!」
「はぁ!? ば、ばばばばばか! なに言ってんだ!」
「冗談だ」
「いくら二人きりだからっていきなりエロいことは! …………って、はぁ!?」
「え? 期待した?」
「してねぇ!! ばーか! ばーかばーかばーか!! スケベ!」
顔を赤くして必死に俺を罵倒してくる。
うーん、可愛いなぁ。
「俺としても残念なんだが、さっきチェックしたらこの船…食料が全然積まれてない。
燃料は充分なんだがなぁ…。 だから冷凍カプセルで寝なきゃダメだな」
「げっ! ツフル人の冷凍カプセル使うのか!? あのせっまいやつを!?」
本当に嫌そうな顔をしている。 だがその気持はよく分かる。
大きめに作られているとはいえツフル人サイズだ。
俺とビーツが寝ようと思ったら、体を折って”くの字”に寝るしかなかった。
ちなみに、既に一台の冷凍カプセルは使用済みだ。
逃げる途中で適当に捕まえたツフル人を一人ぶち込んでおいた。
宇宙港でツナギの制服を着ていたから、きっと宇宙船の整備士とかだろう。
科学者ではないが技術畑のツフル人には違いない。
フリーザへの土産のメインはスカウターと戦闘服だから、こいつはオマケだ。
物さえ渡せばフリーザお抱えの技術者が解析するだろうし。
「我慢するしかねぇな。 まー、起きたら惑星フリーザだ! 耐えよう」
「うぇ~~~……仕方ねぇか…」
こうして俺達二人は窮屈に二週間を寝て過ごしたのだった。
今、体中が痛い。
コールドスリープだったとはいえ、二週間もくの字に寝てればあちこちの関節がガコガコだ。
これにはさすがのサイヤ人も関節痛を免れない。
だが重要なのはそこではない。
起きてコックピットに行ったら、着陸する途中だったのだが……。
眼下の宇宙港に何だか人だかりが見えて、その中心をよく見ると。
フリーザがいた。
見間違いだろうと思い、何度も目をこすって凝視したが、
サイヤ人のとても良い視力で何度見てもフリーザ第一形態だった。
「な、なんでだ!!? なぜわざわざフリーザ本人が俺達の出迎えを……ハッ!?」
そうか、ひょっとして。
この船はツフル人の船だ。 所属とか信号とか全部、設定はそのままいじっていない。
フリーザ軍の管制塔は、この船の信号をキャッチして当然ツフル人が来た…と思ったろう。
(自動操縦の時は管制塔との基本的なやりとりはコンピュータがやってくれる。
ツフルのマシーンは優秀だ)
俺がこの前ビーツに語ったことは本当だ。
フリーザはツフル人の技術やら品物やらが欲しいが、交渉は難航していた。
武力で従わせようという動きが最近あることも、ツフルのデータベースには載っていた。
そんな時に、ツフル人の船舶の来航。
まずい気がする。
ツフルの使節団と思われちゃったりしてるのか。
でも普通そういうのって、いついつにどこどこに行くからね~、
って事前に打ち合わせしとくもんじゃないのか。
事前連絡無しの来訪なんて怪しいじゃないか。
なんでフリーザ本人が来ちゃうんだ。
「どうしたよ? なにそんな慌ててんだい……顔真っ青だぜ?」
何も知らないビーツちゃんが羨ましい。
いきなり宇宙一の帝王と、ナメック星編のラスボスと面接なんて聞いてないぞ。
心臓が…痛い…。 水分が……口から消えていく。
サイヤ人になってこんな緊張したの久しぶりだ。
サイヤ人の鉄の心臓でもこんな緊張するとは、恐るべしフリーザ。
だがこうしている今も宇宙船はどんどんフリーザに近づいている。
そうだ、こうしちゃいられない。
俺が下手を打ったら、俺は勿論ビーツも殺されてしまうかもしれない。
緊張なんてしてる場合ではない。
惑星プラントに逃げ帰っても、俺もビーツも居場所は無いのだ。
やるしかない。
大丈夫だ…交渉に勝ち目はある。
スカウターに戦闘服にツフル人の技術屋。
そして俺とビーツの戦闘力。 …おっと、あとこの宇宙船もか。
きっとフリーザは、俺とビーツを受け入れてくれる。
「おい大丈夫か……腹痛いのか? 奥で休んでろよ。
あいつがフリーザだろ……あたしが話しつけてきてやるからよ」
「ま、待て…大丈夫だ! へっちゃらだ! 俺にフリーザと話させてくれ!」
ビーツが俺の顔を覗きこんで心配してくれている。
「そうか? でも、ほら…王族だし、あたしこういうの向いてると思うぜ?
