「先輩。さ、行きましょ?」
部屋を出ようとすると、半歩前から一色が俺の手を引いた。
「お、おう……」
するりと絡んだ指の感触にどきりとする。なんだよ俺、ウブかよ。
……これよりももっとすごい事、いっぱいしてるはずなんだけどなあ……。
どうにも、この子には振り回されっぱなしだ。
「どうしました?」
「……や、なんでもねえよ」
くりっと首を傾げて尋ねる一色にまたどきっとしながら、目を逸らして答えた。
× × ×
「じゃ、先輩はここで待っててくださいね」
「ああ、わかっ……!?」
「んふふ~」
ソファに座った俺に、一色が立ったまま抱き付いて首筋にキスしてきた。
……いかん、一色の翻弄されっ放しだ。お釈迦様の手の上の悟空ばりに踊らされてる。ううむ……。
ちゃっちゃかとエプロンを着て料理を始める一色の背中を見て、いきなり抱き付いたらどんな反応をするかなーなどと末期なことを考えた。やんないけどね、多分。うん……多分。
× × ×
「…………」
「ふんふふんふ~ん……」
鼻唄混じりに楽しそうに料理をする一色を、幾度と無く見やる。
一度はテレビを点けてみたりもしたのだけれど、今は2人だけのこの空間に他の音や光は出来るだけ入れたくなかった。どんなに楽しいトークも、どんなに感動的な歌や映画も、今はノイズにしかならない。
一応本を手に持ってはいるのだけれど、まるで頭に入ってこない。あれ、なんかいつの間にか妹に肩車されてる主人公がいる……どういう流れ?
2人の間に流れる空気は穏やかで、会話が無くとも、一色の鼻唄一つでこの空間が満たされる。
――しかし。
不意に、一色が俺をちらりと見た。
その、ほんの僅かな流し目が、たまらない程扇情的で。
穏やかな空間に、妖しい色をした細い糸が何本も紛れ込む。
「…………っ」
居てもたっても居られなくなり、急にそわそわし始める。
やがて、我慢出来なくなって、
――ぱたり、と。
徐に本を閉じて、ふらりと台所へと足を運ぶ。
「…………」
一色は一瞬調理の手を止めたが、こちらを見ることなくまたすぐに作業を始めた。
まるで甘い水に誘い寄せられる蛍のように、おぼつかない足取りで一色の背中に近付く。
「……どうしたんですか?」
一色の言葉に、足を止める。
「……や、その……」
言葉が咄嗟に出ることはなかった。正確に言えば、喉元まで出かかっているという段階ですらなく、伝えたい言葉をお腹の中で生成してさえいなかった。
ここでやっと思考を始める。
近付いたからといって、いきなり何かしてしまえば一色の邪魔になるだけでなく、怪我の危険性さえある。だから、何も出来ない。
それでも、ただ、漠然と。
……一色の近くに居たかった。
やっと生まれた言葉を、しかしそのまま口に出すのは恥ずかしくて。
「……ちょっと、あそこは遠いなーって……」
ふわっとした言い方になった。
何この恥ずかしい暴露と思い、頭をがしがしと掻く。……うわ、超恥ずかしい。
何とか口にした言葉を、一色はどう取るのか――と彼女の顔を見やると。
「……ふふ。先輩、ちょっとこれ見てくれますか?」
「ん? おう、どれどれ」
一色が鍋の火を止めて、ちょいちょいと手招きをする。指の動きは手招きをするのにその緩慢さは要らないだろうと思うくらいにゆっくりとしていて、一本一本の指が波打つ姿にひどく胸がざわつく。
一色が見せたのは、鍋の中でことこと煮込まれているシチューだった。
……うん、美味そうだ。
「どうですか?」
何その鬼みたいなフリ? 2行前の感想と同じやつしか浮かばないぞ?
しかしここで下手に躊躇すればポイントを下げてしまう。他人のポイントの上下なんて普段はまるで気にしないが、今の一色は別だ。あとは小町と、戸塚。俺が媚びへつらう対象となる3人だ。何だこのカミングアウト。
うーんと唸り、なんとか答えを捻り出そうと苦心する。
その結果。
「うん、美味そうだ」
地の文と同じだった。ボキャ貧を露呈する。まあ、俺が彦摩呂ばりの表現を駆使したら、それはそれで一色がドン引きするんだろうけど。あれ、逃げ道無くない?
……これ、怒られるんじゃなかろうか……と思っていたが、そんなことはなく。
一色は感想を聞いて一瞬目をぱちくりさせると、優しくふっと目を細めた。
「……ん、良かったです。……ほっ。」
安心して小さく息を吐く姿が、妙に愛嬌がある。わー抱きしめていいかしら。さっきは「多分」やらないとしか言ってないから良いよね? ね?
