(1)
いつからか少しずつ軋轢が生まれ、修学旅行・生徒会長選挙での出来事が決定打となり生じた大きな大きな亀裂。
それをお互いが、醜くて、みっともなくて、理論もへったくれも無いどうしようも無い本音を晒し合い、涙も流して乗り越え、久しぶりに奉仕部3人で挑んだクリスマスイベントも無事に終わり、部室には穏やかな空気が流れていた。
部室ではいつもの様に俺と雪ノ下が本を読み、由比ヶ浜が携帯をぽちぽちといじっている。二人からのクリスマスプレゼントでもらった湯呑で、雪ノ下に淹れてもらった紅茶をずずっと啜る。
何でも無い時間が、たまらなくむずがゆく、愛おし…むずがゆく思える。
携帯を時折閉じて、由比ヶ浜は楽しそうに何でもない話を切り出す。
一時期は必死に、この場所の空気を壊さない為だけに、会話の接ぎ穂を探しては繋ぐ作業を懸命にしていたが、少しずつ、以前の自然で元気な鬱陶しいテンションでお喋りをするようになっていた。
ふと、由比ヶ浜が何かを思い立つ。
「あ、そうだ、ヒッキー、ゆきのん、あれやってみない?」
「?あれ?」
「…何の事かしら?」
バカの子らしい指示代名詞で唐突に示され、首を傾げる俺と雪ノ下。
俺たちの様子を見て、由比ヶ浜があわあわと胸の前で小さく両手を振る。
「あ、そっか、いきなり言ってもわかんないか。ほら、ゆきのんと前に昼休みにやってた、じゃんけんで負けた方がジュース買いに行くやつ!」
由比ヶ浜が元気いっぱいに言う。ああ、そう言えばそんなことがあったな。
あのときは俺がいつものベストプレイスで飯を食っていて、そこにじゃんけんで負けたって言う由比ヶ浜が通りかかって、そこで戸塚と出会って。そして戸塚が男子だと知って衝撃を受けて。そして戸塚は依然として俺にとっての天使で…。
思考が途中から戸塚一色(≠いろはす)になってにやけているのに見向きもせず、雪ノ下が「ああ」と言う顔でぽんと手を叩いた。
「あったわね、そんなことが。でも、どうして突然?」
雪ノ下の疑問も最もだった。なんで今?寒いよ?廊下も外も超寒いよ?ここ、あったかいよ?…外、寒いよ?
「あ…えっとね、ほら、また、そのときみたいな何でも無いようなことやってみたくなったんだ。ほら、最近は、…そう言うこと、する雰囲気じゃ…なかったし…」
由比ヶ浜の言葉は尻すぼみになって行った。
その言葉通り、ここ一ヶ月の部室での会話は何もかも上っ面だった。それに由比ヶ浜と雪ノ下は昼休みも部室でそんな会話を続けていた。
互いの心がすり減るであろうことは、空気をひたすら読んで生きてきた由比ヶ浜なら容易に想像がついたことであろう。それでもその行為を止めなかったのは、由比ヶ浜の、この場所を失いたくないと言う思い故だったのだと思う。
実際、まだ今も少しばかり3人の中には固さが残っている。俺と雪ノ下、雪ノ下と由比ヶ浜、由比ヶ浜と俺、そして3人、それぞれの中でだ。
ディスティニーランドに行ったことは結構重要な意味があったとは思うが、それで万事解決☆とは言えない。試しに入れた絵文字が気持ち悪いな、俺。
と、こんな風にぐるぐると考える俺同様、雪ノ下も思うところがあったのだろう。顎に手を当て、少し考えていた。
そして、その手をすっと太ももに置いて、穏やかな笑みを浮かべる。
「…そう、ね。今日は依頼が来る様子も無いし、そう言う遊びをやっても良いんじゃないかしら。」
「やったー!ゆきのんありがとー!!」
そう言って、由比ヶ浜が雪ノ下に抱き付く。
「…う、鬱陶しい…」
雪ノ下は顔をしかめて引きはがそうとするが、由比ヶ浜は離れようとしない。
今日もゆるゆりである。
「ヒッキーは!?」
雪ノ下に抱き付いたまま、由比ヶ浜が目を輝かせて聞いてきた。待ってくれ、そんなきらめいた目で俺を見ないで…腐っちゃう…!元々腐ってるけど!分かってるけど!
