その後も適宜合間にパスタなどを食べながら、食事会は和やかに続く。
「ゆきのん、そのパスタ美味しそう! 食べさせて!」
由比ヶ浜の入りからおバカな頼み事に、雪ノ下は温かい笑みで応じる。おおう、完全に母親だな……。
「ええ、良いわよ。じゃあ取り分けて――」
雪ノ下が和やかに対応しようとした、その時。
「あーん」
「え」
由比ヶ浜が雪ノ下の方を向いて、目を閉じて口をあんぐりと開けた。
「え、あ、その……由比ヶ浜さん? 流石にそれは……」
雪ノ下は対応に困っているようで、目に見えて狼狽えている。
しかし由比ヶ浜は、雪ノ下のそんな慌てっぷりなど意に介しない。
「ゆきのん、あーん」
「あう……」
……ガハマさん、ぱねえ。百合クイーンだな。
雪ノ下が頬を赤らめながら、小町に助けを求める視線を送ると、小町が「ばっちこーい!」と言わんばかりに弾ける笑顔で親指を立て、ばちこーん☆とウインクをした。なんだこのノリ?
てっきり雪ノ下を助けるのかと思いきや。
「雪乃さん、あーん」
…………。
雪ノ下に、小町が自分で食べているパスタをフォークでくるくると巻いて差し出してきた。
え、何、あーんで1周させたいの? ウロボロス?
「あ、え……こ、小町さん? それはどういう……」
「見たまんまですよー? 雪乃さん、あーん」
「ゆきのん、あーん」
「あ……う……うぅ……」
顔を真っ赤にして俯いちゃった。
雪ノ下、撃沈。
……なんだこいつら。
由比ヶ浜と小町がちぇー残念だなーと口を尖らせている。ちょっと君たち鬼畜すぎるんじゃないですかねえ……。
一連の流れをめぐり先輩はにこにこと見守っている。うん、ただの女神だな、この人。
そして一色は、雪ノ下たちのやりとりを見ながら何やら俺の方をちらちらと見ている。え、何事?
そのまま、くるりと身体の向きを変えて俺を見つめたかと思うと、パスタをフォークで巻き始めた。
そして、いつものあざとさと、謎の緊張を伴った笑みを浮かべる。
「はい、先輩……あーん」
「え……」
俺が呆気にとられた瞬間に、視界の端で2人立ち上がった。
「ちょっ、いろはちゃん!?」
「おおう、いろはさん、大胆ですねー!」
……なんだこいつら……。
「や、一色、こんな状況で……ていうかこんな状況でなくても無理だし……」
「いいですから。ほら、あーん」
……ふえぇ……ここは法治国家の日本なのに人権が無いよう……。千葉特有の年下の女の子に虐げられる風習なのん?
めいっぱい仰け反って避けていると、別な所からもパスタが出てきた。ま、まずい、パスタに囲まれた!
見ると、由比ヶ浜が一色にばちばちと強烈な視線を送って、俺に妙にぎらぎらした目を向けながらパスタを巻いたフォークを差し出していた。
「はい、ヒッキー、あーん」
なんで!? なんでここで畳み掛けてくるの? 俺を心労でハゲさせたいの!?
「おおう……さあお兄ちゃん、どう出る、どっちにも応えるのも有りだぞこのスケコマシ!」
「おいこら小町」
なんか、妹が実況兼変な道への勧誘兼罵倒を繰り出してきた。1つの文で色々意図を込めすぎててこの子怖い……。
一色と由比ヶ浜から逃れようと、よく分からない角度で身体を捩りながら仰け反っているため、なんか妖怪みたいになった。雪ノ下、引かないで! 俺も必死で生きてるから!
本当にどうしよう――と思っていると。
「比企谷くん」
「え?」
肩をぽんぽんと叩かれ、振り向いた瞬間。
「あーん」
「あむっ……んんんんっ!?」
振り向き様だった。
めぐり先輩が、俺を振り向かせた瞬間に、口の中にショートケーキをむぎゅっと押し込んだ。
目を白黒させて混乱していると、大パニック状態の意識とは関係無しに、口の中に食べ慣れた優しい甘味が広がる。
場を支配する、一瞬の静寂。
それも、すぐに破られた。
「えええええええ!?」
由比ヶ浜と一色と小町が目を見開いて大声を上げ、雪ノ下が口を開けてぽかんとしている。
俺はというと、
「…………」
まだ、固まっていた。
口にケーキを入れたまま噛む事もせずに動きを止めている俺を見て、めぐり先輩がにこりと笑う。
「ふふ、比企谷くん、ケーキ、美味しい?」
あまりにも通常営業な喋り方に、ようやく俺も冷静さを取り戻す。
「ふぁ、ふぁい、ふぉいふぃーえふ(は、はい、美味しいです)……」
間抜け極まり無い喋り方になっちゃった。ケーキがまだ口の中にがっつり残ってるんだからしょうがないよね!
