1.
「うう~……」
一色が、俺の胸に顔を埋めて唸っている。
切なそうに漏らすその声は、泣き声のようにも聞こえる。
……この状況、どうすると良いのん?
「お、おい……?」
取り敢えず声を掛けてみるものの、一色は返事をすることなく、代わりに顔をすりすりと擦り付けてきた。くすぐったいくすぐったい。
なんだろう、この子犬感。
「うう~~……! ……ずるいです。ずるいですずるいです……!」
ほーん? どういうこと?
すりすりされながらずるいずるいと連呼されている。「す」が大活躍。
「や、その……なんか、すまん……」
取り敢えず謝るヘタレっぷり。
それでもどうにかこうにかフォローを入れようと、未だに顔を埋めたままの一色の頭をぽんぽんと撫でる。
すると、一色がばっと顔を上げた。
「今のもずるいですよ!」
「え、今のも?」
なに、俺は存在自体がずるいの? なんなの?
「そうです。ずるいです。ずるずるです」
意味が変わってきてる……。なんか俺引きずったっけ?
「なんでそうやって、いつもわたしのことドキドキ……う~~……!」
何か言いかけたと思ったら、顔を真っ赤にしてまた顔を埋めた。からのすりすりずるずるアゲイン。
……なんだこれ。忙しいやつだな。
…………。
むう。
現状を整理すると。
・後輩の女の子に抱き付かれている。
・泣きながら色々と言われてる。
・柔らかい感触がさっきから何の遠慮も無しに鳩尾の辺りにむにむにっと。
・頭が目の前にあってシャンプーの良い匂い。
結論:理性が!ぎり☆ぎり!
っていうか何だこれ、本当になんだよこの状況?
一色の泣き顔、やたらと可愛いな……そりゃ元が可愛いんだしな……っていやいやいやいや。
……この状況が続くと、色々とまずい。主に俺の理性が。
必死で頭をぶんぶん振っていると、一色が再び顔を上げた。
亜麻色のセミロングの髪がはらりと舞い、思わず見入ってしまって思い切り目が合う。
涙ぐんだ目で、いつものあざとさがまるで無い、意味深な表情を浮かべる。
口をつぐんで、溢れ出す思いと言葉を必死で抑えるようにしながら、絞り出すように、
「……先輩」
一言だけ、俺を呼んだ。
「……あ……」
何の返事にもなっていない言葉、いや声を漏らす。
一色はそれ以外に何か言葉を発した訳でも無いのに、そのあまりにも真剣な表情に見惚れてしまった。
気付けば、二人の顔の距離が近い。
どちらかが寄って行っているのだろうか、自然と近付く。
一色はゆっくりと目を閉じて、唇を委ねるようにこちらに向ける。
無意識の内に、一色の肩を握っていた。
唇の距離が、もうあと1~2cmのところまで近付く。互いの息遣いを感じる。
一色が顔を傾けた。
俺も、それに合わせて逆側に顔を傾ける。
やがて、二人の唇がそっと重なった。
2.
「……んっ……」
唇を離すと、一色が甘い声を漏らした。
口付けはほんの数秒、本当に互いの唇を少し重ねただけで終わった。
……超……柔らけえ……!
完全に目を閉じてしまっていたのが悔やまれる。開ける度胸は無かった……。
二人とも徐々に目を開けて、完全に開いたとき、ぱちっと目が合った。
その瞬間、一色は顔を真っ赤にして顔を激しくぶんぶんと振り出した。
「なななななにしてくれちゃってるんですかもうあれですかキスしたから俺の女になれとか男らしいこと言っちゃう気ですか大体1回キスしたくらいでそんなこと言うなんてほんとにもうせっかちというかなんというかとにかくもっといや違うあれおかしいなあわわわわ」
…………。
一色いろは、更に大混乱である。
実にメダパニ。
大慌てする一色を見てぷっと吹き出すと、それを見た彼女は頬をぷくっと膨らませて怒った。いちいち可愛いなあもう……。
「な、なに笑ってるんですか! 先輩のくせに生意気です!」
こんなことを言ってるけども。
一色は俺の背中に手を回したままで、俺も一色の肩を掴んだままなのだから、どうにも締まらない。
「ああ、わりいわりい。そうだよな。1回キスしたくらいじゃな」
言って、一色の肩を掴む手に少し力を込めると、一色がびくっと跳ねた。
「そ、そそ、そうですよ、1回くらいじゃ……1回……くらいじゃ……」
顔を近付けると、一色はうっとりした顔をして、再び目を閉じた。
3.
