1.
翌日土曜日。
集合したのはとあるスイーツパラダイスの前だった。
集合時刻の20分前と割と早めに着いてしまったので、辺りを見渡しながら、ベンチに腰掛けて文庫本を読む。
「…………」
しかしスイパラか……なんてこった。これじゃあ会話以外でも女性陣のテンションが無駄に上がるじゃねえか……由比ヶ浜とか一色とか。俺絶対付いていけねえよ。普段も付いていけてないけど。
文庫本を読みながら、これからの食事会に対する無駄なイメトレをして絶望していると、横から柔らかな声が聞こえた。
「あ、比企谷くんだ。おはよー」
振り向くと、めぐり先輩がほんわか笑顔を湛えて立っていた。
「……どもです」
それなりの挨拶を交わして、めぐり先輩を見やる。
柔らかなクリーム色をしたダッフルコートを着て、バッグを両手で持っている。
いつも通りのほんわかした雰囲気と私服の可愛さとが相俟って、なんか、もう。
……やべえ、超和む……。
めぐり先輩は俺のすぐ横にごく自然に座ると、ふーと一息ついた。
「早いね。結構待ってた?」
「いえ、全然ですよ」
…………。
……何この会話。デートみたいじゃね?
……うそうそ、何でもないです。誰か知らないけど許して……。
この状況で読書に勤しむのは流石に憚られて、そそくさと文庫本を鞄にしまう。
面接を受ける時のような妙にかちこちした姿勢をとると、めぐり先輩がくすりと笑った。
「ふふ、どうしたの急に?」
「あ、や、まあその、緊張と言いますか……」
まともに受け答えが出来ない自己嫌悪に陥りながら、冷や汗を垂らしつつ向かいの通りに目をやる。
「あはは、比企谷くんは面白いね」
「……はぁ、ありがとうございます」
…………。
返事自体は生返事もいいところだったのだけど。
内心、心臓がばくばくしていた。
や、そんな全く大したことのない(失礼)褒め言葉なのに、にっこにっこにーな笑顔で言われるとそんな言葉でも心にすっと入ってくる。
こ、これがめぐりんパワーか……!
動揺がバレないか心配しながら目を泳がせていると、見慣れた女の子たちが歩いてきた。
……ううむ、目立つな、こいつら……。
……って、ん、あれ?
予想していなかった人物に目を凝らしていると、由比ヶ浜がとてとてと小走りで向かってきた。あかん、メロンが揺れてる! ばるるんばるるんって!
「ヒッキー、やっはろー! ……ととっ……!? 城廻先輩、おはようございます!」
途中でめぐり先輩の存在に気付いたようで、由比ヶ浜が慌てて挨拶をする。
由比ヶ浜がたははと笑っていると、彼女の肩にそっと手を添えて、雪ノ下が顔を出した。
「城廻先輩、おはようございます。それと、えーっと……」
「ねえ、ここにきて忘れるのおかしくない? 記憶力大丈夫?」
お前はどこの忘却探偵だよ。あ、でもめぐり先輩のことは覚えてるのな。あ、俺がどこぞの元生徒会長みたいなもんなのかな。あれ、それだと元から認識されてなくない? どうしよう、詰んでる!
俺のツッコミに対して、雪ノ下が平然とした様子で艶やかな黒髪を払う。
「失礼ね、あなたより遥かに優秀よ」
「よく存じ上げてます……」
のっけからの忘却イジメにげんなりしていると、雪ノ下の肩口から一色がひょこっと顔を出す。なんでみんな肩経由なのん?
