「ん……」
昼寝から目を覚ますと、電灯に少し目が眩んだ。
明かりが点きっぱなしだった部屋の中を見回すと、カーテンの隙間から覗く外がすっかり暗くなっていた。
寝ぼけ眼をこすり、一色のベッドに置いてある時計を見る。
「5時……か」
昼ご飯を食べて、クッキーとコーヒーを頂いて、その、まあ、なんやかんやあって。
……寝ていたのは、大体3時間くらいだろうか。
睡眠時間としてはキリの良い時間なんだろうけれど、昼寝としてはかなりがっつりの部類に入ると思う。
……ていうか、寝すぎじゃない? どんだけ安らいでたんだ、俺……と。
「おーい、一色、起きろー」
……こいつ、ね。
一色が俺の胸元に綺麗にくっついてるおかげで、部屋を見回すにも時計を確認するにもひと苦労だった。
「おーい」
「…………すう、すう……」
…………。
……全然起きねえ。
やっぱり寝顔もすげえ可愛いな、一色……とか思って死にそうになった。
引き続き、起こす努力を続けてみる。
「おーい……起きないと、その、なんか、するぞー……」
すげえ変態みたいなこと言っちゃった。ていうか完全にアウトだな。
「…………すう……すう……」
……こんなことを言っても、まだ起きない。超安らか。睫毛長いな……。
……うん。
なんか、する!
という訳で、取り敢えず、耳をこしょこしょ。
一色の左耳をそっと撫で回す。
こしょこしょ。
触り始めた途端に、一色の身体がぴくりと動いた。
「ふあ……んん……すう……すう……」
……起きないんかい。
今度はもうちょっと盛大に。
こしょこしょこしょこしょ。
「ん……っ、ふぅ……っ、あっ、あん……っ」
「……っ」
やべえ。
死ぬ。
しかも完全なる自爆。
だがしかし、負けぬ! 何にだ。
ここからどうしたものか――と考えた結果、一色の後頭部を右手で押さえて首の角度を少しだけ変え、さっきから責めている左耳を舐めてみる。
「ちゅっ、ちゅぴっ、ぴちゃっ、んん……」
分かりやすく水音を立てながら舐めると、一色の反応が一気に増す。
「ふぅ……っ! んっ、くひぃんっ、はぅっ、ひっ、ひん……っ、ひぃん……すう、すう……」
「…………」
なんか、もう。
俄然やる気が出てきました、僕。
いや、何のやる気だよ。
一色は反応すればする程、俺の胸元に更にうずくまってくる。
ばかめぇ、そこは行き止まりだぁ……! 今なら誰も見てないからキモいこと考え放題だぜぇ。いつもは考えただけで誰かしら(一色とか小町とか)に見透かされるから今はすごい解放感があるぜえ!
という訳で。
もう少し、舐めてみる。
「ぴちゃぴちゃっ、ちゅりっ、ちゅりゅっ、れろっ、ちゅぴっ、ちゅっ、ぴちゃぴちゃ……」
「あうぅっ、あぇっ、ひんっ、ひぅぅっ、あぅぅぅ……あぅぅぅぅ……」
一色の声が、寝ながらではあるものの、どんどん間延びした、官能的な響きになってきた。
これはもう、止まらない――!
