※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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1.

 明くる日。

 もう朝から全く落ち着かない。

 教室の机で腕を枕にして寝ていても、妙にそわそわしてもぞもぞ顔を動かすもんだから、名も知らぬクラスメイトからは不気味がられ、川なんとかさんには信じられない程冷たい目をされ、由比ヶ浜には「ヒッキー、ちょっとっていうかだいぶキモいよ? 何があったか知らないけどもう少し抑えて! ……キモいし」となんかもう心配りと一緒に初めて部室で会話したときばりにキモいを連呼された。しかも耳元で、囁くように。

くすぐったいし優しく罵倒されるしで、何かに目覚めそうになったけど戸塚と挨拶したら何とかリセットされた。ふう、やはり戸塚は俺の人生には必須だな……。

 

2.

 昼休み。

 さっと購買に行ってパン2つを、更に途中の自販機でマッカンを買い盤石の体勢でいつもの場所へ……向かう程、うっかり忘れてしまう程、残念ながら今日これからのイベントの印象は薄くなかった。

 忘れることが出来たら、後であいつにも自分にも言い訳が出来たんだけどなぁ……。

 重い、というよりは落ち着かない足取りで、生徒会室へ向かう。

 別に誰かに見られたからと言ってどうということもないのだけど、妙に周りを気にしてしまい、その結果俺の挙動は抜群に気持ち悪くなった。負けない! 何にだ。

 こんこん、と。

 控えめにノックをすると、中からはーいという気の抜けた声がした。

「失礼しまーす……」

 生徒会室に入ると、一色が落ち着かないのか座りながらもぞもぞと動いていた。

 俺を見ると、若干驚いた表情を見せる。え、なんで?

「あ……本当に、来てくれた……」

 ぽしょりと呟いて、ふいと目を逸らす。

「や、なんでだよ。あれだぞ、俺は誘われた時点でなら、どんなに暇であろうとありとあらゆる手段を用いて全力で断るが、一度受けた約束は絶対守るぞ。多分な」

「前半最悪な上に、なんで最後に多分って付け加えたんですか……」

 のっけからドン引きである。

 負けない。

 ん?

 一色の前の机を見やると、小さく可愛らしい弁当箱があった。

 数は、2つ。

 ……んん?

「おい一色、その弁と」

「先輩の席はここですよー」

 先輩の言葉をぶった切って、あざと可愛い後輩は自分の隣にある椅子をぽんぽんと叩いた。ほんと可愛くねえなこいつ……。

 しかし、断るのも難なので、取り敢えず座る。

 人目が無いのは助かるが、それはそれで何かとてつもない危機感を覚えるのは僕だけでしょうか。僕だけですね。

 よっこいせと言いながら腰を下ろすと、ものの見事にドン引かれた。こいつ、俺に引いてばっかだな。……俺のせいだな。

「なあ、その弁当……」

 気になったのでもう一度聞いてみたのだが、さっきの一色の五右衛門ばりのぶった切りが精神的に尾を引いたのか、語尾がすんごいふわっとした。超ダサい。

 若干気恥ずかしさを覚えたが、気にしていても仕方ない。

 一色の反応を窺うと、若干目を泳がせながら、

「あー、そのー、まあ、そのー……わたしがお昼を誘ったのもありますし、これでも一応先輩にはそれなりにお世話になってるというかむしろわたしがお世話してるっていうか……」

 え、なに、さりげなく罵倒したいの?

 どうせ、と。

 一色は更に目を泳がせながら、言葉を続ける。

「普段は親御さんにも妹さんにもお弁当を作ってもらえず、専業主婦が夢だなんて言いながら大して料理の勉強もしていないであろう先輩のことをほんのちょっと頭の隅で考えてみてですね……」

 ちょっと待って、視界が滲んできた。

 この表現J-POPでよく見るよね。素敵だけど。よく見る。

 ベタなのは良いことだ。大事なのはそのベタな要素の組み合わせ方とそれを繰り出すタイミングと、後はさりげない繰り返しによる印象付けだ。急にどうしたんだ俺。

 私、と。

 裏返りそうな妙に危うい声で、ちょっとだけ声を張り、

「そ、そそ、その、先輩に、お弁当を作ってみました……!」

 言うと、弁当の蓋を開け、俺の前に差し出した。

「おお……」

 感嘆の声が、自然に漏れた。

 一色の弁当箱は既に蓋が開いていたのだが(こいつ、俺を待ってる間に若干食いやがったな……)、そっちのとてもJKJKした弁当と比べて、こちらの弁当はサイズこそ一色のもの同様小ぶりなものの、唐揚げを筆頭とした肉類を主体にした、男が喜びそうな弁当であった。

 なんか、意外。

 弁当を自分で作って持ってくると言うのも、俺に合わせていつもは作らないであろうラインナップにしてくれたということも。

 普段であればここでばっちり気の利かないことを言って冷たい目で見られるところだけれど。

 素直に感動したので、率直に感想を言うことにする。

「すげえ美味そうだ。ありがとな」

 言うと、一色の顔が一気に真っ赤になり、首をぶんぶんと振られた。

「ななな、なんですか後輩の可愛い女の子がお弁当を作ってきてくれたからって優しくお礼を言って素直で誠実アピールをしてなんだかんだで口説こうっていうつもりですかそういうのは何ていうかもっとお願いしますじゃなくてあれ私何言おうとしてたんだろうわわわわわ」

 一色いろは、大混乱である。

 実にメダパニ。

 一色はスポーティーで左腕に包帯を巻いたド変態少女ではないし、俺は俺でロリで巨乳好きで妹にもキスしちゃうような鬼畜な吸血鬼もどきでもないけれど。

 激しく息を切らしている一色に声を掛けてもあれかなと思い、ふーふー言ってる彼女をしばし見守る。

 …………。

 なんか、息切れしてる感じ、妙に色っぽいなぁ……。

 自分の右頬に軽くビンタして自制した。あっぶね。

 いろはちゃん、息を切らしながらも青ざめてドン引かなくても良いと思うんですがね……。

 

3.