「んっ……」
唇を重ねるだけなのは変わらないが、今度は時間が長い。
2回目ということもあり、うっすら目を開ける余裕も出来たので、ちょっと一色の顔を見てみる。
……うわぁ……。
睫毛ながっ。色っぽ。超可愛い。こいつ、こんな可愛かったの?
口に出して言うのは恥ずかし過ぎるので、心の中で一色褒めちぎり大会を一人で開催する。
ここまで来ると、更にその先まで進んでみたい。
そう思い、試しに舌をそろっと伸ばしてみた。
――と。
一色の唇に舌がつんと当たった瞬間、彼女が目を見開いた。
そしてばっと唇を離すと、
「ななななんですか2回キスしたくらいでもう舌入れようっていうんですかどれだけわたしのこと自分の女にしたいんですかもうほんとこっちの心の準備が出来てないうちにそんなことされても困るしもっとゆっくり落としにかかってもらわないとってわたしさっきから何言ってあわわわわわ」
再びまくし立てる。
……うわぁ……。
一色いろは、これ以上無い程に大混乱である。
実にTHE メダパニエスト(最上級)。
一色の耳をさわさわと撫でながら、
「ああ、そうだよな。わりいわりい。ちゃんと心の準備をしてもらわないとな」
「んんっ……ちょ、ちょっと、先輩、あぅっ……そ、そうですよ、ひんっ、ちゃんと言ってもらわないと」
…………。
反応が可愛すぎて、死ぬ。
……今までの! 反動で!
超! イジメたくなるんですけど!
でも! なんとか我慢します! 我慢してます!
それじゃあ、と言って、肩を掴む手に一層力を込めながら彼女の目を見つめる。
「舌、入れるぞ」
言うと、一色が目をむいた。
「は、はい……」
一色は震えながら、泣きそうな顔で笑った。
4.
3回目の口付けで、一色の口の中に舌を入れた。
唇に舌が触れたとき、唇はがちがちに緊張して固まっていたため、ここまで彼女の肩を掴んでいた手を今度は、左手は彼女の背中に、右手は彼女の頭を撫でるように置いて彼女の身体を包み込んだ。
くしゃくしゃと頭を撫でると、リラックスしたのかそこからはすんなりと口内に侵入を許した。
「んあっ、んちゅっ、んふぅっ、はむっ、んんっ、れろっ、んん……」
初めて入る一色の身体の中の感覚に興奮して、たまらならくなり何度も何度も口内のあらゆる場所を舐め回す。
一色はそれであっという間にスイッチが入ったのか、薄目を開けて身も心も委ねたようにこちらに体重を預けてくる。
「んんんんんっ!?」
彼女の舌に吸い付いて吸い上げてやると、途端に跳ねるように声を上げ、膝を生まれたての小鹿のように膝をがくがくと震わせた。
腕に力を入れて身体の密着度を更に高めて逃げられないようにすると、今度は彼女の舌の底面を徹底的に舐め回す。
「えぁぁぁぁ……いぅ、ひぅぅぅぅ……」
涙目で甘い声を上げて、俺を抱きしめる手に力を入れてくる。
二人の体勢は、最初は一色を壁に押し付けて口付けしていた状態だったのだけれど、そこから徐々に二人の腰がずるずると下りていった。
その間も、唇を離すことはなかった。
やがて、完全に腰を下ろすと、俺はあぐらを書いて、股座に一色を乗せる体勢になっていた。
彼女は足を俺の背中に回し、巻きつけるようにしている。
頬ををつつっと撫でると、互いに交換している唾液が一色の口から微かにと垂れているのが分かった。
「んむっ、えむっ、あむっ、あむっ、んちゅるっ、んあぅっ、あっ、あっ、あっ……」
時折口を離して一瞬だけ息を吸い込んでは、また吸い付いてくる。
その体勢のまま、しばらくの間二人は互いの口内を貪り続けた。
5.