手をわきわきさせていると、ふと一色の行動に目が行く。
小皿に鍋の中の具材とスープを入れたかと思うと、
「ふー、ふー、ふー……」
念入りに冷まし始めた。息を吹きかける唇の形を見て、キスの瞬間の一色の唇を思い出して思わず目を逸らす。
「先輩先輩」
「ん」
目を逸らしていると、一色に呼ばれたので振り向いた。
――と。
「えいっ!」
一色の指と、それに挟まれた具材らしきものが口の中に突っ込まれる。
……なんで指で? あ、箸だと危ないからか。
混乱しつつもそんな一色の気遣いについて考えていると、一色がにこりと微笑む。
「先輩、美味しいですか?」
聞かれながら、口の中をもぐもぐ。
口の中に入れられたのは鶏肉だったのだが、良い塩梅に柔らかく煮込まれていてとても食べやすい。味も程よく染みてている。
「……ん、美味いぞ」
言って、一色の頭をぽんぽんと撫でると、一色はこそばゆそうに「あう……」と呻いた。ちょっと可愛すぎて死んじゃう。
「やった……。よし、じゃあ次は……」
「え……」
次に一色が差し出したのは、人参だった。
「ほれほーお(これどーぞ)」
「…………」
…………。
や、人参自体は良いのだけれど……なんで君が唇に咥えてはんねやろ? 思わずはんなりしちゃった。
「ん……」
「…………っ」
うっとりとした表情を浮かべた後に目を閉じないでー! 俺にこの後の展開を委ねないでー! くっそ、恥ずかしい、くっそ!
内心死にそうになりながら、唇を重ねる。
――ちゅるん。
「んむ……っ!?」
唇を重ねた瞬間、一色は俺の中に人参を舌で押し込んだ。
シチューのスープの味と、野菜特有の甘味を感じた、次の瞬間。
一色が俺の背中に腕を回し、ぐっと密着する。
「ちゅぴっ、くちゅくちゅ、ぐちゅ、じゅぷぷ、んちゅるっ、ずりゅっ、ちゅぱっ、ちゅぴちゅぴ……ちゅぴゅっ、じゅるる……じゅるるる……」
「~~~~~~~~~~~~っ」
突然の蹂躙に、反射で一色の身体を抱き返した。
それにより一色とのキスが更に濃厚なものとなり、まるで炎天下のアスファルトに投げ出された氷のように、理性がどろどろに溶けていく。
「あっ、んぐっ、じゅぷっ……ぷはっ、い、一色……んぐっ!?」
少しでも唇を離そうものなら、腕に力を入れられてまた唇を奪われる。
「じゅぷるっ、くちゅっ、ちゅぱっ、ちゅぴゅ、んむうっ、あむっ、あむっ、じゅるるる……ちゅぱっ」
口に入れられた人参が、元々柔らかくなっていたとは言え、気付けば全く噛むことなく無くなってしまっていた。
人参と一緒に思考まで溶け落ちて、視界が揺らぐ。
「……んむっ……!?」
不意に、一色の手がこちらの下の方に伸び、チャックに手を掛けて躊躇なく下ろした。
片手を俺の後頭部に回して俺とのキスは続けたままで、もう一方の手は波打つように指をうねらせて股間をまさぐり、パンツをずり下ろす。
そしてそのままぶるりと肉棒が外気に晒されると、一色は唇を離し、発情しきった雌の顔を見せつけてくる。
「……はっ、はっ、はっ……せんぱいの、すご、硬い……硬いよお……」
「……っ」
俺の胸元に顔をうずめ、すーはーと荒く匂いを嗅ぐ音を立てながら、愛おしそうに肉茎に指を這わせる。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……?
俺、たしか一色が料理してるところを覗きに行って、それから……。
「――せんぱい、ちょっとだけ腰落としてもらって良いですか?」
「え? あ、お、おう」
ぼんやりした記憶の糸を手繰り寄せていると、不意にその思考が一色のお願いにより掻き消された。
僅かに膝を開いて、腰を落とす。不格好にならざるを得ないけど、こんな感じか……?