なんてったって姫だからな! 意外に慣れてるんだぜこーゆーの」
にっこり笑うビーツは、まさに俺にとって太陽のようだった。
ビーツを見てると勇気づけられるというか、安心する。
大丈夫と言ってるのに、こうして今も心配して元気づけようとしてくれている。
その心が嬉しかった。
「………大丈夫だ。 今度こそ、本当に大丈夫。
任せてくれ。 絶対お前は、何があっても守ってみせるからよ」
嬉しすぎて、安心しすぎて、さらっと臭い台詞まで吐けてしまう。
ビーツ効果はすごいものだ。
「お、おう………ま、まーそこまで言うなら任せてやるよ。
姫のあたしの顔に泥ぬんなよぉ? しっかりやんな」
船が着陸して、ハッチが開く。
最後にビーツは、俺の背中をバシンっと強く叩いてくれた。
(痛ぇ……ありがとうなビーツ)
なんだかこれが交渉じゃなくて殺し合いでも、へっちゃらな気分だ。
俺の姿がハッチから見えると、
フリーザの横に控えていた緑色の肌の色男が、即座に主の前に身を出す。
「……なんだ貴様は。 ツフル人ではないな…?」
「ああ……俺はサイヤ人だ。 勘違いさせてすまねぇ」
あぁ、俺は今ザーボンさんと会話している。
楽しい。 なんて美声だ。
「サイヤ人……惑星プラントに住み着いている戦闘民族だな…知っているぞ。
原始的で野蛮な猿、ともな。 我々はツフル人と話がしたいのだ。
さっさとお前ら猿のご主人様をだしてもらおうか」
「いきなり随分なお言葉だなぁ?
だが、そう言われちゃ耳が痛ぇな……確かに俺達サイヤ人は戦いが好きだからな。
他のことはおざなりになりがちなんだ。 不調法は先に謝っておくぜ……申し訳ねぇ。
それと今回は、ツフル人じゃなくて”俺が”交渉しにきた。
ツフル人よりは、話が盛り上がると思うぜ?
俺の名はゴード……後ろの連れがビーツ。 フリーザと交渉させて欲しい…頼む」
ザーボンの挑発なぞ歯牙にもかけない。
俺はこの交渉に必死だ。 この程度の居丈高な態度なんぞカチンともこない。
土下座しろって言われりゃ、する。
後ろにいるビーツちゃんが暴発しないかちょっと心配だが、
チラッと後ろを見ると、ビーツはいつもの腕を組んだ姿勢で無表情に立っていた。
よかった。 さすが王族は感情の制御が巧い。
「ザーボンさん、そのくらいになさい。 彼は確かにツフル人よりも話が分かりそうですよ」
きた! この声! 生ザーボンさん!
「………はい。 どうにもそのようで……。
野蛮な猿と聞いていましたが、ツフル人の話もあてにならないようです」
ザーボンは一礼するとスッと下がり、小柄な宇宙人に場を譲った。
「ほっほっほ、はじめましてサイヤ人のお二人さん。
私の部下が失礼しましたねぇ、 私がフリーザです。
ゴードさんとやら………
それで、どうしてあなた方がツフル人の王族専用船舶で私のもとに?」
色々想定していたが、いきなり想定外の質問からきてしまった。
「いっ!? 王族専用!? こ、この船、王族のだったのか!?
確かに宇宙港で一番でかい船だったが……!」
冷静で理知的なサイヤ人として振る舞う計画は早くもダメかもしれないが、
なんとか話を続けて、聞いてもらうしかない。
「い、いやぁ…この船、実は盗んだものでな……。
フリーザ様も知ってると思うが、俺達サイヤ人は同族間で仲違いしている。
ツフル人からも当然嫌われていて、……それで俺達は困ったことになっている」
フリーザの顔色を伺うと、後ろのビーツと同じく無表情だ。
偉い人って、こういうポーカーフェイスが重要なのかもなぁ。
「結論から言うぜ。 俺達二人を、アンタの所で保護して貰いたい。
土産は、ツフル人が開発した戦闘服、スカウター。
それに……この宇宙船と、中で寝てるツフル人の技術者一人。
勿論、タダ飯を食うつもりはない。
戦闘民族を自称するだけあって、俺達はそこそこ強ぇと思う。 使ってくれ」
ザーボンが少しだけ、端麗な目を大きくした。
フリーザは、小さく「ほう…」と呟くと、
「なかなか興味深い提案ですね……確かにツフル人の技術は魅力的ですが……」
顎をニ回、三回と指で軽く擦る。
悩んでいるように見えるが、これもポーズだろうか。
しかしここは畳み掛けるしかない。
「近いうちに、サイヤ人はベジータって王様が統一する可能性がデカイ。
そしてベジータ王はツフル人を滅ぼして惑星プラントを乗っ取るだろう。
あいつはツフル人にも負けないくらい頭が良くて、おまけにスゲェ野心家だからな。
このままほっといたら、ベジータ王はサイヤ人の本能のままツフル人を皆殺しにしちまう。
奴らが全滅しちゃあ勿体無いと思わないか?
