1.
一色に手を引かれるままに進むと、彼女が先にベッドに上がり、女の子座りをしてその隣をぽふぽふと叩いた。はいはい、座りますよ……。
一色に相対するように腰を下ろして胡坐をかくと、なんだか勉強をしない娘を叱る父親みたいな構図になった。
「……寝る、んだよな?」
俺が漫然と胡坐をかいていても何も言ってこないところからすると、別にこの行動は間違いではないらしい。しかしそれはそれで、この後の展開が分からなくて困ってしまう。
「はい。……まあ、ゆっくりしましょ?」
艶っぽく目を細める一色の大人びた表情に、心臓が爆発するのではないかと思う程に跳ね上がる。
言われて時計を見れば、まだ午後2時を回った所だった。
……まだ、めっちゃ時間あるんじゃん……。
この後のことを思って、異様なまでの期待に胸を震わせていると。
「とーう!」
「うおっ!?」
一色が俺にタックルをして、あっさりと倒されてしまった。超弱いな俺。
ベッドの枕を背に座っていたので、枕の上に収まり良く寝そべるような形になった。
……え、何この死ぬ程恥ずかしい状態?
「えへへー、せんぱーい、せんぱーい……」
「……っ」
一色は親猫にじゃれつく子猫のような甘えた声で、俺の腹に頬をすりすりしてくる。
振る舞いは子供みたいでも身体がは大人なんだから自覚してください! どこがとは言わないけど柔らかくて危ないよ! 何なの、どこの邪神三姉妹の三女なのん?
ていうか、やばい。何がやばいってマジでやばい。
何だこの可愛い生き物。
ちょっと前までのあざとい感じがもう本当にどっか行った感じ。
正確に言えば、あざとさを出す時もその気持ちが全力で俺に向けられているのが分かってしまって、恥ずかしさで死にそうになってる。
「ふへへぇ……」
変態じみた声を出し始めた……。
あ、ちょっと身体をよじ登ってきた。
俺の胸に顔をうずめると、これまた幸せそうに頬ずりをしてくる。
「…………」
取り敢えず。
撫でた。
背中を抱きながら、頭をくしゃくしゃと。
「はう……」
ちょっと顔を赤らめながらも頬ずりはやめない。やめないのかよ。そろそろ恥ずかしくて死んじゃうよ? 俺が。
――不意に。
「先輩、わたし、重くないですか?」
一色が不安げに顔を上げて、俺に問うてきた。
確かに、今の2人の体勢は、仰向けで寝ている俺に一色が覆いかぶさっている状態で、俺は一色の体重をもろに感じていることになる。
けれど、いくらベッドのクッションのおかげで負担も減っているとはいえ、答えの内容は変わらない。
「全然。ていうか軽すぎてびっくりしてる。お前普段何食ってんの? わたあめ?」
身体の匂いも甘いし。なんなの? 食べちゃうよ?
ごくごく自然に言ったつもりだったんだが、一色は目をぱちくりとさせた後、急に目を泳がせた。
「あ、そ、そそ、そうですか……それなら良かったです……」
……これは、照れてるんだろうか? まあ、きっとそうなんだろう。
今のが褒め言葉に該当するのかは分からないけれど、一色は褒め言葉にめっぽう弱いらしいというのは最近何となく分かってきた。
まだ照れているのか、眉根を困ったように寄せていたかと思うと、
「うにゅ……」
今度は俺の頬に頬ずりしてきた。
まさかの奇襲。しかもより強力な攻撃になった。
「うお……っ」
対応力0で、情けない声を出す。
やめろやめろ甘い良い匂い柔らかい可愛い柔らかい可愛い可愛い可愛い! どんだけ可愛いんだよ。
ていうか、こいつ目的忘れてないか?
「こらっ」
「はうっ」
一色の頬を両手で挟むと、俺との密着状態から離脱させた。
まだ頬ずりしていたかったのか、一色は何とも不満そうな顔をしている。
「お前、寝るんじゃなかったのかよ」
聞くと、一色は下唇を指で押し上げて、うーんと唸った。
「そうなんですけど……あ、そうだ」
何か思い付いたのか、きゃるんとした笑顔を作る。
「おやすみのチュウ、じゃあちょっと足りないので、わたしが寝るまでチュウしててください」
「…………」
…………。
びっくりしすぎて。
「……は?」
極めて淡泊な反応をしてしまった。
俺の訝しげな表情をみて、一色がむーと頬を膨らませる。
「むう……ダメなんですか?」
「や、寝るまでってどういう……ん……っ?」
俺が事態を呑み込めていないうちに、一色が俺の上に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。
「んっ、んむっ、んちゅっ、ちゅるるるっ、れろっ、れるっ、ちゅるっ、れちゅっ、はむっ、んんっ、んんっ、あむっ、んんん……っ」
「……っ!」
こいつ、はなから全開じゃねえか!