「ありがとうございます。……んっ」
――にゅるん。
「うおあっ!?」
一色が礼を言って、微笑んだ瞬間。
一色の指に招かれて、白い太腿の狭間に亀頭が――食べられた。
既に我慢汁が大量に滲んでいた為、柔らかな肉の間にあっさりと吸い込まれる。
一色の秘部から僅かに離れてはいるが、この場所も確かな熱を帯びていて、そして――
「……一色、お前、濡れてんむっ?」
一色の局部から肉棒に滴る熱い液体を指摘しようとすると、唇に人差し指を当てられた。
「もう……そういう恥ずかしいのは言いっこなしですよ。それにしても、せんぱいったら、こんなに硬くして……後でって言ったのに、いけない子ですね……」
そんなこと言っといて、さっき俺のをたっぷり咥えてたのはどこのどいつだ――なんてツッコミをしようかとも思ったけれど。
にゅこっ、にゅこっ、ぬこ、にゅるっ、くにゅにゅ……。
「あっ、あっ、あっ……せんぱいの、くひぃんっ、熱っ、熱いよお……あっ、あうっ、ああっ……」
一色がゆっくりと腰を前後して、太腿の狭間での抽送を開始すると、あっと言う間にそんな思考も吹き飛んだ。
「あっ、おああ……っ」
あまりの心地良さに、がに股になった足ががくがくと揺れる。
「ひっく、あう、せんぱいの、熱いよ、硬いよ、気持ち良いよ、変な感じ……くひぃん……っ」
「あっ、うあっ……」
耳元で一色が絶えず送り込んでくるいやらしい言葉によって、肉棒にどんどんと血液が流れ込み、その硬度が恐いくらいに増していく。
一色が腰をゆっくり前に突き出すと、俺もそれに合わせて腰を前に。
同様に、一色が腰をゆっくり後ろに引くと、俺もそれに合わせて腰を後ろに。
時折、一色は腰を左右に揺らしながら前後してくるため、違う角度から柔肉に締め付けられて、それだけで果ててしまいそうになる。
この疑似交尾に、頭がおかしくなりそうだった。
「せんぱい……んちゅっ、ちゅぴっ、ちゅるる、れる、れるれる、ちゅぷっ、んはあっ、ちゅるる、くちゅ、ちゅくちゅく、ちゅぱっ、ぷちゅ、ぷちゅちゅ……」
互いの口内を舐り合い、肉棒と太腿をたっぷり味わう。
一色の太腿に肉棒がにゅくにゅくと絞められ続けて、そろそろ限界が近い。
「一色、俺、そろそ……ろ……?」
出そうだー―と言おうとすると。
一色が腰を引いて、肉棒が彼女の太腿からにゅぽんと抜けた。
「え……」
戸惑う俺に、一色がにやりと笑う。
「……もう。……台所に一杯出しちゃったら後片付けが大変じゃないですか。……だから、もう少し我慢してくださいね」
「……な……っ」
絶句した。
……はーん!? ここまでやっといて!? はーん!? 爆発寸前なんですけど!?
ありったけの恨みがましい目で見つめると、一色がんーと唸って、蠱惑的に笑う。
「……そうですよね、先輩、出したかったんですよね。……わたし、ひどいですよね」
「え? あ、や、別にそんな責めるつもりは……」
予想外の返しに慌てると、一色は再び俺の背中に腕を回し、上目遣いで熱っぽい視線を投げかけた。
「……いいえ、わたし、ひどいです」
だから、と。とびっきりの甘えた表情を魅せる。
「……これはもう、後でた~っぷりおしおきしてもらう必要があります」
「…………」
…………。
……おしおきって、こんな爛々と瞳を輝かせてリクエストされるものだったっけなあ。
ていうかもうちょっと表情に出さないよう努力しろよ。めっちゃ良い笑顔だぞお前。可愛いなもう!
しばし沈黙して、一色を抱きしめ返す。
「……ん、そうだな。たっぷりおしおきしてやるぞ。……たっぷりな」
言って、一色を抱きしめる力を敢えてかなり強くする。
「あっ……かはっ、は、はいっ、あぐうっ、お、お願い、お願いします……お願いします……っ」
一色の喜びに満ちた声音を聞いて、こいつはどれだけ……と、興奮で身体がぶるりと震えた。
続く。
いろはすでした。このくだり、本当は2話分くらい書ける力が欲しかった……!今の力だとこれくらいが限度のようです。
いろはす編は気付いたら妖しい雰囲気が漂いまくりな事になってます。やべえ。
五感をざわつかせる表現をもっと磨きたいなーと思ってます。いろはす編だと特にその辺を意識しやすいので頑張ります。
<今週のニセコイについての雑談>
ああ、遂にか、来週遂にか、という感じです。
恐らく来週、連載再開とは行かないまでもちょろっとニセコイの方を更新すると思います。ニセコイを書いている時から見ていて下さる方・感想を書いていて下さる方もいますしね。そう言った意味ででも(^^)
あの子がいなかったら小説を書こうと思いませんでした。
俺ガイルにしろニセコイにしろオリジナルにしろ、読んでくれた皆さんが幸せに、ほわほわとして、にやにや出来るような文を。その初心を忘れず書いて行こうと思います。
お勧めされた小説をちょこちょこ買って読んでおります。そして本格的な官能小説を読みたいけど誰が自分にとってツボか分からない……と思っていたら、頼れるNAVER(本当に頼れます)の記事で「10分間の官能小説集」という本が紹介されていたので、早速1~3を注文しました。わくわく。
仕事から帰って来たら夜風が涼しくてテンションが上がっています。最近は朝5時に起きてこの作品を書いて、夜帰ってきたら推敲を20分程で終わらせるという生活を送っているので、仕事後の負担が減って気が楽です。ちなみに高校の時は9時寝3時起きなんていう仙人かよお前って言いたくなる生活をしていました。早寝早起きの方が気楽ですね。
そんな感じです。
あ。
感想の常連さんが現れないと、「どうしたのかな……」と心配してしまうのでw、たまに感想下さいね(^^)!もちろんそれ以外の方もどしどしお待ちしております!どしどしって表現何気にごついですね。超どうでも良い。
後書きで何百文字も書いてる僕は何なのでしょう。まあ良いか。
それでは明日また会いましょう(^^)この挨拶初めてだーーー!!!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!