※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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1.

 一色を家まで送り、その後一人家路に就く。

 ……別れ際のキスとか、お前いつのドラマだよ……。ってかこれ、二度目か。全然慣れないんだけど……。

 スイッチが入った、入ってしまった一色がまさかあんな風になるとは思わなかった。

 未だに恥ずかしくて、凍えるような寒さの風が吹いているというのに、まるで気にならない。

 ……と、いうより、割と汗ばんでいる。信じられない。

 うーん。

 こんな風に舞い上がるなんて俺らしくない、とは思うのだけれど。

 そもそも、一人の女の子とこんな関係になったこと自体今まで無い訳で。

 それを考えると、今みっともない程に舞い上がっている俺は、「俺らしくない俺」というよりは、「新たに発見した俺」という感じなのだろうか。コロンブスな気分だ。うるせえよ。

 ……動揺が収まらなくて、一人でクオリティが微妙なボケとツッコミをしてしまう。

 ……きっと今の一色も、それが彼女にとって初めての状態なのかは分からないけれど、俺からすれば「彼女らしくない彼女」ではなく、「新たに俺が発見した彼女」なのだろう。

 そんなことをつらつらと考えながら、ゆっくりと歩く。

 空を仰ぎながら、顔を手でぱたぱたと扇ぐ。手で扇ぐよりも自然に吹く風の方がよっぽど冷たいのだけれど、何故だかそうしてしまった。

 

2.

 ただいまと浮ついた調子で言い、玄関で靴を脱ぐ。

 リビングに入ると、小町が炬燵でごろごろしていた。

 や、もう。

 盛大にだらけている。

 だらけるときのその潔さは兄妹揃って目を見張るものがある。

「あ、お兄ちゃん、おかえりー」

 炬燵に下半身を埋め込んで仰向けになったまま、小町がくいっと顔を向ける。なんつう横着ものだ……。今のこいつなら、炬燵の上のみかんを取る手間さえ惜しみそう。

 と。

 こんな風に思っていると。

 小町が不意に目をむいて、そこから急にばっと身体を反転させ、炬燵から飛び出した。

 うつ伏せの状態から下半身を炬燵からザッと抜き取ったものだから、なんか絵面的にガンタンクみたいになった。

 そのまま正座になったガンタンク小町が、俺の前にシュザッと着地した。すね、痛くないのん?

「どうしたんだお前?」

 聞くと、小町は半分真剣に、半分は浮ついた調子で、

「お兄ちゃん……何か良いことあった? いや、あったでしょ。それと、何かこれから良いことがあるの? いや、あるでしょ」

 …………。

 全部決めつけられた。

 最初っから付加疑問文で来るとか、お前もなかなかだな……。

「や、なんでだよ。今帰ってきたばっかの俺のどこにそんな情報が」

「顔。にやけ顔。だいぶ気持ち悪いよ」

「…………」

 食い気味に。

 叩き潰された。

 副詞に「だいぶ」を採用したのは、妹なりの考慮だったのだろうか。油断した状態の俺のにやけ顔なんて、俺自身見たくもないし。

「あー……その、なんだ、……明日、ちょっとな」

 嘘は通じないと思い、仕方なく微妙にぼかして言うことにした。

 すると、小町は目を輝かせて、

「え、え、え。ほんとに? 一色さんとだよね? きゃーっ! きゃーっ! ぎゃーっ!」

「はしゃぎすぎだろ、お前」

 妹が馬鹿はしゃぎする姿と言うのは、見ていてあまり気持ちの良いものではないということが分かった。

 この場にこれ以上居ては、何を聞かれるか分からない。

 というか、恐らく根掘り葉掘り聞かれる。掘り尽くされて俺という源泉が枯れ果てる。

 そんな結論に至ったので。

「まー、明日気が向いたら話すから、お前は勉強頑張れ」

 言って、小町の頭にぽふっと手を乗せると、

「ほーん……? ……明日、果たして帰ってくるのかにゃー……?」

「なんだその語尾……」

 怪しい笑みを浮かべられた。可愛いけど腹立つ、いや、むしろ、可愛いからこそ腹立つな、こいつ……。

「うるせえよ。おやすみ」

「ぶー。おやすみー」

 小町もこれ以上の追及は無駄と悟ったのか、早々に炬燵に戻った。暖かさや温さを貪るように、もぞもぞと動いている。ガンタンクからこたつむりへの超進化……。

 何やかんやで、炬燵の外は結構寒かったらしい。

 どんだけ俺の話を聞きたかったんだ、お前……。

 

3.