生かしておけば、これからもじゃんじゃん技術と文化の発展に力を貸してくれるだろうによぉ。
………そこで、アンタらの出番なんだ。
ベジータ王がツフル人を滅ぼすより早く、フリーザ様が惑星プラントを支配しちまうんだ」
一気呵成に語る。
サイヤ人ながら、なかなかの雄弁だと自分では思うが、さてどうなるだろう。
「……ほっほっほ、これは面白い。
サイヤ人の印象が変わりましたよ。 結構、頭が回るじゃないですか。
早い話が、ベジータさんに負かされた復讐を手伝って欲しいのでしょう?」
「それもある。 ベジータ王の奇襲で我が部族は壊滅させられたからな。
後ろにいるビーツはベジータ王家に滅ぼされた、俺が仕える王家の姫君だ。
ベジータ王に取って代わるには充分な大義名分だろ?」
「おやおや、お姫様でしたか。 なるほど…………。
いいでしょう! 気に入りましたよゴードさん、ビーツさん。
確かにツフル人との話し合いにも飽き飽きしてましたからねぇ。
惑星プラントに興味はありませんが、
私と懇意にしていた王家を”卑劣な騙し討”で追いやったベジータ王とツフル人には、
罰を与えねばなりませんね。
その正当な権利が、私にはできた……ふふふ」
フリーザは無表情を崩して、初めて笑顔を見せた。
まだ油断できないが、ドッと安心してしまった。
「結構ですよゴードさん……理解しているようですね。
取引相手達を納得させ、円滑な商売を続けるには、
バカらしくてもこういった手順や理由付けは大事ですからね。
特にツフル人は金持ち宇宙人と付き合いが深かったですから、厄介だったのですよ。
お土産は頂いておきましょう…………、ザーボンさん」
「はっ」
「技師のギチャムをここへ。
宇宙船と土産の調査をさせるのです。
それから、お二人に部屋の用意を。
キュイさん、2,3人連れて先に船内へ行きなさい。 ツフル人を確保しておくんですよ」
フリーザは矢継ぎ早に命令を出すと、兵士達がテキパキ動き出す。
キュイもいたんだ。 人影で見えなかった。 嬉しい。
そして、当たり前なのだがまだ誰もスカウターを装備していないので、少し寂しい。
今、彼らが身につけているジャケットはツフル人の戦闘服に少し似ているが、
肩アーマーや胴体部分の境目にハッキリとした繋ぎ目があるし、素材もどうやら金属製だ。
全体的に角張っていて、重そうで動きにくそうに見える。
ジロジロとフリーザ軍を観察していると、
「こっちだ。 来い」
ギチャムさんとやらへの連絡が終わったようで、
ザーボンがわざわざ俺とビーツを部屋へ案内してくれた。
「しかし……驚いたな。 まさか惑星プラントがそんな有り様だったとは。
ツフル人は会う度に己の優秀さを自慢していたが、
母星で異民族の台頭を許しているとは情けない。
ふ……頭は良くても肝心なところが抜けているんだな」
途中、廊下でこんな雑談を向こうからしてくれたが、
(ザーボンさん自身もナメック星で間抜けやらかすんだがなぁ)
と思ったのは内緒だ。
「ここがお前達の部屋だ。 多様な宇宙人に対応した部屋なので過不足無くすごせると思うが、
なにか不備があれば生活課に連絡するといい。 番号は通信機の横に一覧がある。
いずれお前達にも働いてもらうことになるが、そちら関連の担当から後日連絡させる。
しばらくは大人しくしているんだぞ」
当初の高慢さが嘘のような、極普通の常識的な案内をしてくれた。
生活課って………。
そりゃ色んな異星人がいるわけだから、生活の問題もいっぱいあるだろうけど。
フリーザ軍ってならず者の集まりの無法集団の筈では……。
おかしい。
まるで会社かお役所だ。
「いい部屋じゃないか! 眺めもいいね!
うっひょーーー! このベッドふかふかだぜー! おい見ろよゴード!
すげぇ、コレなんだ! なあなあゴード、こっち来いよ!」
まぁ、何はさておき無事受け入れてもらって心の底から安心した。
待遇も悪くなさそうだし、ビーツが楽しそうで本当に良かった。
悪役サイドだとか、原作の展開とかを思うと色々問題有りだが、
俺はひたすらビーツの為に生きるだけだ。
ビーツとの生活を守るためなら孫悟空と対立したって構わない。
俺は楽しそうなビーツを見ていられるだけで幸せなんだから。