俺の耳に手を添え、細く色っぽい肢体を悩ましげにくねらせながら万遍なく密着して、恍惚とした表情で俺の口内を貪る。
じゅるっ、ぴちゃっ、ちゅうぅっ。
口付けに伴う様々な音が、耳を覆われていることではっきりと脳内に響く。
もちろん下腹部は大いに反応してしまい、屹立したものの存在に一色は気付いて、一瞬驚きと羞恥の表情を見せた。
だが今はそれよりも口付けを優先したのか、動揺したのはほんの一瞬ですぐまた口内を蹂躙してくる。
「あむっ、ぴちゃっ、んぁっ、あはっ、先輩、先輩、せんぱいぃ……じゅるるる……っ」
時折口を離して俺の唇をついばむように味わっては、愛おしそうに俺を呼んで、また口付けに没頭する。
……こいつ、寝る気あんの?
一方的に良いようにやられながらも、これ俺が反撃したら本格的にこいつ寝れなくなるよな……などと考えていると、一色の身体が不意に横に動いた。
「……っ?」
一色はゆっくりと俺の横に身体をずらすと、首と身体を横に向けるよう俺に促して、口付けは続けながらも決して無理の無い速度でゆっくりと同じ枕の上に倒れ込む。
「んちゅっ、ちゅっ、ちゅぴっ、ちゅぷ……ぷはっ。えへへ……」
「……お、お前、どうい――」
――「どういうつもりだ」と聞くまでもなく。
一色は俺と同じように横向きで寝転がり、俺の方を向いた状態で、再び俺の唇に吸い付いてきた。
今さっきまでと同じように俺の耳に手を添えると、一色が蠱惑的に目を細める。
「ちゅるっ、にちゅっ、ちゅぱ……っ、んはぁっ、はふっ、んちゅるっ、じゅるっ、じゅぱっ、ちゅるじゅるる……っ」
「~~~っ!? ~~~!」
脳髄に響く水音が、どんどん大きく、そしていやらしくなっていく。
一色は俺の耳を塞ぎつつも、細い指でしゅるしゅると耳たぶを触り、耳全体を沿うように撫で回してくる。
……や、こいつ。
寝る気、本当にあるのん?
質問さえさせてくれないし。
目の前にいる、可愛すぎて意味分からん少女をひん剥かないように必死で我慢しながら、よく考えたらまだ布団もかぶってねえじゃん、今はまだ良いけどこれいざ寝たら風邪引いちまうだろ……などという考えが頭を過ぎった。俺が風邪を引いて、受験を目前に控えた小町に移しちゃったりしたら、ね! そういうことだから!
「……っ」
一色の口嬲りに耐えながらも(耐えられてない)何とか掛布団に手を伸ばすと、自分たちの上に一気に被せた。
「わぷ……っ?」
口付けに夢中になっていた一色も、流石に驚いて口を離す。
「……ありがとうございます」
素直に礼を言ってくれた。結構嬉しい。
「どういたしまして。……お前、うっすら汗かいてんじゃねえか。着替えた意味無くなるぞ」
指摘すると、一色は俺から目を逸らして、いつもよりも子供っぽく拗ねて見せる。
「うー……だって……キス、したかったんですもん……」
唸りながらもぽそりと告げて、俺の顔をちら見する。
…………。
死ぬ。
マウンド上で、どのコースに投げるのかを、キャッチャーとアイコンタクトで相談するピッチャーよろしく背中に手をやり、激しくわきわきさせる。や、ほんとまずい。
「……寝られる程度にしとけ」
いやそれどんな程度だよと心の中で自分にツッコミを入れながら、一色の頭をムツゴロウばりにわしゃわしゃーと撫でてやると、あうあう言って手を重ねてきた。さりげなくその指を絡めるのやめなさい! 興奮するから!