 自室に戻って、初めはすぐに電話をしようとした。

 しかし、あいつはあいつでシャワーを浴びたりなんだりをしてからの方が良いのかなどと考えた結果、俺もいつも通りさっさと風呂に入ることにした。

 かぽーん。

「…………」

 寒さと疲労で弱った身体に、温かいお湯の熱が実に心地良く沁みる。俺本当に高校2年生なのかな……。

「…………」

 ふと、唇をふにっと触る。

 彼女の、一色の唇の感触を。

 ほんのついさっきまで、あれだけ積極的に貪った彼女の唇の感触を、生々しく思い出す。

「…………」

 急に身体が熱くなった気がしたので、目のすぐ下の辺りまでお湯に浸かって、ぶくぶくと気泡を浮かべた。

 絵面的にこうした方がそれっぽいかなと思ったんだけど、余計に身体が熱くなってすぐに上がった。阿呆みたいだな、俺……。

4.

 ほっかほかの茹で八幡になったところで、電話を取り出す。茹で八幡って微妙に実在しそうと思ってググったら、「ゆで太郎 八幡宿店」というのがヒットした。絶妙。

「…………」

 ……うーん。

 緊張する。めちゃくちゃに。

 女の子に自分からメールをしたのは結局中学校の頃が最後だし、電話に至ってはそんな恐いこと出来る訳が無いと思い未だに経験0だ。

 でも、かけないと後で恐い。

 多分深夜くらいに、あいつから幾度と無く着信があるだろう。

 流石にそんな恐ろしい事態は避けたい。

「……ふう」

 深呼吸と言うよりは、半ば、いや、9割5分ため息だったけれど。

 深く深く息を吐いて、意を決して一色に電話を掛ける。

 ぷるるるる……と。

 無機質な呼び出し音が鳴る。

 電話で話すからこそ分かることがある、なんてドヤ顔であいつは言っていたけど……実際問題、何が変わるんだろう?

 ぷるるる……ぴっ。

 電話に出た音がすると、一瞬の静寂が流れた。

 そして。

「……はい」

 ……うおお。

「あ、ああ、俺、俺だけど」

 動揺して、もはや古典的な詐欺の常套句を使ってしまった。

 や、確かに。

 電話してみないと、分からないことがあるもんだ。電話したからこそ、分かることがあるもんだ。

 なんか、一色の雰囲気が違う。

 学校であざとく、俺の前では最近妙にデレている感のある一色の、今まで見た事がない側面。

 自宅での、もっと言えば自室での、更に言えば一人でいる時の、テンション。

 別に電話で多少大声になったとしてもたかが知れている。親御さんも、そんなに気にすることは無いだろう。

 だけど、それでも夜遅くなのには違いない。

 だから、ほんの少し、心持ち。

 声を、優しく、穏やかに抑えている。

 最初の第一声だけで、いつもとの違いを色々と感じ取ってしまって、瞬間的に悶えて、動揺してしまった。

 しかし、当の一色本人はというと、俺の動揺に気付いてもなんら遠慮することなく、むしろより遠慮せずに、

「ふふ……どちら様ですかー?」

 と、あざと可愛く聞いてきた。

 その声の調子も、いつもに比べてどことなく穏やかで、大人しい。

 初めて見る彼女の顔――といっても、声しかわからないけれど――に、妙にどきどきしてしまう。

「……比企谷だよ。分かってんだろ」

「ふふ、よく言えましたー。……待ってたんですよ?」

 ほーん?

「……お、おお、すまん、シャワーとか浴びてるかと思ってな。落ち着いてからの方が良いと思って」

「そっか、色々考えてくれてたんですね。でも残念、わたしはまだシャワーを浴びていません!」

「え、あれ、そうか。何かしてたのか?」

 聞くと、少し拗ねたような声音で、

「……先輩からの電話を待ってたからですよぉ……」

 と。

 破壊力抜群の「待っていた」発言を、2回叩き込んできた。

 ……死ぬ。

「あ、ああ、そうか。わるい。要らん気遣いだったな……」

「良いですよ。先輩のそういうとこ……こほんこほん。……さて」

 すげえ気になるとこで切りやがった……。

「明日のデートのことなんですけど」

「改めて言われると恥ずかしいな……」

「……わたしだって、さっきは勢いで言えただけであって……今すごく恥ずかしいんですよ……こほんこほん。で、場所なんですけど……」

 何この隠し方!? 全然隠せてない! なんなの!?

