(1)
2月のある日。
部室で俺のやる気の無いタイトルコールが響く。
「千葉県横断お悩み相談メール―…」
由比ヶ浜がぱちぱちと拍手をする。雪ノ下は諦めたような表情でこちらを見ている。
いや、まあ、ほんとダルいんですけどね、これ。大体材木座からだし。もう直接来いよ。来てほしくないけど。
「えーっと、今日のは…PN:saki☆sakiさんから…誰だ?」
「さきさき…あ、沙希ちゃんかな?」
由比ヶ浜が手をぽんと叩く。
ああ、居たなそんな川なんとかさん…川…川端?康成?
そうか、康成さんだ!
って言うかsaki☆sakiって何だよ。なんで皆ちょくちょく☆付けたがんの?王子様なの?ああ、戸塚を抱きしめたい。
「ああ、あいつか。んで内容は…」
『妹のけーちゃんから面白い話をリクエストされたんだけど、何を喋ったら良いか分かんない。
どう言うのが聞きたいのって聞いたら、怖い話がいいって言われた。尚更どうして良いか分かんない。
何か良い案ちょうだい』
雑かよ。雑だよ!お前メールでもこんな感じなの?俺でも引くわ!俺も大概だけど!…大概だけど!
由比ヶ浜と雪ノ下を見ると、俺と同じ気持ちだったのか、呆れたような表情をしている。
「…あはは、中々ふわっとしてるね…」
「怖い話…この案件、一見するとただ話のネタを提供すれば良さそうだけれど、この妹さんが「面白い」と思ってくれるような話となると…中々難しそうね」
呆れながらも、雪ノ下が冷静に分析する。
「そうだな。これは話のネタの質ってよりは、話し方そのものをよく勉強する必要がある。どうやるかな…」
俺と雪ノ下がうーんと頭を捻っていると、その様子をぽけっと眺めていた由比ヶ浜が何かを閃いた顔をした。
この子なりによく考えてるんです!分かってあげてください!
「話し方を勉強…勉強…そうだ、勉強会だよ!」
「え?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「皆で集まってさ、それぞれが持ってる怖い話をするの!この人の話し方が上手いなーと思ったら、真似してみるって言うのはどう?」
「おお、なるほど。おバカなのにすげえ良い案だな」
「だれがおバカだ!?」
「そうね、由比ヶ浜さんなのに」
「地味にゆきのんの言い方の方が傷付く!ひどい!」
由比ヶ浜が喚いてる。わーんって。なんかごめん。
「でも実際良い案だな、それ。いきなりプロの話し方を見ても上手すぎてどう真似して良いか分からないってこともあるだろうから、身近な人を参考にするって言うのはすげえ有効だと思う」
「そうね。このやり方なら、人数は多ければ多い程良いと思うわ。早速人を集めましょうか」
「やったー!じゃあ、早速集めてみよう!場所と時間はどうする?」
「せっかくやるなら夜の方が雰囲気出るだろ。夜にそう言う話をちゃんと出来る場所…雪ノ下の家とか?」
俺がごく普通に提案して雪ノ下の方を向くと、雪ノ下の首がぎぎぎと極めて不自然に背けられた。…あれ?
「…ひ、人を集めるのも、難なら会場の提供もするから…わ、私は出かけていて良いかしら?最近、ちょっと忙しくて…」
話し方が驚く程、いや、笑える程、たどたどしい。
ウソつけ。じゃあなんでこの時間帯に悠々と本を読んでられんだよ。
…こいつ…。
「雪ノ下」
「…なにかしら?」
語調をすぐさま元に戻した。アイアンハートめ…。
「…お前、まさか…」
「なにかしら?」
食い気味やめろよ。語調強めんなよ。怖いんだよぉ。何これ凍てつく波動?スクルトの効果も切れちゃう!
しかし、ここは勇気を持って攻める。だって、楽しいから!
「…怖いのか?」
「そんな訳無いでしょう。大体幽霊なんていやしないわ。古来から『幽霊の正体見たり枯れ尾花』と言うように人は暗い場所や不気味だと思う場所で思い込みによって何でも無い木の枝が幽霊に見えたりするものなのよ、それに霊感を持ってるなんて言う人もーーー…」
…めっちゃまくし立てて来た。この感じ、慣れて来ると可愛いなって思えて来る。めっちゃ睨まれてるけど。心臓鷲掴みにされてるけど。ハートキャッチプリキュア!