「ふう、じゃあ、先輩」

 ようやく落ち着いた一色が、箸を出してアスパラベーコン巻を取ると、

「あーん」

 極めて自然に。

 まるで毎朝やっているかのように。

 俺の口に差し出してきた。

「あーん……ってうおぉぉぉ!?」

 口を開けて半ば入れかけちゃった。

 あまりに自然で、なんかもう自分で食べてるかのような感覚だった。

 あぶねえ、と息を切らしながら一色を見やると、ものすごい不快な顔をしていらっしゃる。

「……ちっ、あと少しだったのに」

 …………。

 その台詞を言うの、登場人物を殺そうとしてた人か、ヒロインとかの重要人物の肉体に憑りつこうとして防がれたやつくらいだと思うんだけど……。

「先輩」

 アスパラベーコン巻の標高をそのままに、一色が満面の笑みを浮かべる。待て、超怖い。

「お箸、一膳しか持ってきてませんからね? だからと言ってわたしが使い終えた箸を先輩が堂々と使うなんて許せません。とても不快です」

 だから、と。

「はい、あーん」

 ……いや。

 だから、じゃねえよ。何そのえげつない手段?

 しかし一色はまるで一時停止のボタンを押しでもしたかのように、笑顔で俺の口にアスパラベーコン巻を差し出したまま固まっている。罪悪感が半端ない。

「…………あーん」

 結局。

 乗る事にした。

 もぐもぐとじっくり噛み、ごくりと飲み込む。

 嚥下の瞬間までまじまじと見られるの恥ずかしいんですけど……。

 別にどこぞの美食屋マンガで出てくるみたいに、今食道を通ったとかそんな実感が湧く訳でもないから、なんかただじっと見られてるようにしか思えなくてやたら恥ずかしい。

「どう……ですか」

 上目遣いで、少し不安げに一色が聞いてくる。

「ああ、美味いよ」

 可愛い後輩め、なんて思ったからだろうか。

 気付くと、一色の頭に手をぽすっと乗せて撫でていた。

 やばい、引かれる!

 なんて思ったのだけれど。

「あ、ありがとう、ございます……」

 手を膝の上に置いて、俯きながらぽしょぽしょとお礼を言った。

 ……あっれー?

 何この子。

 もしかして、超可愛かったりする?

 まさかまさか、そんなはずは――と。

 悠長に考えていたら。

「はい、じゃあ先輩、続き行きますよ、あーん」

 まさかの試合続行。

 さっきはまだ、自然とは言いつつも恥じらいの感情が垣間見えたのだけれど、今度は悪戯心たっぷりな笑みだ。

「は、はあ!? なんでだよ!」

「だから、さっき言ったじゃないですかー。箸は一膳しかないって。大人しく従ってください」

 にやりと笑いながら、一色にそう言われた。

 むう……。

 考えていても仕方ない。

 不満げにしながらも、乗っかることにした。

「じゃあ先輩、改めまして! はい、あーん」

「あーん…………」

 薄目を開けながら、口をかぱっと開けて一色の箸とおかずを受け入れる。

 ――と。

 ぱしゃりと、よく聞き覚えのある音がした。

「――え?」

 見ると、一色が箸を持っていない方の手で携帯を持ち、思い切りこちらの写真を撮っていた。

「ふもえ(お前)! ふわへんわ(ふざけんな)!」

「先輩、汚いから口開けないでくださーい」

 俺の言葉を一切意に介さず、一色は携帯を弄っている。恐らく俺の写真をどうにかしているのだろう。

 一色が、俺の写真を、どうにかしている。というのが非常に怖い。

 はらはらしながらもぐもぐとしていると、やがて一色がにへっと満足気に笑い、携帯をしまった。

 ようやく全て飲み込み、右手を一色に突き出す。

「おい、見せろ」

「やです! ……渡したら、最初の画面見ただけで何したかバレちゃうし……」

 ぽそりと。

 一色が何かを呟いたのが聞こえた。

 

4.

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

 俺が挨拶をすると、一色が丁寧に応えてくれた。こういうとこ、意外とまめなんだよなーこいつ……。

 結局、あの後全部あーんされた。

 ついでに、パンも。

 全部あーんされた。

 一色の弁当はとても美味かったのだけれど、量は少なかったので意外とパン2つをプラスしてちょうど良いくらいだった。

 じゃあいつもパン2つしか買わねえの、腹の具合に合ってねえじゃんって話なんだけれど。

「それじゃ、先輩、その……」

 一色がすすすっとこちらに近寄り、流し目を送ってくる。

 さっきまでとは明らかに違う雰囲気に、心拍数が急に上がるのを感じた。

「先輩が女の子慣れする練習、始めましょうか……」

 照れながら微笑む一色を見て、妙に緊張してしまったのだろうか。

「あ、ああ。その……よろしくお願いひましゅ」

 超噛んだ。

 一色の目が「台無しだよこの野郎」ってめっちゃ言ってる。

 直接言われるよりダメージでかいぞこれ……。

 

 

 

 続く。




いろはすでした。一番するりと書ける気配がしたので。
この後のどきどき&微エロまで書こうとしてたんですが、案の定字数がそれなりになったので、また区切りました。明日もいろはすで行くかと思います。予定は未定ですが。

それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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