「どこに行くかは、もうわたしが決めちゃってますから、当日のお楽しみにしておいてください」

「……へ?」

「だーかーら、明日のデー……ト、のコースはもう決めてるんです。だから、明日はわたしの指示に従ってくださいね」

 えらい明るく言われた。

「……や、じゃあ、なんで電話する必要があったんだよ? それに俺からかける意味も……」

 ないじゃん、と言葉を続けようとしたところ、一色に遮られる。

「電話で話すからこそ分かることがある、って言ったじゃないですか。先輩がどう聞こえたか分からないですけど……わたしは、電話での先輩の声が聞いてみたかったんです。……なんか、電話から聞こえてくる先輩の声って……安心しますね。いつもの気持ち悪い要素も、声だけだと介入してこないんですかね。……やっぱり良い声だなー……」

 それに、と。

「先輩からかけてくれるのが大事なんですよ? 携帯の画面に、先輩の名前が出るのを見れてすごい嬉しかったです」

「…………」

「……あー、わたし、死ぬほど恥ずかしいこと言っちゃいましたね」

「…………」

「……先輩?」

「…………」

「……ふふ、電話を切った後の先輩の姿をぜひ見てみたいですー」

「…………」

「それじゃ、明日は10時に駅前集合でお願いしますね」

「…………」

「……むう。……せんぱーい! 良いですかー!」

「あ、お、おう。わかった」

「はい、確認。明日は?」

「え、駅前に、10時集合」

「はい、よく出来ましたー。……楽しみにしてますからね。えへへ……」

「…………」

「……では、おやすみなさい」

「……おや、すみ……」

 ぷーっ、ぷーっ、と。

 通話が切れた音がする。

 携帯の画面を袖で拭い、枕元に置く。

 そして、徐に、顔を枕に埋める。

 大丈夫、大丈夫、落ち着け、八幡、君なら大丈夫――――。

「うおぉあぁあああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!」

「お兄ちゃん、うっさい!」

「うぐっ、ごめん」

 叫び終わらない内に、小町から手加減無しの壁ドンをもらった。あいつ怒ると超怖いんだよな……。

 いや、これ、もう。

 あかんですって。

 曖昧な方言を使っちゃうくらいに。

 落ち着け、落ち着け、八幡。

 落ち着いて、両手で頭を抱えて。

 そして、心の中で叫べ、悶えろ――――。

 ……うおおおぁぁぁぁぁぁああああぉぉぉぉぉああああああ!

 ……ふう。

 危なかった。

 危うかった。

 もう少しで一色に、あのあざと可愛いいろデレはすに、電話越しにキュン死させられるところだった。

 や、もう、一色いろは。

 なかなか、やる。

 四つん這いになって粗ぶった呼吸を抑えると、ようやく横になった。

 普段はしないのに、意味も無く枕を抱いてしまう。今の俺の気持ち悪さ、インフィニティ。

「……明日、俺、大丈夫かなぁ……」

 わざわざ声に、それもやたらか細い声に出して。

 ぽそりと、呟いてしまった。

 

 

 続く。




八幡の心理描写多めでした。今回のお気に入りはガンタンク小町。
次話からはまたいろはすとのがっつりとした絡みです。

前回の気紛れ平塚先生の反響にびっくりしましたwこういうパターン、これからもありですね。

非エロメインだと1時間で3500~4000字、エロメインだと1時間で3000~3500字くらいのスピードで書いてます。ここに推敲で10分くらい足されるので、1回目を書く時点でもっとしっかりと流れを整えられるよう、インプットと実践を繰り返します。

最近は書き溜めないでその日の出たとこ勝負でやっていたんですが、それだと新しく始めようとしているはるのん編とめぐりん編がだいぶおっかないんですよね。
なので、今週と来週の土日くらいに、下書きがてらこの2人の話を1~2話分書いてみようと思います。プロットを練る程の流れも無いので、まず書いてみた方が良いと今日気付きましたw

そう言えば、合計字数が30万字を越えてました。そして70話を超えているという。うおぉ。

明日で平日終わり!皆さん、ラストスパート一緒に頑張りましょう(^^)


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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