「あ、まあ、そんくらいなら良いと思うぞ。」
ゆるゆりの空間に水を差す訳にもいかないしな。下手に渋って由比ヶ浜が更に抱き付きを強めようものなら、即座にガチ百合になってしまう。んなもん雪ノ下のお家でやってください!
「やったー!じゃ、やってみよー!」
「…で、じゃんけんをやって負けたやつが他二人のジュースを買いに行く…ってのでいいのか?」
椅子を少しだけ二人の側に寄せて、右側に向きを変えた雪ノ下と向き合うように左を向いて、由比ヶ浜の顔をちらりと見る。
「そうだねー…あ、せっかくだから勝った二人が負けた方に何か命令をするってのは?」
「お、え、いいのか?」
驚きの余り、自分でも分かるくらい気持ち悪い声を出してしまった。
案の定、正面を見るとまるでごみを見るような目で雪ノ下が俺を見ている。まあ、見られ慣れてるし、言われ慣れてるけどね!主に雪ノ下と小町に!ごみいちゃんって造語の語感の良さと侮蔑感やばくない?そんな言葉を作っちゃう小町マジ天使。つまり小町可愛い。
「…いつぞやの初対面の時を思い出すわね…。その腐った目と相俟って、思わず通報してしまいそうになるわ」
「おい待てそう言いながら携帯に手をかけるのをやめろ、て言うか画面にもう11まで既に入力してんじゃねえか。なに?7を押すの?時報聞きたいの?」
どうでも良いけど寺宝って変換されるとシャボンフルーツが浮かぶ。あれ超食べてみたい。超どうでも良い。
俺たちのやりとりを見て、由比ヶ浜は首を傾げている。無理も無い。
バトルロワイヤルの件は平塚先生から聞いているはずだが、このやりとりはまだ由比ヶ浜が奉仕部の戸を叩く前の話であるからだ。
「?何のことかわかんないけど…そんな変なことは命令しないってことで!…ヒッキーも、そ、その、あんまり、変なこととか…言わない、でよ?」
たどたどしく、頬を染めながら、もじもじと言って来た。やめろ、急に室温が上がって来たじゃねえか。おっかしーなー暖房効き過ぎじゃない?
「まあ、取り敢えずやってみましょうか。勝敗を決するのはただのじゃんけんですもの。」
…いや、そうは言いますけど雪ノ下さん、思い切り気合入れてませんか?何で右手を左手で隠すように覆ってためてんの?そのモーションから出るのって波動的なものしか無いよ?
俺の心の中のツッコミをどこから嗅ぎ付けたのか、雪ノ下がこちらをちらっと、いや、ぎろっと睨む。本当にごめんなさい、その睨みの度に寿命が2週間ずつくらい縮んでる気がするからやめて。あれ、俺この作品の最後まで持たなくない?専業主夫になりたかった…。
「そうだな、取り敢えずやってみるか」
「よーし!それじゃあ行くよー!じゃーんけーん…」
「…」
「ヒッキー…」
「いくら運任せとは言え…比企谷くん…流石としか言いようがないわ」
じゃんけん一発目。
俺:グー
由比ヶ浜:パー
雪ノ下:パー
結果:俺、二人の奴隷☆
いや待て、ポジティブに考えるんだ。
雪ノ下と由比ヶ浜、学校でも注目を浴びやすく、タイプは違えど「可愛い」「綺麗」と称される二人。それは俺も十分理解しているし、実感もしている。雪ノ下は言葉が極悪非道で、由比ヶ浜は何かもう子供を相手にしてる気分になるレベルのあほあほちゃんだけど。
そんな二人が「えー、どうしようかー?」なんて顔を見合わせながら俺にささやかな命令をしてくるんだぞ。あ、なんかこの二人だともう今さら過ぎてありがたみねえや。あと何か似た記憶があるなって思ったら小学校の頃のトラウマ!THE WORLD☆への扉が開きそうだからこの辺でやめておこう。
「あー、いざやってみると、何を言ったらいいもんか分かんなくなるねー…」
いや、お前が言いだしたんだから候補の2~3つくらい考えとけよ。
「そうね…奉仕部らしく、富士山のごみ拾いなんて言うのはどうかしら」
え、それ誰依頼が前提なの?苦行過ぎるでしょ?ねえ?