「……ぷはっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……はぁ」
15分も経った頃だろうか。
ようやく、二人が唇を離す。
唇がもはやふやけてしまうのではないかと思う程の、長くて濃厚な口付けだった。
気付けばもう結構な時間になっていた。
これ以上遅くまで残っていれば、先生に何を言われるか分かったものではない。
平塚先生ならまだ良いが、他の先生に俺まで居るところを見られては、どんな誤解を受けるかも分かったものではない。
……多分、もう、誤解とは言えないけど。
「……そろそろ、帰んなきゃな」
言うと、一色は口を尖らせて、
「……え~、もう終わりですか?」
と言う。
「ばか、生徒会長がんなこと言ったら洒落にならんだろ」
言って一色の頭を撫でると、再びむ~と唸った。この唸り声も中々可愛いな……。
……あれ、可愛いと思うポイントが加速度的に増えてる?
「……仕方ないですね。じゃあ、出ましょうか」
「ああ」
ゆっくり立ち上がったのだが、一色は既に足腰ががくがくになっており、やっとのことで立ったのを見届けた時は、なんかもうクララが立った時ばりの拍手を送りたかった。
6.
「はー! 外は寒いですねー」
「そうだな」
生徒会室の鍵を閉め、校内から一歩足を踏み出すと、突き刺さるような寒い風が吹いていた。
「ここはもちろん……」
隣の一色が、そう言ってにやりと笑う。悪い笑みだな……。
なんて思っていたら。
一色は俺の腕にがっちり絡まるように抱き付いて、にこにこし始めた。
え、なにこれ。
超恥ずかしいんですけど。
「よーし、これであったかい! じゃ、駐輪場に行きましょー!」
「元気だなおまえは……。っていうか、駐輪場までこの状態で行くのはいやすぎるんだけど……」
「はーい、文句言わなーい」
抵抗虚しく、更にぎゅっと抱きしめられた。左腕が天国やでえ……!
わがまま姫の言うことにも逆らえず、結局腕を組んだまま駐輪場へ行き、そのまま一色の家の近くまで送った。
その別れ際。
「今日はありがとうございました。もうあの辺が家なので、これくらいで大丈夫です」
言うと、一色はたたたっと俺の数歩前に行き、くるりと振り返り、にひっと笑……ったかと思いきや。
「ぐほっ!?」
タックルしてきた。
いや、ハグか? ハグってこんなデンジャラスだっけ……?
「げほっ、げほっ……おまえなぁ」
不満の意を込めて目線を下に向けると、今さっきの自分のハグのことなど既に忘れたのか、一色はにひっと笑っていた。
その無邪気な笑顔に、思わず心を奪われる。
「先輩、明日からもよろしくお願いしますね」
言うと、唇をすっと重ねてきた。
「ん……!?」
俺がまともにリアクションをするまでもなくあっという間に唇を離すと、俺の首に手を回してきて顔を近付けて、
「舌を入れるのは、また明日から練習しましょうね」
目を細めて、くすっと笑った。
……うおぉ……無邪気な笑顔と艶っぽい笑顔を自在に使いこなすだとぉ……!?
「お、おう……」
なんとか最低限の応答だけすると、一色はぱっと離れてたたたっと軽快に走っていき、くるりと振り返った。
「それじゃ先輩、また明日―!」
言って、元気よくぶんぶんと手を振る。
「……おう、また明日」
敵わねえなぁ、こいつには。
なんて思いながら、ふっと笑って手を振った。
続く。
いろはす編はキス推しで行こう。
→せっかくならキスで1話書いてみよう。
的な試みで書いてみました。流れは特に変わってないのですが!
なんか今日の話でエピソードが終わりそうな書き方になってしまいましたwまだまだ続きますよ、ええ。
お祝いのお言葉、ありがとうございます。超ありがとうございます。
ガハマさん効果も相俟って、感想の数が何気に今までで一番多いです。超嬉しいです。
むう。
4編ともいつでもエロに突入し得るこの状態……平日にエロ連発だと書くのが超疲れるんで悩みどころです。
まあ、やりようですね!
ちょくちょく神と呼んでくださる方がいらっしゃいます。もっと呼んで頂いていいですよ←
調子に乗る暇も無いので、どんどん具体的に褒めてエネルギーください!w
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!