「……仕方ないですね、従ってあげます」
なんでこいつ偉そうなんだ……。
まあ、これでやっと落ち着い――。
「ちゅっ」
「んっ」
キスされた。
しかし、このくらいならまあ――。
「ちゅっ」
「んむっ」
また。
キスされた。
一色の手は俺の胸元に置かれていて、キスをするときに背伸びするように首をにゅいっと伸ばす感じがたまらなく可愛い。
……や、そうじゃなくて。
なんでこの子連発して――。
「ちゅっ」
「…………」
はーん!?
1回1回は軽いけど! 連発ってなに!? はーん!?
「えへへ……これくらいだと却って落ち着きます」
なんでだよ。俺心臓ばっくばく言ってんぞ。
しかし一色は言葉の通りと言っていいのか、ちょっとずつ目がとろんとしてきた。
……どうやら、本格的に疲れが出てきたんだろう。
「そうかそうか。じゃあそろそ――」
「ちゅっ」
やめねえのかよ!
好きすぎるだろ、キス!
そんなに!? ねえ、そんなに!?
俺の手は背中で王蟲ばりにわしゃわしゃと動いてます。らんーらんらららんらんらん……。
「えへへ……せんぱい……」
キスをしては、てろてろに蕩けた笑みを浮かべて、たまに俺を呼んで、んーと幼い声を出しながら俺の胸元に顔をうずめてすりすりする。
この謎の鬼かわいいローテーションが、しばらく続いた。
2.
「……すう……すう……」
謎鬼かわ(謎の鬼かわいい)ローテーションを幾度となく繰り返して、俺の頬が本気で緩みそうになった頃、俺の胸元で安らかな寝息が聞こえてきた。
「……寝顔、幼いんだな……」
聞こえることは無いと分かっていながら独りごちると、一色の髪を手櫛で梳く。
亜麻色の髪の感触は柔らかで、持ち上げて手を離すとはらりと舞い落ちて、甘い香りがふわりと漂った。
……うーん。
俺、寝れるかなあ。
どきどきしすぎて、もう。
そんな心配もしていたのだけれど、結局、一色の髪に顔をくっつけて寝ると、妙な安心感によりすぐ眠りに就いた。
……やべえ、昼寝の密度が超上りそう。
続く。
!!!祝☆100話!!!
皆さん、いつもありがとうございます。
3月3日にTwitterで小町の誕生日を祝うツイートを見付けて、そこで初めて俺ガイルの存在を知り、そこからまずアニメを見て(アニメで最初に見たシーンは小町の「ジャムってる」のくだりでした。……始まりは小町からだった……!)、超速で1巻から10.5巻まで読み進めている途中でこの作品を書き始めて、気付けば100話達成、そして手元には今日買った11巻。感無量です。
今回の後書きは、11巻のこと(ネタバレはしませんので)を絡めつつ色々書きます。今後のアイディアも書くので、気が向いたらお読みになって下さいませ。
11巻を途中まで読んだんですが、10.5巻までを読む時と違って、各キャラについてひたすら書きまくった後に触れたので、何というか解像度・分解能が思い切り上がった感じがします。もちろん作品への愛情も大幅にパワーアップしております。
ちなみに今の時点でネタバレにならない感想を一言だけ。
盟神探湯www
ここだけ触れると、ささみさん@がんばらないの世界観みたいですね。最近読み始めました。あの温度感がすごい好きです。
超脱線。
11巻のおかげで、アイディアとモチベーションがもりもり湧いてきました。
今書いているゆきのん・ガハマさん・いろはすの各エピソードを書き終えたら、「バレンタイン編」という括りにして、各話のタイトルで誰のエピソードか分かるようにして、八幡とくっついた後のバレンタインという設定で話を書くのもありかなーと思いました。
あと、ガハマさんはめぐりんを「城廻先輩」と呼ぶ事が判明しましたので、訂正しておきました。1ヶ所しか無いですが。
11巻発売を機に、各二次小説へのアクセスも増えるのかなーと思いました。ふらっと立ち寄った方が少しでも多く常連さんになってくれるよう、力を入れていきたいと思います!
明日は誰の話を更新するか、まだ決めていません。11巻を読みつつ考えます。今回の後書きで11巻って何回書いてるんだろう。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!