二人はしばらくうんうん唸っていたが、やがて由比ヶ浜がぽんと手を叩いた。
「そうだ、肩揉んでよ!ゆきのんも最初で何言ったらわかんないだろうし、ヒッキーに肩揉んでもらおうよ!」
おいこら由比ヶ浜さんこのやろうなんて嬉し気まずいことを。
「え…でも…」
おいこら雪ノ下さんこのやろう何でただの戸惑いに見せかけて俺を冷たい目で見ながら肩を抱いてんだよ。
「いいじゃんいいじゃん!いやー、私最近肩凝っちゃってさー」
由比ヶ浜がばばくさいことを言いながら肩を回す。いや、あの、その、メロンさんもぶるんぶるん回っちゃってます…。直視出来ません…。
「あー、確かに由比ヶ浜は凝りそうだよな」
思わず、言ってしまった。しかも雪ノ下と見比べながら。
視線の移動は一瞬だったし、その意図は由比ヶ浜には伝わらなかったようで、「ほえ?」と言う顔で首を傾げている。ちょっと可愛いとか全然思ってないんだからねっ!
しかし雪ノ下はその視線に気付き、更に意図も丸々読み取ってしまったようで、一瞬はっとして自分の胸を見詰めた。ごめんなさい。
「…私だって、肩くらい…凝るわ…」
ごくごく小さな声で言った。明らかに拗ねている。え、何この子可愛い。いや待て、戸塚の方が可愛いぞとつかわいい。なんかもう何言ってんのかわかんなくなってきた。
由比ヶ浜はやっぱりまだ「ほえ?」と言う顔で首を傾げている。今度は逆側に傾げた。可愛いとか…全然思わないんだからね…!
「ゆきのんも凝ってるんだね!じゃ、やってもらおう!」
俺の意志は反映されないですよね…分かってました…。
まずは由比ヶ浜の肩を揉む。あくまで、肩だ。
女子の身体に少し触れるだけで死にそうになるのに、肩を揉む…だと…と絶望していた俺だったが、何とか覚悟を決めた。
しかし、上着を脱いで、ワイシャツ姿になって椅子に座る由比ヶ浜の後ろに立つと、その覚悟が一瞬で飛んだ。
「じゃ、よろしく~!」
由比ヶ浜が明るく言ってのけるが、俺はそんなテンションではない。
だって近付いただけで柑橘系の良い匂いがするし首細いなーとか綺麗だなーとか後ろから見るメロンはまた格別だなーとか何て言うかもう邪念しか湧いてこない。
しかし、雪ノ下の目もある。躊躇する訳には行かない。
そっと、由比ヶ浜の肩に手を触れた。
瞬間、触れた肩がぴくりと揺れる。
「…ふあっ…」
お前ばかこのやろうその反応はやべえだろ、いや、本当に。本当に。
「だ、大丈夫だから、続けて…?」
頬を赤らめて振り返るんじゃねえよ完全に違うこと想像するだろうがーーーーー!!!やばいやばいやばい雪ノ下がこっち見てる続けないと。
「…じゃ、行くぞ」
「…ん」
俺が誇りにしている想像力を、今だけは全力でオフにしたかった。
ゆっくりマッサージを始めると、互いに慣れて来たのか、徐々に自然な動きと反応になって行く。
「お~、なんかヒッキー上手いね~…極楽だ~…」
こっちからは顔が見えないが、多分温泉にでも浸かったような顔をしてんだろうな、こいつ。
「ああ、ま、おふくろとか小町の肩を幾度となく揉んでるからな」
そう、本当によく揉んでる。親父、俺が小町の肩を揉んでる時に俺のことを射殺すような視線で見るのやめてくんねえかなあ。小町があんたに肩を揉ませることは多分無いと思うよ。叶わぬ夢なんだよ!
「そうなんだ~~~…あ~~~極楽…だ~…」
徐々に声が小さくなる。ん、え、なんで?