めげずにとどめを刺そう。
「そうか、怖くないなら良かった。じゃあ、雪ノ下も参加出来るな?」
雪ノ下の動きがぴたっと止まる。
「…分かったわよ…参加、するわよ…」
すげえ小さな声で言った。モスキート音ばりに分かりづらい。平塚先生には聞こえないな!この冗談言ったら俺多分死ぬな!
そんな訳で、怪談大会を開くことになった。
百物語はやりません、冥界に連れて行かれたくないもん!
「…と、言う訳で、始まります!
『真冬の・大・怪・談・大会』~~~!!!(どんどんどん、ぱふぱふ(by由比ヶ浜))
はーい、司会は私、腐り目でお馴染み比企谷八幡…の可愛い妹、比企谷小町でーす!きゃぴっ☆」
…うぜえ…。この一言に普段の200回分の「うぜえ」を込めたぜ…。
「…なんで小町がいるんだ?」
「結衣さんに呼ばれたんだー、えへへ!学校で話せるネタが欲しくて!」
「…いや、まあ、もう、良いです、はい…」
こう言うときの小町の出席率異常に高くね?助けられてることも多いから(自覚してる範囲だけでもかなりのもの)良いけど。可愛いし。
「平塚先生まで…」
「ああ、由比ヶ浜から活動の報告を受けたときに誘われてな。ほら、私は夜は暇だから…」
「そそ、そんな事思って誘ったんじゃないですよ先生!?」
…涙が…涙が出るよ…。アラサーって女の盛りだと思うんだけど…!…高校生だからそんなの分かんないけど…!干支、先生と同じなのかなあ。
「川崎のメールが元だからとは言え、このいつもの面子の中に川崎が居るのってなんか新鮮だな」
俺が康成さん間違えた川崎の方を見ると、不機嫌そうにじろりと睨んで来た。
「…別に、あたしは普段一人なんだから、どこに混じったって変わりゃしないよ」
さいですか…。
ま、睨むのも単純に目つきが悪いだけだし、ちょっと凄みを効かせたらすぐ泣きそうになるのを知ってるしな、今は前ほど怖くない。って言うか折を見ていじめてみたい。うそうそ、やだ、お天道様、見ないで!戸塚天使、見ないで!
…ってか、夜女の子の家に来て、俺以外全員女の子って…ええやないの。ええやないの。いかん、暖房が効き過ぎてるぞこの部屋。
「さて、早速今日のこの会の進め方を発表致しま~す!
…順番に怖い話をします☆」
おいこら妹。お前マジか。
改行しなかったら1行で終わってんぞそのセリフ。間違ってはないけど。
「…しゃーねー、じゃあ誰から行く?」
呆れた顔でこきこきと首を鳴らしながら、俺は皆を見回した。
ちなみに皆、リビングで下にクッションを敷いて円状に座っていた。
クッション、みんな猫orパンさんなのね…分かりやすいね猫ペディアさん…。
「…じゃ、じゃあ、あたしから行くよ。あたしが依頼したんだし、まずはあたしがどんなもんなのか把握する必要があるだろ?」
おお、なんとまともな理由と勇気。さすが康成さん。
「じゃ、川崎から頼む」
俺、心の中でちゃんと呼ばなすぎだな。ごめんね、中島。…磯野ー!野球しようぜー!
①川崎沙希。
「ある人、取り敢えずAさんとしておく。その人が住んでるアパートで、ある日飛び降り自殺があったらしいんだ」
「ふむふむ…うわわ~…」
おお、小町、相槌の具合がすごく良い。流石我が妹。もう俺に出来ることは無いしする気も無い!
由比ヶ浜も良いリアクション。この二人はこう言う面で似てるな。
雪ノ下は…俯いてぷるぷるしてる?え、早くない?
平塚先生…も俯いてぷるぷるしてる?え、意外と?マジで?
「それで、警察の人が来た。Aさんも含めて、アパートの住人が事情聴取を受けることになったんだ。
ところが、ただの自殺の割には妙に質問が念入りで、違和感を覚えた。
『昨晩の22時頃、どこに居ましたか?それを証言出来る家族以外の人はいますか?』
まるで、刑事ドラマでよく見るアリバイを聞かれるシーンが、そのまま再現されていた」
小町と由比ヶ浜が声を上げなくなり、ぷるぷるし始めた。目を見開いて川崎を見詰めている。良い視聴者過ぎるだろ…。いいともの観覧者かっつうの。スタジオのリハーサルでADにばっちりコーチしてもらってんの?