「先輩、城廻先輩、おはようございますー。……なんか先輩がわたし達より早く来てるのって生意気ですね」
「や、なんでだよ。立派な心掛けだと褒めるべきとこだろうが」
「あら、いつもろくな行動しかしない償いかしら」
雪ノ下が追い打ちを掛けてくすりと笑う。ほんといい性格してるわこいつら……。
……と、それよりも。
「……なんでお前が居るんだ?」
いつツッコむか迷っていると、気が付いたら由比ヶ浜と雪ノ下の間に、小町がにこにこしながら立っていた。いつの間にそんな良いポジションに……。
「やー、昨日結衣さんからこの話を聞いてね。綺麗な女の人たちに囲まれて、ごみいちゃんがまともに振る舞える訳が無いから支えないとって思って、結衣さん経由で一色さんにお願いしたらオーケーもらえたので来ちゃいましたー! 今の小町的にポイント高い!」
「そうなのか。最後のは相変わらず要らんけど……って、あれ? お前用事あったんじゃないのか?」
「キャンセルしちゃった!」
「…………」
ぺかーと光り輝くような笑顔になって、大げさにVサインを作る我が妹。
……うん、まあ、可愛いから良いか。
それに、と小町が言葉を付け加える。手を後ろで組んでむふふーと笑いながら。なんだおい、超可愛いな妹よ。
「将来のお義姉さん探しもしておきたいしねー! こんなに綺麗で可愛い人たちが一同に会することなんて滅多にないだろうし! 邪魔者もいないしねー! あー楽しみだなー☆」
「小町ちゃん小町ちゃん、なんでそんな恥ずかしいことを躊躇無く言えちゃうの?」
あとさりげなく邪魔者がどうのって言ったのが超怖いんだけど。どう考えてもクリパの時の材木座を思い出したとしか思えない。
……なんで雪ノ下も由比ヶ浜も一色も顔赤くしてるのん? 死にたくなるからやめてよお!
冬なのにやけに火照る顔を手で扇ぎながら、もう一つ不思議に感じたことを思い出した。
「ま、良いんだけど……それなら俺と一緒に来れば良かったんじゃねえのか?」
小町に疑問を投げかけると、人差し指で下唇を押し上げて、んーと考える仕草をする。はいはい、可愛い可愛い。本当に可愛い。
「せっかくだから驚かそうと思って! まあそれは理由の2%くらいで、実際は先に一色さんと仲良くなった方が何かと話が早いなーと思って、先にお三方と合流してたのでしたー!」
2%かよ。それもうほぼほぼ0じゃねえか。
またまたぺかーと光り輝く笑顔になる小町に、一色が声を掛ける。
「小町ちゃん、名前で呼んでってさっき言ったでしょー! もっとフランクで良いよ?」
にこやかな一色の表情を見て、少し驚く。
おお、これがこいつの先輩としての顔なんだな……ちょっとどきっとした。
一色の言葉を聞いて、小町がテヘペロ顔をする。くっそ、うざかわいい……。
「そうでした! いろはさん、よろしくです!」
「きゃーっ! もう小町ちゃんってばほんとかわいー!」
一色が小町に頬ずりを始めた。なんなの、俺の周りは百合だらけなの? あ、由比ヶ浜も混じった。雪ノ下が仲間に入っていいものか迷っている! あ、由比ヶ浜が迷っている雪ノ下を強引に仲間に引き込んだ! 百合パーティーが4人になった。パーティーのメンバーは、絶壁の氷魔法使い、メロン武闘家、あざ盗賊、天使の4人になります。宿で相部屋になったら毎晩大変です、色々と。
新たな展開を見せた百合百合しいやりとりを、ぱちくりした目で見ていためぐり先輩が、俺の耳元に顔を寄せ、内緒話のように囁きかけた。
「比企谷くん、モテモテだね」
「いや、どこを見てそう思うんすか……」
呆れた目をめぐり先輩に向けるが、めぐり先輩はうふふーと妙に含みのある声を出して微笑み、4人の女の子たちへ向き直った。
「さ、皆揃ったことだし、入っちゃおうか」
めぐり先輩の笑顔につられて、4人の表情がより明るくなる。
4人とも頷いたかと思うと、小町と由比ヶ浜と一色がこちらに寄ってきて、それぞれ俺の胸ぐらと両腕を掴んで引っ張ってきた。ちなみに胸ぐらを掴んできたのは小町です。おかしくない? 俺を投げたいの? 柔に目覚めたの?
「ほら、お兄ちゃん、行くよー!」
「ほらヒッキー、行こ行こ」
「せんぱーい、早くー!」
「え、なんでなんで? 立つだけだよ? 俺そんなに足腰弱くないよ?」
俺の扱いの謎さに首を傾げていると、隣でその様子を見ていためぐり先輩がくすりと笑った。
続く。
めぐりんでした。
皆でわいわいやる絡みは怪談噺以来書いていない(と思うので)、めぐりん編はしばらくこの感じで行こうと思います。既にもう3話分程度書いています。
書き慣れたキャラとの絡みを書きながら、めぐりんというキャラを探って行こうと思います。
11巻発売日に99話、11巻を買って読み始めてから初めて書くであろうタイミングで100話。絶妙です。
明日はどんな気持ちで書いているのやら。間違いなくハイテンションでしょうけども。
誰を書くかは決まっていませんので、気分で決めたいと思います。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!