――と。
「……先輩」
「あひゃいっ!?」
突然呼ばれて、面白い程情けない声が出た。
そろりと胸元を見ると、一色が俺にジト目を向けている。
「え、えーと……おはよう?」
「おはようございます、えーと……比企谷ルパン先輩?」
「…………」
や。
たぶん。
ルパン3世はこんなねちっこいことしないと思う。
「そうですね、先輩の方がよっぽどねちっこいです」
……読まれた。
「それに……すごい、やらしいです。先輩に呼ばれたような気がしたなって思ったそのすぐ後から、耳が妙に気持ち良……変な感じになってたから目を覚ましたら……」
「あれ? 今、気持ち良いって言いかけ――」
「先輩は変態ですね」
「うぐっ……」
揚げ足取りをしようとしたけれど。
カウンターで、ぐうの音も出なくなった。
「や……その、すまん。起こそうとしてたら段々と……な」
頭をぽそぽそと掻きながら謝ると、一色はふっと息を吐いて、ふわりと優しい笑みを浮かべた。
「まあ……しょうがないですね、それだけわたしが魅力的だということですね!」
「あ……あ、ああ」
一色の冗談めいた調子に、顔を赤らめて変に本気のリアクションをしてしまったため、
「あ……あう、ま、そ、そういうこと……で……」
一色に対して、予期せぬカウンターを食らわせてしまった。
「ああもう……先輩はこういうところあざといんだよなぁ……」
一色が俺の胸元でやたら恥ずかしいことをぶつぶつ言ってるので、頭をくしゃくしゃと撫でた。
うーん。
この子、ちょっと、可愛すぎる。
× × ×
「ていうか実際、そろそろ起きた方が良いと思うぞ?」
一通りのやりとりを終えてから、一色はむにゃむにゃ言いながら、俺の胸でころころと甘えている。ちょっと死にそう。
「うーん……今、何時ですか?」
「5時過ぎってとこだな」
「うーん……もうちょっと……」
「平日の朝みてえなこと言うな。今の時間帯がどうのっていうよりは、これ以上寝ると夜寝付けなくなるぞってことだよ」
ごく普通の調子で言ったはずなのだけれど、言葉を掛けた瞬間、一色の動きがぴたりと止まった。
微かに、息が荒い。
俺の胸にそっと手を当てて、まるで俺の心音を確かめるかのように手の平を押し当てながら、潤んだ目を俺に向けた。
「夜……別にいいじゃないですか」
「……え」
「……寝なきゃ、良いじゃない、です、か……」
「……っ」
一色の瞳と声が揺れる。
心が、ひどくざわついた。
この言葉を否定する意味、必要性も、全く無かった。
だから、
「……あ、ああ、そ、そう、だな……」
小刻みに震える声で、何とか返事をした。
俺の言葉を聞いて、一色が目を細める様を見ると、身体の奥底が灼熱の如く煮え滾る感覚を覚えた。
夜を待たずに今やろうとしても罰は当たらないのでは――などと考えていたら。
一色が表情をかちっと切り替えて、きゃるんと笑みを浮かべた。
「それじゃ、もうちょっと寝ていいですよね」
「あ、ああ……え、あれ? ん、あれ?」
「はーい、決定でーす。二度寝二度寝~……すう、すう……」
はやっ。
……なんか。
いつの間にか、もうちょい寝る流れになっちゃった。
× × ×
「……せーんぱい」
「……どうした?」
「……せーんぱい、せんぱい、せんぱい……えへへ……」
「…………」
現在、時刻は6時過ぎ。
一色は、少し寝てすぐ起きてから、俺の胸元で絶賛ころころ継続中。
しかも俺のことを幾度となく呼ぶだけ呼んでにへっと笑って終わりという、ただただ恥ずかしいやりとりを延々と繰り返している。
これ、地味にライフ削られる。恥ずかし過ぎて。
今こうやって一色と寝ていて分かったことが1つある。
この子は、眠いと妙に幼くなるようだ。
俺を呼ぶ時の表情も、笑うときの仕草や声音も、明らかにいつもと比べて幼い。
油断しきったこの子はこんな風になるのか――と思うと、ちょっと悶えて死にそう。
……それにしても。
「……流石に、そろそろ起きないとまずくないか? その、夕食の支度とか、あるだろ?」
言うと、一色がむむむと眉を顰めて顔を上げた。
「むー……たしかにそうですね……でもまだこうしてたいなー……」
「やめろやめろ。恥ずかしくて俺の残機はとっくに0になってもはや3回くらいコンティニューしてんだぞ」
言うと、一色はむーんと唸りながら再び俺の胸元でころころする。こいつ、気に入りやがったな……。
ていうか話聞いてねえ。猫みたい。
「はー……あったかーい……えへへ……」
……くっそ! 可愛いから何も言えねえ! くっそ!