雪ノ下と平塚先生は…チワワ、っと。メモメモ。
「で、警察の人にどうしてこんなに細かく聞くのかと聞いた。その人も働いている身だったから、あまりこう言う気分が良くはないことに時間を取られて疲れるのは嫌だったようだ。
すると、警察の人の表情が急に重苦しいものになった。
なんでも、自殺した人が飛び降りたのは屋上らしいのだが、何故か階段にその人の血痕が付いていて、もしかしたら他殺なのでは、と言う懸念が生じているとのことだった」
ああ…もう4人ともチワワに…。4人の距離が縮まって来てる。もう固まったらええやないの…。
「Aさんはその日は取り敢えず解放されたのだが…後日、真実が分かってしまう」
「え、なに、やだ、怖い怖い…」
固まった。良いと思う。ゆりゆりして下さい。
「…その人は、一度飛び降りたものの、死にきれず、もう一度自力で屋上まで登り、再び飛び降りていた…。」
「みぎゃーーーーーーーーーーーー!!!」
「おぐほぉっ!?」
小町が猫みたいな声を上げながら、猫みたいな俊敏さで突っ込んで来た。めっちゃ『どむっ』って言った。『どむっ』って。
…体重はいくら軽くても人間だから、このスピードはえぐい…げふっ。
抱き付いて『怖いよ~!』とわんわん泣いている小町の頭を撫でていると、由比ヶ浜と目が合った。
…なに、羨ましい…のか?何その物欲しげな目?興奮するからやめて!この状態でエレクトしたら俺比企谷家から叩き出されちゃう!
そんな由比ヶ浜の様子に気付いたのか、小町が涙を拭きながらにやっと笑う。
「…結衣さんもどうですか~?あったかいですよ~?兄も身体つきはしっかり男ですよ~!」
「え、ええっ!?そ、そんな…いいよ…別…に…」
何小っ恥ずかしいこと言ってくれてるの我が妹。
…あれ、由比ヶ浜、手を前に出して拒否の体勢を取って顔を背けてるけど、目はめっちゃこっち見てる…。何か余計に恥ずかしくなって来た…。
…と、ここまで由比ヶ浜を煽ったところで、俺の体温や体つきを不意に意識したのか、小町の顔が急に赤くなった。
でも、それでも抱き付いたまま離れない。
何この可愛い生き物?天使?あ、妹か。
「…つかお前、この話怖いけどえぐすぎだろう…こんなんけーちゃんに話せないだろ…って、川崎?」
よく見ると、川崎自身も涙目でぷるぷるしてる。え、どゆこと?
「…こ、この話、怖すぎて覚えてたから話してみたんだけど…話すだけでも怖かった…!」
…何この子、可愛い。
いつもはスキル『なでなで』は妹である小町にしか使わないんだが、あまりにも小動物みたいにぷるぷるしてる川崎が普段とのギャップでやたら頼りなく可愛く見えてしまい、小町を抱えたまま思わず撫でてしまった。
「…ふえ…?」
予想の斜め上の反応☆
おい、いつもの不良キャラはどこ行ったんだよ…!『…ふえ…?』じゃねえんだよ可愛いなもう!
…今度は由比ヶ浜だけじゃなくて、雪ノ下も俺をめっちゃ見てる。なに、皆撫でられたいの?俺ムツゴロウさん?
続く。
前回のエピソードの後日談を書いていたんですが、どたばたと楽しそうなエピソードが浮かんだのでこちらを先に書いてみました。
この次に前回のエピソードの後日談を載せて、その後に今回のエピソードの続きを書こうと思います。順番が前後してしまい申し訳ありません。
奉仕部3人以外の人たちも生き生きと書くリハーサルも兼ねて、書き始めました。このエピソードは恐らくあと2~3話程続きます。
ちなみに怖い話は、「人志松本のゾッとする話」を参考にさせて頂いています。この後の回でも少し引用致します。感謝致します。
感想やリクエスト、評価など…土曜日に書き始めたにも関わらずたくさん頂いております。本当に嬉しいです。ありがとうございます!!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!