※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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1.

 目的の駅(と思われる場所)まで、あとほんの少しというところまで来た。

 一色は依然として俺の胸元に顔をうずめたままなのだけれど、流石にそろそろ切り替えてもらわなければいけない。これ、ほっといたら山手線なら2周くらいしちゃいそう。2周しちゃうのかよ。

「おい一色、そろそろじゃねえのか?」

 頭上から呼びかけると、一色は俺のコートを掴んだまま、ほんの少しだけ目線を上げた。

 頬は依然として赤いままで、恥ずかしがっているためかその目は小動物のように愛くるしい。

 ……わぁ……2周くらいしてもいいかもー……。

 いや待て、そもそもここは山手線じゃない。ていうか山手線だから良いという訳でもないし。落ち着け、俺。一時の煩悩に流されていては流石にくたびれてしまう。

 ここは泣いて馬謖を斬る思いで……と無駄に深刻な覚悟を決めている内に、また一色が顔をうずめてしまった。なんでだよ。二度寝なの?

 ……またあうあう言って、おでこをこすこすとこすり付けてる。

 この感じだと、こいつ俺の言葉がまともに耳に入ってないんじゃないだろうか。

 仕方ないので、もう一度呼び掛けることにする。

「一色、お前が降りようとしてた駅、もうすぐなんじゃねえのか?」

 今度は耳元で囁くと、くぐもった声で「ひゃうっ!」と驚く声が聞こえた。

 しかし、まだ顔を出さない。

 なに、俺の胸元は天岩戸なの? 外で楽しそうに騒げば何事かと思って出てくるの?

 ……んー。

 もはや、あと1駅くらいしかないぞ。

 よし。

 実力行使。

 一色の両頬に手を添えて、内側にむにーっと押さえつけながら、無理やり顔を上げる。

「ひゃむっ!?」

 変な声が出た。もはや何の生き物だろう……可愛いけど。

「話を聞けっつの。お前が降りようとした駅、次なんじゃねえのか?」

 言って手を離すと、やっと俺の目をちゃんと見た。天岩戸からの脱出、おめでとう!

 ようやく話の意味が理解出来たか……この10数分間どんだけ恥ずかしかったんだよ……と呆れていると。

「……ほえ?」

 すんごいすっとぼけた、幼い声を上げて小首を傾げた。

 こいつ、マジかよ。

 まだ余韻が残ってるの? 俺が一回可愛いって言うだけでこんなに引きずるの?

 びっくりだよ、いろはす。

 ……うん、可愛いというフレーズは、必殺技として温存しておいて、然るべきときに不意を突く形で連発してみよう。

 よし、そうと決めたらこいつに可愛いってしばらく言わないぞ。我慢、我慢。

「いや、お前寝起きの小町みてえな声出してんじゃねえよ。可愛いだろうが」

 出し惜しみ出来なかった。1行も待てなかった。

 まあ、小町を引き合いに出しちゃったらそりゃ言っちゃうよね。

 俺としては小町のことを会話に出すイコール可愛いという賛辞がセットで出てくるという式が成り立つので、ごくごく自然な言葉を発したつもりだったのだけれど、一色はそんな俺の台詞に対して、この電車に乗ってから一番の白け顔を見せてくれた。

「うーわ、シスコンだぁ……先輩、やっぱり気持ち悪いですね……」

 すげえ。

 俺への嫌悪感で、一瞬で一色のモードが切り替わった。

 ちょっと凹むけど、これで会話が成り立つならまあ良いだろう。

「今更だろバカ。ほら、この駅じゃねえのか?」

 言ったところで、丁度ドアがぷしゅーと音を立てて開いた。

「え、あ、そうですそうです。なんでもっと早く言ってくれないんですかもー!」

「いや、お前それ理不尽過ぎるだろ……」

 呆れる俺に見向きもせず、それでもしっかり俺の手は掴んで、一色はホームに向かって早足で歩き出した。

 

2.

 駅に降り立ち、益々疑念が募る。なーんかここ最近この近くをよく通ってるような……。

「なあ、一色、これから行くのってやっぱりお前の」

「あ、コンビニ寄りたいんであそこ入りますねー」

 MU☆SHI!

 こいつすげえな! 今の俺の言葉及び俺がコンビニに入るのを是とするかどうかという2つの俺の意志をガン無視したぞ! 別にコンビニくらい良いんだけど! 良いんだけどね!

 俺はまだ経験した事がないけど、こいつの買い物に付き合わされる戸部に少しだけ同情しちまうわ……あ、でも戸部だからいっか。あれ、でも、その役目って今後俺が……え、どうするの? 俺そんな買い物地獄に付き合わされたら死んじゃうよ? ねえいろはす、大丈夫?

「先輩―、ほら早く早くー」

 来たる暗い将来に不安な思いを馳せていると、一色が腰に手を当てて少し屈んで、膨れっ面で俺を急かした。ちくしょう、ここであざとく攻めてくるか……。

「はいはい、わかりましたよ」

 がしがしと頭を掻いて、何とはなしに周りを見渡してから、一色と共にコンビニに足を踏み入れた。

 

3.

 一色はコンビニに入るなり、即座に入口近くのコーナーで足を止める。

 隣でぼーっと立っていても気持ち悪がられるだけだろうと思い、ぶらぶらとコンビニ内を散策し始めた。

 お、ニセコイの新刊出てんじゃん。戸塚はニセコイで言ったら誰かなあ……小野寺さんかなあ? 俺にとっちゃあメインヒロインだしなあ。はっ! まさか、戸塚は俺と一緒の高校に入りたくて受験勉強を頑張ってくれたのか……!?