一色の背中に回して右手を変幻自在にわきわきさせて必死で欲求を抑えていると、一色が何か閃いたように目を見開いた。
……目覚めのキスとか要求してきたら、ほっぺたを引っ張ろう。左右にびろーんて。
一色は妖しげに不敵な笑みを浮かべたかと思うと、にぱっと微笑んだ。
「わたし、もうちょっと目が覚めないととてもご飯なんて作れそうにないので……目覚めのキスいひゃいいひゃいいひゃいっ!?」
「…………」
はい、びろーん。
こいつ、マジかよ。
俺を恥ずかしさで殺す気だ。
「らんれすかー(何ですかー)! らんらんれすかー(何なんですかー)!」
両頬をみょいーんと引っ張られた状態で、一色は懸命に抗議してくる。やだこの子かわいい……。
「お前、俺のチキン具合をなめんなよ。そんな恥ずかしいことが出来ると思ってんのか」
言って、既に引っ張っている頬を更に上下にうにうにと動かして弄んだ後、やっとこさ解放する。
引っ張られていた頬を手でさすりながら、一色がジト目を向けてきた。
「……寝る前。胸。下の方。おしおき」
「うぐっ」
なんか、検索ワードみたいなまくし立て方をされた。下の方ってぼかし方が絶妙とかどうでも良いことを考えてしまった。
……うん、恥ずかしいこと、超してたわ、俺。
敗北感を漂わせる俺を見て一色は満足気に頷くと、にこりと微笑んだ。
「さ、そういうことで、先輩が好きなようにして良いですよ! ただし、キスだけ……ですからね?」
――んん?
ぴくり、と俺のアンテナ(アホ毛)が反応する。
「……好きなように、って言ったな?」
「え、あ、え? あ、はい……でも、キスだけ、で、すよ……?」
「そうか、そうかそうか……」
甘い、甘い、甘い。
マッ缶に角砂糖を入れたものより甘いぞ、一色。それもはやただの砂糖だな。
一色は今「キスだけ」という点を強調したかったのだろうが、俺はそこは大して問題にしていない。
大事なのは「好きなように」という点だ。
「一色」
「え、は、はい……」
明らかに俺の目が嗜虐的なものに変わっているのを察して、一色が縮こまる。
「仰向けになってくれるか?」
「は、はい……っ」
出来るだけ優しく言ったつもりだけれど、一色のびびり具合は変わらない。
一色がころりと仰向けになると、俺はその上に馬乗りになった。
「え、せ、先輩……?」
一色、びびりまくりである。もはやMAXびびり。
「一色、お前の言い方からすると、『好きなように』『キスを』して良い、ってことなんだよな?」
「え、あ、はあ、まあ、そうで……す、ね」
俺からどんな屁理屈が飛び出すのかと不安がっているのが手に取るように分かる。やべえ、俺の日頃の行いの成果がすげえ出てる。
俺は意図的に、嗜虐的で、凄惨な笑いを浮かべた。
「そうか、じゃあ、『どれだけ激しく』『色々な場所にキス』しても文句は無いよな?」
「え、あ、え……ひっ、ひぃん……っ」
一色の目に明らかに怯えの色が宿る。
でも、この目は何度か見た事がある。
一色が自分から「おしおき」を望んだときの目だ。
たまらず、ごくり、と生唾を飲み込む。
「大丈夫、脱がせたりはしないし、お前の上半身しか責めないから」
「え、あ、う、うそ、だって、先輩、それじゃ――」
一色が言葉を言い終えるのを待たずに。
俺は、一色の上にのしかかった。
続く。
20話の大台突入です。マジか。しかも書き終わるまでまだまだかかりそう。終わりまで可愛く書くよう頑張ります。
書いていて初めて砂糖を吐きそうになりました。いろはす、マジか。ここまで行くのか、みたいな感じです。嬉しい誤算です。次回は微エロです。
小町及びめぐりん編のコメント数が半端ないです!!wいやはや、凄い人気ですわ2人とも……。
楽しんで書こうと思いますー(^^)
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!