そっと顔を覗き込む。
「…すぴー…」
寝やがった…!!!
はええよ。ものの5分だぞ。固い椅子に座ってるし、俺も雪ノ下も居るのに。なんつうふてぶてしさだ。
…まあ、安心してくれてる、んだろうか。
「あら、由比ヶ浜さん寝てしまったの?…まったく…」
雪ノ下が呆れながらも、由比ヶ浜の隣に椅子を並べ、自分の下へ抱き寄せる。
膝枕をしてあげていた。
「…え、何、お前、お母さん?」
「…お姉さんよ」
家族なのは決定なんだ…。
「じゃ、次は私ね…」
すかぴーと阿呆みたいに幸せそうに寝ている由比ヶ浜に膝枕をしながら、雪ノ下がゆっくりと制服の上着を脱いだ。その何気無い仕草一つで、心臓がどくんと高鳴る。
格好自体は何てことの無いワイシャツ姿だが、わずかに除く首筋や、よりくっきり見えるようになった身体のラインに惚れ惚れとする。
「…よ、よろしく…ね…?」
いやちょっと待て。何でこのタイミングでそんな恥じらって頬を赤らめながら聞いてくんの?その破壊力を舐めんなよ?陽乃さんや一色みたいに計算して無くて、本当に素で恥じらってるんだからやだこの子タチ悪い!あと良い匂い!やばい!
「…おう」
由比ヶ浜のときと同様に、慎重に手を肩に置く。
その瞬間。
「ひんっ…!!」
明らかに、聞いたことが無い、甘くソプラノのような高い声がした。
一瞬がたっと動いたが、由比ヶ浜が「んあ…?」と寝ぼけ気味に起きそうになったので、慌てて元の姿勢に戻る。
…あ、思い出した。以前陽乃さんが「雪乃ちゃんねー?結構敏感なんだよー!流石にこれは私も皆の前で弄れないけどー。今度試してみてね♪」と明るく言っていたっけ。
あなたなら時間・場所を問わず弄りそうなもんですけどね…。
「…大丈夫か?」
なるべく平静を装って聞いた。
「…大丈夫よ、続けて?」
上ずった声を抑えきれないまま、雪ノ下が答える。
いや、なんで肩揉みに乗ったんだお前…。
まああれか、俺が胸を見ちゃったからか。いやもう何かほんとごめんなさい。
…由比ヶ浜が目の前で寝ていて、雪ノ下は起こすまいと声を上げるのを我慢してるこの状況。
やばい、正直言って、興奮する。
もう一度、今度はゆっくり沈み込むように手を肩に押し込む。
「はうっ…くっ…あっ…」
堪えてくぐもった声を漏らしながら、由比ヶ浜を起こさないように手で彼女の頭を押さえている。
背筋を反らしては戻しながら、懸命に堪える姿。
徐々に、嗜虐心のスイッチが入ってきた。俺にこんなスイッチあったんだって言う新発見。
「…ふっ…ふぅっ…んんっ…!」
5分も経った頃、雪ノ下は一言で言うと「出来上がって」いた。
綺麗な首筋には汗を滲ませ、ワイシャツは少しばかり透けて来て、うっすらとブラが見えてきている。
漏らす声はどんどん甘くなり、その手は途中から左手を由比ヶ浜に添え、右手は自らの口を塞ぐのに使っていた。
…何これ、なんで肩もみだけでこんなエロくなんの?身体を悩ましげにぶるぶると震わすのは反則だと思うんです。
静まれ、マイ八幡!洒落にならんぞ!さっき11まで押されてたんだぞ!
考えをぐるぐると回しながらも、徐々に徐々に、目の前のこの少女をどうかしてしまいたくなって来ている自分がいた。
続く。
俺ガイルの原作をここ1週間程で1~9,6.5,7.5巻と読んで、現在10巻を読んでいます。
面白すぎて、キャラが魅力的すぎて書きたくなりました。まずはそれっぽいやりとりを書けるようにして、上手いことオリジナルの流れを作れたらと考えています。
今回は微エロです。後編は微エロとどエロの間くらいになるかなと思います。
ご感想、お待ちしています!
お読み頂きありがとうございました(^^)!!