 抜群にくだらない妄想をしながらぽてぽてと歩いていると、ふとR-18のコーナーが目に入った。……あ、六角八十助先生だ。この人のマンガ、肉感半端ないしラブラブ感出ててすげえ好きなんだよな……。

 と、足を止めて一瞬にやけていたら、横から物凄い嫌悪の視線を感じた。

 ぞっとして振り向くと、一色が品定めしようと身体を屈めたまま、顔だけこちらに向けてごみを見るかの如き目で俺を睨めつけている。

 ……やばい、死ぬ。

 誤魔化そうとして適当に雑誌を手に取って立ち読むフリをしよう。

 表紙が壇蜜だった。

 しかもかなりぎりぎりのセクシー衣装。裸よりエロい。

 罪の上塗り。

 横から感じる負のオーラが跳ね上がった。キメラアントで言うとモラットがいきなりネフェルピトーになるくらいの差。やべえそれすぐ右腕持ってかれちゃう。

 極めて迅速且つ丁寧に壇蜜が表紙の雑誌を戻し、飲み物コーナーに逃げた。マジで逃げた。

 

4.

 適当に二人分の飲み物を見繕って、かごの中身を確認する。

 中身……マッカン×2、その他の飲み物。

 よし、オーケー。一分の隙も無い。

 その他の飲み物で一色からクレームが来ても、マッカンをあげれば黙ってくれるはず。だって千葉県民だもの。

 ……さっき露骨に渋ってたのを思い出した。

 まあ俺が2本飲めば良いかと思い、かごの中身はそのままに一色を探す。

 時間にしてまだ数分しか経っていないのもあるが、まだ一色はさっきのコーナーに居た。

 一色はさっきと同じ少し屈んだ体勢のまま、目線を変えずに口を開く。

「あ、先輩の分の歯ブラシはもうかごに入れてるんで大丈夫ですよー」

「お、おう、おう? んん?」

 え? 歯ブラシ? なんで? それどこの阿良々木家?

 などと思いながら一色のかごを覗くと、更に驚いた。

 歯ブラシに加えて、男物の下着も入っている。

「え、なに、一色って兄弟いるの?」

「えー? 居ないですよー。まあ今日は土曜日ですしねー」

 え、何言ってんの? 飛躍しすぎじゃない?

 でも、え、それなら、え、あ、そうか。

 確かに今日は土曜日だ!

 ということは次の日も休みだ!

 それなら安心だね! 

 ……じゃなくて。

 え、え、え?

 頭の中がクレヨンしんちゃんばりにパニクっている。

「ま、こんなもんかな」

 パニックパニックしてオラはにんきものーなどと思っていると、一色が一仕事終えた様な表情で身体を起こした。

 そして俺を見て、にぱっと笑う。

「じゃ、買っちゃいましょう!」

 言った直後に、俺のかごの中身を見て、うへぇと唸りながら、

「……またマッカンですかー?」

 と、不満たらたらの顔でぼやいた。

 ……こいつ……一応お前の分もと思って買ったらこれかよ……! 確かにさっき渋ってたのをもう忘れてた俺もアレだけど!

 心の中でトトロのメイちゃんばりに髪を逆立てて怒っていると、一色が俺にぎりぎり聞こえるくらいの声で、

「でも、これから慣れていかなくちゃなぁ……そこは頑張るかぁ……」

 と、ぽしょりと呟くのが聞こえた。

 うぐっ。

 あぶねえ。

 悶えて死ぬとこだった。

 コンビニの日用品コーナーの前で悶え死にとか比企谷家末代までの恥だわ。小町が居るからうちの家系は続くはず。

 心臓を押さえて心を落ち着けていると、一色が急に俺の腕に絡んできた。おい、また落ち着かなくなるから! ほんとに!

「じゃ、買っちゃいましょう?」

「お、おう。じゃあ俺がまとめて払うわ」

 言って一色のかごから品物をひょいと取って俺のかごに入れると、一色が一瞬きょとんとした顔になる。

「えー、いいですよー。わたしが買おうとして入れたんですし」

「でもこれ、多分全部俺用だろ?」

 この、お泊まりセット……。

「むー、そうですけどー……」

 一色がぷーっと頬を膨らませる。指で押して空気をぷひーと吐き出させてやりたい。

 ……ていうか、否定されなかった……。

 まあ、なるようにしかならないだろう。……うん、うん。大丈夫かな? かな?

「これくらいなんてことねえよ、気にすんな」

 あんまりここで押し問答をしてもしょうがないので、一色の頭をぽんぽんと撫でて会話を切り上げると、さっさとレジに向かう。

 一色は俺に撫でられると気持ち良さそうにあうあうと唸った後、さっきよりも頬を膨らませて俺を恨めし気に見た。

 結局払っちゃうんですねーとぼやいて、口を尖らせる。

「先輩のくせに生意気です……」

「後輩のくせに生意気です……」

 このオウム返しは前もしたなあと思いながら、レジで店員にポイントカードを渡した。

 

 

 

 続く。

 




のほほんと。前回前々回が小町全開だったので、もう全力で息抜きしました。
平和の極みだったので、連投で行こうと思います。

今週はいろはすがもう1~2話、ガハマさん2話連投、小町1話、その他くらいの割合になるかと思います。

R-18での累計ランキングが4位まで上がりました……!!!
トップ10周辺の作品はみな1~3年以上前から始まっている中、まだ2ヶ月半程度しか連載していないこの作品がここまで昇ってこられたのは皆さんのおかげです。もう、めっちゃありがとうございます、本当に。
これからもどうぞよろしくお願いします(^^)


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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