……ていうか。
いや。
いやいや。
いやいやいやいや。
「し、し、城廻先輩……なんで……」
一色がサスペンスばりの真剣な顔でわなわなとしている。あれ、ここは崖なのかな? でででっでででっでーでー! CM前とCM明けな。
めぐり先輩は一色の方を向いて、そして由比ヶ浜と小町にも視線を巡らせる。
そして手を胸の前でぽんと合わせると、にぱっと笑った。
「はい、このケンカはこれでお終い! みんな、あんまり比企谷くんを困らせちゃだめだぞー」
「……っ!」
みんな、ハッとして口をあんぐりと開けた。
……うおお。
如何にも年上なお姉さんという感じの、素敵な場の収め方だ。
こんな風に場を支配されたのでは、これ以上は何も出来ないと悟ったのであろう。
「なにも城廻先輩がやらなくても……」
「ヒッキー……」
一色や由比ヶ浜がぶつぶつと言いながらも、めぐり先輩の言葉に素直に従って席に着く。
雪ノ下は感心した様子でめぐり先輩を見ていて、小町は……んんん?
「おおお……なんて素敵な立ち回り方……! 溢れ出る癒しオーラといい、これはもう是非お義姉ちゃん候補に……!」
…………。
……なんかぶつぶつ言ってるけど、気にしない。なんか目がやたらぎらぎらしてるけど、気にしない。
× × ×
「…………」
「ん? 比企谷くん、どうしたの?」
「あ、や、なんでもないです、すみません……」
さっきのあーんがかなり衝撃的だったから、めぐり先輩を妙に意識してしまう……。
しかも見たら見たで、気恥ずかしくて目を合わせられない。いつもだってあんまり合わせられないけれど、今日はまた更に。
……やばい、どうしよう。
ぐぬぬと唸っていると、小町が不意に目を光らせた。なんだかお久しぶりですヤマピカリャー。
「ではでは、せっかくこんなに素敵な方々がいるんですから……ここいらで恋バナをしませんか!」
「んぐぁっ」
喉の奥で変な音が鳴った。
あぶねえ、何か口の中に入れてなくて良かった……。
周りのみんなもぽかんとしている。
数瞬遅れて、先程と同様に由比ヶ浜と一色が起動した。
「ちょ、ちょちょちょ、小町ちゃん!? いくらなんでもそれは……っ!」
「良いね、小町ちゃん! やろうやろう!」
おうふ。
由比ヶ浜と一色が、ぎぎぎと首の向きを変えて、互いの目を見る。
「え、いろはちゃん……?」
「あれ、結衣先輩……?」
正☆面☆衝☆突!
なんだよこれ俺の知らない組み合わせで戦いが起こるのかよそう言えばこの2人前から知り合いっぽいのにそこまで話してるの見た事ないから結構面白いかも――などと高速で思考を巡らせていると。
「結衣先輩、耳貸してください」
と、一色が先んじて由比ヶ浜に告げると、それに応じた由比ヶ浜に何やらごしょごしょと耳打ちを始めた。
「……だから、自分のことはのらりくらりと交わして、先輩の好みとか過去の恋愛体験とか告白した人のタイプとか根掘り葉掘り聞いちゃえばいいんですよ……!」
「な、なるほど……いろはちゃん、ナイス!」
…………。
……なんか、すげえ、怖い話が聞こえてきた。
一色が耳打ちを終えると、由比ヶ浜と仲良く動きを揃えて俺に向き直る。
「じゃあ、やっちゃおう(いましょう)!」
……すげえやだよお……。
助けを求めよう。
小町……はダメだ。可愛いけどこの状況においては諸悪の根源でしかない。可愛いけど。
雪ノ下……は、あれ? なんでずっと下向いてんの? 「私は……そんな……」とかなんとかってぽしょぽしょと呟いてる。あ、由比ヶ浜が抱き付いた。こいつもダメか……。
最後の1人に救いを求めて、顔の向きを変える。
「先輩――」
「うん、良いんじゃない?」
めぐり先輩が、俺の助けを呼ぶ声を聞くことなく、ごくごく自然に、にこやかにに微笑んだ。
……くそう……良い笑顔すぎるだろ……!
「よーし、じゃあ、全員の賛同を得られた所で、恋バナ、はっじめっましょー!」
小町が太陽のような笑み(可愛い)を浮かべて(超可愛い)、どんどんぱふぱふと口で言った。やべえ、超ばかっぽいな、どんどんぱふぱふ。さりげなく由比ヶ浜もそれにのっかってぱふぱふやっている。あれ、何かこう言うと意味合いが変わるような……?
まあいいか。
ぱふぱふ。
続く。
めぐりん連投でした。めぐりんのキャラを超絶賛探り中でございます。
めぐりんのインパクトを徐々~に徐々~に強めて行きます~。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!